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ゆるやかにダウンシフトする

ここ数十年に渡って人の心の中に浸透しつつある「利益至上主義」という考え方が、ここ最近になって見直されつつあります。

利益を最優先にして行動するあまり、人も環境も壊れてきたことに対し、多くの人が疑問を持ち始めてきたのでしょう。SDGsという言葉を耳にした方は段々と増えてきているかと思いますが、これもその一つの潮流と言えるかもしれません。

さて、マクロではなく個人レベルで見てみますと、「働きすぎ」て「必要以上のお金を稼ぎ」、「健康や人との繋がりを失う」ことから離れて生活している人、俗にいう『ダウンシフター』にもフォーカスが当たるようになってきました。

そのような生活を目指すことは、実際幸せなのでしょうか。その点について考えてみようと思います。

◆ダウンシフトとは何か

企業で働いていると誰しもが目にするであろう出世競争や長時間労働、物質主義・利益主義的な環境から離れ、ゆとりあるストレスの少ない生活に切り替えていくことを、「ダウンシフト」と言います。また、そのような生活をしている人のことを「ダウンシフター(減速生活者)」と呼びます。

彼らは過度な出世競争を嫌います。また、あまりに多くのお金を稼ぐことも嫌いますし、ストレスがかかり健康にも悪い長時間労働も避けようとします。その結果として、働いていた企業を辞めたり、働き方を見直してゆとりある生活を目指そうとします。

近年流行りつつある新しい生き方・働き方を実践している「ミニマリスト」や「フリーランサー」などにも、部分的にダウンシフトの考え方が組み込まれているかと思います。

◆ダウンシフターってどんな人?

減速して自由に生きる: ダウンシフターズ』によりますと、ダウンシフターの例として以下を挙げています。

・地方に移住して半農半“木工職人”を営む人
・半農半“パン屋”を営む人
・半農半“豆腐屋”を営む人
・農業をしながらNPOで働く人
・結婚して循環型農業を目指すカップル
・妻と2人の子どもと離島に移住して灸師になった人
・都市と地方を繋ぐプロデューサーを目指している人
・障がい者でも安心して立ち寄れる飲食店を開いた人
・野菜の魅力を伝えたくてキッチンカーを始めた人
・人と地球を元気にすることを使命に情報発信会社を興した人
・自然派志向のフリーライターになった旅好きの人
・ITデザイン会社を辞めて、体を動かして直接コミュニケーションできるアートを模索して、住宅街にお洒落な靴・鞄の修理屋さんを開いた人
・エコツアーを引率するインタープリターになって森に通う元広告代理店勤務だった人
・地域貢献ビジネスを興す人に融資するNPOバンクを立ち上げた3人の子供を持つ人
・社会に本当に必要とされる会社を増やし、調和の上に成り立つ社会に貢献するという目的で小さな投資信託会社を興した元外資系投信会社副社長の人

そのほか、隠居をしながら年90万円で生活している『20代で隠居 週休5日の快適生活』の大原扁理さん、京大卒でニート生活をしていた『持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない』のphaさんなんかもダウンシフターになるのかと思います。

また、ダウンシフトの定義に当てはまると、ダウンシフターは何も現代人のみに限った話ではないかと思います。

後継者争いに嫌気が差して閑居生活を始めた『方丈記』の鴨長明、出家して和歌や旅を楽しんだ『徒然草』の吉田兼好(兼好法師)、無一物で自由に生きた良寛なども立派なダウンシフターと言えます。

◆極端すぎるダウンシフターたち

一見とても先進的で、誰しもが憧れる生活かもしれません。が、単純に鵜呑みして行動してしまうのはやや危険かもしれません。

例として挙げた方は、どうにもあまりに極端な例ばかりです。多くの人が個人事業主になったり起業をしていたりと、サラリーマンからかけ離れた職業に就いているのが分かります。

それは果たして、長期的に考えて、健康で幸せに生きていけるでしょうか?分かりません。残念ながら、その人にしか分かりません。また10年後、20年後、彼らがどのように生きているかも予想できません。

