さよなら、あなたをつづれおろう
死ぬまであなたでよかった、私の平穏をぶち壊した、泣いて許せど愛せず冷めた、一緒に暮らす家の一部屋に閉じこもって音楽した、その間は何があろうと、何人たりとも立ち入りを禁ずる私の聖域、音楽に取り憑かれるほどに離れられなくなって、眠る寸前まで音楽した、気づいたら寝てた、そんな日々が繰り返されてあなたは不安に駆られた、他に好きな男が出来た?そうね出来た、他にではなく、ただあの人だけ、あなたはすでに私の ”他” ではない逆だ、あの日あなたから私の手を離しておいてよくもまぁたわけたことを抜かすもんだわ、毎日のようにあの人とメールをした、寒い冬に外に出て電話した、時に耐えきれず会いに走った、お互いに恋人がいた私達は走り出せない事情を汲みあった、その思いやりに救われていた、ある朝目覚めた私の目に映る恋人は聖域に踏み込み、私のケータイを堂々と覗いていた、それはそれは醜い顔で。
さぁどうする、あの日のあなたと同じ(には到底ならない不純と純粋のそれだけど)になったね、怒る?泣く?殴る?どうでもいいよかかっておいで、行かないでほしい、でも彼の方へ行くなら慰謝料に準ずるものを僕に渡すのが筋だ、ほほうそうきたか、恋人の底力、根底に流れているはずの誠意を確かめ続けていた私の残り僅か3mlの愛情が一瞬にして蒸発した、一生私を養ってやれるという金銭的余裕と社会的地位、私の両親に信頼されているという ”大人の男” から生まれた浮気心と、永遠に私から愛されると思えたのは私の無垢な愛があったが故、よその女の淫乱さをあなたが求めるのと同様、私はよその男の誠意を求めたその結果がステイ or マニーとは笑うしかない、うんわかった。
7年の恋にさよならを告げ、7にちなんだ額のマニーをそっと置き、全てを知ったあの人の ”俺にしなよ” という覚悟に惚れて家を出た、暗がりの胸は白日にさらされ、あの人と私がついに抱き合ったのは念願のサンクチュアリそれはマイ玄関、今日から音楽に没頭できる、恋に我慢をしなくてすむ、自由を手に入れた私はspeenaのドラム、ショーコに呼応して旅に出たは大井川鉄道、speenaの6th single「つづれおり」へとひた走る。
つづれおり / speena
2003年、確かデビューアルバムをリリースして、それまでもちょこちょこやっていたライブがステップアップ、初めてのワンマンライブをやったはずだ。”今宵、解放の支度はよろしくて?ウーララー!” だった?よね?ちがう??イチゴ畑には危険がいっぱい!ウーララー!って私の案を土台に、みんなで作った記憶。小さなライブハウスの頃から観に来てくれていたベイビーちゃんは前列中央あたりで両手を開き、ステージに向けて手のひらを並べるそこには ”s・p・e・e・n・a” の文字。暗がりのSEの中、ステージ中央に向かう私の目に飛び込んできたそれは、これから歌うハートに火をつけた。20曲くらい歌ったその最後あたりに、次にリリースする曲だよってことでつづれおりを持ってきたな。周防さんも2階で観ていてくれた、つづれおりのテーマは出会いと別れ、恋人とのそれも含めてそんなモードだった私は殊更に、上へ向かって歌ったあの日。大好きでした、ありがとう、さようなら、と。
「カナコ、二人で旅行に行かない?静岡、SL乗りに、一泊で。」
ショーコの誘いに、普段ならめんどくさくて断りがちな私の重い腰がすんなり持ち上がったのは、自分の人生に起こった目まぐるしい変化や人の心から一旦距離をとって休みたかったからだと思う。仕事もアホみたいに忙しい時期だったし。何よりショーコとの関係性が磁石みたいだったこの頃(私は元来人見知りで、特に誰かと二人きりになるのを億劫がるフシがある)、ショーコとならいっかな、そんなテンションだった。
