書きたいから書いたこと

「なんでこんなことするの。ファンの人の事考えなかったのーー。」

 これは朝井リョウさんの作品『武道館』の中のセリフ。
アイドルが武道館公演を目指して活動するが、禁止されている恋愛をしてしまい、武道館に立つか彼を選ぶかという選択を迫られる物語である。
この作品は2016年にドラマ化されている。物語に登場するアイドル『NEXT YOU』に扮したのは大人気アイドルのjuice=juiceだった。


 アイドルと恋愛。


 これには様々な意見が世間にはあるだろう。


 モーニング娘。やアンジュルムなど、数多くの有名アイドルが属するアイドル集団『ハロー!プロジェクト(以下:ハロプロ)』は実力派として世間からの注目度も高い。ダンスや歌のスキルは勿論、一人ひとりの個性や確立された上下関係など、どこをとっても"プロ"と呼ぶに相応しい集団である。
 そんな彼女たちの恋愛禁止は暗黙の了解。過去に恋愛が発覚したメンバーで学業専念を理由に脱退したメンバーもいるほど。恋愛するとそこで契約終了となる事が、ファンなら誰もが周知している事実。
 アイドルは夢を売る職業。夢を壊したのならアイドルではなくなる。当然の事だろうか。
勿論、世間には恋愛OKなアイドルがいるのも事実。でも恋愛禁止というルールがあるのなら、それを破ればそれ相応の対応になるのは当然と言えるだろう。

 juice=juice高木紗友希の熱愛報道を週刊誌がとらえた。相手は若者を中心に人気上昇中の歌手、優里。
 報じられた翌日に彼女はグループの活動終了を発表。事務所の対応は早かった。
 熱愛が報じられてから事務所の対応発表までの間に、SNSは高木に対するコメントで溢れかえっていた。
彼女は歌の上手さで世間から認知されているメンバー。その歌声が今後聴けなくなることを危惧したコメントばかり。
 辞めないで、これからもグループで歌ってーー。
 また、相手も歌手であることから、お似合いだというコメントも数多くあった。

 なぜ、ルール違反をしたメンバーをそこまで庇えるのだろうか。

 私は高木を、グループが結成される前の研修生の時から応援していた。
 歌が上手いのが素晴らしいといつも思っていた。
けれど、今回の件で私は『裏切られた』と感じた。こんなの、大きな裏切りだと。どんなに素晴らしい才能を持ってしてもひとつの裏切りで全てがゼロに。
 アイドルはファンを愛して、大切にしていくものだろう。高木が愛し、大切にしていたのは私たちファンではなかった。その事実が憎らしい。
 そしてまた、その憎らしい事実があろうともお構い無しな世間の活動継続を望む声。
 ルール違反をしたことを棚に上げて、彼女の美声を褒める事がなぜ出来るのだろうか。
 グループには彼女の声が必要……だったのは過去の話になってしまった、少なくとも私の中では。
 juice=juiceは実力派アイドルグループなので彼女以外にも歌の上手いメンバーはいる。むしろ、全員歌の上手いグループである。彼女が抜けても劣らないパフォーマンスをしてくれると思う。だからルール違反をしたメンバーを引き止める理由が分からない。少なくともハロプロにはルール違反をする人間が居ていい場所ではない。この報道をきっかけに恋愛解禁を望む声もあったが、23年の長い歴史がそんな簡単に変わる事はなかった。


 アイドルファンなら"推し"と呼ばれる1番応援しているメンバーがいる事だろう。しかし、私の推しは高木ではなかった。他のメンバーの魅力に惹かれたという事実もあるが、彼女の仕事に対する甘さを目の当たりにしてから推しには出来ないと思ったからである。
 もう何年も前になるが、juice=juiceの握手会での出来事。メンバーが横一列に並び、その前をファンが握手しながら通っていく形式。メンバーと話せるのはものの数秒でファンにとっては大変貴重な時間。他のメンバーはファンが来た瞬間に相手の手を取り、目を見て会話をしていた。そんな中、私が高木の前に来ると彼女はそっぽを向いて手で目を掻き、手を差し出してすら来なかった。どのアイドルの握手会現場に行っても、笑顔で手を差し伸べてくれた経験しか無かった私は困惑した。数秒しかない彼女との握手はそのまま流れるように終了。若干のパニックに陥った。

 その後、グループも彼女自身もさらに成長して世間の注目度が高まってもこの握手会の一件から彼女を自分の推しにすることはなかった。
 その選択が正しいと思えていなかったが、今回の報道でこれで良かったのだと思えたような気がしている。

 何事もやるならば1番。学校行事も部活の大会も大学も何でも高みを目指している私と、アイドル界で1番を目指すハロプロ。その価値観がマッチし、応援している。
何が正しくて、何が間違っているのか。全部の答えが今は出ないかもしれない。けれど、もう私が彼女をjuice=juiceのメンバー、ハロプロの一員として見ることがなくなってしまったと言うのは紛れもない事実である。

 アイドルの恋愛禁止をドラマを通して身近に感じ、数々の恋愛ソングを歌ってきた。研修生の頃から数えると活動期間は10年以上。苦楽を共にしたメンバーもスタッフも何もかもを超えた人の今後など興味が湧くはずもない。

 ファンに対する申し訳なさを彼女は文面の全面に綴っていたようだが、何より大変なのは残されたメンバーとスタッフなのではないだろうか。明日以降もコンサートは予定されているが、彼女が出演しないとなれば歌割りも場位置も変わってくるだろう。照明もカメラも様々な変更が余儀なくされるだろう。
 残されたメンバーとスタッフのプロ魂に期待したい。

奏歩


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