ただ、個人事業や起業は、ダウンシフトに反して強烈な負荷が掛かります。資金繰りに悩む人は多いでしょうし、雑務に多くの手間がかかる心配もあります。いつ収入が途絶えるかも分かりません。最低限の精神力なしには、成り立たない構造なのです。

整理してみると、以下に該当するような方は向いているかもしれません。
・チャレンジ精神旺盛で、失敗を恐れない人
・生涯を通じて成し遂げたいという、大きな志や夢がある人
・失敗したその先に惨めな生活があったとしても、それを乗り越えられる自信がある人
・収入が途絶えて貧乏になっても、身近な生活から幸せを感じられる人

減速して自由に生きる: ダウンシフターズ』なんかは特に顕著ですが、いわゆる「好きなことして生きる」とか「自由に生きる」とか、やや夢想的な思想や主張が繰り広げられています。その根拠として例を挙げていますが、実際彼らは本当に豊かな生活が出来ているのか、全く分かりません。

彼らの主張はあくまで一つの意見として受け止め、実際自分はどうなのかと多角的・批判的に考えてみると良いでしょう。そうすることで、自分の目指したい道が徐々に見えてくるかと思います。

◆ゆるやかなダウンシフトがあってもいい

メディアやその聴衆は極端な話を非常に好みますので、先に挙げたような例ばかりが取り上げ、あたかもそれがダウンシフトのあるべき姿として捉えられてしまいます。

が、非常に豊かになった時代、何もフリーランサーや起業だけが選択肢なわけではありません。もう少し現実的な、穏やかなダウンシフトの例があっても良いかと思います。

例えば、年収は下がるがワークライフバランスを追求できる企業に転職するなどして、より豊かな生活を目指す方法です。そうすることで最低限の雇用と給与は守られるという安定した環境で、自分の理想の生活を目指すことができます。

また、わざわざ転職せずとも、「異動を志願する」「出世を拒む」という選択肢もあったりします。ある程度の規模の会社となると、部署ごとに雰囲気も働き方も変わりますから、十分選択肢として検討が可能です。

さらに、これまた最近流行りつつある副業や複業を通して収入源を増やし、徐々にその比率を変えていくことで本業への負荷を減らしていく方法などもあるかと思います。

”正社員”や”終身雇用”等というステータスはなんだかんだで心に安定をもたらしてくれるので、これをわざわざ捨てずとも、そこには多様な選択肢が広がっています。まずはそこから始めても良いのではないでしょうか。

かくいう私も、ゆるやかにダウンシフトした当事者です。都市銀行時代は8時から22時まで働くという中々ハードワークな仕事を経験しましたが、それが今後も続くとなると絶対に幸せになれないと感じていました。なので、年収はやや下がりましたが(ほとんどは残業代によるものですが)、早く帰れる企業に移りました。

私の場合、早く帰ってきちんと食事をしてしっかりと睡眠を取るほど、その分仕事の意欲が湧いてくることが分かっています。なので、ダウンシフトした方がむしろ仕事を楽しめていることを強く実感しています。

◆ものは考えよう

さて自身がダウンシフトについて考えるとき、一番やってはいけないことは「他人と比較する」ことです。これをやってしまうと、何をしようと不幸で在り続ける可能性が大です。

他人と比較すると、どうしても地位とか年収とか、そういった目に見えるもので測ってしまいます。それに囚われると、ダウンシフトなんて到底選択肢に入らないでしょう。

「自分はどう思うか」。ぜひそのように考えてみてください。自分が良ければ、それ以上に良いことはありません。

実際、一見豊かな人に見える人でも、実はとんでもなく不幸に陥っている可能性だってあります。その人は単に自己顕示欲に溢れているだけで、取り繕っているだけかもしれません。

で、この話は当然ダウンシフターにも当てはまります。ダウンシフターの方々も「私は幸せだ」「豊かになった」と言っていますが、繰り返しますがそれは当人にしか分かりません。実は単に自己顕示欲に溢れているだけかもしれません。フォロワーを増やすための戦略に過ぎないかもしれません。その点、よくよくお考え頂ければと思います。

なので改めて。「自分はどう思うか」。これを第一に、ダウンシフトについて考えてみてください。ダウンシフトが自分の取り得る良い選択肢だなと思ったら、そうすれば良いのです。それだけの話です。

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