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中塚久美子『子どもと女性のくらしと貧困』刊行トークイベント記念 「まえがき」公開(2)

 子どもの貧困問題の取材を続けてきた中塚久美子記者(朝日新聞)が「支援」のことばを聞きに行った先は、寺内順子さん(シンママ大阪応援団)と辻由起子さん(シェアリンク茨木)。寺内さんと辻さんがリアルに登場する、『子どもと女性のくらしと貧困』刊行トークイベント(無料)を開催します。
★7月28日(日)14:30 ~16:30 @国労大阪会館 オンラインあり

お申し込みは、画像をクリックしてPeatixページから 

 イベントに先立ち、本書の「まえがき」を公開します。今回は第2回目です。

助けて欲しいと声をあげた人の人生を肯定する

(前回からのつづき)
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 一つ、データを紹介します。長年、貧困や格差の問題を研究してきた東京都立大学教授の阿部彩さんは2003年から、子どもにとって何が最低限の生活レベルなのか、社会的に合意できるところはどこかを探る「必需品支持率調査」を続けています。「家庭の経済的事情にかかわりなく、希望するすべての子どもに与えられるべきだと思うもの」をアンケートで聞き、人々の過半数の支持があれば、それはその社会で生きる子どもにとっての必需品と位置付けます。その必需品が欠けている状態を貧困の指標の一つとし、満たされる方法を考えることが、政策につながります。

 阿部さんは、子どもの貧困が社会的に認知されてきたのにともない、支持率が上がっている項目が増えていると思っていました。しかし、2022年の結果では、「一日3度の食事」でさえ2011年と2015年の結果より支持率が下がり、8割を切りました。この間、子ども食堂が広がり、食事を提供したい大人が格段に増えたにもかかわらずです。かつて5割以上の支持があった「一日1回以上の果物」と「校外学習」は、過半数を切りました。給付型奨学金制度ができたのに、「大学進学」は半数を超えませんでした。どの調査年よりも支持率が高く、半数を超えたのは「サイズの合う靴」のみでした。

 本音と建前なのか。「寄り添い」や「伴走型」はかけ声だけなのでしょうか。

 こうした中、2023年4月、こども家庭庁が発足しました。「こどもの視点に立って、常にこどもの最善の利益を第一に考える『こどもまんなか社会』の実現に向けて、全力を尽くす」と岸田文雄首相が繰り返し位置づけるこども家庭庁は、当事者の声を聞き、ニーズにあった制度や支援を提供していくことになります。

 子ども政策の方向性や目標を盛り込む「こども大綱」の策定では、「こども・若者を権利の主体として認識し、最善の利益を図る」「当事者の視点を尊重し、ともに考える」などが軸として挙がっています。

 これまで、助けて欲しいと声を上げた少数派は、助ける側の多数派が納得できる説明を常に求められてきました。多数派が、小さくて細い声を削ってきたとも言えます。その声の主は、私の出会ってきた範囲では、子どもと女性です。

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 一人ひとりがコロナ禍を経験して、「支援」というものが身近になりました。支援する側・される側は固定されるものではなく、行ったり来たりするものととらえた方が自然でしょう「支援」が地域の多様な人々の参加によってなりたち、全国各地で関心事になり、さらに、政策に当事者の視点が尊重されていくことを前提とすれば、寄り添う行為のもとになる考え方の「柱」がこれからもっと大事になってくるのではないか。

 そこで、本著では、具体的に子どもや女性の貧困に向き合い、当事者に伴走を続けている大阪の2人の女性に焦点を当てます。

 1人は、一般社団法人シンママ大阪応援団(大阪市)の代表理事、寺内順子さん(1960年生まれ)。寺内さんは普段、大阪社会保障推進協議会の事務局長です。 もう1人は非営利任意団体「シェアリンク茨木」(大阪府茨木市)の代表、辻由起子さん(1973年生まれ)です。辻さんは子ども・若者支援活動をしながら、こども家庭庁の参与も務めています。

 結論から言えば、2人の「寄り添い」は、生きようと思って助けを求めてきた人の人生そのものを肯定している、ということです。「食べる」を通じた支援も共通しています。それは生きることそのもの。「こころ」と「からだ」を大切にしているということです。「支援」を受けた人が元気を取り戻していく姿や、意見表明ができるようになっていく変化を垣間見てきた者からすると、当たり前のようで忘れられがちな「身体性」を大切にすることが出発点だと言えます。

 寺内さんは自らの活動拠点を「Zikka(ジッカ)」、つまり「実家」のような場所と位置づけています。辻さんは「体温を感じる支援」を大切にしていて、そのベースは「人権」だと言います。2人の活動は「まちの保健室」のようでもあります。そこに「評価」がないからです。ケガをすれば手当てをしてくれ、教室に入りにくい時や心がしんどい時、ちょっと話を聞いて欲しい時、迎えてくれる学校の保健室。なんとなく一緒にいる空間と時間です。

 さらに2人は、それぞれのやり方で、政治や行政へも働きかけています。地域住民の善意への「タダ乗り」は見過ごさないという姿勢と、目の前の現実への対応の両輪です。また、2人は互いの支援のありようを尊敬し合いながら、それぞれの得意分野を生かしてカバーし合っています。

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 話を聞いて欲しい時、おなかがすいた時、戻る家がない時、心細い時、とやかく言わずに「ご飯食べよう」「大丈夫。なんとかするよ」と受け止める。寺内さんや辻さんとその周りの人たちが、SOSを出してきた本人と一緒にどうしたらいいかを考え、行動する。本著で伝えることは、ボランティアのすすめでも、支援のノウハウでもありません。具体的な個々のストーリーから、多数派こそ向き合わないといけない現実、具体的な「伴走」、交流の中から生まれた変化などを通じて、生存権など人権の保障を問い直し、何が必要なのかを一緒に考えていく試みです。

 正解はありません。ただ一つ言えるのは、「支援」における主人公は、助けて欲しいと声をあげた人です。
 
中塚久美子

(本編は『子どもと女性のくらしと貧困』でお読みください。)

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