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2011年3月11日(金)から10年目の朝

【2011(平成23)年3月11日(金)から、10年目の朝】
3/11(55,944字)
3/12(60,460字)

「われわれは誰に支えられて生きてきたのかを自覚化することによって、今度は誰を支えるべきかを、震災体験は問うている筈だ。その内なる声に耳をすませてみよう。」
復興への提言 ~悲惨のなかの希望~  p.2
Towards Reconstruction “Hope beyond the Disaster” 
平成23年6月25日
東日本大震災復興構想会議
https://www.cas.go.jp/jp/fukkou/pdf/fukkouhenoteigen.pdf

現在勉強中のことについて書きました。

浅はかな知識のまま、不躾で恐縮です。
事実誤認等、ご指摘くださいますと助かります。


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1、毎年この日は

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「2011年3月11日14時16分、三陸沖(牡鹿半島の東南東約130㎞付近)の深さ24㎞を震源とする国内観測史上最大規模の巨大地震が発生した。この地震により、宮城県栗原市が「震度7」に見舞われたほか、東北地方の太平洋沖の各地で「震度6強」の強い揺れが観測された。
 気象庁は、この地震を「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」と命名し、また政府は、2011年4月1日の閣議了解により、この地震によって発生した災害を「東日本大震災」と呼称することとした。
 
 東北地方太平洋沖地震が引き起こした津波は、北海道から沖縄県にかけて広い範囲で観測されたが、とくに東北地方から関東地方北部の太平洋岸一帯が大津波に襲われた。すなわち、気象庁の検潮所で観測された波の高さは、岩手県の宮古や大船渡で8mを超え、福島県相馬では9.3㎞以上、宮城県石巻市鮎川でも8.6㎞以上に達していた。
〔中略〕
 2011年3月時点で東北地方の太平洋岸には、東通(東北電力)、女川(東北電力)、福島第一(東京電力)、福島第二(東京電力)、東海第二(日本原子力発電)の5つの稼働中の原子力発電所があった。3月11日の津波は、福島第一原発のみならず、残りの4つの原子力発電所をも襲った。」
(畑村洋太郎×安部誠治×渕上正朗「第1章 東日本大震災と福島第一原発事故」『福島原発事故はなぜ起こったか−政府事故調核心解説』2013. 講談社. pp. 18-19)
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私は直接の被災者ではありません。
しかしこの日は毎年、鎮魂の祈りを捧げています。

震災関連死亡者数(令和元年9月30日)
岩手県 469人
宮城県 928人
山形県     2人
福島県 2,286人
茨城県   42人
埼玉県  1人
千葉県  4人
東京都  1人
神奈川県 3人
長野県  3人
全国計 3,739人(前回調査との差+16)

復興庁 | 震災関連死の死者数等について
http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-6/20140526131634.html


直接死亡者数(令和元年12月10日)※1
北海道     1人
青森県     3人
岩手県 4,675人
宮城県 9,543人
山形県     2人
福島県 1,614人
東京都     7人
茨城県   24人
栃木県     4人
群馬県     1人
千葉県   21人
神奈川県  4人
合計   15,899人

行方不明者数(令和元年12月10日)※2
青森県     1人
岩手県 1,112人
宮城県 1,217人
福島県    196人
茨城県     1人
千葉県     2人
合計    2,529人

※1、※2
警察庁緊急災害警備本部
平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震の警察措置と被害状況 
https://www.npa.go.jp/news/other/earthquake2011/pdf/higaijokyo.pdf

《福島県内においては、震災関連死亡者数が、直接死亡者数を上回っています。》

〈参考〉
数値が(平成30年12月10日)のため今回は使わず。
復興庁福島復興局 福島復興加速への取組
http://www.reconstruction.go.jp/portal/chiiki/hukkoukyoku/fukusima/material/20190131_fukkokasoku.pdf

