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意思の見える本屋が好きだ

「つまんねー本屋になっちまったな」
「ほんとにな」

本好きの私たちの思いは共通だったようで、ついつい口が悪くなってしまう。昨日、パートナーと二人で近くの駅の本屋に寄り、出た直後の会話だ。

私の住む場所には、大きな本屋がない。だから会社帰りに主要駅の本屋に立ち寄ることも多い。

ネット通販が定着した今でも書店に立ち寄る理由は、本との偶然の出会いを得たいということに尽きる。
なんとなくこのテーマについて知りたいけれど、具体的なタイトルまでは浮かばないな、という時。なんとなくエッセイが読みたい、なんとなくミステリが読みたい、というような時。読むものを切らしてしまって何でもいいから読みたいという時。
そんな時、書店は本との良い出会いをもたらしてくれる。

昨日行った書店は、運営会社が変わって同じ場所でリニューアルされたばかりの書店だった。ちょうど何かエッセイの本が読みたくて、ついでに新刊コーナーでも覗いて良いものがあれば漫画でも小説でも、買うつもりだった。

書店が変わって、ぎっちりと本が詰め込まれていた棚はすっきりとし、歩きやすくなった。気の利いた文具も端のコーナーに置いてある。全体をぱっと見た限りでは、シンプルかつおしゃれに変わったと言えなくもない。

ただ、店員さん直筆のポップが減った。以前は壁にたくさん飾られていた、作家さんが訪問された際の色紙も少なくなっていた。試し読みの冊子や平積みの本も減り、表紙をこちらに向けて飾られている本は既に読んだことのある本か広告などで見たことのある本ばかり。

以前は、「これをぜひ読んでほしいんだ!」「癖のある本だけど、この本に売れてほしいんだ!」という熱意が伝わってくるような売り場だった。この本屋に行くなら、絶対この棚を覗くという棚もあった。ちなみにそれはBL漫画の棚だったのだが、今やBL漫画の棚は端の方に押し込まれ、存在感を消してひっそりとたたずんでいる。BL漫画は肌色率の高い本もあるので未成年への配慮なのかもしれないが、もちろんそうではない本もたくさんあるので、いくらでも工夫できると思うのだが……。
(もしかしたら単純にBL好きの店員さんがいないということなのかもしれない)

正直、今の売り場は、この感じならネット通販で買えばいいし、わざわざ行かなくていい、と思ってしまった。ネット通販でも偶然の出会いを生み出す工夫はしているし、SNSやレビューサイトで良さそうな本がないか検索してみてから、注文することもできる。

そんなことを思った翌日、地元のとても小規模な本屋に行った。カフェの併設された、イマドキっぽい本屋だ。

家族連れも多いカフェだから、本の品揃えには、絵本や女性向けの雑誌が多い。小さい本屋なのに、意外と文芸誌も品数多く置いている。小説は、もちろん売れ筋の話題作も置いているのだが、ずっと目線の位置に置かれておすすめされ続けている本もある。新作も、文豪の手による名作もある。猫特集の棚もあるし、レシピ本の棚にはご飯系エッセイの文庫も置いてある。

前日に買えなかったエッセイ本は、いい感じの本にいくつか出会えた。ぺらぺらと中身をめくって、文体や内容を確認して、少し悩んで、そのうちの一つを買って帰った。

ひとが、ものを「買う」っていう行動は、売れ筋の商品のデータや、すっきりして見やすい棚だけでは起こせない。ネット書店で本を買う人の多い今だからこそ、書店員さんの熱意や棚作りの手腕、目利き力が問われているんじゃないか。

私は、意思の見える本屋が好きだ。きっと、世の中の多くの本読みもそうだろう。

世の中の本が大好きな書店員さんに、もっとたくさんのお給料と自由に売り場を作れる裁量をあげてほしい。今日は、そんなことを思った日だった。

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