西成散歩と名古屋生活
昨年、とある会合のために大阪に行く機会があった。せっかく大阪に来たのだから古時計屋を冷やかそうと思いスマホで調べると、最上位に表示されたのは西成区にある店。
橋下元知事が西成の環境は大きく改善したと公言し、星野リゾートがホテルを開業するとも報じられていたので、行ってみることにした。
Googleマップに従い、新今宮の駅で降り、南側の大通りに出た。心斎橋界隈の賑わいと違い、ほとんどクルマも人も通らない。大通りの向かい側の倉庫の軒下には、労務者風の男たちが、寝そべり、しゃがみ、ウロウロしている。
Googleマップはその倉庫脇の路地を進めと表示している。私は倉庫の前をゆっくり歩いて通った。久しく経験のなかった「しょんべん臭さ」が鼻を突き、男たちが私を見ないふりして見ている視線が絡みついてくる。
路地にクルマは全く走っておらず、労務者風の男たちが、不思議なくらい距離を置いて一人一人ゆらゆらと蛇行して歩いている。身体的な障害を抱えている人、寝そべり、しゃがみこんでいる男たちもいる。断続的にしょんべん臭さが鼻を突く。
前後左右に人の気配が近づいてこないか気を張りながら歩いたのは久しぶりだ。
金網に囲まれバラックが密集している空間に出た。よく見ると、錆びて朽ち果てた滑り台とジャングルジムが見える。ホームレスが占拠した公園の成れの果てのようだ。
古い商店街に入る。薄暗く人通りは少ないのにたくさんの店に暖簾がかかっている。紺地に白文字、その白文字が黄ばんでいるような代物。ほとんど人が歩いていないのに、店の中は昼間から飲む男達で埋まっている。カラオケの看板を掲げた店の前でどぎつい化粧をした女性が“お兄さん、寄ってかない?”と声をかけてくる。一般道と交差するところどころには、警棒を後ろ手に持った警官が立っている。
古時計屋は商店街の奥にあり、街に馴染んだ店構えで、にもかかわらず街に似つかわしくない高額のヴィンテージロレックスが外のガラスケースに並んでいるのは、異様に感じられる。
久しぶりにワイルド・サイドを歩いた。
予備知識のない外国人観光客が、Googleマップに言われるがままに迷い込んだら、度肝を抜かれるだろう。ましてや星野リゾートの客層ならなおさら。
ところが昨年住みはじめた名古屋で気がついたのは、ホームレスの姿がほとんど見当たらないことだ。もちろん意識して見れば少しはいる。しかし、大阪や東京、ましてや多くの海外の大都市に比べれば、名古屋にはホームレスがほとんどいないと言っていい。
名古屋っ子にそういう感想を伝えると、言われてみればそうかなぁ、リーマンショックの直後はとある公園には職にあぶれたホームレスが集まってたけど、今はその公園にも全くいない、という答え。大阪の西成や東京の山谷のような場所も名古屋にはないと。
二つの街の違い、いや、名古屋のようにホームレスが少ない都市とそれ以外の都市の違いは、どこから来るのだろうか?
西成散歩と名古屋生活から、色々なことを考えるきっかけをもらった気がします。
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