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人生で1番大切な仕事


「たしろ…田代って、田代染め物屋か?」


先日、心に残る看取りに立ち会いました。
看護師を続けてきてよかった。
そんなふうに思いました。

私は福島県郡山市久留米にある訪問看護ステーションlifeで看護師をしている田代さとみと申します。こんな顔で、管理者をしています。さて、どんな顔でしょう?
そんな私が好きなビールはサッポロのCLASSICです。

冒頭のセリフは、先日お別れしたSさんの言葉で、
出会って最初のケアに入る前に自己紹介をした時に返ってきた言葉です。
コロナ感染による入院を経て、衰弱した状態での自宅退院でした。


「最後のお正月になるかもしれない」

頑固な一面もありましたが、家族を愛し、愛されていたSさん。
これが最後かもしれないなら自宅で過ごしてほしい。
そんな家族の思いがあって自宅に帰ってきました。

振り返れば、退院当初からいつ息を引き取ってもおかしくない身体状況でした。
寝ている時間が多く、食事もほんの少し。
体のあちこちが痛み、身の置き所がありません。
せん妄症状もありました。
決して楽な状態ではありません。
でも、その一つ一つの症状に一緒に向き合ってくれる家族がいました。
「おーい」と呼んだらそばにきてくれる奥さんがいて、
食べやすいように工夫した食事を作ってくれるお嫁さんがいて、
オムツ交換から傷の処置まで、なんでもこなす孫がいて、
そんなみんなの力をを信じて、父親の介護を任せている息子さんがいました。
喧嘩ばかりしていた親子だったそうで、退院直後もぶつかることがあったようです。
どんなときでも親子は親子。
病気なんて関係ない。
そういう変わらない関係や役割を維持することも、病と共にある人にとって大切なこと。
私たち訪問看護は何をしていたかというと…伴走です。
訪問時は体調チェックとオムツ交換、傷の手当てをしたりおしゃべりをしたり。
先生やケアマネージャーさんとの連絡調整などをしていました。


息を引き取った日、その数時間前に、私はSさんに訪問看護をしています。
ケアの内容はいつも通り。
まさかその数時間後にお別れになるとは思っていませんでした。
「今日は寝てばかりいる」とのことでしたが、ケア後は目が覚めたので、食事を食べるお手伝いをしました。
お嫁さんが用意してくれたすき焼きのおじや(すき焼きはSさんの好物)と柔らかく煮たりんごを食べました。
途中で機嫌が悪くなり、(というより、Sさんはあまり機嫌がよいことがなかった笑)「嘘ばっかこきやがってコンニャロ」とかなんとかブツブツおっしゃって、また眠りにつきました。
Sさんらしいなぁと思いながら、次に会えるのがまた楽しみだなー、踵の傷をなんとかしたいなーなんて思って退室しました。
その数時間後、Sさんは旅立ちました。
お嫁さんから「なんだかね、動かないの」と連絡をいただき、驚きました。


お別れ

先生の到着を待つ間に続々と親族が集まってきました。
それはもうすごいスピードで部屋が人でいっぱいになりました。
犬、赤ちゃん、小学生や中学生、おじさんおばさん、あらゆる世代の親族がSさんの周りを囲みます。
静かに眠るSさんの顔を見て、みなさん「ほほー」といった感じで。
小さい女の子が少し驚いているかな?という様子がありましたが、だいたいの方はSさんの旅立ちを静かに受け止めている様子でした。

気に入っていた服、ありますか?と尋ねると、奥さんが洋服を出して下さいました。
その洋服を試着をする人がいたり、(2名ほど試着している人を目撃しました)
洋服を見て、
「あー!それよく着てたね!」「でも毛玉だらけじゃない?」「こっちの方がいいんじゃない?」「ベルトはどうする?」
ワイワイガヤガヤ。
実際にパジャマからズボンに着替えてみたら夏物の生地だったと判明。
私が「これ、夏物ですね…」と報告したところ、
「それじゃじーさんが怒るわ」
「寒いの嫌いだもんね」
厚手の冬仕様のズボンに着替え直し。
「これで大丈夫だわ!」
ワイワイガヤガヤ。
着替えが終わると
「おお!なんだか東京に行けそうな服だね!」
「そんな服着てどこ行くの?」
いつの間にか、鬼のお面も出てくる。
(でんろく豆を買うともらえる、あの厚紙でできたお面。)
豆まきはSさん宅の恒例行事の一つ。
「やっぱこれだよね」
「よし、みんなで写真撮ろう!」となって、
ワイワイガヤガヤ、
電動ベッドの頭側を動かしてSさんを起こし、全員でパシャリ。
(みなさんが静かだったのはこの瞬間だけだったかもしれません。)
親族が揃ったら記念写真を撮るのもSさん宅の恒例です。
Sさんはいつもその真ん中にいました。
この日もSさんは家族の真ん中にいました。


同行した看護師と一緒に、「すごいね」と言い合いました。
彼女にとっては、訪問看護師として初めてとなる看取りです。幸運だと思うし、一緒に経験できて良かった。

続々と集まってSさんを囲み、ワイワイと過ごすみなさんの様子を眺めながら、私のお腹の辺りがじんわりしてきました。
感じたことを言葉にするとしたら、以下のような感じです。

ここにいる一人一人それぞれにSさんとの思い出がある。
Sさんと共に過ごしてきた時間がある。
それら全てが繋がって、今がある。
それぞれのいのちと暮らしの中に確実にSさんとの思い出があるんだ。
それは他の誰でもなく、Sさんと家族が作ってきた思い出であり、その思い出でつながっている。
このお別れもまた家族みんなの思い出となって、集まったときに一緒に笑い合ったり、時々さみしくなって涙したり、そのさみしさを癒しあったりするのでしょう。
素晴らしい家族ですね、Sさん。
Sさんは、いのちをかけて、大切なことを教えてくれたんだ。
もっともっとお話したかった。
でも、この物足りなさも、Sさんが私にくれた思い出なのですね。


この経験を通して思い出したフレーズがあります。
少し前に読んだ本の中にあったものです。


人生で1番大切な仕事は「思い出づくり」
DIE WITH ZERO ビル・パーキンス (ダイヤモンド社)

Sさんは人生で1番大切な仕事を全うされたのだと思います。
思い出って、ささやかでくだらないものほどキラキラしていて。
暮らしの中にある当たり前のことが思い出になった瞬間、強くてあったかいものになる。
そういう思い出に支えられて、私たちは生きています。
だから、大切な人と共に笑おう。
当たり前の暮らしを大切にしよう。
それが、人生で1番大切な仕事なのだから。
Sさん、そういうことですよね?
大切なことを教えてくれて、ありがとう。
また会いましょう。


おわりに

このような看取りに立ち会えたことは、本当にありがたいことです。
もっとできることがあったかもしれないと、後悔が残るお別れもたくさん経験してきました。
それでも、私は看護の力を信じているし、どんなに苦しい暮らしの中にも、光が灯っていると信じています。
もう、この信念からは逃れられません。
うまくいかないこともあるし、悔しくて涙する日もある。
それでも目の前にあるいのちや暮らしに真剣に向き合っていれば、今回のような、身に余るほど素敵な出会いが巡ってきたりする。
いただいたものは生きる力に変えて、次出会う方に手渡さなければいけない。
それが看護師として生きる私の使命だと思っています。
いのちも暮らしも人生も、ぜーんぶ丸ごと大切にしたい。
訪問看護ステーションlifeの“life”に込めた思いを胸に、私は今日も明日も看護をします。

最後までお読みくださり、ありがとうございます!
あなたに幸あれ〜!



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