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学芸賞今昔 1

(2022/11/26記)

 先日、サントリー学芸賞の発表があったので、ちょっと数えてみたところ、1979年の第1回から第44回目となる2022年までに同賞を獲得したことのある出版社は90社にのぼった(角川書店と角川学芸出版を別に数えている)。

 ちなみに獲得1回の出版社は47社、獲得2回の出版社は11社で、千倉書房はここに入る。そして獲得3回が9社、獲得4回は3社という塩梅である。

 5回以上、桂冠の栄に浴している出版社が21社あって、総獲得数は263、総受賞者が371人だから上位21社による占有率は70.89%ということになった。

 10回以上の受賞社で同じ計算をすると8社で獲得数170.5となり、占有率は45.96%ということになる。

 やはり継続的にハイレベルな学術出版を行うのは容易なことではないのだ。たった1回の受賞でも大変なことだが、定評を得続けることもまた偉大な営為と言える。

 パラパラ数えただけなので、多少のカウントミスはご容赦いただくとして、これまでの獲得総数の上位8社(10回以上獲得)は以下の通りである。

 岩波書店(36)
 中央公論[新]社(29.5)
 名古屋大学出版会(24)
 講談社(23)
 東京大学出版会(20)
 筑摩書房(17)
 平凡社(11)
 青土社(10)

 なぜ中央公論新社の獲得数に端数がついているかというと、1989年の思想歴史部門が鷲田清一さんの『分散する理性』(勁草書房)と『モードの迷宮』(中央公論社)に対して与えられているので、2で割ったからである。

 ちなみに次点となる9度獲得社には東洋経済新報社、朝日新聞社、日本経済新聞社、白水社の4社が並ぶ。

 カウントアップしていくと、連続受賞についても凄い記録があった。これは今後容易には破られないだろう。

 筑摩書房(7)1983~89
 東洋経済新報社(6)1979~84
 名古屋大学出版会(6)2008~13
 岩波書店(5×2)1985~89、1991~95
 中央公論新社(5)2007~11
 東京大学出版会(5)2013~17

 ネオアカデミズム全盛期とはいえ筑摩書房の7年連続は圧巻である。初期の常連であった東洋経済新報社の6年もスゴい。岩波書店の5年連続を2回という記録に至っては黙って頭を垂れるほかない(90年に獲得していたら11年連続となるところだった!)。

 しかし、わけても筑摩書房を賞揚したいのは、大学出版会や専門性の高い出版に特化した会社と違い、読者の裾野の広い、多様な分野の作品を手がける中で、学問的に優れた良書を世に送ったといえるからだ。

 その意味では、同時受賞にも敬意を表しておきたい。サントリー学芸賞は基本的に、1分野で出す賞は2つまでである。同じ分野を2つ取るだけでもスゴいが、3つとなれば分野を横断しなければほぼ獲得できない。

 そう考えると、やはり以下の4社の地力は光る。

 東京大学出版会(3)1993
 岩波書店(3)1998
 名古屋大学出版会(3×2)2005、2012
 講談社(3)2014

 東京大学出版会の1993年は政治経済で2、思想歴史で1。岩波書店の1998年は芸術文学で2、社会風俗で1。名古屋大学出版会の2005年と2012年は、ともに政治経済で1、芸術文学で2。講談社の2014年は芸術文学で1、社会風俗で2となっている。

 さすがに3作以上の同時受賞で3部門を制覇した出版社はない。今後これが可能なのは東京大学出版会、名古屋大学出版会、岩波書店ぐらいではないだろうか。

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