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 山本は第2原発の男性所員1人とともに、31日午後3時ごろ、救急車によく似た「急患移送車」に乗って登録センターに到着した。
 2人の遺体はこの後、第2原発に運ぶことになっていた。厚生労働省から第1原発に派遣されていた男性医師による診断では、2人はいずれも多発性外傷によるショックが死因だった。
 山本は遺体の清拭を始めた。この場合の清拭とは、亡くなった人の尊厳を守るため、全身を丁寧に拭いたり、新しい着物に着替えさせたりすることを言う。水中で見つかった寺島は体に付着した放射性物質をできるだけ落とす必要もあった。
 「お疲れ様でした」
 山本は2人の遺体にそれぞれそう声を掛けて、手を合わせた。ケーブルレール上で見つかった小久保は先に急患移送車に乗せられていた。
 山本にも2人と同じ年頃の息子がいる。清拭を続ける山本のほおを涙が伝った。
〔中略〕
 吉田は事故から約2年4カ月後の13年7月9日午前11時32分、慶応大病院で静かに息を引き取った。58歳だった。
 事故の教訓を後世に残したい。
 吉田の願いは叶わなかった。
〔中略〕
 曳田の携帯電話には入院中の吉田から届いた1通のメールが残っている。そこには免震棟から約650人が退避した、あの朝の吉田の本心がつづられていた。

 曳田へ
   実はあの時、もっと状況が悪くなったら最後は全員退避させて、おまえと2人で残ろうと決めていた。だって空っぽにするわけにはいかないだろう。奥さんに謝っといてくれ。ごめんね

 覚悟を決めたとはいえ多くの部下の命を散らしてはいけない、と吉田は考えていた。最悪の場合は長年の友人と自分の命をもって世の中にわびるのだ、と。

(共同通信社原発事故取材班 高橋秀樹編著「最終章 命」『全電源喪失の記憶−証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』平成30年3月2刷. 新潮文庫. pp. 444-465)
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合掌

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2、避難者数

平成23(2011)年12月 332,691人
↓ 約1/7
令和2(2020)年2月   47,737人
全国47都道府県、975の市区町村に所在 

復興庁 全国の避難者数PDF(令和2年2月28日)
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-1/20200228_hinansha.pdf
復興庁 全国の避難者の数(所在都道府県別・所在施設別の数)
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-1/hinanshasuu.html
復興庁のFBページ
https://www.facebook.com/Fukkocho.JAPAN/

※人口帰還率を見る際には、カウント方法に注意。
住民票 
転入…作業員も含む 
転出…避難しているが住民票を異動していない人も含む

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3、「わからないこと」

危険だよと言われているのに、海に近い場所に建物を建てる人がいます。
もしも私が、法人設立のご相談を受けたら、と考えてみました。

融資を受けられるとしても返済の資金繰りが厳しい場合は、リスクを承知で、安価な物件のご提案もするでしょう。
また、なるべく便利なところを望まれるかもしれません。
納得のうえ、後悔の少ない選択をしていただくために、様々なデータをご用意すると思います。
「高台にしてほしい」と個人的には思いますが、最終的に決めるのは私ではありません。

津波の場合は、イメージしやすいです。
ハザードマップも充実し、過去のデータも蓄積されています。
「それでもこちらにしますか?こんな危険な所に?」と詰め寄ることと思います。
そして、「もう少し時期をずらしてみてはいかがでしょうか…また良いタイミングがきっと来ると思いますよ」というご提案になるかと思います。
もちろんこのケースは、「選択可能な場合」という条件がつくことを前提としています。

