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夢モードBMIというアイデア

現在のBMIでは脳への高精細な情報入力ができない

ブレインマシンインターフェイス(BMI)への期待が高まっている。NeuralinkやSynchronのようなBMI企業もでてきている。脳の活動データから情報を読み取る技術は、計測の観点でも、読み取りの機械学習部分においても、技術は今後どんどん伸びていく見込みがある。

一方で、脳に情報を書き込む技術というのは、まだまだ既存の技術の延長で精度の高いものが生まれてくる感触がない。脳とインターネットを繋ぐようなことを想像すると、現在YouTubeを観るような感じで、すべての五感の情報を脳に直接送り込んで、現実と区別が付かないような体験ができることを想像しがちだ。これまでSAOやマトリックスで描かれてきた究極のメタバースのイメージだ。

でも、それを実現できる技術は、今の世界にはない。

例えば、Neuralinkの細かい電極は刺激も想定しているようではあるが、電気刺激を用いては一つ一つの神経細胞を細かく分けて刺激し、高精細な動画を脳に直接送り込むような精度にはならなそうだ。Optogeneticsを使えばもっといけるのではという方向もあるのかもしれないが、人間で脳に対して使えるようになるには、まだまだ乗り越える壁が多すぎる。ナノ粒子系でのアプローチもあるようだが、自分の調べた限り、具体的な情報コンテンツを送り込めるようなものは存在しない。

シンプルに動画を視覚野への直接入力で、目で見ているものと遜色ないレベルで見えるようにすることは、現時点では全く目処がたっていない。

むしろ、感覚入力に関しては脳刺激ではなく、VRのヘッドセットなど通常どおり感覚器を通して入力したほうが簡単だし精度も高い。

夢モード

BMIに使える脳への情報入力技術がないことについて、何かできることはないかと思い悩んでいたなか、ある日、明晰夢 (Lucid Dream)を見た。

明晰夢とは、夢を見ているときに、自分は夢を見ていると気づくことだが、運がよいと気づいたあとでボーナスステージのように夢の中を自在に操る能力を手に入れることがある。その日は、まさに操作可能な明晰夢を見ていた。

明晰夢の中で、自分で階段を作ったり部屋を作ったり、他人を登場させたりしていたときに、この「夢を見ている状態」(夢モード)だと、リアルに感じられる世界を縦横無尽に作れるのだから、BMIの情報入力にもこれが使えるのではないかということを閃いた。

ここからは仮説なのだが、夢モードというのは、生物学的に定義される脳の状態なのではないかと思っている。脳が夢モードにあるときは、脳内での生成モデルで生み出されたものが、主観的にはリアルに感じられるようになっている。一方、覚醒時では内部の生成モデル生み出されたコンテンツは鮮明さを伴わない。つまり、リアルではなくイマジナリーなものとして体験される。

こういった脳の状態が存在するという仮定のもとではあるが、夢モード中に脳を解像度の粗い電気刺激などの方法で刺激すると、そのとき脳の持つ生成モデルによって具体的なコンテンツが生成されて、リアルな体験として感じられるのではないか。これは実験して見ないとわからないが、もしかしたら可能性あるのではないかと予想している。もちろん間違っているかもしれないが、もし本当だったら面白い。

これを検証するためには、人間のECoGが入っている患者さんで、夢を見ていると思われる睡眠中(REM睡眠とは限らないが、REM睡眠中がターゲットとしては良さそう)に、高次視覚野を刺激し、その時に夢の中でビビッドな体験が生じたかどうか確認すれば良い。実際には実験をするにあたってハードルはあるだろうが、原理的に不可能な研究ではない。

この仮説をまとめると、脳には夢モードという脳内で生成されたコンテンツをリアルに感じる状態があり、そして、粗い刺激でも、脳にすでに備わっている生成モデルを活用することで、ディテールが創られる。そのために、いわゆるピクセルレベルでの情報の入力は必要とならない。

これは飽くまでも仮説なので、事実かどうかはわからない。しかし、現状の脳への情報入力技術の欠如を鑑みると、魅力的な試みのように思える。

現実と夢をつなぐ

ここからは、更に空想を推し進める。この夢モードBMIが実現されたら、夢の中だけではなく現実の世界とのインターフェイスも構築可能なのではないだろうか。

夢モードの中で、DLPFCの活動を上げるなどして明晰夢の状態になっていれば、ユーザにとっては、普通の意識状態にあるのと変わらない。ただ、感覚入力として知覚しているものが、自分の脳内で創られているだけだ。

その状態で、外部の環境情報をディープラーニングなどで処理した結果を、高次視覚野に電気刺激で入力する(これは潜在空間をアラインしておけばできる)。このときに、夢モードの中で刺激に誘発されて内定に生成された体験は、外界そのものではないが、セマンティックに対応があり、ユーザの個々の脳によって解釈された体験に変換される。

そして、夢の中で行動することで、外の世界とインタラクションすることも可能だ。夢の中で動きを脳の活動から読み取り比較的実現性は高い。その情報を用いて、外部世界のロボットの操作に活用するれば、夢の中の行動を外部装置に伝えることができる。

これが実現されると、自分の脳が作り出す夢が現実世界とのインターフェイスとなり、夢の世界にいながら現実世界とのインタラクションが可能となる。すなわち夢と現実という異世界が繋がるということが起きてしまう。

黄泉の国や魔界が現実に繋がるというのはフィクションの世界のお話のようだが、夢と現実の間でインタラクションが生じるというのは、かなり人類史上快挙なのではないか。

そして、詳しく説明するのが面倒だから、結論だけ書いてしまうが、これができるということは、他人の夢に入ることや、自分の夢に人を招待することも可能になる。

これくらい、夢モードというものが存在した場合のインパクトは大きい。

未来のBMIを使うときは目を閉じるようになるだろう

フルダイブ的な世界を描くSFでは、BMIは目を瞑って使われているようだ。正直、このディテールにはまったく注意してこなかったが、夢モードBMIが現実のものとなったら、ユーザはBMIをウェアラブルデバイスとして利用するのではなく、ベッドに寝転んで、外から見たら眠っているように見える体制で、現実世界にも影響する活動をするようになるだろう。この光景は、SAOとかマトリックス的な世界で目にするものだ。その形式に意味はないと思っていたのだが、夢モードを考え始めてから、妙に意味ありげに思えてくる。

このお話はフィクションです

最後に、ここで書いていることは、現在の科学的知見と一貫した仮説にすぎず、実際に実現可能であるかはわからないものです。脳への情報入力を現在想像可能な方法の1つとして、検討してみる価値があるのではないという妄想を書いています。なので、こういうものがすでにできているとか、研究が進んでいるとかいうものではないです。


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