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【旅行】わんこそばに向かう姿勢には、その人が出る

2023年3月、念願の家族旅行に行ってきた。

年末に書き留めた私の”やりたいことリスト”。
そのトップに来ていたのが
「家族旅行にいきたい!」だった。
それが叶った。

ここで指す"家族"とは、
我が家5人(私、夫、三姉妹)、
兄家族6人(兄、義姉、子が4人)
私の父(73)、母(73)、叔母(63)。
近しい身内だけなのに、もうそれだけで14名。
家族というより、もう、まるっと一族。

これだけの大所帯となると、頻繁に旅行には行けない。
わが子も甥っ子姪っ子もどんどん大きくなり、来年は3人が中学生になる。部活も始まったら、きっとみんなで旅行と行けなくなるよね、という声も出ていたし、何より両親が高齢。叔母は3年前に難病になり、肝臓を移植している。父は初期のアルツハイマー病と診断されていて、いつ進行するかもわからない。

年始に兄と話し合い、みんなで旅行に行って温泉入って、ゆっくりおいしい物でも食べようぜ、という話になった。

そして決まった。場所は、盛岡!
理由は、新幹線に乗りたいからと、
わんこそばが食べたいから。
いや、正しくは、みんなでわんこそば大会がやりたいから。

せっかくなら雰囲気から楽しみたいと、
「〇〇家様・御一行」の
プラカードを作り、旅のしおりも作った私。こう言う無駄な努力が大好き。

全員分つくったよ。

さて、今回のメインは何といっても初日のお昼に開催される、「家族対抗わんこそば大会」である。

これは、兄のたっての強い希望だった。

でも、幼児や小中学生もいれば、
働き盛りの大人も、高齢者もいる。
同じ土俵では戦えないよな〜と、私はこっそり思っていた。

しかし、「別に本気でやらなくても、
おいしく楽しく食べられればいいよね〜」
という緩い雰囲気を一蹴し、兄はガチのハンデとルールを、前日に考え、本番に持ち込んできた。

*成人男子は、ハンデなし
*成人女性は、ハンデ30杯スタート
*60歳以上男性はハンデ30杯スタート
*60歳以上女性は、ハンデ70杯スタート
*小中学生は、ハンデ50杯スタート
*幼児は、ハンデ80杯スタート

そして、杯数によって
■個人の部、優勝・準優勝・3位
■家族の部、優勝
が決まり、そのメンバーにだけは、目録に入った賞金が用意され、個人優勝の1人は、
「初代わんこそば王」の称号が用意された。

本気やん。

新幹線に乗ると2人の甥っ子たちが、
朝ごはんに買ってきたよ!と、我が家の双子にパンを配ってくれた。普段ケンカばかりのいとこ同士だが、優しいとこあるじゃん。

いやちがうぞ。騙されるな。これは、カロリーの高い甘いパンで、腹を膨らませてやろうという、姑息な考えだ。みてよ、あの顔。昔からそういうとこがある。

見切れてるのは父。

今回お世話になったのは、わんこそばの初駒さん。
予約名を告げ、2階のわんこそば会場に通されると、広いお座敷にテーブルと椅子がコの字に配置されており、一人ずつのお膳に、薬味、小鉢料理、フルーツ、汁を捨てるいれもの、そして意外と汁が飛ぶとのことで、前掛けが用意してある。

なんか、わくわくしてきた!

家族ごとに座り、担当のお姉さんが大きなおぼんに、そりゃぁもう、たくさんのそばのお椀を運んできてくれ、わんこのルールを説明してくれる。

「はい、どんどん」
「はい、じゃんじゃん」
の声に合わせ、どんどんおそばを入れてくれるので、もう食べられない!と思ったら、お椀のふたを閉める。そこまでに何杯食べられるかを競う。シンプル。

ちなみに100杯食べると記念の木札がもらえるから、みなさん頑張ってくださいね~。それが基本ルールだそうで。

「ちなみに、みなさんどのくらい食べれるものですか?」

とお姉さんに聞くと、

「女性は30~50杯くらい、男性は60~80杯くらいですかね~」との事。

がぜん、燃えてきました。楽しみ!
なんかわかんないけど、
50杯くらいいけたらいいかな!!