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「もちろん絶対安全を求めるなら、高所移転が唯一絶対の解だと私も思います。事実、三陸には、不便を覚悟で姉吉地区のように高所に住み続けているケースもあります。しかし欲得や便利さを求める人間の性質がいつも判断の方向を変えてきた現実を考えると、原則論や理想論を振り回して復興策を考えるのは危険です。被災の記憶が薄れて将来的に人々が低地に戻ってくることが予想されるなら、むしろ最初からそのことを数のうちに入れて津波対策を考えたほうがいいのではないでしょうか。
 津波の危険があるのにいつも人々が最後には低地に戻ってきたのは、それだけ三陸の海が豊かだからです。三陸の地域の人々の生活は、基本的に漁業で成り立っているので、津波の危険があろうと人々は最後は海の近くに行きたがるのです。私はそれを愚かなことだとは思いません。これはいわば人の帰巣本能のようなものなのです。
〔中略〕
 「自分はいつ死んでもいい」と拒んで海の近くに居続けたがる人が必ず出てくることでしょう。そういう人には社会として毅然とした態度で接することも重要です。」
(畑村洋太郎「第1章 津波と未曾有」『未曾有と大災害−東日本大震災に学ぶ』2011. 講談社現代新書. pp. 78-79)
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しかし、放射線の場合は、私にはちょっと無理です。
データを見ても、安全かどうか、判断ができません。

放射性物質汚染廃棄物処理情報サイト|環境省
http://shiteihaiki.env.go.jp

私は学問の訓練を受けてきたわけではなく、データの取り扱いも専門的に学んだわけではありません。
しかし、「わからないこと」と「確実にわかっていること」を区別することの重要性は理解しているつもりです。

そして、「わからないこと」は、「存在しないこと」とは違うことも知っています。

「よくわからないけど、まあ見えないし、国も大丈夫と言っているし、おそらく大丈夫でしょう」と、お客様に安易に言うことは、私には出来ません。

自分の力のなさを感じる次第です。
しかしせめて、講師謝金をいただく際には、源泉徴収税額が10.21%になっていることを毎回確認し、ささやかにすぎる貢献を自分の拠り所としています。

復興特別所得税関係(源泉徴収関係)|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/fukko/index.htm

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4、原発賠償

現在、全国で原発関連の様々な訴訟が提起されています。
・「ふつうの暮らし」をするため(原発賠償関西訴訟原告団240名、サポーター約300名)
・生業や地域を奪われたため(全国の原告約4,000名)
・子どもに無用な被ばくをさせたくないため、などなど…

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「このように「ふるさとの喪失」は、金銭賠償による被害回復が難しい。つまり、不可逆的で代替不可能な絶対的損失が重要な位置を占める。しかし、だからといって金銭賠償が不可能あるいは無意味なのではなく、法的には「無形の損害」(33)として賠償することが考えられる。これを「ふるさと喪失の慰謝料」と呼ぶことにする。(34)

(33)淡路剛久「「包括的利益」の侵害と損害」、淡路剛久・吉村良一・除本理史編『福島原発事故賠償の研究』日本評論社、2015年、26頁
(34)吉村良一は、原発事故賠償について次のように述べる。「個別利益の適切な賠償がなされたとしても、それによって被害の総体の補償がなされるわけではない。〔中略〕これらに対する賠償は、法技術的には、慰謝料(いわゆる包括慰謝料)による他なかろう(同「原発事故被害の完全救済をめざして−「包括請求権」をてがかりに」、馬奈木昭雄弁護士古希記念出版編集委員会編『勝つまでたたかう−馬奈木イズムの形成と発展』花伝社、2012年、99頁)。ここで「ふるさと喪失の慰謝料」と呼ぶのは、まさにこの意味においてである。
(除本理史「第2章 原発事故が突き付けた「地域の価値」」『公害から福島を考える−地域の再生をめざして』2016. 岩波書店. p. 73,p. 79)
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優秀な弁護士さんが味方についてくださったとしても、個人対組織の構図がなかなか厳しいことは、よく指摘されているところです。
けれど、こんなにたくさんの方々が原告になっておられるとは、びっくりしました。

