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感想文、書きたいの?

ゆぴわぴさんのnoteを見て、吹き出しつつ、とても大きな問題提起をいただいた気持になりました。


「えだだけで家はつくれないと思う」は立派な考えだと思います。お嬢さん、素敵だと思います。

問題は

問題は、①読書感想文を書き手は本当に書きたいのか ②本の感想の書き方を学校で習っているのか ③本の読み方を学校で習っているのか ④どう書いたら感想文としてOKなのか ⑤どの程度の量を書くことがよいのか ⑥感想文を書くことでどうしたいのか(ゴール像)これらが曖昧だというところです。親御さんの責任でも問題でもありません。

日本の普段の教育環境であっても、おそらく「本を読んで思ったことを書きましょう」「面白いと思ったことを書いてみましょう」「お友達に紹介してみるつもりで書きましょう」という感じの指導。よくて「何でだろう、不思議だなあと思うことについて書いてみましょう」でしょうか。即、原稿用紙を渡されて、あのマス目を埋めることを求められる…。

今は、休校中に何か書いてこいとばかりに…丸投げ…。

もう少し学年が進むと、主人公の行動についてとか生き方についてとかへの「感想」を書くことを求められると思います。課題図書なんて指定された日には、もう、答えを教えてくれよの気分になりませんか?

ただ、何にしても、書き手が本当に感想文を書きたいのか!?というところがものすごく重要です。書く動機を持てなければ、書く内容は生まれないし、とりあえず思い浮かんだフレーズを先生や大人が気に入るように忖度して書くことになるか、書くことなんてねーし、感想なんて別にねーし、と反発して国語嫌いになるだけです。

国語の先生が見えないこともある

国語の先生は、現代の国語教育の勝利者です。なんとなく読める、読むコツを知っている、教師の問いかけにも答えられるし、テストなんて「国語は答えが書いてあるじゃん」「答えが浮かび上がって見える」などなどの特殊な才能の持ち主です(笑)。

国語の先生は、自分とは違う困難を抱えている人がたくさんいることを認識して、読み方・書き方を丁寧に個別化して教える必要があると思います。

例えば、本を読みながら、頭の中で「映像化」することも、すべての人が行っているわけではないのです。だからこそ、五感を使って読むとか、風景描写の意味などの読むコツを教えて、自分の読みたいものの中で使えるようにしていく。「ごんぎつね」に12時間もかけている場合ではないのです。

感想文を書くことのゴールってどこなのでしょう?

感想文を書くことは「手段」「手立て」です。それが「目的」になってはいけません。

以下に中学3年生が書いたエッセイを紹介します。大量の本を読む時間を経て、彼が書きたいと思ったことを書いた文章です。私が実践するRW リーディングワークショップの授業で書かれた成果物。これを「レターエッセイ」といいます。

これがRW リーディングワークショップ

一切の教師の修正は入っていません。私がしたことは、よいところを誉めたり、もっと知りたいところを指摘したり、たま~に誤字を一つ二つ指摘しただけです。書きたいことを書くようになったとき、子どもの思考の世界は大きく開かれます。

この授業を見学したある先生は「この授業は生徒が自分の思想を作る授業ですね」とおっしゃいました。

その通りです。読むこと・書くことのゴールは、自ら「意味」「価値」「思想」を作り出すことに他ならないのです。

生徒作品

「ある晴れた夏の朝」小手鞠るい 偕成社 

 この本の評価は10である。理由はいくつかあげられる。
 まず、この本の中心となっていることが「原爆」であり、社会の授業で習った言葉がいくつも出てくる点が挙げられる。8人の登場人物がディベート形式で、アメリカの原爆の使用について討論をし、これを4回行った後に賛否の投票が行われるという形で、物語が進んでいく。広島に落とされた「リトルボーイ」や「太平洋戦争」「杉原千畝」など、一度は聞いたことのある言葉が、本にいくつも登場するので、頭の中で関連づけながら読むことができ、面白かった。
 次に、8人の登場人物の特徴が挙げられる。主人公のメイは、日系アメリカ人である。自分の特徴を使って、日本のことをとらえながら原爆に否定的な演説を行った。しかし、同じ日系アメリカ人のケンは、原爆について肯定的であった。『日本は僕にとって、アメリカに戦争をしかけてきた外国なんだ』とケンが言うように、生まれ育った場所がアメリカであるため、日本のことを調べるうちに腹が立つなどしていて、メイとは真逆の考えだった。
 中国系アメリカ人であるエミリーは、日中戦争で日本兵は中国人を、原爆で死んだ人の100倍殺したなど、中国人の立場に関連づけて考えているところが特徴である。エミリーの口調は強く、一つ一つの言葉が印象に残りやすいと感じた。
 ユダヤ系アメリカ人であるナオミは、日本とドイツの関係を演説した。ナオミもエミリーと同じく激しい言葉で主張を印象付けていた。アメリカのとてもユーモラスな口調も感じられた。
 その他のキャラクターも様々な特徴を持っており、話の進め方、口調が一人一人異なっているため、どの人の話を聞いていても、おもしろいと思えた。
  このように、この物語は、様々な国の視点から見ることで、別々の捉え方をすることになるという点に気づかされる。私は日本人なので、日本視点で見ることができるし、物語の舞台はアメリカなので、アメリカの視点で見ることもできる。中国の視点、ユダヤの視点など、様々な視点が用いられている。別の視点に立ち、別の見方ができる。
 例えば、P150のノーマンからの視点とP180の名の視点。これは、どちらも広島の慰霊碑に書かれている言葉について述べている。『安らかに眠ってください 過ちは繰り返しませぬから』は英語では〈rest in place for we Japanese shall not repeat the error〉となり、「私」や「私たち」「日本」などの主語が入ってしまうので、戦争は全て日本が悪いととらえられてしまうが、実は日本語は主語がなくても文が書けるため『過ちは繰り返しません』と言っているのは日本でもあり、アメリカでもあり、人類全てでもあると読むことができる。このような言語の違いに気付きながら、生まれる誤解を踏まえて読むと、より深く読めると感じた。
 本の終わりには、原爆肯定派であるナオミが、否定派のメイの主張を聞いたり、本を読んだりして、考え方が変わったと述べている。私はこれを読んで、とても驚いた。あんなに激しい主張をしていたのに、演説と本によって、こんなにも人の気持ちが動いてしまうものなのかと思った。
 『核兵器が世界の平和の維持に役立っているかどうかを議論する前に、私たちは、まず日本への原爆投下は間違いであった、このことを認めなくてはなりません』『広島と長崎の罪もない人々を対象とした人体実験は、許すべきではないし、許されざる行為だった、と私は今、考えるようになっています。』この文を読んだ時、日本人が書いた小説だと分かっていても、アメリカの人が原爆についてこのように深く考えてくれていると思えたことに、とてもグッときた。
 その他にも、原爆について知らなかったこと、驚いたこと、グッとくること、様々なことが、わずか190ページの中に詰め込まれていて、とても良かった。こんなに本について深く考え、面白いと思ったのは初めてかもしれない。だから、この本の評価を10とする。

注)基本的に原文ママ。著作権等については、本人より委任いただいています。

このレターエッセイを書いた生徒は、登場人物の声を「聴いて」います。頭の中で映像化して、音声を再生しながら「読んで」いるのです。

RWで習った読むスキルとしての「映像化」、そして「比較」「関連づけ」のスキルを使いながら読み、批評によって意味を作り出しています。


RW リーディングワークショップに興味をもっていただけたら幸いですし、子どもたちが読みたいものを読み、書きたいことを書ける教育が行われるようになるといいな、と思っています。

長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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