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カタカナの名前やりたくて

ファンタジーに登場するカタカナの固有名詞を考えるのって楽しそう。とふと思った。
キャラクターの名前、地名、種族、食べ物、道具などなど。
由来はあったりなかったりなんだろうけど、とりあえず読み手には響きだけが印象づいて、物語の中に馴染んでゆくあの感じ。いいよね。
ムーミンのスニフとかすごい好き。意味とかじゃなくてなんかキャラクターと響きがぴったりな感じ。
好きを挙げれば色々あって、例えば大どろぼうホッツェンプロッツに出てくる大魔法使いペトロジリウス・ツワッケルマン。ここまでやるかってくらいの大仰さが最高。
あと、カードゲーム「マジック・ザ・ギャザリング」の世界に登場する、肉体を金属化させ金属を生体化させる物質マイコシンス。
ハリーポッターの世界の競技クィディッチ。魔法を持たない人間を指すマグル。
BLEACHのホロウ
ワンピースのルフィとかも何気にすごいいいなって思う。

固有名詞ばかりではなかったですね。なんかでもこういうやつ。その世界の中でしか通用しない架空の名詞。こういうの考えるの楽しそう。

たぶん自分の作品の中ではあまり登場させられそうにないからこそ、いいなあって思ってしまう。
思ってしまうんだ、が。
何気なく頭の中で、この感じの架空の名詞をいくつか考えてみまして、そしてそれらを、一応Googleで検索してみましたら、なんとひとつ残らず既に存在していました。
びっっっくりしました。本当にひとつ残らず、全部あったんだから。
そうなんだ。全く新しい響きのもの考えるのってこんなに難しいんだ。いやいやもちろん、別に同音のものがこの世にあったからってボツな訳ではないと思うけれど。でもなんか、この世にないものを適当に考えたら全部あったという現象そのものにびっくりしたし、それに、いざ知ってしまうとそのイメージが頭に残ってしまうからきっと避けるよなあとも思いました。自分の小説の登場人物も、やっぱり知り合いの名前と被らないように考えるし。あとあと、知らない単語たくさんあるんだなあって、それをなんか実感しました。しりとりって一生終わらんなと思いました。
なんか、様々な作品に登場するこういうやつ。新しくて聞いたことない響きで、でもそれが指し示すものにとても合っていてセンスが光る名前たち。それを生み出す作家へのリスペクトがすごい大きくなりました。
ファンタジーもの、普段あんまり手に取らないけど、たまには読んでみようかなって思った日でした。












そのかすかな光の点滅をとらえ、タリスは大きく目を見開いた。
「パローナ!灯台が見えるわ!」
タリスは振り返り、声を挙げる。しかし、後ろを歩くパローナは顔を上げない。もう何時間もそうしてきたように、右足を不器用に引きずりながら、彼は下を向いて、かろうじて倒れずにいるような足取りで進んでいた。
「ねえ、パローナ」
タリスはパローナの肩を支え、耳元に囁いた。
「聞こえてる?パローナ」
「聞こえてるさ」
か細い声で答えながら、パローナはまだ顔を上げようとしなかった。
「見て、パローナ。向こうに灯台が見えるの。あれは間違いなく、クアイル自治区の灯台よ。私たち、モザの地に帰ってきたんだわ!」
「どうせまた幻だよ」
「ちがう!ちがうの!今度は本当なの!お願いだから顔を上げて、あっちを見てみて!」
パローナの痩せ細った二の腕を揺さぶりながら、タリスは何度も何度も声をかけた。けれど、度重なる失望を背負い衰弱しきったパローナの体は、こんなにもか細く弱々しいのに、ひどく固かった。
「もういいんだ。これ以上、嘘の希望にくたびれるより、絶望を見つめながらでも、少しでも長く……君と……」
「やめて、そんなこと……」
タリスはパローナの顔を覗き込んだ。吹き付ける砂塵を拭うことすら諦めた彼の顔は、窪んだ頬がすっかり黒ずみ、震える口元は乾き切って、瞳は暗く霞んでいた。
「パローナ……」
胸が詰まる思いに耐えきれず、タリスはパローナを強く抱きしめた。
ロクシが故障し、砂漠を歩き始めてから、既に三日間が経過していた。初めは前を歩いていたパローナの、心強かった笑顔を思い出す。タリスは目をぎゅっと瞑って、込み上げる涙を堰き止めた。まだ先にあるモザの地まで、必ずふたりで歩ききるために、ほんのひとしずくの水でさえも失いたくはなかった。
「パローナ、顔を上げられないのなら、私の目を見て。私もきっと、ついさっきまではあなたと同じ顔をしていたの。でもね、今はきっと違うはずよ。幻には何度も騙された。だけど、本当の灯台を見たら、幻とはまったく違うってすぐにわかったの。だから私、今はもう希望が怖くないわ。嘘じゃない。あの灯台が本物かどうか、私の顔を見たらわかるはずよ。さあ、見て」
タリスはパローナの頬に手を当て、じっと目を見つめた。パローナの虚ろな二つの黒目が小さく揺れる。タリスは歯を食いしばり、気を抜くと涙があふれてしまいそうな両目を精一杯に開いた。自分の顔が、あの時のパローナの笑顔のように、希望を持たせてくれるものだと信じて、懸命にパローナを見上げた。
やがて、揺蕩っていたパローナの瞳がぴたりと止まった。
「よく見て」
タリスは震えた声で囁いた。
ふたりはまばたきも忘れて見つめ合った。絶えず風が吹き、砂が動くこの場所で、タリスとパローナだけが止まった時間の中にいた。
やがて
「……ほんとうに?」
かすれた声で尋ねるパローナの眼は丸く開かれ、かすかな光を宿していた。
「本当よ。私たち、モザに帰れるのよ」
「ほんとう……に……」
タリスの手の中で、パローナの頬が熱を持つ。
「パローナ、だめ。泣いちゃだめよ」
パローナの目元にそっと指先をあてて、タリスは囁いた。
「涙なんかにしてはだめ。だから顔を上げて。上を向いて。もう少しだけ、私たちは歩かなくちゃいけないんだから。クアイル自治区に入れば、コユーでモロス伯父さんに通信できるわ。そしたらきっと、ロクシで迎えに来てくれる」
タリスがそう言うと、パローナは目を閉じて何度も何度も頷き、そして袖口で頬の砂をぐいと拭いながら、前を向いた。その仕草に、タリスはふたたび目頭が熱くなる。
「行こう」
短く言い、パローナは歩き出す。遠くの光をまっすぐに見据えるその眼差しは、かつてのモロス伯父さんによく似た、コドルの戦士の顔つきだった。


タリス……ヨーロッパ4カ国を結ぶ高速列車

パローナ……イタリアの地名

クアイル……英語で「ウズラ」

モザ……ジンバル(動画撮影の際に手ブレを防止する手持ちスタンド。スタビライザー)の銘柄

ロクシ……YouTuber

モロス……ギリシア神話に登場する神

コユー……有限会社コユー

コドル……アイルランドの料理

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