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最初で最後の不思議な出会いに感謝

わたしはいま主にオンラインで活動している。
オンラインでの活動のメリットは、全国どこにいてもできること、時間を気にせずできること、面倒な人間関係がないこと。
1つの場所でじっとしていることが苦手で、夜行性で午前中は活動できなくて、ひとと関わることが苦手なわたしにとっては大きなメリット。
ただ、デメリットとしては、ひととの関わりが必要最低限になってしまうこと。いくらひととの関わりが苦手だと言っても、まったくないと寂しくなってしまう矛盾した感情を持つわたしは、ここ4ヶ月くらい最低限の関わりしか持てなかったことに苦しみを感じていた。
仕事前の時間、先生やMTGメンバーが来る前の時間、帰るときに方向がいっしょの子との時間、などで行われるちょっとした雑談がほんとうに大切なものだったんだと気付かされた。「きのう夜このYouTube見てさ〜」「さっき来るときにこんなひとがいてさ」「きのうこれ買ってみたんだけど、」っていう雑談。わたしは話すのは好きだけどどちらかといえば苦手なので、聞くことが多かったけど、それでもすごく楽しかった。体調や心を病んで動けなくなったことで活動に制限がかかって、雑談する時間や機会がなくなって、会話がなくなって、心にぽっかり穴が空いた感じだった。かといって、「雑談しよう!」と時間を取るのはまた別だと思っている。ちょっとした隙間時間で行われる雑談にこそ意味があると感じている。

そんなことを考えながら大きな寂しさを抱えていたある日、同居人と喧嘩をした。原因は、わたしの八つ当たり。わたしはいまあなたとしか関わりがなくて、あなただけが話せるひとなのに、あなたはいろんなひとと仕事で話せて、いっしょにごはんを食べたり飲みに行ったりできる。わたしはひとりで、もしくはあなたとごはんを食べるしかないのに、あなたは違う。それがなんか悔しくて、寂しくて、苦しくて、帰る時間の連絡がなかったことがトリガーになってイライラをLINEでぶちまけ、家出をした。お金を一銭も持たず、ハーフパンツにサンダルで、パーカーのフードを被り、泣きながら家を出て、鍵をポストに入れた。もう帰ることはない、こんな孤独にもう耐えられない、今すぐしんでやりたい、その思いで真っ暗な家を去った。

もやもやを抱え始めた当初、「オンラインで友達と話したら?」「オンライン飲みしたら?」なんて言われたこともあったけど、オンラインと対面ってかなり違うんだよ、ということが、今になって確信を持って言えるようになった。対面だったら、そのひとの細やかな表情、上半身以外の身体の動き、匂い、視線の先、すべてを感じて知ることができるでしょう?わたしはひとにどう思われるか、ひとがどんなことを思っているかを気にしすぎてしまうからこそ、そういったところからも相手がなにを思っているのか知りたい。オンラインだと情報が少なくて不安になってしまう。だけど、この思いはなかなか理解されないんだよね。

孤独に耐え、体調と闘い、将来に悩み、お金も使い果たし、頼れるひとも場所もなくて、鬱やパニックが悪化し、頭のなかではいつも「お前なんかいらねえよ」「はやくいなくなれよ」と言われているようだった。お望み通り消えてやるよ、と思い、勢いで飛び出したものの、どうやってしのうか、どうしたらこの世から消えられるか、わからなくて、泣きながら街を彷徨った。時刻は夜の11時半。ひとは少なかったけど、車は多かった。道に飛び出してやろうか?いや、それは運転手があまりにもかわいそうだ。どこか高いところから飛び降りてやろうか?でもそんな場所、ないなぁ。頭のなかは「死」でいっぱいだった。だけど片隅で、やり残していることがちらついた。ほんとうは死にたくない。まだ生きていたい。でもこれからどうやって生きていくの?生と死を行ったり来たりしながら、目的地もなくひたすらに歩き続けた。そしていつの間にか、駅の近くにたどり着いた。時刻は深夜1時頃。ずっと泣きながら歩いていたから、目はパンパン、自分を叩きながら歩いていたから、アザだらけ。疲れちゃった。

そんなとき、横断歩道の信号機に寄りかかっている女性がいた。こんな時間にひとりなんて、わたしと同じだな、と思いながらそのひとの少し後ろに立って信号を待った。でも、なんとなくその女性をつけているような構図になっていることに気づき、別のルートを行こうとその場を離れようとした。その瞬間、信号が青に変わった。しかし、その女性はその場でふらふらとしているだけ。その様子が少し気になったが、その場を離れることにした。
少し歩いて、ふと後ろを振り返ると、さっきの女性が横断歩道で倒れ込んでいた。心臓がドクンとした。どうしよう。こんな時間だし、歩いているひとはいない。でも車は通るかもしれない。あのひとが轢かれたらどうしよう。怖くなって、涙を拭ってそのひとの元へ駆け寄ることにした。
「大丈夫ですか?」と身体をさすりながら、声をかけた。たぶん、その声は震えていた。その女性はトロンとした目で一点を見つめ、「あぁ…」とかよわい声をあげたのち、ふと我に返ったかのように声をあげて泣き始めた。匂いと雰囲気から一瞬でそのひとがお酒を飲みすぎて、気分が悪くなっているのだと察した。とりあえず安全な場所に避難させなきゃ、と思い、「ちょっと内側入ろ、歩ける?」と声をかけた。女性は「お姉さん、声かけてくれてありがとう、歩ける、移動する」と言って、泣きながらふらふらと立ち上がった。その瞬間ぎょっとした。服が赤く染まっている。怪我してる?血を吐いた?どうしたらいいの?
とりあえず、安全な場所に移動して、いっしょに地面に座り込んだ。女性の背中をさすりながら、「ひとり?」と聞いたら泣きながら頷いたので、「じゃあわたしもひとりやで、ちょっとお話しん?」と声をかけた。驚いたようにわたしのほうを見つめ、少し笑顔になって頷いてくれた。

