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【連載エッセー第23回】スクラップヤードに憤る

 丸山啓史さん(『気候変動と子どもたち』著者)は、2022年春に家族で山里に移り住みました。持続可能な「懐かしい未来」を追求する日々の生活を綴ります。(月2回、1日と15日に更新予定)
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 大変なことになっている。家の近くに株式会社がスクラップヤードを作ってしまった。

 何の知らせもなく目の前で工事が始まり、土地が金属のフェンスで囲まれていった。また資材置き場が増えるのかなと考えていた。「景色も悪くなるし、嫌だなあ」と思っていたけれど、止める手立ては思いつかないし、傍観してしまっていた。

家から灰色のフェンスが見える

 操業が始まったのは、資材置き場ではなく、鉄などの金属を引き取るスクラップヤードだった。鉄、銅、アルミといった金属そのものだけでなく、冷蔵庫、洗濯機、自転車、ミシン、給湯器、ガスメーター、発電機なども集めるようだ。楽器、陶磁器、フォークリフトも買い取るらしい。

 とにかく騒音がすさまじい。金属がぶつかる「ガシャーン」という音、金属を叩くような「ガン、ガン」という音、金属を切断するような「ヴィーン」という機械音などが、フェンスの内側から響いてくる。大きな音は、山に反響して、雷のように一帯に響き渡る。

 土曜日でも、日曜日でも、金属音や機械音は止まない。朝の8時前から始まることもあり、18時を過ぎても大きな音のすることが少なくない。

 我が家は、集落のなかでもスクラップ場に近いところにある。音を遮るものは間にない。私も妻も、日中に家で落ち着くことはできなくなってしまった。音がしていない時間はあるものの、いつ大きな音がするかわからないので、何となく体と心が緊張してしまう。本を読んでいたり、家族で話をしていたりしても、急に「ガシャーン」と不快な金属音がするので、集中することができない。日中に家にいると気分が悪くなってくる。まともな生活ができなくなった。

 有害物質の流出も気になる。スクラップ場の看板を見ると、パソコン、プリンタ、携帯電話、バイク、モーター、バッテリー、ストーブなど、雑多なものが引き取り対象になっている。しかし、スクラップヤードに屋根はない。いろいろな物が雨ざらしだ。

フェンスの外にゴミが散らばっている

 何がどれくらい流出するのか(しないのか)、はっきりしたことは不明だけれど、とにかく有害物質が流出しない保証は何もない。スクラップ場に降った雨は、近くの川に入り、京都の市内を流れ、淀川につながって、海にたどりつくはずだ。夏には子どもたちが遊んでいる川の上流で雑多な機械類が雨ざらしになっていると思うと、たいへん恐ろしい。雨ざらしにしている企業を行政が規制できないのなら、それも怖いことだ。

 調べてみると、家の近くに現れたスクラップヤードは、千葉や埼玉などで大きな問題になっている種類のものらしい。関東でも、騒音等がひどいようだ。

 自分の身に問題が及ぶまで、こういう問題が起こっていること自体、私は知らなかった。自分が当事者になると、心配してくれる人、共感して怒ってくれる人、力を合わせてくれる人のありがたさが身にしみるし、自分たちの窮状が理解されないときのもどかしさも痛感する。これまでの自分は、ほかの人の窮状に対してどうだっただろうかと、反省したりもする。

 ともかく、黙ってはいられない。生活環境、自然環境、地域社会を守らなければならない。地域の人といっしょに、取り組み始めている。

『気候変動と子どもたち 懐かしい未来をつくる大人の役割』

#里山 #里山暮らし #山里 #スクラップヤード