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憧れのそれになれなくても

高校卒業後は美大に進学したくて高2から美術予備校に通っていました。それまではデッサンもなにも描いたことがなかったのに、ものつくりや絵が好きだからという理由で選択した進路でした。

美術大学にはいろいろな科があり、私はデザイン科志望。
目指していた大学は一次試験がデッサン、二次試験が色彩構成と立体構成でセンター試験の成績も加味されて合否が決まります。

一次試験が受からないと次に進めないため、とにかく全ての基礎となるデッサン力をつける必要がありました。

しかし私が今まで描いていたのはイラストや漫画ばかりでデッサンなんて描いたこともない。
初めて予備校に行ったときは画用紙に手を伸ばしたら掴めるのではないかと思うくらい立体的な石膏像を描いている人がたくさんいて、こんな人たちと同じ試験を受けるなんて…と萎縮してしまったことを覚えています。


憧れの作風でデッサンを描きたい

そうは言っても受験の試験科目なのだからとにかく描くしかないと、できないなりに頑張って練習しました。

上手な友達の作品や参考作品を見たり、本を読んだりして練習を重ねていくと少しずつ自分のデッサンが描けるようになってきました。

そうなると「デッサンが描けるようになりたい」という欲から「こんな風にデッサンが描けるようになりたい」という欲に変わります。

私が好きな作風はコントラストがはっきりしていて、影の黒がしっかり乗っている力強いデッサン。

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▲これはデッサンじゃないけど、こんな感じのくっきりとした陰影がついたデッサンが好きです。

私も強い光が当たったパキッとした力強いデッサンが描けるようになりたいと挑戦していました。


どうしても自動補正されてしまう私のデッサン

何度挑戦しても思うようなデッサンは描けませんでした。

3B、4Bの真っ黒な色を画面に乗せても書き進めていくうちに練りゴムで落としてしまう。

モチーフを何度も観察し、描き進めていくといつも真っ黒さは消えてグレイッシュな仕上がりになりました。

光と影を表現したかっこいいデッサンを今日こそは描いてやる…!と意気込んで再びがっつり黒を乗せるも、完成までキープできたことはありませんでした。

繰り返し観察をしているうちに実物にはそんな黒がないからと無意識に画面を調整していたんですね。

目の前のものを忠実に表現したい。
たとえ演出でも目の前にあるものと違うものを表現することの違和感の方が大きかったのです。

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▲唯一残っていた予備校時代のデッサン。陰影パッキリとは程遠い…。

先生には自然感があるデッサンと言われていましたが、私が目指しているのはそれじゃないんだ…!というもどかしさがありました。


憧れに向かって挑戦して手にした副産物

何回か挑戦していくうちに気づいたのです。

自分が目指すものが自分の特性と合っているとは限らないと。

憧れや目標があってそれを目指して努力することはもちろん大事なことなのですが、そのものになることはまた別の話で。
努力の過程で自分の特性があぶり出されてくることがあるんです。

私はスポットライトが当たったような黒がっつりの光が綺麗なデッサンが描きたい。
でも私の持っているものの見方や表現の仕方だとどうしても優しい自然光のデッサンになってしまう。

これは元々自分に備わっている特性なのだから、もう仕方のないことなんです。
私は陰影くっきりデッサンは描けない。

でもそれを目指したことでしっかり黒を乗せることができるようになりました。
それまでは見たままを尊重するあまり、なかなか画面に濃い黒を乗せることができなかったんです。石膏像は真っ白ですし。笑

でも陰影くっきりに挑戦して、黒を乗せることの大切さに気づいたり進み具合が早くなったりと新しい発見がありました。


過程にこそヒントが隠れている

ついつい「目指したものになれなかったからダメ」とジャッジしてしまいがちですが、そうとは言い切れないこともあると思います。

憧れのあの人になりたいと思って、メイクも服も全て真似てみてもその人にはなれないけど、もしかしたらその過程で自分の特性に気づくかもしれない。

それまでは全くメイクなんて興味がなかったのに、いざやってみたら自分の器用さに気づくかもしれないし、服の選び方も参考にしたら寒色系ばかり選んでいたのが本当に自分に合う色は暖色系だったと気づくかもしれないですよね。

自分が持っている特性のひとかけらでも掴むきっかけになればそれは大きな収穫なのではないかと思います。

憧れや目標は持ちながら努力はすることは大切だけど、

「結果にとらわれなくていいんだよ」

と受験生の私に伝えたいな、なんて思ったのでした。

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