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2024年6月の記事一覧
緑玉で君を想い眠る㉔
7
誘拐事件から十五年の時を経て、再び事件は起ころうとしていた。
脅迫状を読んで、違和感を覚えた。
その違和感の正体に、すぐには気付けなかった。
だが、あの人が、また何か企んでいることだけはわかった。
家に帰ると、扉が大きな音を立てて閉まった。乱暴に閉めたのは自分だとも気付かなかった。
「ちょっと! 何よ!」
リビングにいたあの人はそのまままっすぐに向かう僕に、珍しく動揺し
緑玉で君を想い眠る㉕
8
彼女が殺されたと聞いて、一瞬、一昨日の口論の時に自分が殺してしまったのではないかと感じた。
死亡推定時刻、僕は事務所にいたことが確認されており、容疑者からは外れていた。
首を絞められた跡があったそうだ。口論の前に一方的に胸倉を掴んでいたのを思い出して、犯人でもないのに後ろめたい気持ちになった。
光の森公園で遺体は発見されたらしい。平日の夜に、そんな場所に行った心当たりはないか、
緑玉で君を想い眠る㉖
六話:目覚めた時に、
1
「馬鹿なこと言わないで! そんなことのために……!」
二人が何を話しているのか、ボクには聞こえなかった。叶羽さんはボクに背を向ける形になっているし、守さんは大怪我を負っている。でも、叶羽さんのその叫び声だけは聞こえた。
「安静にして! 動かないで!」
何を思ったのか、守さんは立ち上がろうと、体勢を変えていた。左腹部のナイフが刺さっている辺りを押さえて、そのまま
緑玉で君を想い眠る㉗
2
何か用途があるわけではないデザイン目的の木の枠がある、ベージュの壁、ダークグレーの床、ブラウンのシーツの掛け布団、枕とボックスシーツのみが白の室内は、とても病室だとは思えない。こんな部屋をポンと用意できる霧島家は、ボク達とは違う世界の人達だ。
桜ノ宮大学病院の特別室に、ボクと叶羽さんは来ていた。
その部屋で眠る守さんは、あれから五日、意識が戻っていない。
新婦とゲストの二人が病
緑玉で君を想い眠る㉘
3
翌日も守さんのお見舞いに来てみると、面会謝絶の札が掛けられていた。
あの後ボクが帰ってから彼は、お見舞いに来てくれた玉井家の人達と、一悶着あったらしい。「何で今そんなことを明かすんだ!」「何のために他人の結婚式に行かせたと思っているんだ!」「お前が娘を殺したんだ!」という声で騒ぎに気付いた担当医の久我先生が駆けつけると、見舞い客が守さんに掴みかかっていたらしい。昔空手をしていたという彼
緑玉で君を想い眠る㉙
4
家に帰ると、叶羽さんはソファーに腰掛けて、そのまま背もたれにもたれかかった。布で体は滑って、深く腰掛ける形になる。ぐでんとダルそうにして目を閉じている。
退院してから、外出した後は、こうなることが多い。気分の浮き沈みは減ってきているものの、まだ完全に回復したわけではないのだろう。
「……叶羽さーん、よかったんですか? あんなこと言って……」
お疲れの時に聞くのも無神経だろうか。
緑玉で君を想い眠る㉚(最終話)
They sleep thinking of ……
会話が途切れた。
私達の席ではない。私の左斜め後ろの、老夫婦の会話だ。食器が擦れる音が微かに聞こえた。先ほど運ばれていた紅茶を飲んでいるのだろう。
私はその瞬間、意を決して振り向き、声を掛けた。
「あの、すみません」
私に席が近かった老夫婦のご婦人が、振り向いた。彼女の正面に座っていた紳士も、私の方を向いた。
「エメラルド婚式