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あなたとひとつにストレンジ

すごい歌詞だ、おおよそ私には浮かばない世界観、あなたと私は太古の昔にひとつの存在であったのか、いつしかふたつに雷によってビリビリと引き裂かれ(ヘドウィグ・アンド・ザ・アングリーインチのように)、ひとつであった事を忘れ時は流れ、再びめぐり逢った瞬間に思い出したのか、あぁ私達はよく似ている、まるで細胞が呼応している、ひとつであったあの場所を忘れているくせに交じり合う事を拒まない人、あなたよ、どうかちゃんと私に触れてくれ、触れた肌のその下まで感覚を研ぎ澄ませて潜ってきてそして、私を見つけて、抱いて、ひとつに還ろう。


ポエムのようだ、初めて読んだ時そう思った(私は自分の歌詞を感情で織りなす物語だと思っている、彼女のそれは流れる言葉の美しさ、きれいに整ったポエムという印象、なるほどこっちの方が歌詞なのかもしれない)、speenaの8枚目のシングル、ストレンジデイズ。作詞作曲はドラムのショーコ、アレンジは前作に引き続き上田ケンジ(おケンジ)さん、2nd album ”chu chu de vista!!” の製作真っ只中だったこの頃の私の意識は歌、もっと歌を上手に歌えるようになりたい、シンガーとして次のステージへと心は常に渇望し、マルゴの次のシングルにはクリスタルという曲を、と勝手に心の中で決めていた、レコーディングの制作現場と表現の場ライブ、それぞれの現場にそれぞれの暗雲めいた違和感 ”200ぱーで音楽できない苛立ち” を抱えながら25の秋を迎える。



ストレンジデイズ / speena

レコーディングをした。たしか私はこれからのspeenaの音としてバンドサウンドを意識したはずなんだけど、前作マルゴレッタで「これじゃない」と悟った結果、本来の歌ものに戻った記憶、メンバー、スタッフ含め。
きゃぴっとしたイメージがついてしまったのだろうか、本質を伝えるのはいつも困難だ、どうも周りからアイドル視されているような感覚に陥ってしまっていた。のん、真面目にやりたい。10代じゃねえんだ、音楽を聴いてくれ。

サウンドもアレンジももうなんもかんもおケンジに丸投げた、speenaの事をたくさんたくさん考えてくれる人だもの、もう丸投げたらよい。
ある時おケンジの家で飲んでいた時、私はきっとそんな悩みや苛立ちをこぼしていて、ふと言ってくれた「ジレンマっていい曲だよね。」からだった気もするなぁ、歌を前面に押し出す、支えるサウンドにシフトしていったのは。


美しいストリングスがしばらくぶりにやって来た。弦アレンジは上田禎さん、この時お初、後のシュガームーンシャンゼリゼでガッツリお世話になる運命の変態ピアノマン、どこを切り取ってもアートな人。
bメロのあまりにも自然な5小節、美しい歌詞とメロディ、メインボーカルの3度下をハモるはショーコ、間奏のドラマティック不穏ストレンジなストリングス、アウトロのソロ的ギターフレーズのシホっぽさ、こういうの考えてしまうおケンジの脳が大好きだった、メンバーそれぞれがらしくあるためにはどんなアレンジにすればいいのか、私には出来ないその柔軟さが大人っぽくて。


PVを撮った。吉田真之市監督、お初。
ストレンジな世界、この頃マリリンマンソンにドハマりしていた私の
「変なカラコンしてみたい、白目が黒くなるマリリンみたいなの、ぱっと見人間なのによく見ると人間じゃないやつってすごい異質な生き物で怖いけど惹かれるあれ、あの辺りのストレンジ感出したい」
じゃあやろうってやってみたらカラコンでかくて痛かった。もうこれ以上は私の眼球に入らない、痛い、でも鏡を見るとなにこれ!最高クール!!がんばるしかなかった、おしゃれは気合い的根性ならわりとある。


片や吉田監督、じゃあ最近流行りのこの人形、この体の部分を生身のメンバーのにしたらおもしろいかも、なんて。
真っ赤な目玉に飛び込めば角膜の裏はまるでパラレルワールド、跳ねるバンビ、リアルバンビ(この正面顔にはチェック時みんなでぶふぅ笑、ってなった)、胸の奥の小箱を開けたら3人娘が音楽してる、衣装は私服だったな。
Rubiiのアルバムジャケット撮影の時に着て、一目惚れして買い取ったジルスチュアートのワンピースに合わせる眉毛はもちろん、なしがいいね。
きれいに撮ってくれてありがとうございました。なんかいつもより美人な気がする。自分で言った。いや、みんな。そう思わない?