周りを見渡すと、皆の表情も様々。

「どのくらい食べれるかね~」と、
ほのぼの笑っている高齢者チーム。

これから何が行われるかよくわかってない、
甥③(年少)と、姪(年長)。

大食いという意味では影の実力者の癖に、
本気を出す気がさらさらない、うちの双子(小5)と甥①(小5)。

楽しみだね~!と話す私、義姉。

そして目が笑ってない兄、
うちの夫(41)と長女(中1)、そして甥②(小4)。

兄は元々言い出しっぺで主催者。
やる気に満ちている。

そういえば、夫も長女も、100杯の木札が欲しいと新幹線でも話していた。
出かける前に、家でも、木札がどんなものなのかネットで画像検索して二人でこそこそ確認してた。あれは、もしや本気だったのか?

そして負けず嫌いの甥②。

「それでは、はじめま~す!」のお姉さんの声とともに、第一回家族対抗わんこそば大会がスタートした。


わんこそばは、お客さん3~4人に対し、
一人のお姉さんが付き、おそばを入れてくれる。

「はい、どんどん」
「はい、じゃんじゃん」とそばを入れてくる。

最初に思ったのは、
あぁ、わんこそばって、温かいんだ、という事。

てっきり冷たいそばだと思っていた。わんこそばはイベント性ありきと思っていたから、味には期待してなかったのに、おそばが普通においしい。おつゆも美味しかった。知らなかった。わんこそばって美味しいのか。
初駒さん、ありがとう。

最初は良かった。20杯までは余裕だった。
つゆを捨てたり、余裕こいて薬味を入れたり。30杯もまだいけた。
でも、そのうち早くもおなか一杯になってきた。

実は、お姉さんは一人で数人のそばの世話をする。それぞれのおそばの進み具合を見ながら順番に入れに来るので、私たちは早く食べればよいという訳でもない。
お椀を片手で持ってそばを待つ、「待ち時間」が出来る。それが、意外と腹を膨らませるのだ。

40杯は、頑張って食べた。
そして、キリの良い50杯で、私はふたを閉めた。かなりの満腹。

義姉も同じくらいの杯数でストップした。
旅館の夕飯は、豪華バイキング。
ここで吐くほど食べるわけには行かない。

周りを見ると高齢者チームはすでに皆ストップ。最年少の甥(年少)も、12杯という可愛い成績でストップ。

小5チームは、30杯台で3人全員ストップ。

え。30杯て。

納得がいかなかった。
普段は家族で1番食べる双子たち。
「もっと食べれるでしょ!」と聞くと、
「いや、普通におなか一杯だし」といわれた。
限界を超えて、がんばる!という気概が感じられない。なんでよ。もっと楽しもうよ。がんばろうよ。これが令和の小学生なのか。

さて、残る本命対決は、
うちのパパと兄の、40代男性対決!

…と思ったら、なんと、もう一組
バッチバチに戦っている二人がいた。

うちの長女(中1)と、甥②(小4)である。

いとこ同士の二人は、普段からすぐに戦う。
同じ陸上を得意とする二人。すぐにどちらの足が速いのかモメて、すぐ走り出す。何かにつけて甥は長女を煽り、長女はそれに乗り、二人で走る。要は仲良しなのだ。

長女は70杯を超えていた。すでに辛そうだった。

わんこそばは1杯で約10gと言われているから
70杯なら700g。ざるそば7枚分だ。

そもそも長女は大食いではない。背も小さいし、何より細い。食べる量で言ったら、断然双子の方がよく食べるし、体重も最近妹たちに超された。
「無理しなくていいよ?」といったが、
「いや、まだいける」という。

甥も70杯。すでにぐったりしている。
義姉も「もうやめたら?」と声をかける。
しかし両者、蓋は閉じない。

長女は80杯に入った。水を飲みながら食べるので
「そんなに水飲んだらおなか膨れない?」と聞いたら、もうのどを通らないから水で流し込んでんの。と言われた。
いや、もう、それはやめたほうがいいでしょ。

甥が、向かいのテーブルから
「おい何杯いった?」と数分おきに聞いてくる。
「お前もうやめたら?」と促してくる。

長女は見向きもしない。
彼女はお椀しか見ていない。

甥も、80杯に入った。
今にもリバースしそうな顔をしている。

ちなみに、ルール上、リバースしたら0杯だ。
義姉が「もうやめな」と説得してる。
初駒のお姉さんまでもが、中には吐いちゃう子もいるからね~とやんわり止める。

しかし、彼は蓋を閉めない。
けれど食べることもしない。出来ないのだ。

ひたすら「お前もう、そろそろやめたら?」と長女に終了を促す。
彼が勝つために唯一出来る声掛けだ。

長女が90杯に入った。
完全に1杯1杯のペースが落ちてる。
「もうやめな、吐いたら元も子もないし。」
と私は隣で何度も言い聞かせるが、
「100杯まではいきたいから」と首を振る。
この子にこんなに根性があったなんてしらなかった。これは根性なのか、なんなのか。

