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『子ども白書2023』ができました【2】一部公開 巻頭言「夢と希望が自由に羽ばたける平和な空を」

 今年で59冊目を迎えた『子ども白書』(日本子どもを守る会編)。児童憲章の精神に基づき、子どもたちが安心して暮らし、豊かに育ち合っていける社会の実現をめざして刊行を続けています。今年の特集は「いま、子どもの声を〈きく〉」。かもがわ出版のnoteで内容を一部公開していきます。今回は、巻頭言です。

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「夢と希望が自由に羽ばたける平和な空を 世界の子どもたちに」(増山均・日本子どもを守る会会長)

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 地下壕に紙飛行機や子らの春
 これは戦時下のウクライナで暮らす、俳句愛好者のウラジスラバ・シモノバさんの一句です。国際法を無視して開始されたロシアのウクライナへ侵攻(侵略戦争)が長期化し、子どもと市民の犠牲者が日に日に増加しています。地下壕に避難して、命の危機にさらされながら不安な日々を過ごしているウクライナの子どもたちと母親・高齢者たち。戦場で戦う父親・兄弟たちの安全を祈りながらの苦難の生活は、いかばかりでしょう。
 長期化が予想される戦争の中で、プーチン大統領の考えに影響を与えているといわれるロシアの思想家(アレクサンドル・ドゥーギン)は、ウクライナでの戦争の行方に関して、「ロシアの勝利か、人類滅亡かの二択」と述べ、核戦争勃発の可能性を暗示しています。日本子どもを守る会は、昨年夏の平和祈念集会に『原爆の子』(長田新著)のロシア語翻訳者マリア・キリチェンコさんを招いて、核兵器が二度と使われないよう核兵器禁止条約を内外に広げる決意を固め合い、プーチン大統領にロシア語版『原爆の子』を送付するとともに、世界のリーダーたちに絶対に核兵器を使用しないことを訴えて続けています。
 ウクライナから遠く離れた日本でも、毎日のように茶の間に戦争の惨状や殺戮のニュースが流れ込み、子どもたちの不安がかき立てられています。NHK の朝ドラ「あさが来た」の主題歌『365 日の紙飛行機』(秋元康)のように、〔一部略〕子どもたちの夢と希望を乗せた紙飛行機が自由に飛んでいけるように、平和な青い空を守り続けなければなりません。

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 しかし、日本政府は、ウクライナへのロシアの侵略行為や東アジアの政情不安、「台湾有事」などを口実に、抑止力の強化、自衛隊基地の強靭化などをかかげ「大軍拡」の道を歩もうとしています。昨年11 月「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有が抑止力のために不可欠だとして、5 年以内に防衛力を抜本的に強化すべきという提言をまとめました。この提言では、防衛力強化に必要な予算と財政規模については「NATO 加盟国が用いる尺度(GDP比2%)」を5 年間で講じるというものです。
 毎年、赤字国債が発行され続け、国債発行残高が1000 兆円を超えるという国家財政の中で、防衛力強化のために「GDP 比2%」を確保するには、今後5 年間で43 兆円もの「防衛費」を支出することになり、大増税と同時に、社会保障関係費、子ども・子育て関係費等の削減をもたらします。こども家庭庁が発足して、「異次元の子育て対策を」といっても、その財源確保は困難になるでしょう。大軍拡・大増税への道は、国民の生活を押しつぶし、現在と将来にわたって福祉・教育・文化への施策を圧迫・後退させ続けることになります。
 有識者会議の提言を受けて政府は、安保関連3 文書を改定して敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を認めることを閣議決定しました。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有は、平和憲法のもと、相手国に脅威を与える兵器は保有できないとしてきた歴代政府の方針を180 度転換させるものであって、憲法にも国際法にも違反して「軍事」対「軍事」の悪循環をつくり出し、戦争への道を開くものであり、極めて危険な選択です。「有事」の際には、日米安保条約のもとで日本が米国と一体となって戦争に突入する危険にさらすものであり、国民生活の平和と子どもたちの未来を根底から脅かし破滅に導くものです。子どもたちの夢と希望を乗せた紙飛行機が安全に飛ぶ空ではなくなり、戦闘機が飛び交う空にしてしまいます。

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 1952 年5 月に発足した私たち日本子どもを守る会は、子どものしあわせの実現と健やかな発達を保障するために、何よりも平和憲法と児童憲章の完全実現を目指し、国連子どもの権利条約の具体化を求めて歩んできました。いま日本社会に必要な進路は、抑止力を高めるための大規模な軍備増強ではなく、日本国憲法9 条を生かした平和外交によって、関係各国と対話し緊張を緩和することであり、絶対に「戦争を起こさせない」よう最大・最善の外交努力を尽くし、子どもたちの未来を安心・安全なものとし、自由な青い空を守ることです。
 私たちが求める道は、国内・国際社会の平和的発展の担い手を育てるために、福祉・教育・文化に関する予算と、子ども・子育て関連予算を充実させることです。出産に関わる費用、子どもの医療費・保育・教育費への支援をはじめ、保育士・教員の増員も待ったなしの課題であり、戦争準備に財政をつぎ込むのではなく、子ども・若者の成長・発達としあわせの実現に優先的に財政支援を行うことを強く求めます。
 高校生平和ゼミナールの皆さんは、ヒロシマや沖縄で被爆者や戦争体験者の話を聞き、平和憲法と国連憲章に深く学び、核兵器禁止条約を広げる国際的な運動と連帯して活躍しています。
 日本子どもを守る会も若い力に連帯し、ともに学びながら、平和な空を守る運動を続けます。

2023 年5 月5 日(こどもの日に)

日本子どもを守る会編『子ども白書2023』
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