彼女は、最近仕事で忙しくしていたのを見て上司たちが飲みに連れて行ってくれたんだと話し始めた。職場のひとたちがいいひとばかりで、そのひとたちに気をつかわせまいと、久しぶりだったにも関わらず、頑張ってお酒を飲んでしまい、記憶を飛ばしてべろべろになってしまったとのこと。そこでハッと思い出したかのように、「お姉さん、お名前は?」と聞いてきた。「かんって言います」と答えたら、「じゃあかんちゃんだね、かんちゃんごはん食べた?」と呂律の回らない口で心配してくれた。食べていなかったから正直に食べてないよと答えたら、かばんをごそごそしてお財布を取り出し、500円玉をわたしに握らせて、「おにぎり買ってこい!あとお菓子も!食べろ!」と目の前のセブンに走らせようとした。でも彼女をひとりで残すことは不安だったから迷っていたら、「友達に電話するからわたしは大丈夫」と、スマホを取り出した。それならわたしは離れたほうがよいかも、と思ってセブンに走った。ツナマヨおにぎりと、じゃがりこを握りしめ、彼女のもとへ帰ろうと店を出たとき、お兄さんが彼女のもとでしゃがみこんでいた。”友達きたのかな、よかった”と安心しながら、「お友達ですか?」とお兄さんのもとへ駆け寄った。しかし「いいえ、泣きながら座り込んでいたので心配になって」とのこと。彼女の友達の家はここから5駅ほど離れた場所だったらしく、迎えに来れなかったとのことで、彼女はスマホを片手にぼーっとしていた。

そこから、なにかを察したわたしとお兄さんで彼女を囲むように道端に座り、彼女を落ち着かせることに専念した。わたしが彼女のお金で買ってきたじゃがりこを開け、みんなで食べよ〜と言い出したことから路上パーティーが始まった。
お兄さんは「遠目でも大粒の涙をぼろぼろ流してんのわかるくらいだったよ。そりゃ心配するわ」と呆れた口調で話した。彼女は少し笑って、申し訳なさそうに「ごめんなさい、声かけてくれるひとがふたりもいて、わたしは幸せだなぁ」と呟いた。
じゃがりこを食べながら、どうでもいいような話を続けた。「あそこにあるケーキ屋さんがさ…」「地元どこなの??」「最近できた焼肉屋、おすすめしないわ」なんて話をしながら、少しずつ落ち着いてきた彼女に今の状況を確認した。ガールズバーで働いていた経験があり、よくしてくれている上司たちを気遣わせないよう、楽しんでもらえるよう、頑張って飲んだのは赤ワイン。真っ赤な服の正体がわかってかなり安心した。こちらの心配をよそに「おいしかったよ」とすっかりにこにこ笑顔になった彼女。時刻は深夜2時半。

あしたも朝から出勤であることを思い出した彼女は、だいぶ落ち着いて帰る気になったらしかった。でも3人ともスマホのバッテリーは切れ、駅前のタクシーも出払い、寒くなってきたからお散歩がてらタクシー探しをすることに。20分ほど歩いて、ようやく見つけたタクシーを止め、お兄さんが運転手さんに事情を話している間に彼女が「これ、彼とあったかいもん買いな」と3000円くれた。無理矢理わたしに握らせ、タクシーに乗り込み、名残惜しそうに何度も何度も「ありがとう!気をつけて帰ってね」と見えなくなるまで手を振ってくれた彼女に、心のなかで”無理しないでね”と告げつつ、これからどうしようかと考え始めた。

彼とふたりになり、もらった3000円を見せて「あったかいもん買いにコンビニいこ」と誘ったら「俺はいいよ、かんちゃん、同居人さんとそれでごはんでも行っといで。かんちゃんが飛び出してきたこと、絶対心配してるから、それ持って帰りな。」と言ってくれた。
「心配なんかされてない。帰りたくない。鍵ないし。」とふてくされるわたしに、「じゃあ帰りながら話そう」と、途中まで送ってくれた。手相を見ながら、「かんちゃんもさっきの彼女と同じで気をつかいすぎるタイプなんだね、繊細なんだ、そりゃ疲れちゃうよね。自分のこともっと大切にしてあげていいんだよ」と言われた。初対面だったのに、すべて見透かされたような思いだった。驚いて立ち止まったら、「すげぇって思った?」といたずらっぽく彼は笑った。

「俺の言うこと、当たるんだよ。だから帰って、同居人さんが心配してるか確かめておいで。絶対心配してるから」

単純なわたしは、そっか、と思って帰ることにした。時刻は深夜3時半。

こうして、わたしの家出は終わった。
彼の言う通り、同居人はとても心配してくれていた。
体も顔もすっかり冷たくなって、赤くなったわたしを抱きしめてくれた。
「ごめんなさい」と泣きながら伝え、仲直りできた。

最初で最後の不思議な出会いに感謝。

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