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グリーンランドから戻って

グリーンランドからムン島に戻って、早くも1ヶ月が経ちました。

出稼ぎ生活をかなり密にこなした2ヶ月。寂しさや、ハードな勤務のための疲弊もありましたが、ゲストハウスの改修や動物の世話などをまたできるを楽しみに戻ってきました。

ヘニングは一人でフルタイムの仕事(幸にして自宅からの遠隔勤務)の側、動物たちの世話(私がいない間に鶏が3羽新規参入していた)、薪の注文と薪小屋への積み上げ、家の前の砂利道の整備を近隣の農家の人としたり、ゲストハウスのコンクリートの床を掘り下げて上水下水道を作り、またコンクリートで固め、床のタイルを敷き、バスルームの壁を作り、バスルームの防水加工を施し…と、一人とは思えない信じられないピッチで作業を進めていました。

初めての田舎暮らし、コロナのせいで大きな家に毎日一人ぼっちで、クリスマスも家族みんなで集まることもできず、しかも11月12月は記録的に暗く、じっとり雨が続いた毎日。暗い極寒のゲストハウスで、毎日おでこに作業ランプをつけて泥まみれで作業をしていたため、精神的にかなりきてしまったようです。その鬱憤はまんまとグリーンランドに向けられ、しかも悪天候のせいで帰国が5日も延びてしまったこともあり、未だに私がグリーンランドの話をするのを嫌がるほどです。

このヘニングの様子では、グリーンランドに戻れるのはちょっと先になりそうな感じです…。

さて、デンマーク、田舎のムンに戻ってきて感じたのが、「私ってば、コロナのことすっかり忘れてたわ」です。

世界の僻地、グリーンランドの、さらに僻地にいたこともありますが、ナノータリックの町ではマスク着用や、集会の制限など皆無でした。ヘリコプターや飛行機ではマスク着用は義務でしたが、お店にも手指消毒用アルコールなんて、飾り程度に置いてあるだけだったし、握手やハグも普通にしていたので、ムン島のスーパーで、冷蔵コーナーの前でのんびり迷ってるおじさんの背後からうっかり手を伸ばして牛乳を取ってしまったことにみっちり嫌味を言われたり(他人とは2m距離を置くことが推奨されているため)、郵便荷物の受取やらでお店に行くたびマスクを忘れたりと、慣れるまでにだいぶ時間がかかりました…。

ロックダウンも2月末まで延長され、みんな頑張って前向きになろうとしているのは見受けられますが、我慢もそろそろ限界、気分が殺伐としているのかもしれませんが、昨日、義母の家のそばのスーパーで起きた、あることが原因で、「ああ、だからグリーンランドではあんなに気持ちが楽だったんだな」と判明したことが。

ランチを御馳走してくれるという義母のために、手ぶらもなんだからと、スーパーのお花屋さんで花を買っていた時、70代と思しきデンマーク人男性が私の目の前に割り込んできました。

店員さんは私が買おうとしていた花の値段を調べていたためカウンターを一旦離れていたのですが、カウンターには私の花が置いてあるし、私の立ち位置的にも私が並んで待っているのは明白な状況で、フィジカルに割り込んできた彼に、「あの、これ、私の買おうとしている花で、私の順番なんですけど」と言うと、「俺が先だ。俺たちがまず先なんだよ」と、そこを断固として動かない様子です。トランプの「アメリカファースト」を文字ってなのでしょうが、一瞬呆気にとられてしまい、言葉を失っているうちに、別の若い店員が「こちらのレジ開けますから〜」と、あっさりその男性との会話は終了。

デンマークに暮らして、今年で17年になります。こういうことはもちろん初めてではなく、昔はこういうことがあるたび、よく泣いていたものです。火のついたタバコを投げつけられたり、ティーンエイジャーにガムを吹き付けられたり、明らかに不信感に満ちた目と言葉で対応されたり、「お前いくらだ」と値段を聞かれたこともあります。

傷つくことがいやで、差別偏見がさらにひどい中国人と見間違われないように(無駄と分かりつつも)見た目や振る舞いに気をつけてみたり、デンマーク社会に溶け込む努力をしているよう振る舞い、デンマーク的「ヒュゲ」やライフスタイルを遂行し、「普通のデンマーク人」と同じように振る舞い、それと同時に、デンマーク人がもつ、品行方正な日本人のイメージに合うよう、「こういう外国人ならデンマークにいてもいい」と思われるよう、気をつけて生活してきました。

そうやって気を使って生活することも普通になり、でもそれにもかかわらず、ニュースやネットではデンマーク人の差別発言や、政府の外国人への非人道的扱いなどを日々目にし、「北欧に移住したい」と言う人達や、デンマークが「世界一幸せな国」とか聞くたびに、なんだかモヤモヤとした気持ちになっていました。

ところが、グリーンランドへ行ってみると、周りがみんな自分と似たような見た目で、私が日本人だとわかると「まあ!私達とおんなじね!」と嬉しそうに満面の笑みで言ってくれたり、すぐに名前を覚えてくれて、道ですれ違っても「やあ!今日は調子どう?」と挨拶してくれたり、明らかにウェルカム度が違うのです。

さらにグリーンランドに住むデンマーク人たちも、グリーンランド人とグリーンランドの自然に敬意をもち、彼らと対等に付き合っていることもあり、デンマークに住むデンマーク人とはだいぶ違います。グリーンランドにいるデンマーク人は、場合によるとグリーンランド人から差別を受ける立場ともなるので、リスペクトを持って振る舞えるデンマーク人しか残らないとも言えます。

そんなわけで、グリーンランドでの2ヶ月間を、16年間続けてきた「差別を受けないための気遣い」を一切せずに、のびのびと過ごしてきました。「でも日本ではそう言う気遣いもないし、同じでしょう?」と思われるかもしれませんが、私の場合、16年間デンマーク暮らしをしてきた弊害として、日本人的振る舞いが自然にできなくなりつつあるというか…。母や兄は、私のあまりに直な言動に、時々「ガイジンじゃあるまいし!」と絶句しています…。なので、日本にいるときには、なるべくそういう失敗をしないよう、それはそれで気をつけて過ごしているのです…。

さて、花屋さんでのレイシストじじい(と呼ばせていただこう)との一瞬のやりとりでは、残念ながらじじいを叩きのめす返り討ちの一撃を食らわすことができず、車に戻ってヘニングに「これだよこれ!グリーンランドではこういうことが一切なかったんだよ!グリーンランドではあんなに気が楽に、自分らしく暮らせたのに!」と爆発。グリーンランドの話をしたくないヘニングも、流石にこのじじいとのやりとりで、私の話を聞かざるをえず、大人しく「デンマーク人として、申し訳なく思います…」としゅんとしていましたが。

まったく、一体いつになったら「差別されないための気遣い」をしないで暮らせる日は来るのでしょうか。

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