中国杭州 - 文字を歩く
2024年3月1日から3月4日、「ニーハオ」と「シエシエ」の中国語知識だけで杭州 (こうしゅう、Hangzhou) を訪れた。上海のおとなり。気温は東京よりもややあったかめ。
渡航の大きな目的は①友人訪問と②「西湖」という大きな湖の周辺を歩くこと。しかしながら、合間の街歩きが想像よりもずっと楽しく感ぜられ、その楽しさの理由が文字——店の看板やロゴ、交通案内など——にあると分かったので、記憶が新鮮なうちにまとめておきたい(何年後か、何十年後かに中国語を話す自分がこれを見たら、「こういうことに感動していたときがあったね」と思い出してほしい)。
編集註:中国語表記の文字は太字で記載する。
「车」と「东」
日本で電車に乗っているときなどにこの文字をよく見ると感じていた。日本では使わない文字なので意味が分からず、形もよく似ているので異なる文字だとは認識できていなかったが、こういうことらしい。
「車」と「東」の違いは下側のパートを「一画で伸ばす」か「左右に払う」かで、それぞれのパートが「车」と「东」に対応している。空港でタクシーを探しているとき、「taxi 出租车」という看板を見つけて「車=车」とつながった。
そのほか、駅では「乘车」の文字がいたるところに。
ちなみに「駅」は「站」。
杭州のメトロには1〜10号線と16、19号線の12種類が存在。「号線」が「号线」なのは見逃せない。
タクシーでは後部座席にこの表記。
「小心地滑」
公共の場で何度も見ることになるのが「小心地滑」の注意喚起。
ピクトグラムのおかげで「滑らないように気をつけてね」の意味なのは分かるが、「小心=気をつけて」の意味なのはすこし意外な気がした。日本語だと「小心者(小心=気が小さくて臆病)」のような意味だろうと思う。
そして、注目すべきは「滑」の字形。
「滑」の骨の中身のパートが左下にくっついているのである。noteのフォントには採用されていなかったので、グリフウィキより下記を拝借。
なんだか、目がきょろきょろしているみたいでキュートだ。
「卫生间」「厕所」「洗手间」
トイレといえば、それを洗わす語がたくさんあって驚いた。どれかひとつにしてくれ、と思いそうになって、「待て、日本語にもトイレ、便所、お手洗い、化粧室、いろいろある、誰のことも責められない」と思い直した。
空港の案内板では「卫生间」を頻繁に見かけ、屋外(西湖付近の観光スポットなど)の簡易な看板では「厕所」も見かけた。不思議だったのは、ホテルなど屋内施設の案内板で「洗手间」の矢印のほうに進み、たどり着くと入口には「卫生间」と書かれている場合があることだった。「洗手间」のほうが広義なのだろうか。
そのほか、空港や駅で見つけたものを列挙。
「国际机场」
「际」は初めて見た文字。「そこ(示)が重要なのか」と思う。
「场」は「場」に関係していそう——そう思ったとき、airportのことを「マシン(机)の場」でなく「空の港」と読んでいる言語のことがとても好きだなと感じた。
「经济舱」
「経」の「又 + 土」のパートが「经」では「ス + エ」になっていて興味深い。
「下」
「次」を表す中国語が「下」なことにとても驚いた。今回の旅に連れてきた唯一の本『ことばにならない宇宙のふしぎ』(エラ・フランシス・サンダース著)によると、中国語話者は時間の経過を左右ではなく上下で考えるらしい。「未来」が下らしい。もう経験した(踏んだ)「過去」が足元に来そうなものだが、そうではないらしい。中国語をもっと知りたいと思い始めている。
「爱」
中国語の「愛」の表記には、いわゆる“真心”がない代わりに“友”がいた。
「優先席」はこうなるらしい。
「专」は「特別な (specialized)」のような意味のよう。
続いて、買いものや街歩き中に目に入ったものなど。
「趣多多!」
自営業のコンビニのようなお店で目に留まったお菓子。「シュタタッ!」と読める。実際にオノマトペなのか、なにかを表す語なのかは不明。前者であれば楽しい(後者ならますます中国語を知りたくなってくる)。
ちなみに、「巧克力」でチョコレートの意味らしい(中国国際航空 (AirChina) の朝食についてきたウエハースに書いてあった)。英語の音に近い文字を充てたのかなと想像する。
「暂停营业」
通りがかったカフェ。中を覗くと薄暗くて静か。よく見ると「暫停营业」と書かれている。
「营」は「営」。日本語と中国語ではかんむり系の部首(草かんむり、竹かんむり、他)がごっちゃになっていることが多いらしい。
「业」は「業」の上の部分。すなわち「营业」=「営業」であるからして、読み下し文を書きたくなった。
引き続き街を歩く。
「德語」「英語」「西半牙語」「法語」
どこかの語学学校で見かけた外国語名の中国語表記。日本での表記とは異なる漢字が充てられているものもあると知る。
気になって国名も調べてみた。
そういえば、中国の空港(今回使ったのは上海、北京、杭州)から香港、マカオ、台湾への渡航はいずれも国際線で、それぞれ「港」「澳」「台」と漢字一字で表記されているのをしばしば見かけた。さんずいの文字が多く、“海外 (overseas)” に行くわくわくが想起されてよかった。
引き続き街を歩く。
足場の悪い川の手前にあった看板。
「当心落水」=「水に落ちないように注意」
「禁止嬉水」=「水に入るの禁止」
だと思ったが、「嬉」の字が意外(というか違和感)で、「水で遊ぶの禁止」あたりかなと思った(まだ正解は調べないでおく)。
日本にあるお店の中国語表記。
starbucksの「star」の部分に“意味”の漢字(星)が充てられているのがとても好みだった(「bucks」の部分は“音”の漢字(巴、克)だと思われる)。
lawsonの「son」の音に「森」が充てられているのもかなりよかった。他にも同じ音の漢字がたくさんあるだろうにと想像する。
最終日、浙江美术馆 (Zhejiang Art Museum) へ。
美術の「術」が「术」なのがなんだかよいなと思う。
ちなみに「芸術」は「艺术」。
たまたま立ち寄った美術館で、墨と書の展示がされていた。絵の中に文字がたくさん書かれて(描かれて)いたのが印象的だったのと、書ではおそらく5つの書体(楷書、行書、草書、隷書、篆書、もしかするとそれ以上)を一気見できて幸運だった。
以上。
P.S.
これは杭州空港のチェックインカウンターに向かう途中で見つけたストピ (ストリートピアノ)。5分だけ弾けた。幸。
P.P.S.
これは離陸直前の機内で隣のシートのマダムに話しかけようとした内容。
しかし私の口では発音できないので、Google翻訳を見せようとしたら、素早く気づいたCAが通訳してくれた。
何年後か、何十年後かの私が中国語を話していますように。
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