私は「賠償」と書きましたが、「補償」のほうがふさわしいのかもしれません。

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「筆者は、「賠償」を含むより広い概念として「補償」の語を用いている。「補償」は、法的な賠償責任を前提としない場合(たとえば「社会的責任」など)を含み、また、金銭賠償を超えた広義の「償い」をも含意する。」
(除本理史「はじめに」『原発賠償を問う』. 2013. 岩波ブックレット866. p. 3)
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私は何例か、判決文や要旨やその解説などを読んでいます。
しかし、どうもわかりづらいというか。
私の理解力が不足している、ということももちろんあるのですが。

なんとなくこれに似た感覚あったよな〜と考えてみたら。
公文書に対する不安と似ていました。

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「初代公文書管理委員長(二〇一〇〜一四年)を務めた私は、ともすれば東日本大震災の記録でさえ右から左へと廃棄しがちな役人気質に驚かされたものだ。」
(御厨貴「公文書文化大革命」『平成風雲録 政治学者の時間旅行』2018. 文藝春秋. p. 100 )
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避難指示区域は現在、三つの概念があります。
・帰還困難区域
・旧居住制限区域
・旧避難指示解除準備区域

経済産業省 避難指示区域の概念図
(2020年3月10日時点)
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hinan_history.html

原発賠償は、区域内、または避難された先々で原告団が結成されているようです。
地域によって、共通する争点もあれば、個別の争点もあります。

避難指示区域の解除がニュースになると、「これでやっと帰れるね、よかったね」と喜ぶ人の声が取り上げられます。

一方で、帰らない、という選択をする人もいます。
その理由は様々です。
帰っても商売にならないとか、仕事がないとか、もしくは、新転地での暮らしに慣れたから、ということもあるのでしょう。
また、コミュニティが消失してしまっていたら、不安がよぎるのは当然のことです。

そして、別の理由として、「本当に安全なのかわからない」ということが挙げられます。

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通常時の被ばく限度は、年間積算線量で、1ミリシーベルトです。
しかし国は、避難指示の目安を、20ミリシーベルトと定めています。

環境省 避難指示区域の設定について
(改訂日:平成31年3月31日)
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h30kisoshiryo/h30kiso-09-04-01.html

1ミリと20ミリって、えらい違います。
しかし、国際的な基準に照らして許容されるのだそうです。
ただ、問題がないわけではありません。

子ども脱被ばく裁判のブログ
http://datsuhibaku.blogspot.com/

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「このようななかで除染が進行しているが,年20ミリシーベルト以内の地域(避難指示区域外)の除染の効果をみると,平均除染効果は目標である10%程度はあるというものの,1ミリシーベルトにまでは低減できていない地域が多い。
 たしかに「費用対効果」を考えるならば,これ以上の除染の適切性については,検討を要する。他方で,安全で健康な環境に生きる権利からすれば,国連グローバー勧告にみるように,年1ミリシーベルトの環境を保証すべきである(ヒューマンライツ・ナウ編(2014)『国連グローバー勧告−福島第一原発事故後の住民がもつ「健康に対する権利」の保障と課題』合同出版)。
(礒野弥生「第12章 除染と「健康に生きる権利」」除本理史/渡辺淑彦編著『原発災害はなぜ不均等な復興をもたらすのか−福島事故から「人間の復興」地域再生へ−』2015. ミネルヴァ書房. p. 237)
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放射線を議論する際には、「空間線量」が扱われます。
しかし、まだ除染されていない土は多く残っています。
測定してみるとまだ線量は高く、汚染されているようです。
(2016年9月30日準備書面33〜土壌汚染と管理区域,クリアランスレベル〜)

また、林や森については、なかなかよけられないこともあり、除染が難しいのだそうです。

放射線リスクに関する基礎的情報
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-1/basic_info_on_radiation-risk/201905_kisoteki_jouhou.pdf

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さらに、低線量被ばくの問題があります。
その場で測った放射線の数値が基準値以下だったとしても、放射性物質はずっと放射線を出し続けています。
いずれは少なくなりますが、ヨウ素131の半減期は約8日、セシウム134の半減期は約2年、セシウム137の半減期は約30年です。

