我が家の「ベッドタイム・ストーリー」
毎晩の寝かしつけで、長女と添い寝しつつ「お話」を語って聞かせていた時期がある。
何をきっかけで始めたのか忘れたが、題目は決まって「大きなかぶ」と「桃太郎」のふたつ。
大きなかぶを引っこ抜くにあたり、おじいさんからねずみまでの「オリジナル・メンバー」では力不足。日替わりの追加キャストがおり、彼らは幼稚園の先生からプリキュア、ディズニーキャラなど多様性に富み、長女はそれを「今日は誰かしら」と楽しみに聞いている様子だった。
「桃太郎」については、まぁ話せるだろ、とたかをくくって話し始めたものの、まぁ言葉が出てこない。支離滅裂でリズム感に欠く自分の喋りにがっかり、実力不足を憂いた。
ざっくりストーリーを把握していても、語って聞かせるとなるとなかなか言葉が出てこないものだ。
そこから毎夜毎夜の試行錯誤を重ね、脳内でシナリオ構成、言葉使いの工夫…納得のいく流れに仕上げることができた。自己満足甚だしい。
そんな親子時間を、まじで毎晩続けた。回を追うごとにわたしの語りはブラッシュ・アップされ、ほとんど無心で語れるまでに口が覚えた状態に。あまりの眠気だと、無機質棒読み。これ意味ある?それでも娘がリクエストするので応える。
申し訳ないが、その日のわたしの気力次第で仕上がりにかなり差があった。それなのに一言一句飛ばさず最後まで話し切るという謎のこだわり。
そんな寝かしつけタイムをおそらく一か月程続けたのだが、ある夜から突然、「お母さん、【かぶ】して、次は【桃太郎】」と言わなくなった。まぁこんなもんかとわたしも追求しなかった。正直話し飽きていたし。
それから二か月ほど経ったと思う。
昨晩、長女が唐突に「お母さん【かぶ】して、次は桃太郎」とせがんできた。リクエストとあらば。久々のストーリーテラー(自称)の出番に腕がなる。
大きなかぶのスペシャルゲストは、最近娘が熱を上げている「ブンブンジャー」から「ブンレッド」と「ブンブルー」。彼らの活躍で「とうとうかぶは、抜けました」。聞き手は大喜び。
桃太郎では個人的にこだわりのフレーズがたくさんあり、以前のように話せるか少々不安だった。しかし我ながら流れるような語り口だったと思う。(わたしは一体何と戦っているのだ。)
特に気に入っているのはこの箇所。
「船にのり、海を渡り荒波を越え、ようやくたどり着いた鬼ヶ島。ここは傍若無人な鬼たちの巣窟でありました。桃太郎は叫びます…我が名は桃太郎!おまえらが襲いし村より参った!理不尽な暴力、許すわけにはいかぬ!!」
(中略)
「こうして戦いの火蓋は切って落とされたのであります。華々しく初陣を飾るは桃太郎一行、対するは鬼たちは百戦錬磨、海千山千、負け知らずの猛者、さぁ果たして軍配はどちらに上がるのか…」
「親子の温かな心の触れ合い」というベッドタイム・ストーリーの目的から多少逸脱している感は否めないものの、これが我が家のスタンダード、娘も穏やかに聞いている。
話し終わると、長女からまさかのリクエストが。
「今度は違うお話して」
困った。このクオリティに仕上げるまでどれだけかかったと思ってんだ。
瞬時に頭をめぐらし、そうだ!「寿限無」!
以前から、絵本を手に入れたいと思っていた。ちょうどいい、わたしなりの寿限無で導入しておこう。
何となく話し始めたものの、まぁ酷い。というか、どんな話だっけ?オチだけは浮かぶ。
「あんまり名前が長いもんだから、○○が引っ込んじまったよ」
…何が引っ込んじゃうんだっけ?(因みにコブ。でも色々なバージョン有)
「ごめん、ちょっと…ちょっとスマホでお話確認させて?」と中断、仕切り直し。静かに待つ長女。(因みにここまで一切登場していない次女だが、おっぱい飲んで、ねんねして、状態。)
しどろもどろの「寿限無」だが、「聞かせ所」である彼の名前だけは、それはそれはもう流暢に畳み掛けるもんだから長女は大笑い。わたしも気分が良い。昔覚えた「寿限無」が、生まれて初めて役に立った瞬間である。
そんな訳で、アンコールリクエストで計四回の「寿限無」上演となった。また明日も話してほしい、とのこと。でもこのクオリティでは(わたしが)納得いかない。また、血の滲むような(滲まない)努力が必要らしい。
そんなことのあった翌日、車で移動中に後部座席で長女がひとり何やら喋っている。耳をそば立てて聞けば、「桃太郎」ではないか!それも、わたしの喋りを再現している。さすがに一言一句違わずとはいかないが、かなり忠実だ。
わたしが聞いていると知れば、恥ずかし怒って止めてしまうだろうから、何も言わずにこっそり耳だけ傾ける。ニヤニヤが止まらない。
途中で抜けたりすっ飛ばしたりしつつも、ちゃんと話している。
そして、わたしを射抜いたこの一言。
「こうしてももたろうは
いきようようとしゅっぱつしたのであります!!」
見事な完全再現!ちゃんと、聞いてんだなぁ!!!
もう、胸がいっぱいだ。やってて良かった。
よし、寿限無もがんばるぞ。
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