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<ハンガリーの少子化対策③>日本も参考にしてほしい所・真似しないでほしい所

これまで2回、ハンガリーの少子化対策についての記事を書きました。

ハンガリーの少子化対策に関心がある方の多くは「日本もこれくらいやってほしい」という視点で、ハンガリーを見ていると思います。
私自身も記事をまとめる中で、真似してほしい施策や社会文化的要素を見つけることが出来ました。
一方、生データを見て、現地の感覚と合わせて解釈することで、ハンガリーの少子化対策の弱みも感じています。

今回はハンガリーの施策から「日本も参考にしてほしい所」と「真似しないでほしいところ」の両方をまとめてみたいと思います。

<真似しないでほしいところ>

ハンガリーの少子化対策について「弱み」を紹介する記事が少ないので、こちらから紹介します。

①ライフプランを型にはめるような制度設計

ハンガリーの少子化対策の制度は、「若いうちに結婚して、30歳までに子供を産もう」という設計思想で成り立っています。
勿論、政府として効果的な施策を打つために、データに基づいて一定の条件等を設けることは必要でしょう。

しかし、日本は大学進学率も高く、既に晩婚化・出産年齢の高齢化も進んでいます。
結婚も出産もしない人の割合が増え、個人の自由な選択と捉えられるようになりました。
その中で、支援する対象のライフプランを限定するようでは、「このライフプランには沿えないから、結婚・出産は諦めようかな」という考えになるのではないでしょうか。

若年層の割合が既に低くなっている日本では、「どのような形(既婚・未婚・養子etc.)やタイミングであれ、子供を持つ人を支援する」ような、器の広い制度設計が求められるのではないでしょうか。

②「経済的に困っている人を助ける」というアプローチ

ハンガリーの少子化対策は、経済的支援が中心です。
その中には「平均年収まで」といった所得制限・支援額の制限があるものが幾つかあります。
低い平均所得を基準に支援額等を決められると、中間所得層が子供を持つことは、家庭の所得減少に繋がります。
ハンガリーでも、余程の富裕層ならともかく、一般的な家庭では、経済的負担が未だあるというのが現実です。

このような状況から、私は「経済面で子育て支援を制限すること」に疑問を持っています。

日本でも、子ども手当ての所得制限の撤廃が論争になっていますね。
財源が限られた結果、「経済的困難な人に支援を絞らざるをえない」という結論に至ったのであれば、仕方がないとは思います。
ただ、最初から支援を限定する思想で制度を作ることは「国は限定的な状況のみ、結婚・子育てを支援します。あとは自己責任でお願いします」というメッセージだと思います。

「経済的に困っている人を助ける」だけでなく、「所得を問わず、結婚・出産が経済的損失にならない」ような制度設計が必要ではないでしょうか。

③少子化対策を「人口減への対策」として捉えること

前回の記事でも紹介しましたが、ハンガリーほどの少子化対策を施しても、人口減は止まっていません。
ハンガリーは「人口減対策としての少子化対策」を打ち出していますが、人口減を止めるための合計特殊出生率2.1という水準には、遠く及びません。

若年層が既に減ってしまった日本においては、「少子化対策で人口を維持する」というのは非現実的であり、少子化対策と人口減対策は、一旦切り離して考えるべきだと思います。

少子化対策は、あくまで20年~50年といったスパンで、長期的に年齢構成の比率を補正する・人口減を緩やかにする程度のものです。
人口減対策で考えるべき問題は、「確実に人口が減っていく未来に向けて、どのように縮小していくか」という、非常に現実的で具体的な対応策
です。

政府は合計特殊出生率の目標を1.8に置いており、既に少子化対策を人口減対策の中心に据えていません。
ただ、少子化対策を人口政策と混同するような論調も多いので、我々一人一人が区別をおこなうことが大事なのではないでしょうか。

<参考にしてほしい>

① 経済成長と賃上げの実現

個人が将来のより豊かになること信じられない限り、リスクを伴う結婚・出産といった選択は難しいものになります。
ハンガリーでも、不景気や経済不安が出てきた2022年は、婚姻数・出生率ともに低下しました。

やはり、経済全体の成長・賃上げの実現といった、長期的に個人が豊かになれる環境を作っていく必要があります。
一時的には痛みを伴う改革(生産性の低い中小企業の統廃合・労働市場の流動化等)も必要になり、反対意見も多くなると思いますが、現状維持では成長できないことは明らかです。
政治全体で覚悟を持って、痛みへのケアも行いながら、成長できる・希望がある経済社会へ変わっていってほしいと思います。

② 労働環境の改善

経済環境だけでなく、個人の労働環境の改善も必要です。

日本で常態化している長時間労働を続けていては、結婚・子育てに割く時間など、出来るわけがないのです。
ただでさえ自分の時間がない中で、肉体的負担も精神的負担も大きい結婚や子育てを、多くの人が望むでしょうか?

ハンガリーの男性が育休を長くとらずとも職場復帰するのは、残業が一切ないという文化的要素が大きく影響していると思います。
男性の育休推進も勿論おこなうべきですが、根本的には社会全体で「生活において労働に割く時間を短くする。そして、浮いた時間を家事・育児に振り分けていく」ことが必要だと思います。

③ 社会全体で「子育てを応援する(そのための負担をする)」空気の醸成

経済的負担に焦点が当たりがちですが、子育てにおける精神的コストを減らすのも大事なことだと思います。
子供を持ってみないと、子育ての楽しさや幸せは分かりません。逆に、子育てに関するネガティブな情報が多い世の中です。
だからこそ、「子育てを社会全体で応援するよ」という雰囲気がないと、子育てをしようと思えないのではないでしょうか。

ハンガリーでは子供はとても大切にされています。公共空間で多少泣きわめこうが、皆にこやかに見守っているような環境です。
日本でも、極論「子供を持っていると経済的・精神的に得をする」くらいの施策が必要だと思います。

積極的な選択として、結婚しない・子供を持たない人もいます。
自由な選択として、尊重されて当たり前です。自分も将来、子供を持たないと決めるかもしれません。
子供の有無で、良い・悪いの判断があってはいけません。
ただ、社会として子育てをする人を応援する、そのために、子供を持たない人・子育てを終えた人に、負担を求めると、政治がきちんと表明し、空気を作っていく必要があるのではないでしょうか。

結局最後は、個人の選択だから

少子化は、社会環境や個人の価値観の変化の結果として表れた現象です。
何か1つの特効薬があるわけではありません。
価値観が変化し様々な選択肢が生まれた今、どのような策を施しても、昔のような多子社会に巻き戻ることもないでしょう。

それでも、社会がある程度の機能を維持するために、少子化対策を進めていく必要はあります。
そこで必要なのは「個人が自由な選択肢の中で、結婚と出産を選択しようと思う環境づくり」だと思います。
どうしてもマクロな政策の話になりがちですが、最後は個人個人の視点を大切に、結婚と出産を選択したくなるような、施策を実行してほしいと思います。

終わりに

ハンガリーの少子化対策シリーズも、今回で一旦終了です。
色々まとめてみて思うのは、「日本で子育てをしたくなるような環境作りや施策って、現実には難しそうだな」ということです(笑)。
今回の”異次元2政策も、数年後に振り返ると「経済支援の充実くらいだったなぁ」となるのが関の山だと思っています。

自身としては、過度に楽観も悲観もせず、その時の制度や将来の見通しを踏まえ、「個人として子供を持つことを選択するか否か」を考えたいと思います。
願わくば、その時に「子供を持ちたいな」と思える社会になっていますように。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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