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「夜の赤ちゃんは変貌するよ」夜勤勤務始まる前の先輩からのアドバイスは本当だった

生後5日か6日まで入院する新生児。日中は寝ていることも多く、その姿は可愛い。しかし、夜になると様子は一変する。夜勤勤務が始まる前、助産師の先輩に「夜の覚醒した赤ちゃんと育児をするお母さんをみると、日中のケアも変わってくるよ」と言われていた。

看護職の仕事で切り離すことのできない夜勤。
2交代制では夜勤の就業時間は18時間以上になるが、一応22時ころに消灯時間があるので、患者さん眠りますよ、の時間も訪れる。
しかし、“消灯時間”が関係ないのが産婦人科病棟だ。
産後のお母さんと赤ちゃんの育児に昼も夜も関係ない。

むしろ夜こそ、赤ちゃんは活気づき、起きてくる。

授乳室そばのナースステーションにいると、病棟の廊下の遠くから
赤ちゃんの甲高い鳴き声と、赤ちゃんをのせたコットを引く音が近づいてくる。
「ああ、だれかのお母さんがきたな」と授乳室に向かうと
顔を真っ赤にして、手足をばたばたさせて泣く赤ちゃんと、
途方にくれたお母さんが横に立っている。

「授乳してくわえると、すぐに寝て吸うのをやめてしまうのに、コットに置いたらすぐに泣くんです。」
「さっきからずっと授乳をしています、2時間くらい。どうしたら寝てくれますか。」
「オムツも濡れてないし、さっきミルクも飲んだばかりなのに、なんで泣くんでしょう。」
もう疲れた、どうしたらいいかわからない、寝てほしい…
そんな相談を、夜勤のたびに、何度もお母さんたちから受けてきた。

赤ちゃんの泣き方は、おぎゃあおぎゃあ、みたいな泣き声じゃない。
ぎゃーーー、に近い。
私も、助産師になって最初のころに聞いたときは、あんなに小さいからだの
どこからこんな声がでるんだろう、というくらいに大きく力強い。

「私にもなんで泣いているか、って一つの正解はわからないんです。赤ちゃん、言葉で教えてくれないですしね。どうしてこんなに泣いてるんだろうね、生まれてきてまだ数日だもんね、お腹のなかから出てきて不安なのかな、お母さんと離れちゃったもんね。」と母と赤ちゃんに話しかけると、
ふっと苦笑するように笑ってくれるお母さんもいた。

日中の赤ちゃんはまた様子が違うことが多い。
「3時間ごとに授乳っていわれるけど…全然起きてくれないんです」と、逆にお母さんから相談をうけることも多い。
お腹をくすぐっても、足の裏を刺激しても、口の周りをトントンたたいても
目も開けず、されるがままの赤ちゃん。

「できれば母乳で」と希望するお母さんには、3時間ごと、と決めるわけでもなく
赤ちゃんが欲しがるときに、いつでも、何度でも授乳をすることが勧められているので、
母児同室して、授乳をがんばろうとするお母さんは
日中だと、赤ちゃんを起こすことに苦戦することも多い。

なのに、夜になると、赤ちゃんが起きだしてくる。
今頃起きてくるの…とお母さんたちの睡魔も限界。
しかもそれが毎日。
いったいいつまで徹夜を繰り返すのだろう、と産後の入院中に日々疲労がたまっていく。

生まれたばかりの赤ちゃんが、日中よりも夜に覚醒するには、いくつか理由がある。

●一つは、お腹の中にいるときのリズムが夜型なこと。

妊娠後期は、夜になると胎動が激しくて眠れない、胎動で肋骨などあちこちが痛いという経験をする妊婦さんは少なくない。

理由として、母体に負担をかけないためにおなかの中で夜型に活動するといわれる。
赤ちゃんがおなかの中で活発に動くとき、赤ちゃんはへその緒を通じて母体からたくさんの酸素をもらっている。日中の活動量が多い時間に赤ちゃんが活発に動くと母体に負担がかかってしまうため、夜間お母さんが休息し、活動量が減っている時間に赤ちゃんは活発に動くといわれている。

お腹のなかでそのリズムだった赤ちゃんは生まれてすぐは、まだおなかの中にいたときのリズムのまま、どちらかというと夜型なのだ。

●生まれたばかりの赤ちゃんには昼夜の区別も、生活リズムもない

生まれたばかりの新生児は、私たちが当たり前、と思う「朝になったら起きて、夜になったら寝る」という体内時計のしくみはできていない。
明るい時間に日光を浴びたり、夜が近づくと日が沈んであたりが暗くなるという1日の流れをまだ知らない状態で、昼夜の区別もない。
このような昼夜の感覚は、実際に明るい時間・暗い時間を、身体を通して実感する経験を重ねて少しずつ身についていくもの。

昼だから起きる、夜だから寝るわけでない、のが当たり前ともいえる。
昼夜の区別がついていない段階では、もちろん生活リズムも確立されていないので、
眠る時間・起きる時間もその日ごとに違い、バラバラ。

なので、昨日は夜よく寝てくれたのに、今日は夜すごい起きてくる、とか
今日は午前中によく起きていたのに、午後になったらぱったり起きてくれない、とかも
ありうるのである。

