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台風一過


ワイパーが雨をかき分けるあいだから、ずっと道ゆく人を見ていた。
何時間経っても動けなくて、別に彼が来なくてもいいけど、彼を探していた。
留守電に最後のメッセージを入れる。

「結婚おめでとう。彼女と仲良く、頑張ってね。さよなら。」

電話を切ったら、涙が止まらなくなった。


もう何も言えることはないし、
もう何も出来ることはない。


大学の単位認定試験が終わった。
二学期もおしまい。向精神薬を増やしたからか、集中力が保たない。頭に文字が入っていかないし、数が数えられない時がある。
こんな調子でいつ卒業できるのかと、ため息が出る。
ひと段落ついたので部屋の掃除を始めると、子どもたちが学校に行ってしまったので、家にひとりきりなことに気付いてぞっとする。

この2ヶ月を乗り越えられたのは、子どもたちが夏休みで、わたしはひとりじゃなかったからだと思う。


先月、暗室で焼いたプリントを見る。
デジタルはフットワークが軽いし今の生活スタイルには丁度いい。でも、作品作りをする上でモチベーションをあげて取り組めるのはフィルムだ。暗室に行って暗闇で浮かび上がる画を秒単位で操る緊張感と、ラボを借りてプリンターから出てくるのを待ってる時間は種類が違う。

晴れ渡っている。

午前授業を終えた子どもたちがリビングで寝転がってゲームをしている。

写真に立ち向かうならば、ひとりであることだ。ひとりでも電車に乗って、作品を作りに行く。批判されてもまだ変えられる柔軟性を持つ。天気は変わる。もうたくさん泣いたんだ。だから、違うことをしよう。
すべては去ったんだから。


SIGMA dp1 Merrill



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