【連載エッセー第13回】人に頼る
丸山啓史さん(『気候変動と子どもたち』著者)は、2022年春に家族で山里に移り住みました。持続可能な「懐かしい未来」を追求する日々の生活を綴ります。(月2回、1日と15日に更新予定)
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けっこう雪が積もったとき、家の前を通るバスが2日間ほど運休になった。
電車のように駅のアナウンスがあるわけでもないので、バスの運休はすぐにはわからない。“前の大雪のときもバスは走っていたしな”“ほかの車も走っているしな”と思って、買いものに出ようと、家の前でバスを待った。ところが、しばらく待ってもバスは来ない。
仕方がないので、とりあえず店の方向に歩き始めた。バス停で待たなくても大丈夫なのが、自由乗降区間の良いところだ。とにかく目的地に方かって歩いて、後ろからバスが来れば、それに乗ればいい。凍った雪で滑りそうになりながら、私は長靴で歩いた。
地元の有機野菜が並ぶ店までは、そこそこ距離がある。しかも、足元が悪い。“大変だなあ”と思いながら森を抜けていくと、道沿いに住んでいる顔見知りの方が家から出てくるのが見えた。子どもたちが学校帰りに声をかけてもらうなどして、いつもお世話になっているミツエさんだ。あいさつを交わして、「たくさん積もりましたね」みたいな話をしているうちに、私と同じ店に車で向かうところだとわかった。「乗せてもらえませんか?」とお願いすると、「どうぞ、どうぞ」と快く乗せてくれた。
店に着いて、それぞれ買いものを済ませると、また車に乗せてもらって、ミツエさんの家まで帰った。車の中では、我が家の子どもたちの話やら、ミツエさんが前にしていた仕事の話やらをして、いくらか盛り上がった。
ミツエさんの家の前で車を降り、両手に荷物を持って、“がんばって家まで帰るぞ”と歩き始めると、100メートルほど進んだところで、後ろから車がやってきた。見ると、我が家の隣の家の人だ。なんという偶然。「乗りますか?」と声をかけてもらって、車に乗り込み、びっくりするくらい早く家に帰り着いた。
こういうことが、この頃はときどきある。お正月には、家族で初詣に行った神社で近所の人に出会い、「天満宮にも行くけど、いっしょにどう?」と誘ってもらって、車で連れていってもらった。また、この間は、雨の日、子どもといっしょに帰宅しようと歩いていると、通りがかった知り合いが車に乗せてくれた。
まわりの人にすれば世話のやける話かもしれないが、車をもっていなくても、いろんな方に助けてもらって、どうにかこうにかやっている。そして、手前勝手な発想で言えば、車がないことで、同じ地域に住む人と話をする機会が増えている気もする。
車のこと以外でも、私たち家族は、かなり人に頼って暮らしている。とりわけ、料理や暖房や風呂に使う薪の関係では、たくさんの人の厚意に甘えている。
今の家に移り住んですぐ、何人もの方が、薪を分けてくれたり、薪になる木を届けてくれたりした。近くの山の持ち主の方は、伐られて山積みになっていた杉の枝を指して、「好きなだけ取っていって」と言ってくれた。建設関係の仕事をしている近所の方は、余っている足場用丸太や木材を持ってきてくれた(ほどよい大きさに切ってくれていた!)。そして、つい最近も、子どもたちが通う学校の(薪ストーブ仲間でもある)保護者仲間が、庭師さんの伐った大きなケヤキを半分くらい譲ってくれた。
薪割りに使う斧の刃が柄から外れてしまったときは、相談すると、近所の人が直してくれた。大学(職場)で作った薪を家まで車で運んでくれた人もいる(第6回を参照ください)。
おかげさまで、引っ越してから初めての冬を無事に越えつつある。感謝することの多い日々だ。