信長を演じた名優

徳川家康を演じた俳優の話を前に書きました。家康に関してはこの人、と思える俳優は今のところ思い浮かびませんが、織田信長に関してはベスト、この人しかいない、と言えるのが高橋幸治さんです。今では「誰?」となりそうな古い俳優ですが、高橋さんが信長を演じたNHK大河ドラマの太閤記(1965年)では凄い人気で、ファンからは「信長を殺すな」という投書がNHKに殺到しNHKでは本能寺の変を一ヶ月延期して信長の登場回数を増やしたのだとか。これは私も生まれる前の逸話で知る由もなかったことですが、私の父は「織田信長ならやはり高橋幸治だ」とよく言っていました。「神経質そうな気難しい感じが如何にも信長らしい」と言うのですが当然、見たこともなく高橋幸治という俳優も全く知らないのでイメージがわきませんでした。しかし後になって、私が最初に大河ドラマで見ていた織田信長がその高橋幸治さんであったことを知りました。それが1978年のNHK大河ドラマ「黄金の日々」でした。私は小学生だった当時から織田信長が好きでしたがこの「黄金の日々」に織田信長が出ると両親が言っていたので、それだけの理由で私は「黄金の日々」を見始めました。両親が信長が出るという話をしたのは恐らく「黄金の日々」では高橋幸治さんが再び織田信長を演じるということで評判になっていたからでしょう。「黄金の日々」の主役は呂宋(ルソン)助左衛門という堺の豪商で、織田信長は登場回数も多くはない脇役でした。そもそも呂宋助左衛門というのも歴史上では全く無名の存在ですが、準主役で助左衛門の親友だったのが石川五右衛門と杉谷善住坊というかなり無茶な設定でした。石川五右衛門は言わずと知れた大盗賊、杉谷善住坊というのは織田信長を火縄銃で狙撃して失敗し、捉えられて処刑されたという人物です。今考えればそんな内容のドラマを今よりずっとお固い時代のNHKの大河でよくやったなあ、と感心します。最初は織田信長の登場だけを楽しみに見ていた少年時代の私は、次第にドラマ自体に引き込まれていました。「黄金の日々」で信長が登場するシーンで私の印象に残っているのは、まず若い頃の助左衛門が信長の前で相撲をするシーンです。織田信長は相撲が好きだったことで知られていますが、それをネタにしたシーンでしょう。相撲大会みたいなものに参戦したと思われる助左衛門は信長の面前で勝利を挙げ、信長に「お主、武士にならぬか?」と声を掛けられます。商人になる夢を持っていた助左衛門はそれを言って断りますが、次に信長が出たシーンは海が荒れている舟の中でした。少し離れたところで助左衛門に気付いた信長はそこでもまた助左衛門に「武士にならぬか?」と声を掛けます。助左衛門は前回同様に断りますが、私はそのシーンを見ていて緊張しました。信長が怒り出すのではないか、と心配したからです。しかし信長は怒ることなく微妙な表情を浮かべて無言で立ち去り、見ていた私はほっとしていました。

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