見出し画像

緑玉で君を想い眠る⑪



 朝から警察の聴取があったその日、改めて昨晩のことを思い出しながら帰宅した。

 玄関の扉を開けると、先に帰宅していたらしい由貴に、心配そうな表情で出迎えられた。

 彼は昨晩の私の行動について話を聞かれたのかもしれない。心苦しい思いをしたことだろう。せめて少しでも安心させたいと思い、笑顔で「ただいま」を言う。靴を脱いで室内に足を付けたところで、ふわりと抱きしめられた。

「おかえりなさい」

 昨晩は、家に帰るなり飛びつくように抱き締められた。私の体がそこにあるのを確かめるように、強く抱き締められた。まるで何日も家を出ていた家族が帰って来たような反応だった。

 今日は、昨日とは正反対だ。

「ボクは、叶羽さんの言うことを信じますから。教えてくれませんか? 昨日何があったのか」

 昨日は帰宅してから、何があったのかは話していない。「ごめんね」と「ご飯できてます」だけ言葉を交わして、リビングに行って、何事もなかったような、いつも通りの時間を過ごした。

 由貴の体が離れる。綺麗なフェイスラインの中央にある口は、キツく結ばれている。細くて長い睫毛と、澄んだ瞳が揺れている。

「ごめんね、心配かけて」

 私でも簡単に届く位置にある彼の頭を両手で包み、優しく撫でた。


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?