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近所にあるとても素敵なカレー屋さん

去年の春、名古屋に引っ越してきて最初の週末に、近所を散策しようと歩き始めると、自宅から3分も歩かない交差点の角のシャッターの前に行列が出来ているのが目に留まった。住宅街の細い道路の交差点で他にほとんどお店もない。そういう場所の行列はとても目につく。列の最後の人に、ここは何屋さんなんですか?、と尋ねると、カレー屋さんです、との答え。美味しいんですか?美味しいですよ。ちょっと迷ったが、自分も並んでみた。

しばらくしてシャッターが上がり、開店。その時私は黒板に4種類書かれたメニューからキーマカレーを選んだ。綺麗なお皿に盛りつけられ、丁寧に作られたことが伝わってくる味で、とても美味しいカレーだった。近所なのでちょこちょこ行けるな、と思ったけれど、週四日、金土日月の昼間だけの営業で、平日は私は出勤のため行けず、週末はいつもとんでもない大行列で、その後ずっと前を通り過ぎるばかりとなっていた。

年が明けて春からコロナ禍で在宅勤務の日々が始まった。緊急事態宣言の最初の1ヶ月はそのカレー屋さんも完全休業。しかしゴールデンウィーク明けからは、テイクアウト営業を開始。在宅勤務の合間の昼時にテイクアウトのカレーを買ってお昼に食べるようになった。テイクアウトでももちろん美味しい。その時期はお客さんも少なく、私はお店を切り盛りするご夫婦、あきらさんと優さんのご夫婦とあれこれ雑談するようになった。

ある時、それにしても凄い人気ですよね、と私が言うと、あきらさんは、怖いんですよ、ある日突然お客さんがぱったり来なくなるとの思いが沸き上がって眠れなくなることもあるんですよ、自分たち二人が食っていければいいんで、もうずっとテイクアウトだけでもいいかな、なんて思ったりもするんですよ、などとも言っていた。

しかし、と言うか、そして、と言うか、6月からは店内営業も再開。すると土日は行列が復活。私は在宅勤務の月曜日と金曜日にそのお店にカレーを食べに行くことが習慣化した。

毎週金曜日は金曜日限定のカレーが2種類。それ以外の土日月は、四種類のレギュラーメニューのカレーの中から選ぶ。レギュラーメニューと言っても、ポークキーマカレー1種だけが本来の意味のレギュラーで、それ以外の3種類は不定期に入れ替わる。メニューには必ずチキンカレーが1種類乗るけれど、チキンという素材が共通なだけでありとあらゆる種類のチキンカレーが数週間ごとに入れ替わる。魚介カレーも必ず一品あるが、はやりこれも入れ替わる。最後のダル(豆のカレー)も、数週間に一度違う種類のダルに入れ替わる。そんな調子なので週2回くらい通っても全然飽きず、常に新しいカレーが楽しめる。

週四日の昼しか営業しないなんて、のんびりした商売だなあと多くの人は思うかもしれない。しかし、在宅勤務で自宅付近をうろうろするようになってから分かったのだけれど、あきらさんと優さんがお店に来ないのは火曜日だけのようだ。水曜日と木曜日は営業はしていないけれどシャッターが1/3ほど開いていて、中で作業をしている気配とカレーの匂いが漏れてくる。仕込みをしたり、新しいメニューの研究をしたりしているようだ。

昨日は木曜日で、カレー屋さんは休業日。私は在宅勤務を終え、歩いて行ける距離のお蕎麦屋さんに夕食に出かけた。カレー屋さんの前を通ると、ちょうど店からあきらさんと優さんが出てきてシャッターを閉めていた。これからヨガに行く、と言って去っていった。私は旧知の先輩や友人と蕎麦屋で一杯やり、その後さらにもう一軒で一杯二杯やり、夜10時半ごろ帰宅するためにまたカレー屋さんの前を通りかかった。するとシャッターが1/3ほど上がっていて中から灯りが漏れている。あきらさんと優さんの声も聞こえる。彼らは6時に仕事を終えたのではなく、いったん休憩してヨガに行き、また戻って翌日の営業のための仕込みをしていたのだ。

そんなに長い時間をかけ、丹精込めて作られるカレーが美味しくないわけがない。お店に大行列が出来るのは、彼らの心と仕事が味に表れているからなのだ。

今日のお昼も金曜日限定の鯖カツカレーを味わって、幸せな気持ちにさせてもらいました。

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