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it と that はどう違う?「it」に宿る“心”を考えてみた


it と that ってどう違うの?


塾で、受け持ちの中1の生徒と問題を解いていたときのこと。
Tom:  “Is that a school?”
Ken:  ”No, (  ) isn’t. It’s a hospital.”
という問題がありました。空欄に適切な単語を書くというものです。
 
答えは「it」です。しかしその子は「that」と書きました。
どうして、that ではダメなの?と質問されました。
that も it も、日本語だと「それ」と訳せるので、納得できなかったようです。
もちろん、意味は通じると思うけど…と前置きしたうえで、同じ「それ」でも違いがあることを説明しました。
 

it と that の違い、実は奥が深い…


that は何か具体的な事物を指し示す時の「それ・あれ」。指さしの感覚です。
いっぽう、it はお互いに「それ」が何のことかわかって、共有できている時…つまりすでに話題として出ていて、共通の理解がある時の「それ」です。
心の中に、「ああ、あれね」とイメージが浮かんでいる状態、とお考えください。
 
さきほどの問いでは、Tom が「あれは学校ですか?」と聞いています。建物を指し示す意味で使っているので、that になります。Ken にとっては、そこではじめて、その建物を意識するわけです。

Tom が指したその建物のことだ、とわかっている時の「それ」は「it」になるんだよ…そう伝えると、彼女は「めんどくさ…」とげんなりした顔。私も思わず苦笑いです。

「it」は簡単なようで、実はきちんと理解するのが難しい単語です。にもかかわらず、「意味は“それ”だよ」と習うだけで、さらっとスルーされがちなんですよね。
 

鬼ごっこの鬼も「it」と呼ばれる


私が初めて it という言葉の奥深さを意識したのは、鬼ごっこの鬼を it と呼ぶと知ったのがきっかけでした。

鬼そのものは demon, ogre という単語がありますが…鬼ごっこの「鬼」については「it」と聞いて、なるほど!と思いました。

なぜなら鬼ごっこの参加者は皆、「今、誰が鬼なのか」を強く意識しているはずです。

全員が、共に心に思い浮かべている存在、だから「鬼ごっこの鬼=it」なのではないでしょうか。
 

it は心に抱く共通認識?


そのことを知ってから、天気や時間、温度などを表す文の主語が「it」になるのも腑に落ちた気がします。

その理由は、鬼のitと同じ、「共通認識」。

私たちはふだん、とくに意識せずとも「今日の天気、気温はどうか」「今、何時か」などを共通認識として心の中に持っています。

そうしたことについて話題にする時に、主語が「it」になるのだとしたら、興味深いなと思いました。
 

仮主語 it の文は…?


では、It…for…to のような、いわゆる「it が仮主語」と言われる文はどうでしょう。

It is important for us to save the children.
(その子供たちを救うことは我々にとって重要だ)
のような。
 
私が学生時代には、「形式主語の it は、真の主語(例文ではto save the children)を文頭に持ってくると頭でっかちになってしまうから、それを避けるためのもの。とくに意味はないし、訳さない」…と教わってきました。
 
でも…話し手の心には、it=to save the children という気持ちがちゃんとあるはず。

つまり it には、真の主語の存在を示して導くという、大切な役目があるのでは…。

意味がない言葉だなんて片付けてしまうのは、ちょっと it に失礼な(?)気がします。
 

it が表現するものとは


「This is it!」とか「That’s it!」というフレーズもありますね。

これがそれだ、あれがそれだ!と訳しては意味がよくわかりませんが、心の中に抱くものを表していると思えば、どうでしょう。

「これが、私が心に思っていたもの、求めていたものだ」
「それが、私の言いたいことだ!」という意味になるのも、しっくりきます。
 
it の用法は他にもたくさんありますし、ここで書いたことはあくまで私の個人的な解釈ですが…ひとつの説として皆さんとシェアしたくて、書いてみました。皆さんはどう思われたでしょうか?


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