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第5回神谷新書賞(2023年)

(2024/02/01記)

 新書を手にする機会が激減した。

 理由ははっきりしている。八重洲ブックセンターがなくなったからだ。駅から会社への行き帰り、連日連夜吸い込まれていた巨大書店が、地域の再開発のために2023年3月末をもって閉店したダメージは計り知れない。

 私にとって新書は、わざわざ「よ-し、今日はあれを買うぞ!」と勢い込んで書店に向かうような代物ではない。息をするように書店に入り、水を飲むように平積みされた新刊を眺めわたし、タイトルを吟味し、目次をチェックし、前書きや後書きに目を通して、これは面白そうだ、読んでおいた方が良さそうだ、と思ったら、すぐ購入する。

 通勤の導線からその機会が消えたのはつらい。日々の業務に追われるなか、片道15分かけて丸の内まで、日本橋まで、銀座まで脚を伸ばすのは、いささか手間なのだ。

 そんなわけでご紹介できるのは以下に留まった。再読三読の機会があった作品には★を付けた。

竹内早希子『巨大おけを絶やすな!』(岩波ジュニア)2023/01 ★
鈴木大介『ネット右翼になった父』(講談社現代)2023/01
嘉戸一将『法の近代』(岩波)2023/02
筒井淳也『数字のセンスを磨く』(光文社)2023/02
釘貫亨『日本語の発音はどう変わってきたか』(中公)2023/02 ★
宮沢孝幸『ウイルス学者の絶望』(宝島)2023/02
真貝寿明『宇宙検閲官仮説』(ブルーバックス)2023/02
森部豊『唐』(中公)2023/03 ★
大場正明『サバービアの憂鬱』(角川)2023/03 ★
井上文則『軍と兵士のローマ帝国』(岩波)2023/03
篠田英朗『戦争の地政学』(講談社現代)2023/03
高橋沙奈美『迷えるウクライナ』(扶桑社)2023/04
稲田豊史『ポテトチップスと日本人』(朝日)2023/04 ★
金澤裕之『幕府海軍』(中公)2023/04
長尾宗典『帝国図書館』(中公)2023/04 ★
高橋沙奈美『迷えるウクライナ』(扶桑社)2023/04
源川真希『東京史』(ちくま)2023/05 ★
加藤博章『自衛隊海外派遣』(ちくま)2023/05 ★
原武史『地形の思想史』(角川)2023/05
石原敬浩『北極海』(PHP)2023/05 ★
秋満吉彦『名著の予知能力』(幻冬舎)2023/05
境家史郎『戦後日本政治史』(中公)2023/05 ★
畑中章宏『宮本常一』(講談社現代)2023/06
倉山満『参議院』(光文社)2023/06
友田健太郎『自称詞<僕>の歴史』(河出)2023/06 ★
水谷竹秀『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館)2023/06
村上靖彦『客観性の落とし穴』(ちくまプリマー)2023/06
保坂三四郎『諜報国家ロシア』(中公)2023/06 ★
三牧聖子『Z世代のアメリカ』(NHK出版)2023/07 ★
青木健太『アフガニスタンの素顔』(光文社)2023/07
筒井清忠『近代日本暗殺史』(PHP)2023/07 ★
大木毅『歴史・戦史・現代史』(角川)2023/07
松里公孝『ウクライナ動乱』(ちくま)2023/07 ★
弘中惇一郎『なぜ冤罪は繰り返されるのか?』(講談社現代)2023/07
濱口桂一郎『家政婦の歴史』(文春)2023/07
坂口孝則『買い負ける日本』(幻冬舎)2023/07
広瀬公巳『インドが変える世界地図』(文春)2023/08
浜忠雄『ハイチ革命の世界史』(岩波)2023/08 ★
内藤正典『トルコ』(岩波)2023/08
瀧浪貞子『桓武天皇』(岩波)2023/08
牧野百恵『ジェンダー格差』(中公)2023/08
谷川彰英『全国水害地名をゆく』(インターナショナル)2023/08
牛窪恵『恋愛結婚の終焉』(光文社)2023/09 ★
木澤佐登志『闇の精神史』(ハヤカワ)2023/10
波戸岡景太『スーザン・ソンタグ』(集英社)2023/10
鹿毛敏夫『世界史の中の戦国大名』(講談社現代)2023/10 ★
家永真幸『台湾のアイデンティティ』(文春)2023/11
千葉聡『ダーウィンの呪い』(講談社現代)2023/11
児玉真美『安楽死が合法の国で起こっていること』(ちくま)2023/11
筒井淳也『未婚と少子化』(PHP)2023/12
榎村寛之『謎の平安前期』(中公)2023/12 ★

 どれも良かったが、強いて順をつけるとしたらこんな感じだろう。

1位 長尾宗典『帝国図書館』(中公)
2位 三牧聖子『Z世代のアメリカ』(NHK出版)
3位 石原敬浩『北極海』(PHP)
4位 牛窪恵『恋愛結婚の終焉』(光文社)
4位 榎村寛之『謎の平安前期』(中公)
6位 保坂三四郎『諜報国家ロシア』(中公)
7位 大場正明『サバービアの憂鬱』(角川)
8位 浜忠雄『ハイチ革命の世界史』(岩波)
8位 竹内早希子『巨大おけを絶やすな!』(岩波ジュニア)
10位 境家史郎『戦後日本政治史』(中公)
10位 稲田豊史『ポテトチップスと日本人』(朝日)

 日本の近代史に「知」という補助線を引く長尾書。アメリカを見る視座をどのように動かしたら良いか手がかりを与える三牧書。温暖化と大国間の緊張の接点で何が起きているか教えてくれる石原書、をベスト3とする。

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