環境省
半減期と放射能の減衰
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-01-02-07.html
ベクレルとシーベルト
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h28kisoshiryo/h28kiso-02-03-01.html

呼吸により、空気中の放射性物質を体内に吸い込んだ場合は、「内部被ばく」することになります。
毎日それを繰り返していれば、体内にそれだけ蓄積されることになります。
放射線量がいずれ半分になったとしてもそれは、体内に取り込まれる積算量が基準値以下になることを示すわけではありません。

ヨウ素131は甲状腺に、セシウム134は筋肉などの狭い場所に留まって、短期間にその場でエネルギーを繰り返し放出するのだそうです。
そのため、DNAを傷つけるリスクが高くなり、ガンなどの発症原因となり得るとのこと。
体に取り込まれやすく、かつ排出されにくいため、体内に取り込まないよう注意が必要なのだという意見もあります。

外部被ばくと内部被ばく|除染技術情報なび|日本原子力研究開発機構
https://c-navi.jaea.go.jp/ja/background/02-01/02-14.html
被ばくの経路|環境省
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h27kisoshiryo/attach_c/201606mat2-02-1.pdf

国で定めている基準値は、「年間」の積算量です。
しかし、体内に蓄積された内部被ばく量は、当然のことながら毎年リセットされるわけではありません。

素人考えですが、
・放射性物質を含んだ土がずっとそこに残っている
・土はよけたけど、汚染された林や森がある
→そこからずっと放射線が出ている
→そこに住んでいる人は、ずっとその放射線を浴び続けている
→やばいんじゃねΣ(゚д゚lll)

放射線の人体への影響は、「強さ」「距離」」「時間」の3つによって規定されるそうです。
「強さ」がそれほどでもなくても、もし「距離」が近ければ。
また当然ですが、「時間」がマイナスになることはありません。

例えば、原発で働く作業員は、放射線障害を防止するために、フィルムバッジやポケット線量計などの装着を義務付けられており、「被ばく管理台帳」によって、体に浴びる放射線を厳しくチェックされています。
限度を超えたら、原発の中には入れない決まりになっています。

また、原発以外でも放射線を浴びる職場では、線量の測定について法律で定められています。

【電離放射線障害防止規則】第8条(線量の測定)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=347M50002000041&openerCode=1

【医療法施行規則】第30条18(放射線診療従事者等の被ばく防止)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323M40000100050


145-1-3 号
労働安全衛生法令について
令和元年6月 
厚生労働省安全衛生部労働衛生課電離放射線労働者健康対策室
https://www.nsr.go.jp/data/000273524.pdf

資料2 安衛法・電離則
第1回 眼の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会
平成30年12月21日
 放射線による健康障害防止に係る法令と現状について
https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000462875.pdf

事故由来廃棄物等処分業務従事者特別教育テキスト
第5章 関係法令
平成26年11月18日 2訂版 
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/130417-5.pdf


住民については、そのような管理は、なされているのでしょうか。
でも、もしそうなった場合、「限度を超えたので引っ越してくださいね」と言わなければなりません。
あまり考えにくい状況ですが、私が知らないだけかもしれません。

はじめから危険だとわかっていて立ち入りが禁止されている区域ではなく、「帰っていいですよ」と言われた地域の放射線量は、本当に安全な基準値と言えるのでしょうか。
空間の線量が低くなったからといっても、土や林や森の汚染はまだあるのに、大丈夫なのでしょうか。

ただし、放射線は自然界にもともと存在しているものです。
また、排出される量も考えなければなりません。

しかし、聞くところによると、人工放射線を出す同位体は、化学的特性の近い元素と一緒に体内に取り込んでしまうと、代謝することができず蓄積してしまうのだそうです。
対して、いや、自然放射線も人工放射線も影響の度合いは同じだ、と書いてあるものもあります。

自然放射線、人工放射線(東京都環境局 2019年11月5日)
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/policy_others/radiation/about/houshasen.html

