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11月27日のお話

私は、きっと感情の起伏が激しい方です。
ちょっとしたことで、荒れ狂うように心が激しく波打つこともあれば、穏やかなときは、誰もが振り返るような、キラキラと輝く微笑みが魅力だと言われます。
歌を口ずさめば、その音は多くの人を癒やすといわれますが、周囲の影響をうけやすく、大きな声で怒鳴ってしまうことも少なくありません。
だからでしょうか、私は美しくもあり、包容力もあるが、恐ろしいともいわれているようです。

そんな私にも、変わらず寄り添ってくれる人がいます。
彼は私と正反対で、いつも冷静で変わらない表情をしています。
寡黙、といえば格好良いですが、きっと無口なだけだと思います。
でもそういうところが、安心感を与えてくれるのも事実です。

どんな私であっても、決して離れたりしないで、いつも話を聞いてくれます。
怒っても、冷たくしても、傷つけるようなことをしたときも、辛抱強く隣にいてくれました。

そんな存在は、他にいません。
彼より、距離的に近くにいる人もいますが、近すぎると、私の激しさが相手を削り取ってしまうようです。
少しずつ、少しずつ、相手が消耗していくのがわかります。
わかっているのに、私にはやめることができないのです。

だから、近づきすぎずに、いつもそばにいてくれる彼の存在が私の唯一の存在になったのです。
「愛情」も、もしかしたらそういうものなのかな、なんて思います。

本当に愛されているという実感は、ずっと変わらずに、そばにいてくれる人から感じるものではないでしょうか。

ーーー

僕は、いつも色々な表情を見せてくれる彼女を本当に素敵だと思っています。
一日として同じ表情はなくて、穏やかなときは穏やかなときなりに色々な表情で語りかけてくれるし、機嫌の悪いときは…えぇ、閉口してしまうくらい激しくつっかっかってくることはありますが、なんというか、ずっとそうではないことはわかっているので。
彼女は、時間がたてば必ず落ち着くし、そうなると誰もが彼女を賞賛したくなるほど美しいのは変わらないのです。

それに、彼女の変化や賑やかさに、僕は実は支えてもらっているのです。
彼女がいなければ、僕は、何かを美しいと思ったり、大変だと思ったり、そういう感情を、すっかりどこかに忘れてしまっていたと思います。
そのくらい、僕は僕だけでは何も心がうごかない、周囲に無関心な男でした。

自分から近寄っていったり、自分から声をかけたりすることはできないので、彼女のように常に寄ってきてくれる人がいなければ、本当の孤独に慣れきってしまっていたでしょう。

そうなることが、幸せだとは思いません。
思いませんが、そうなるしかなかったかもしれないのです。

だからこそ、彼女が、どんな状態であっても、そばにいてくれることは僕にとってとても幸運なことなのです。
どんなに怒っても、泣きわめいても、時がたてば彼女は必ず僕のとなりでまた穏やかに微笑み楽しそうに寄ってきてくれる。
この「必ず」といえるほどの信頼が、彼女に対してはあるのです。
そのくらい、彼女はいつも、僕のそばにいてくれます。

本当に愛されているという実感は、どんなに変わっても、そばにいてくれる人から感じるものではないでしょうか。

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「海と灯台が恋に落ちたら」
この絵本は、両面表紙の珍しい絵本で、片方は海の素敵なイラストが描いてある表紙で、もう片方は凜とした灯台が描かれている表紙です。
どちらから読んでもかまいません。
ちょうど二つの話が挟まる真ん中には、広い外海に突き出るような岬、そこにそびえ立つ灯台のパノラマが描かれています。

その風景の、なんて素敵なことでしょう。

今年初めての、ホットワインを片手にもちながら、かなめは何度もその絵本を、右から左から眺め直しました。
急に気温がさがった昨日のことです。
お店をたたまれて、遠くの町に引っ越すと去って行って以来、全く音沙汰のなかった、行きつけのカフェのママ・九栗さんから届いた絵本です。

一緒に入っていたカードには、「面白い本を、みつけたから」と一言だけ添えられていましたが、かなめはその本を眺めていて、どうにも不思議に思いました。
なぜならその本は、印刷ではなく、どう見ても「原画」が綴じられている絵本だからです。

見つけたと書いてあるけれど、以外と、見つけたのでは無く九栗さんが描いたのでは?と疑いたくなるのは、あの九栗さんのキャラクターだからかもしれません。見つけたにしても、作家本人から一冊しかない絵本を譲り受けているのか…何なのか。
謎は深まります。

そしてなぜ、かなめに送ってきたのかも。

本当に愛されているという実感。
かなめは両方の物語の最後にかかれている一文に、改めて目を落とします。

来週、真木をさそって、灯台のある岬にドライブに行ってみようか。そんなことをふと思い浮かべました。
なんとなく、付き合って長くなると、そばにいることが当然のようになってしまっている自分たちには、たまにはそういう違う風景もよいかもしれない。

等と考えて、それにしてもどうして、九栗さんはこの絵本を私に送ったのだろう、と、この日何度目かの疑問に首をかしげて、かなめはワインを飲み干しました。

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