圧倒的自然に囲まれて、二人でたくさん歩いた、吊り橋を渡って、湖上駅に見とれて、温泉で泳いで笑われて、旅館の柱に刺さる手裏剣を ”本物の手裏剣ですよ、当時の忍者が使っていたものです” と紹介する女将に「当時の忍者て」と心で突っ込み、翌朝、帰りに乗る電車の時間を間違えてホームで暇をつぶしていたあの時間、次の電車まであと1時間って時に、彼は来た。
ハタチだったか。線路の整備をしているという彼は、小さな丘にしゃがむ私の横に座った、人二人分ほどの距離を開けて、目の前に流れる川を向いて、時々私の方を見ながら、なんてことない話をした。
東京に住んでいる事、歌を歌っている事、少し休みにここへ来た事。
ここには自然しかないこと、夢なんてないということ、ここで生きるということ。
なんか、キスしたいな。彼の何に、私の何が呼応したのだろう。武骨に髪を掻く手を、川に向く彼の横顔を、きれいな目を見つめていた。彼が私を見た、あ、キスしたいみたい、やっぱりあなたも同じ何かを感じていたんだ、見つめ合う二人に、「ここにいたの〜」とショーコが声をかける、立ち上がって私の真向かいに移動する彼、線路を挟んで向かい合った、「電車、もう来るよ」私の目をそらさずにいる彼、彼の後ろに流れる白い川、分断される時間、乗り込んだ電車、ゆっくりと走り出して手を振りあう二人、そこにあったのは笑顔ではなく、心と心が交じりあった瞬間と、それを永遠という形にしないことを選んだ強い目だった、ゆずれないものを抱いて生きてゆく、遠い日のあなたと私。
そんなことを想い、旅の間ずっと頭に流れていたショーコのデモに歌詞を乗せて、つづれおりは生まれましてございます。PVはその舞台、大井川鉄道にて撮影。彼には会えなかったけど、元気でいるといい。
レコーディングをした。魂がふるふる震えるドラムだった。心を掻き立てるギターだった。感情の上澄みを奏でるピアノだった。その全てはシンプルで、完成されていて、speenaらしさというもの、speenaのスタンダードみたいなものがやっと出来たような気がした。
speena史上、後にも先にも、こんなにspeenaらしい曲はない。
” 戦いの森でしゃがみこむ日は あたしにどうか君の風を ”
自分が自分らしくいるために、人はいつだって戦っている。止まったら、置いてかれる。わかってほしくて、傷つける。信じていたのに、裏切られる。諦めたふりをして、まだ誰かを信じたい。私と同じ様に、あなたにもそんな時があったならその時は、あなたに歌おう。あの日の青空を、まぶたに浮かべながら。
なにこの長さ・・・想いなのか、想いの深さなのだろうか、もう無理だ、読んでるあなたももう無理だろう、カップリングはまた今度、もしくはもう割愛(?)でもいんじゃないかとすら思ってしまう。
誤算〜ギンギンギン〜
楽しかった。
愛情装置
そのままの歌。
もうこれでいんじゃないか、否、また今度書くかもしれない。
最近、改めて自覚した事に、生きる上での自分の中の優先順位、そのトップに「自由」が君臨し続け、早43年という事がある。
音楽するには孤独が必要、この前ポンポン大魔王(佐藤信二)に呟いた、7年も一緒に暮らしてもダメ、5年それぞれに暮らしてもダメ、じゃあ音楽やめて普通に結婚とやらをしてみればそれもダメ、結果、病気にまでなる始末の私の3大要素「自由(または孤独)」「音楽(または生業)」「恋(または愛)」はこの先、うまいこと折り合いをつけてくれるのだろうか。
元気に歩き出した、歌い出して、恋も始めた私のこれからを、ちょっと離れた所から手を顎に当てながら、興味深く見守っていきたいと思う。
誰かに泣かされた時には「それはないんじゃないでしょうか」と、インナーチャイルドの代わりに抗議しながら。
読んでくれてありがとう。すっきーん。
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