小説 失神国民健康保険 その5 関本ぶりき

 車の修理工のおじさん。これがそのいわゆる成功者というやつである。成功者といっても村上龍と月曜の夜しゃべっている類の成功者ではない。焼き鳥をフランチャイズ展開し自分の書いた本を各店に置く焼き鳥屋の会長、というのでもない。町の成功者というやつだ。こういう人が自民党に票をいれるのかなんなのかそれはしらないが、間違いなくいえることはこういう人は共産党に票をいれる奴をバカにする。大事なことは一つ。町の成功者になりたければ共産党に票をいれてるようではいけない。町の成功者とは。車修理工場を自分で設立。はやい段階で得意先のバス旅行の会社を見つける。そのバス旅行の会社のバスの修理をうけもつ。小口相手にも順調に業績をのばす。家を建て、息子二人に商売を継がす。息子二人の家を建てる。つまり、そのおじさんが建てた家は自らの家をふくめて3軒。大阪の山のほうとはいえ、立派な町の成功者。後2軒家をたて記念館をたてれば落合博満と肩を並べることになる。
そういう町の成功者からの電話である。一回忌の時にこれから仏壇のことやら墓のことで相談のってきなさい。お母さんから電話番号を聞いときなさい。ところで君の番号はなんぼなんぼや、はい、あのじゃおじさんの番号を教えてもらえればそれをかければ僕の番号がそちらにでますので、なんてやりとりをした。確かにした。

「もしもし、幸作です」
「幸作ちゃんか」
「はい、幸作です」
「あのな、35過ぎたらなかかってきた電話はな、一発ででんとあかんでそれぐらいの気がないと大きい人間なられへんで」
「はい」
「今なにしてるんや」
「今は、あの、夕飯をつくろうかと」
「ほんだらな、夕飯なおっちゃんとたべよか」
「え」
「ちょっと大事な用事ができたからな、おっちゃんとたべよか」
「はあ」
「ほならな、今どこにすんでるんや」
「え、堺ですが」
「堺のどのへん」
「え」
「ま、ええわ、141号線の和歌山むいたところにフレンドリーあるやろ」
「はああ」
「何分でこれる」
「えええ、まああ」
「どうやってくるねん」
「あああ、カブですね」
「カブか、どれくらいで」
「そうですねええ」
「よっしゃ、30分後な」

よっしゃ30分後、何分後につくかどうかをも少しいわせてほしかったのだが、もう30分にきまってしまったようだ。ぎりぎりつくかどうかである。ま、といってもう一回かけなおすのもいやなもんではある。相手の答えをあまり考慮しないまたは聞かない、町の成功者になるにはそういうのが必要なのだろうか。

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