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「沈黙者」のこと


2年前の秋分の日、「沈黙者」という小説を出しました。
「出した」とはいっても出版社から刊行されたわけではなくて、執筆・印刷・製本をすべて自分ひとりで行い、販売も自分で行っています。自費出版かつ自主制作、みたいなことです。

先日の丸善丸の内さんでの販売の様子


「沈黙者」は、9月20日からクリスマスまでを描いた物語です。
秋から冬にかけての空気の中で読んでいただくとよいのではないか、と思い、秋はいつも少しだけこの本をプッシュしています。


「沈黙者」は、「誰にも話せないこと」を抱えたひとりの青年が、それを誰かに打ち明けるまでを描いた物語です。

自分の中に沈黙を抱えた彼が、どんな風にそれを絶叫へと変えてゆくのか。それを書きたくて作ったお話です。


また、作中には「夢の遠吠え」という小説が登場します。

「夢の遠吠え」は、不治の熱病を患った少女が枕元に座る「あなた」に向けて話をする物語です。

少女は病を発症してすぐに、感染を恐れた家族らによって家の離れにある座敷小屋に隔絶されます。「もって一ヶ月」という医師の言葉を信じた家族らは、ひと月分の食料と一通の手紙を小屋に差し入れる。そこには、一ヶ月後にその小屋を焼き払うことが書かれています。

「夢の遠吠え」は、そんな少女の台詞のみで構成された小説です。

私、誰のことも恨んでいないし、呪ったりしないわ。今まで見てきたものすべて、感じてきたことすべて、ほんとうに美しかったもの。恐ろしかったものも、悲しかったこともみんな含めて、何もかもが美しかったって思うの。
けれど、たとえ私が呪わなくたって、私そのものが、もはや呪いなんだわ。

本文より


この作中作品「夢の遠吠え」もまた、沈黙者の抱えた「呪い」と交錯してゆき、また、沈黙者だけでなく様々な人物の人生に影響を与えてゆきます。



「沈黙者」は、『ひとりで作る』ということに強くこだわって完成させた作品です。
最後まで読んでいただけたら、きっと製本までをすべてひとりでやりたかった意味がわかっていただけると思います。


さいごに。
お察しの通り、「沈黙者」はとても暗くて重たいお話です。どうあがいたって、誰でも手に取りやすく心地よい本として紹介することはできないし、してはいけないなって思います。
そういう意思表示も含め、とびきり暗くて重たい装丁を心がけた部分もあります。
ただ、僕は今まで小説のほか、音楽やらひとり芝居やら紙ものやら、色んな作品を作ってきたけれど、今のところ「沈黙者」は最高傑作です。誰もに好かれる本では決してないけれど、これを書くために今までの人生があったような思いをもって書き上げた作品です。
今は、これを超えるものを生み出すために頑張っています。
最高傑作のうちに、ぜひ一度手に取ってみてください。

どうかこの作品が、誰かの沈黙に優しく寄り添うようにと願っています。

あとがきより


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