” 出会えるなら奇跡だよと 言ったあの日はいつのことか

  ずっと前から知ってる人 抱き起こして

  ながい眠りに さよなら ”


一人から二人へとなって、奇妙な旅は続いてゆく。おや、私と似た匂いがする、私の片割れはあなたなんじゃないだろうか?なのに追いかけても遠いのはなぜ?私は待っている、眠ったふりをして、一人でも平気な、ふりをして。




青いお空から

3人娘もスタッフも誰もかれも、みんなストレンジデイズのカップリングのイメージが湧かなかったのはなぜ。誰かが持ってくるデモ、「これはどう?」「うーん、違う」「こんな感じなのかな」「うーん、どんな感じなんだろう」進まない日々。そんな時ふと、だいぶ前に作ったけどspeenaではない気がしていた私のデモのプードルがワンと鳴く。
「おっ、君かな?」「ワン」「ねぇ、この子っぽい」「あ、いいね」
君の時代が来たっぽいよ。ワン。

ただふっと頭に映像が浮かんだ、いや、流れ込んできた感じ、黒いプードルが私の目の前にちょこんと座ってこちらを見上げている。
「あら、こんにちは」「うん、こっち、ついてきて」
黒いプードルが歩くテンポに合わせて曲が流れる、歌い出すプードル、ついていく私、胸元でキラリと光る金の名前入りネックレスを自慢してくる、こっちを振り返って得意気にワン、2小節の口笛で褒め讃える私、もうずっとこんな。

おケンジにイメージを伝えるノートを書く、この子、先に死んじゃった飼い主といつも一緒に来てた丘のベンチである日ついに泣き出しちゃうの、もうやだよ淋しいよって、そしたらいつもの空がわーーって光りだして、飼い主、天国から丘まで手を伸ばしてるのでも、この子は気づかないのでも、誰かが誰かを想う気持ちはたとえ体がなくなったとしてもそこにあるの、そういうことが言いたいの。うんわかった、じゃあ空がわーーの所のコーラスワーク作って、カナコなら出来るから。うん、やってみる、できた。いいじゃん、すごいいいね。えへへ、うれしい。
どえらい最高に温かい曲になった。

”二人が丘” ってなんか、自由が丘みたいな感覚で作った歌詞におケンジがフゴフゴ笑う。”二人が丘までもうすこし” って、”二人がオカマで〜” にも聞こえるねって、んもう笑
なるほど、愛じゃんね。


レコーディングをした。ん、なんかいつもよりひっかかりながら、演奏難しいっぽい。おケンジのOKがなかなか出ない。私の頭の中で鳴ってる音、それを具現化するおケンジ、それを演奏するメンバー、それに乗せて歌う私。あれ、なんかいつもより歌いにくい。この時初めて感じた違和感は、この先じわじわと膨らんでゆく運命だけどでも、みんなでプードルのために音を鳴らした事は、幸せなこと。



” 楽しいお手紙を 書くつもりだったのに

  あなたを想うと まだまだ淋しくて

  やっぱり強がらず 泣いてしまうことにします

  青いお空から 見守っていてください ”


うん、見てるよ。いつも見てるよ。君が淋しい時もうれしい時も、どんな時も、そばにいるよ。大好きだから。





だんだんとね、この頃からは今までみたいに、楽しいだけじゃなくなってきた。もっとこうなりたいという思いと、もっとこうなってほしいという願い、自分で出来る事と出来ない事、売上が下がる一方な事、どうにかしないと、でもどうやって?寝ている以外は常にそんなことばっかり考えていた時期。なに、過渡期?中だるみ?停滞感、なんかその辺り。


あんなに煌めいていた私の恋そして恋人は、二人の物語が始まって早速なかなかにでかい爆弾、かなりダサめのそれをぶっ込んできて、あー・・・まぁいいよ、そのうちで。なんて言いつつ一瞬にして急降下した愛情レベル。
なぜ二人の物語を始める前にそれを言わない?言ったら「じゃあ無理」と私がなるのを恐れたから?うん正解、普通にないわそれ、でもね。
これが今の自分である、どうだダサいだろう自分でもそう思う、でもなんとかする、難しいけどなんとか、それほどにあなたが好きだから。
そう言ってくれたら私なんか、一発であなたに惚れただろうよ。

嫌われる勇気を持った人が好き、優しくて強いから。
自分を守るよりもやることやったらいいじゃんって、ショーコも言ってるでしょう、私に嫌われることを恐れて隠し事をしたその様が嫌いなんだっつの、まぁいいよ、ゆっくり教えてあげる。



満たされない、ハッピーで満たされない気持ちは音楽へ向かう、ハッピーで満たされたくて、歌を歌う私はspeenaの2nd album ”chu chu de vista!!” 、次のシングルは ”月に鳴く” へと突っ走る。


これで4分の1くらい・・・ですかね・・・ゴール遠いなー!

読んでくれてありがとう。らぶ。




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