【忌憚幻想譚2話】手と手と【ホラー短編集】
僕が彼女を狙って、必死に努力して一カ月。
うだるような蒸し暑さの夏休み、僕は意を決して彼女を花火大会に誘った。
だというのに。
手を繋ぐなんて、そんな勇気はなくて。
僕は今日も彼女の隣、うまく言葉が紡げずにいる。
でも、今日こそは。
――きっと、触れられる。
せめて、せめて手を繋ぐくらいは。
――だって、夏はそういう季節だから。
人混みの中、熱気に汗ばむ手を懸命にティーシャツの裾で拭う。
――いまなら。
僕は、そっと触れたひんやりと冷たい彼女の手を、きゅっと握る。
彼女は振り返って笑ってくれて、同時に花火が夜空に咲いた。
ドンと腹に響く音のなかで優しく僕の手をなぞる指先。
空の花が散るのをうっとりと眺める彼女に、僕は見惚れてしまう。
――嬉しい、うれしい、うれシイ、ウレシイ。ウレシイ!
けれど、次の花が咲くその瞬間。
彼女はどっと押し寄せた人混みに流されてしまった。
見えなくなった彼女を追うことなく、僕は固まるしかない。
指に絡み付くのは冷たい感触。
ちょっと待って。これ……誰の手……?
――ツ カ マ エ タ。
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