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労働生産性の話その1:日本の労働生産性は世界一だと正しく認識しましょう。

過去数年、政治の場でも、多くのマスコミでも、政治家や「有識者」が「日本は労働生産性が低い」と断じて、生産性の向上を訴えたり、生産性が上がらない理由を終身雇用のせいにしたりという、出鱈目が飛び交っています。

これ、真面目な話、出鱈目です。日本の本質的な労働生産背は世界トップクラスであり、決して低くありません。間違った現状認識を元に、政策を作ったり、法律を変えたりすることは、未来を歪めてしまいます。私はそれを本気で危惧しています。

日本の労働生産性が低いと言われる根拠は、OECDの労働生産性のランキングであるようです。

OECDの労働生産性の定義では、分子はGDPであり、分母は労働人口x労働時間です。注意すべきは、分子のGDPは本質的な労働効率とは無関係に上下することです。

生産性向上を目指すに際して、OECDの労働生産性を参照するのであれば、何よりもまずインフレ率をOECD加盟国の平均以上にしてからでなければ、まともな比較になりません。

OECDデータによると2018年の日本の労働生産性は就業者一人当たり81,258ドルです。

他方、2000年から2019年までの20年間のアメリカのインフレ率の累積は53.54%。同期間の日本のそれはわずか2.56%。

日本の労働生産性81,258ドルをアメリカのインフレ率で換算すると121,649ドルとなり、ベルギーを抜いてスイスに次ぐ6位です。このインフレ補正は、いささか乱暴ではありますが、傾向を見る上では間違っていないはずです。

その日本より上の5ヵ国は、アイルランド、ルクセンブルク、米国、ノルウェー、スイスとなり、この五ヵ国はタックスヘイブンまたは資源国のいずれかだ。例えばアイルランドは、タックスヘイブンになっていて、アメリカの巨大IT企業が節税のためにアイルランドに法人登記することで、生産実態がないにもかかわらずその売上がGDPに算入されて膨らんでいる。あるいはノルウェーは海底から油が、アメリカはシエルオイルが湧いてくるのでGDPが膨らんでいる。そういう国と、労働力だけで勝負している日本のGDPを直接比較しても、それは労働生産性の比較にはならない、ということを正確に認識しておきたいものです。

そのように考えれば、タックスヘイブンでも資源国でもない国の労働生産性としては、日本が世界一です。

日本の労働生産性が低い、というのは間違った認識です。間違った認識をベースに政策を立案すると、当たり前だけれど、国は間違った方向に進んでしまう。

例えば、アメリカより日本の労働生産性が低いと誤認して、アメリカの雇用制度を真似してしまうと、日本の労働生産性はかえって悪化してしまう懸念が大きいと私は危惧します。

いたずらに日本の雇用制度を解体し、雇用を不安定化させれば、リーマンショック、東日本大地震などの天災、コロナ禍などのたびに、大量の失業者が生まれて、社会保障費は膨らむでしょう。事実今のアメリカはそうなっています。

効率云々以前に、多くの企業は雇用を生み、社会保障費を納め、社会の資金循環のポンプになっているのです。それらを政策的に淘汰し、効率の良い一部の企業だけを残しても、雇用はシフトしません。何故なら雇用がシフトしたら、シフトした先の効率が落ちるからです。

労働生産性の向上が課題、という言説は、日本の労働生産性が低い、という間違った認識から生まれています。労働生産性の定義とその数字が意味することすらきちんと認識できない人に、まともな政策立案や経営ができるはずがありません。

日本の労働生産性は、インフレ率を補正し、タックスヘイブンや資源国を除外すれば、OECD加盟国中ナンバーワンです。

ですから、数値上の日本の労働生産性を引き上げるためにすべきことは、労働者の頑張りでも、雇用形態の改革でもありません。マクロ経済政策を改革してインフレ率をOECD加盟国の平均レベルに引き上げることです。

正しい事実を、正しく認識し、馬鹿な政治家や似非有識者に騙されないようにしたいものです。

OECD諸国の労働生産性の国際比較
https://www.jpc-net.jp/research/list/pdf/comparison_2019.pdf

アメリカのインフレ率の推移
https://ecodb.net/country/US/imf_inflation.html

日本のインフレ率の推移
https://ecodb.net/country/JP/imf_inflation.html

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