●生まれてすぐの赤ちゃんの睡眠周期は、大人と全然違う。

新生児の睡眠サイクルは約40分といわれる。
それは1日24時間のリズムとは関係ない。生後1ヶ月頃までの赤ちゃんの睡眠時間は、15時間~20時間くらい。2時間~3時間おきに目を覚ますことが多い。

また、新生児の眠りが浅いことにも理由がある。
レム睡眠とは浅い眠りのことで、ノンレム睡眠は深い眠りのこと。通常、睡眠はこのふたつの眠りから成り立っていて、大人が眠る場合、浅い眠りであるレム睡眠は全体の15~20%ほどとなっているが、新生児の場合はレム睡眠が50%を占めている。
なので、少しの刺激でも起きてしまうことが多い。

どうしてこんなにこの子は起きてくるんだろう…私のせい?もう疲れた、と
途方にくれているお母さんに
「妊娠後期に胎動は夜が多かったでしょう?まだそのリズムで赤ちゃんは生きているのですよ。それにまだ地球時間に慣れていないので、昼だから起きる、夜だから寝る、というリズムもないんです。赤ちゃんの睡眠周期も40分くらいと大人と全然違っていて、これから少しずつ合わせていくところなんです」と伝えると、
「確かに妊娠期の胎動は夜が多かった。それなら仕方ないですね。」と言ってくれるお母さんも多い。

じゃあ、今目のまえで、何をしても寝ない赤ちゃんと困っているお母さんに、私たち助産師はどうしたらいいのか。
助産師も、なんで赤ちゃんが泣いてるか、どうしたら寝てくれるのか、の正解は提供できない。
エスパーではないから。
赤ちゃんごとに、そしてタイミングによっても答えは違うかもしれない。

それに、私たち助産師が答え(らしきもの)を提供できたとしても、
それはいずれ退院して家で育児をするお母さん、家族のなんの助けにもならない。
退院後も私たちがずっと家にまで行ってそばにいることはできないので、
育児で悩んだり、困ることはたくさんあるとして、
そのときに選択していくのはお母さん、そして家族になっていくから。

赤ちゃんの、生活リズムができていなくて、夜型で、昼夜の区別がないという生理は理解したうえで、
“睡眠において最も大切なのは、目安の時間に合わせることではなく、赤ちゃん自身のリズムに合わせてあげること”で
“どうやったら、そのお母さんと家族が無理なく、自分の休息とのバランスをとって育児をしていくのか”
を、できるだけ入院中にお母さんたちと考えられるようにしたいと思っている。

まず、「できることやってみましょう、手足は冷たくなっていないでしょうか」と、お母さんを一緒に確認してみたり。
まだがんばれそう、というお母さんには「もう1回授乳してみますか?」と提案する。
もうむり、休ませて…というお母さんには「次の授乳まで、授乳室で預かりますね」と提案する。
預かるときには「家に帰ったら、この預かる授乳室みたいな役割を、ほかの家族の方にしてもらって、お母さん自身が休めるようにするといいですよ」と伝えることにしている。

赤ちゃんを2時間から3時間授乳室で預かり、お母さんに休息してもらうとき、
様子をうかがっていると
なんど授乳をしても、オムツを変えても、抱っこしても、濡れた服を変えても、大きいタオルでおくるみをしても、
目はぱっちり開き、きょろきょろをあたりを見渡している。
全力で泣き叫び、まるで今から経つのか、というくらいに力強く手足をばたばたさせたり。
やっと目を閉じたと思ってコットに置くと、30分くらいで泣き出す。

ほんとうに、本能のままに、だなあ、と思う。
でも、こんな状態の赤ちゃんが四六時中横にいたら、お母さんだって疲弊するよなあ、って思う。
私でも、その泣き声に胸が痛く、自分を責められているように感じてしまう。

産後は、生活リズムも大きな見直しが必要だ。
昼だから起きる、夜だから寝る、ではなく赤ちゃんに生活リズムを合わせる。
お母さんにしかできないことは、乳房からの授乳だけだったりするので、
オムツを変えるとか、沐浴とか、ミルクをあげるとか、あやすとか
他のことはたくさん家族に頼めるようになると、少しお母さんの負担も減るだろう。

こんな夜勤を経験するようになってから、
日勤では、お母さんの疲労度を確認するようになった。
「昨日の夜はどうでしたか」と尋ねると
「全然寝れなくて…」という答えが返ってくるときには、
日中どこかでまとめて休んでもらえるよう、授乳室で預かることも提案する。

日中の、すこやかに眠る赤ちゃんをみると、
夜はあんななのに…!と私でも肩を落としたくなってしまう。
夜勤を経験するからこそ、みえてくるケアがあり、
みえてくる新生児との生活がある、という
先輩助産師さんからのアドバイスが身に染みている。

参考文献)
【医師監修】月齢別赤ちゃんの睡眠の特徴 まとまって寝るようになるのはいつ?
https://woman.mynavi.jp/kosodate/articles/1204 2020.6.23閲覧
赤ちゃんが夜型なのはなぜ?睡眠リズムをつけるための月齢別のコツとは?
https://woman.excite.co.jp/article/child/rid_BabyCalendar_11252/ 2020.6.23閲覧

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