また、福島の今の線量は、そんなに大したことはないのに大げさだ、という意見もあります。
しかし、この記事の労災の因果関係の記述には疑問を持ちます。

UNSCEARの報告はなぜ世界に信頼されるのか――福島第一原発事故に関する報告書をめぐって / 明石真言氏インタビュー / 服部美咲 | SYNODOS -シノドス-
https://synodos.jp/fukushima_report/21606

あまり更新されてないけど色々載ってるページ、参考に。

放射線のリスクを正しく理解するために
http://www.j-ems.org/ray/

データをどう読むかは別として、誠実さが感じられるサイト。

みんなのデータサイト
https://minnanods.net
認定NPO法人ふくしま30年プロジェクト 事業報告
https://fukushima-30year-project.org/?page_id=1662


そのほか、国内外のサイトをあちこちみてみました。
しかし結局私は、何を信じたらいいのか、未だにわからないままです。
判決文を読んでも理解しづらいのは、きっとそういうことも関係しているんだろうと思います。

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5、「避難の権利」

福島県に、郡山市というところがあります。
避難指示区域「以外」なので、「自主避難地域」と呼ばれています。
言うまでもなく、放射能の汚染がないことを証明されているわけではありません。

国の避難指示の目安は、前述のように、年間積算線量で20ミリシーベルトです。
たとえその地域が19ミリシーベルトであったとしても、「避難しなくてよい」という基準です。
繰り返しますが、通常時の被ばく限度は、年間積算線量で、1ミリシーベルトです。

この区域は、何度か変遷を経てきました。
驚くことに最初の段階では、放射線の量ではなく、半径何キロ以内、という基準でした。
風向きや風の強さにより線量が変化することは、わかっていたはずなのですが…。

復興庁 避難指示区域の解除の状況
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat15/nuclear/gensiryokusaigai_hukkou.html

避難区域の変遷について-解説- - 福島県ホームページ
掲載日:2019年4月11日更新
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/cat01-more.html

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「原発からの距離に応じて同心円状に設定された避難指示が,仮に緊急事態時のやむをえない方法であったとしても,被害者らはそもそも今回の避難指示の設定に納得していない。半径10㎞圏内,20㎞圏内の設定に合理的な根拠はなく,その範囲が狭すぎるという疑いがある。また,政府内での連携不足,避難指示の伝達に関する配慮の欠如,SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)による放射性物質拡散予測の「隠蔽」などにみられるように,国による避難指示はきわめて不適切なものであった。被害者は国に振り回され,不信感を抱く結果となったのである。加えて,その後の区域見直しが,全体として避難指示解消の方向性であることも,被害者にしてみれば「切り捨て」である。
 そのため,中間指針等とそれに基づく東京電力(以下,東電)の賠償と,現実に発生した個別の損害との間に大きな乖離が生じている。その内容も,地域や実情によってさまざまであるが,とくに,前章でみたように,区域の「線引き」によって慰謝料等の賠償に大きな格差がある。」
(小海範亮「第10章「線引き」による賠償格差とそれに抗する住民の取り組み」除本理史/渡辺淑彦編著『原発災害はなぜ不均等な復興をもたらすのか−福島事故から「人間の復興」地域再生へ−』2015. ミネルヴァ書房. pp. 188-189)
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避難を続けてください、というよりも、避難しなくていいですよ、帰ってもらっていいですよ、という方向性のようです。

避難を強制されていないので、避難するかどうかは自分で決めます。
言い方を変えれば、避難を選択した人は「勝手に避難している人」とみなされています。

「自主避難」というと聞こえがよいですが、「自力避難」という言い方の方が正しいのかもしれません。
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「私の避難元は、強制避難区域ではないので、避難する人ととどまる人が混在する地域です。もちろん大半がとどまっていて、避難するほうが少数派です。ですが、避難元に多くの人が住んでいるのをよいことに、安全キャンペーンを張られ、帰還を強制されるのは何か違うと思うのです。」
(森松明希子「〈母子避難の手記〉苦悩を超えて、訴訟を決意するまで」『母子避難、心の軌跡−家族で訴訟を決意するまで』2013. かもがわ出版. p. 104)
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この手記は2013年のものですが、今も状況は変わっていません。

