見出し画像

【連載エッセー第1回】 冷蔵庫の電源プラグを抜いてみる

 丸山啓史さん(『気候変動と子どもたち』著者)は、2022年春に家族で山里に移り住みました。持続可能な「懐かしい未来」を追求する日々の生活を綴ります。(月2回、1日と15日に更新予定)

**********************************************************************************

 山里への移住にともなう大きな変化の一つは、冷蔵庫を使わなくなったことだ。不必要に電気を消費するのをやめようと思った。移住と直接の関係はないのだけれど、「これを機会に」といったところだ。

 もっとも、冷蔵庫を処分したわけではない。使えるものを捨てるのはもったいない。電源プラグをコンセントにつなぐのをやめ、「食べもの収納庫」として活用してみることにした。

 ところが、いざ始めてみると、電気の通っていない冷蔵庫は、扉を開けると嫌な臭いを放つ(雑菌のせいらしい)。これは誤算だった。冷蔵庫の中を(妻が)掃除して、消臭のために竹炭やコーヒーかすを置いてみたけれど、臭いはなくならない。

 そこで考えてみると、「冷蔵庫には食べもの」は単なる固定観念でしかないことに思い当たる。冷蔵庫だからといって、食べものを入れなくてもよい。

 食べものを入れるのをやめれば、臭いは収まっていくんじゃないか。そう思って、保存用の空きビン、水筒、保冷バッグなどを冷蔵庫に収納することにした。製氷室には、スプーン、フォーク、ナイフなどの食器類を入れた。冷凍室には、そば、うどん、そうめん、パスタなど、乾麺類を蓄えた。

 電源の入っていない冷蔵庫は、どこに何を置いてもよくて、自由度が高い。ほとんど使わない冷凍室が以前は無駄になっていたけれど、今は有効活用できている。

一時的に居間の真ん中に冷蔵庫を配置

 配線や排熱も気にしなくてすむので、冷蔵庫の置き場所も自由だ。部屋の壁に漆喰を塗るため、一時的に冷蔵庫を移動させることになったときには、居間の真ん中に冷蔵庫を鎮座させた。

 冷蔵庫を使わないことを人に話すと、「肉はどうするの?」と聞かれたりするけれど、家では肉を食べないので、どうするも何もない。ペットボトル、缶、紙パックといった使い捨て容器に入った飲みものも買わないので、それらを冷やす必要もない。冷凍食品は、前からほとんど縁がない。

 もともと冷蔵庫を十分に活かせていなかったので、「冷蔵庫、いる?」という疑問を抱いたわけだ。「冷蔵庫は必需品」というのも、ただの固定観念かもしれない。固定観念を離れると、新しい生活の可能性が見えてくる。

伏見の無農薬米と伏見の水でつくられた酒

 とはいえ、少し残念なのは、お酒を冷やせないこと。夏に冷たい瓶ビールを飲むことはできない。きりっとした冷酒を楽しむこともできない。一升瓶は調理台の下に置いてあり、ひたすら常温の酒をちびちびやっている。まあ、それはそれで、とてもおいしいのだけれど。

『気候変動と子どもたち 懐かしい未来をつくる大人の役割』

#若者   #気候変動 #気候危機 #子どもの権利条約 #山里暮らし #里山暮らし