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【連載エッセー第20回】ニワトリを迎える

丸山啓史さん(『気候変動と子どもたち』著者)は、2022年春に家族で山里に移り住みました。持続可能な「懐かしい未来」を追求する日々の生活を綴ります。(月2回、1日と15日に更新予定)
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 思いがけなく、なりゆきで、我が家に4羽のチャボがやって来ることになった。生まれて2か月も経たない、小さなチャボたちだ。1羽は男の子で、3羽は女の子らしい。

 妻が運営に携わっている朝市の関係者から、チャボの話が出た。訳あって行き場を失ったチャボの引き取り手を探している知り合いがいる、とのこと。「丸山さんのところで、どうですか?」と言われた。

ケイゾウさん(右)と仲間たち

 良いのか悪いのか、運命のようなタイミングだった。小学校6年生の息子のニワトリ熱が高まっていた。少し前までは「フクロウを飼いたい」とか言っていたのだけれど、それはさすがに難しいと思ったのか、図書館でニワトリ飼育の本を何冊も借りてきて、それを熟読していた。そして、理由はよくわからないけれど、「チャボがいいなあ」などと言っていた。 

 そんなところに、「チャボ、どうですか?」という相談が舞い込んだので、玄関での話し声を聞きつけた息子は、目の色を変えてとんでいった。

 息子の気持ちは盛り上がるわけだけれど、すぐに「はい」とは言えない。いろいろ考えないといけない。

 私としては、動物を飼うこと自体にためらいがある。チャボたちの行動を制限しないわけにはいかないし、自由な子づくりや子育てを保障することもできない。また、家のまわりの小さな生きものたちからすると、ニワトリが来るのは脅威かもしれない。

 そういう面倒な議論は置いておいたとしても、鳴き声のことが気になる。男性のニワトリは、午前3時半くらいから、「コケコッコー!」と鳴いているそうだ。我が家はよいとしても、まわりは大丈夫だろうか。山里とはいえ、集落だから、近隣に人が住んでいる。

 それに、チャボと暮らすとなれば、世話をしないといけない。日常が忙しくなるのも不安だけれど、家族みんなで何日か家を離れるのが難しくなる。ちょっとしたことなら隣の家の人に頼めるものの、朝に小屋の戸を開けて、夕方に小屋の戸を閉めて、食べものや水を補給して、となってくると、けっこうな手間になりそうだ。

小屋を建てるまでは玄関に仮住まい 

 将来的なことも、頭をよぎる。食肉にされるニワトリは2か月も生きないうちに幼くして殺されているけれど、平穏に過ごしたチャボは10年近く生きるらしい。10年後にチャボたちの世話をするのは誰なのだろう(息子は「ボクがやる!」と言うけれど…)。

 近所の人と話をしたり、家族会議を開いたり、あれやこれやのことをして、結局のところ、チャボたちに来てもらうことになった。チャボたちが生まれた家に見学に行き、(無農薬の「くず米」を手配するとか)さしあたりの準備をして、チャボたちを迎えた。

 トンビやカラスに狙われないか、イタチやネコに襲われないか、心配もある。小屋づくりなど、急ぐ課題もある。けれども、ともかく、チャボたちとの暮らしが始まった。せっせと庭の地面をつつくチャボたち、ぎゅうぎゅう寄り集まって眠るチャボたちは、とてもかわいらしい。息子は、はりきって世話に励んでいる。

『気候変動と子どもたち 懐かしい未来をつくる大人の役割』

#里山 #里山暮らし #山里