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『子ども白書2023』ができました【5】 一部公開 西郷南海子「『子どもの意見表明権』を生かす場を地域につくる」

 今年で59冊目を迎えた『子ども白書』(日本子どもを守る会編)。児童憲章の精神に基づき、子どもたちが安心して暮らし、豊かに育ち合っていける社会の実現をめざして刊行を続けています。今年の特集は「いま、子どもの声を〈きく〉」。かもがわ出版のnoteで内容を一部公開していきます。今回は、西郷南海子さんの特集論文(一部)です。
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「子どもの意見表明権」を生かす場を地域につくる
(西郷南海子/子ども白書編集委員・京都市公立小学校PTA会長)

子どもの声はどこにある

 子どもの本音を聞くことは、簡単なようで意外と難しいと思います。わが家にも3 人の子どもがいますが、「きょう学校どうだった?」と聞いても、「別に」「フツー」と逃げられてしまうことが多いのです。「フツー」なら大丈夫なのかなと思いつつ、子どもの中から湧き上がるような、伝えたい体験がないのかと気になっていました。それとも、伝えるのが面倒なほど疲れているのでしょうか。筆者はコロナ禍の始まりと同時に、小学校のPTA 会長になり、家庭と学校の架け橋になることをモットーに活動を続けていました。特に全国一斉休校のときは、単に休校を受け入れるだけでなく、それぞれの家庭でどのようなことが課題となっているか、Web アンケートを収集し、データとして学校に手渡しました。

 そして、管理職との議論の結果を、家庭にフィードバックすることに取り組みました。その過程で相互信頼には情報共有が欠かせないことを理解しました(拙稿「休校と子どもたちの生活 おとなのつながりを今」『子ども白書2020』)。

 全国一斉休校は、保護者に、そして子どもに極度の孤立を強いました。それはかえって学校という場が、子どもにとって、また地域にとっていかに大きな場であるかを示しました。このとき、わたしはまず保護者のネットワークをつくることで、子どもたちの多様な権利を守りたいと考えていました。

「地域」のネットワークを見直す

 ところが、まさにそのとき、わたしが暮らす学区で痛ましい事件が起きました。重度の知的障害のある少年(当時17 歳)を、お母さんが首を締めて殺し、お母さんも自殺しようとしているところを逮捕されたのです(2020 年7 月16 日)。少年は腕力も増し、服を引き裂くなどの激しい行動が見られ、お母さんはもう育てていけないと思ったそうです。これはお母さんの主観の話だけではありません。特別支援学校卒業後の進路が見つからず、いくつもの施設に断られることで、お母さんはさらに追い詰められていったのです。

 わたしにとってこの事件が他人事でなかった理由に、その現場となったマンションが小学校のすぐ隣にあるということが挙げられます。ある意味で「地域」の中心で暮らしながら、完全に孤立してしまっていた母子がいたのです。どのようなSOSならキャッチできただろうか、むしろ普段からどのような体制を用意しておくべきなのかと自問自答しました。

 よく「地域で子どもを見守ろう」などと言いますが、人によっては「地域」など存在しないのです。子育て支援が、「地域」という、いわばマジックワードに逃げ込んではいけないと肝に銘じました。そこで生まれ育った保護者であれば、多様なネットワークがありますが、たとえば引っ越してきたばかりの保護者には何のつてもありません。安易に「地域」という言葉を使わず、学校や自治体にどのような責任があるのか明確にしなければなりません。

「キッズトーク」の取り組み

 さて、PTA の話に戻りますが、保護者のネットワークづくりだけでは、子どもの生の声が十分に聴き取れないということもわかってきました。子どもの様子を見る限り、宿題がとても多い、学力テストで競わされているといったことはわかります。でも、もっと小さなところでも子どもが感じていること、考えていることがあるはずです。それを掘り当てることはできないでしょうか。……
(続きは『子ども白書2023』でお読みください。)

日本子どもを守る会編『子ども白書2023』
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