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機械仕掛けの街7

 その機械はアルファのような人型とは違い、所謂4足歩行の動物の姿だ。猫型と言っていたから驚きはしなかった。と言っても、星野瞳にとって機械は猫か犬かの差がない。「にゃー」と鳴くのだろうか。
「アルファじゃないか、何しに来たんだい? また紙でも調達に来たのかい?」
 「にゃー」ではなかった。人の言葉を発していた。意思疎通ができるということがわかって安堵する。
 アルファは首を横に振りながら星野瞳を見る。
 軽くお互いを自己紹介した後、
「紙はもういらない。そもそもなんで紙なんか好きだったんだ、俺……。ここに来たのもあるお願いがあって来たんだ」
「え、珍しいね。今日は歯車でも降るんじゃないのかい? お願いってなんなのさ」
 デルタは快活な男勝りの声をしている。どこか頼り甲斐があり、リーダー的存在が合いそうだ。
「この花を食べてくれないか?」
「ハナ? その小さなものを食べるだけでいいのかい? 何だ、紙よりも好きなものができたっていうのかい」
 彼女はアルファの手から現れた小さな物体を見ながら疑問を口にする。
「そういうわけじゃないんだが……。とにかく、食べてみてほしい」
「まあ、食べるだけなら」
 そこで星野瞳はあることを思い出す。
「ま、待って!」
「え!? な、なんなのさ! 食べろと言ったり止めたり!」
「ご、ごめんなさい。でもちょっと気になることがあって……。ねえ、アルファ。この花を食べたらエラーが起こって人間様に気付かれないかな? ほら、アルファの時はすぐに来たじゃん? もしデルタさんが口にしたら……」
「心配いらない。俺の場合は……俺だからすぐに来た。デルタがエラーになっても気付きはしないだろ」
 アルファは低く、人間様に苛立ちを隠さずに言う。その苛立ちの理由はやっぱりわからないが、でもなんとなく、何となくだが予想はつく。
「う、うん……、わかった」
「ちょっと、何の話? エラーとか人間様がどうとか。なんか怖いんだけど!」
「ああ、えっと……、何でもないの! そのー、アルファが最近病気になっちゃってエラーを起こしたの。もうそろそろ休まないとねー? 的な?」
「あー、確かにあのエラーは大きかったよね。アルファは人間様のお気に入りだからさ。アルファが大事になったら街全体が大騒ぎさ」
 人間様にとってのアルファは……大事な機械人間……ということ?
「それはそうとして、もう良い? 食べて」
 デルタはまだアルファの手に存在している花を見やる。
「え、ええ。どうぞ!」

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