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おねえさんのまぶた。

 お会計の間中、お姉さんのコーラルピンクに彩られたまぶたを、しげしげと見つめていた。どうしたらこんなふうに綺麗に色が載るのか、不思議だった。

 化粧はあまり得意ではない。
 昔から、自分は化粧をしているつもりでも、すっぴんのように見られる事が多かった。
 七年前くらいだったと思う。お正月か何かで親族一同が集まっていた。そんな時に従姉妹に「かおるちゃんってお化粧しないの?」と言われた。その時、私は化粧をしていた。自分の部屋に籠もり、アイメイクを濃くした。彼女らが帰ると言うので見送りに行ったら、当然ながら気づかれた。「なんか可愛い」と年下ギャルが哀れむように笑った。

 それから随分成長して、さすがに『しているのかしていないのかわからないレベルの薄化粧』は卒業した。パートナーと推しのおかげだ。鏡を見るのも嫌だし、私などが化粧をしても仕方ないとこじらせていた気持ちを、パートナーは根気よくヨシヨシしてくれた。付き合ってから十年以上、ことあるごとに、君は可愛いよと言ってくれる。あの時、従姉妹が言ったのとはぜんぜん違うニュアンスで。推しに恥じない恰好で舞台やライブにいきたいと思う強い気持ちが、お化粧を教えるYouTube動画を見るという行動を私に許した。美容室で見るファッション誌ではわからなかった化粧の仕方が、動画だと入ってきやすいということを知った。

 慣れてくると楽しいもので、最近はクリスマスにパートナーに買ってもらったアイシャドウパレットで、いろんな色をまぶたに乗せている。お化粧に抵抗感のある人は、お化粧しはじめにできるだけ沢山の色が入っているアイシャドウパレットを買うのがいいと思う。最初はおっかなびっくり、薄いピンクとか、茶色とか、失敗のなさそうな色を単色で買ったり、四色セットのものを買ったりすると思うけど、それだと本当に自分に似合う色やラメの感じがわからない。私はそれで、無難な色の呪縛から逃れられず、冒険できないままに二十代が終わってしまった。気が向いた時にいろいろ遊べるもののほうが、可能性を広げられるからおすすめ。

 未だに、今日お姉さんがしていたみたいな、発色の良いアイシャドウでこめかみのあたりまでじんわり綺麗に広がるアイメイクはできない。
 なんだろう、うまく言えないけれど、そういう派手なメイクをしようとすると、腕が震える。一瞬やってみられたとしても、怖くなって即座に落として、またいつも通りの地味メイクに戻してしまう。

 しみついた固定観念って、なかなか取れないんだなあ。きっとまだどこかで、「わたしなんかが」って思っている。

 でも、今日は黄色のアイシャドウを買えた。夏らしい、綺麗な色。昔だったら絶対に買わない色。
 一歩ずつでもそうやって冒険をしていくたびに、自分を好きになっていけそうな気がする。そしていつか、人から綺麗だなってじっと見つめてもらえるようなお化粧をしてみたい。

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