甥は、86杯でふたを閉めた。
ほぼ周りのサポーターによる強制終了だった。

彼は椅子の背もたれの方を向き、泣いた。
勝てなくて、悔しくて、でももうこれ以上は食べれなくて、泣いていた。
高齢者チームも、兄も義姉も、よく頑張ったよ~と称えたが、それでもずっと泣いていた。

対戦相手がいなくなった後も、
長女は一人戦っていた。
自分自身と、木札と戦っていた。

96杯。1杯ずつに水を飲み、深呼吸しないと次のそばが入らない。
97杯、みんなの声援が、無理しないで~、から、
頑張れ!いけるいける!に変わった。
98杯。あと2杯!!
99杯。もう頑張れる。

100杯。長女は蓋をしめた。

拍手が起こった。

私は彼女を見直した。

そんなにがんばる子だとは思わなかった。
いや、たかがわんこそばに、そんな体調に支障をきたしてまでがんばる必要があったかどうかは置いといたとしても、それでも目標に向かってやり遂げる根性に、私は感動した。

リバースのリスクを冒してまで、
手に入れたかった木札。


そして、甥。
私は、この子なら、近いうちに英検を受けることがあっても、受かるだろうと思った。勉強は9割がメンタルだ。この子には頑張れるメンタルがある。

将来入試や試験や勉強でなにか試練があったとしても、いや、人生で何か大きな岐路に立ち、大変なことがあっても、あなたたちならきっと乗り越える。頑張れる、と思った。

わんこそばを頑張れる子は、
きっと他の事もちゃんと頑張れる。

さて、問題は小5の三人組だ。
我が家の双子姉妹と、甥①。
この戦いを見終わったあとにふと考える。
30杯て。君たち、もっとがんばれよ。

でも、それも、性格なんだと思う。
三女になんでもっと頑張らなかったのよ~?と聞いたら、
「だってわんこを頑張る意味がわからないし。」と言われた。

そうか。この子にとっては、姉がそこまでしてわんこを食べた意味が分からないのだ。強がりでもなく、本当に理解できないのだ。気持ち悪くなってまで、杯数を稼ぐ意味が分からない。ましてや、木札なんていうものに一切興味がないらしい。

確かにそうだよね。それも性格か。君の意見も受け入れよう。
でも、母としては、なにか困難に立ち向かったときにこの子は頑張れるのかな?という一抹の不安はぬぐえない。

子どもたちのデッドヒートの裏で、
父親同士の戦いも幕を閉じた。

兄126杯。うちの主人167杯。
元祖・わんこそば王は、主人が勝ち取った。

長女との戦いに敗れた甥も、ハンデのおかげか個人の部3位に入賞し、目録をゲットした。

それでも、悔しさは消えることなく、初駒さんの
「有料ですけど、このお兄ちゃんにも木札ご用意しましょうか?」という心遣いのおかげで、彼も木札を手に入れた。

初駒からの帰り、皆、お腹のおそばを消化させるために、盛岡駅までしばし散策しようということになった。夜はホテルの豪華バイキングが待っている。

長女が歩く後ろを、甥がついてきて、
「ねぇ、吐きそうじゃない?吐きたかったら吐いてもいいんだよ?」
とずっとささやいていた。
彼が勝つために出来る、唯一の声掛けだ。

長女は吐かなかったが、
しばらくそばは食べたくない、と言った。


わんこそばに向かう姿勢には、その人が出る。

食べたから良い、食べなかったから悪い、ではない。けれども、間違いなく、人生の縮図を見たと思った。

たかがわんこ。
されどわんこ。

わんこの食べ方で、あなたがどんな人かわかる。わんこそばを経験したことがある人なら、きっとその事実に気づいている。

結婚する前のカップルは、一度相手とわんこそばを食べに行ったらいい。

採用活動をしている人事部も、大学入試も、わんこそばを取り入れたらいい。

きっと、その人となりが、出るはずだから。

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