森松さんは、まだ小さかった2人のお子さんと共に大阪に避難されました。
医師であるご主人は、お仕事の関係もあり、福島にとどまっておられます。

今までの往復の交通費を聞いてびっくりしましたが、それさえも、「家族が離れて暮らすことを選んだのは自分たちだ、勝手に避難したのだから文句を言うな」と切り捨てられてよいものなのでしょうか。

ところで、「避難するかしないか」を決める際に、何が頼りになるのでしょうか。
できれば国には誠実な態度をとってもらいたいですが、有事の際にどこまで求めるのかは難しいところです。

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「班目らはこの夜、閣僚らが集まった官邸地下中2階の小部屋と5階の首相執務室を行き来しながら、記憶を頼りに菅に助言を続けた。結局、保安院から班目に第1発の図面が届くことはなく、政府の対応は終始後手に回る。
「東電が送れって言うから、一生懸命電源車を送ったわけ。着いて「ああ良かった」と思ったらプラグが合わない、配電盤もやられているという。何をやっているのかねと思ったよ」
 菅はこうして専門家と呼ばれる人々への不信感を募らせ、情報がないまま、手探りで事故対応や住民避難の指揮を執ることになった。これが後に「官邸の過剰介入」と批判される行動に彼を走らせることになる。」
(共同通信社原発事故取材班 高橋秀樹編著「第二章 爪痕」『全電源喪失の記憶−証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』平成30年3月2刷. 新潮文庫. pp. 103-104)
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「恐らく、大事な時に「状況規定」を大きく誤ったのが、当時の首相だった菅直人さんだったと思う。彼は、中小企業のオヤジよろしく、東電などで怒鳴り散らしているだけだった。本当にやらなければならなかったのは、官邸内で情報を集め、政策の優先順位を速やかに決定し、「今、やらなければならないことはコレです!」と表明すること。
 実は、ぼくが「復興構想会議」を任された時、驚くことに彼には方針がなかったんです。「何から手をつけますか?」と聞いても、「それを含めてお任せします」と言った総理大臣には、初めて会いました。それこそ、まさに「状況規定」ですよね。」
(御厨貴「第15章「権力の館」を語る」『権力の館を考える』2016. 放送大学教材. p. 334)
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当時の状況がよくわかるエピソードです。

しかし、混乱の中では、どの地域にどれだけの放射線が降っているのか「正確な量」を測ることは難しかったのかもしれません。
ただ、「最低でもこれだけの量を浴びている」ことは、わかっていたと思われます。

そこで問題になるのが、「じゃあそれは健康に影響がないのか」ということです。

つい先日、3月4日(水)、福島地方裁判所203号法廷(遠藤東路裁判長)にて、子ども脱被ばく裁判第26回口頭弁論が行われました。

山下俊一氏を証人として尋問をした法廷のレポートが、3月7日(土)、弁護団長の井戸謙一氏より報告されています。

特に(4)番が衝撃です。
「37兆分の1の過小評価を招く表現」……Σ(゚д゚lll)
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山下俊一福島県放射線健康リスク管理アドバイザー(事故当時)を証人として尋問をした法廷のレポート
2020年3月7日
子ども脱被ばく裁判第26回口頭弁論期日のご報告
弁護団長 井 戸 謙 一

 さる3月4日、山下俊一氏の証人尋問が行われ、この裁判の終盤の大きな山を越えました。弁護団としては、万全の準備をして臨んだつもりでしたが、振り返れば反省点が多々あります。しかし、獲得した成果も大きかったと考えています。

 山下氏は、尋問前に提出書面で、自分が福島県民に対してしたのは「クライシスコミュニケーション」であり、住民のパニックを抑えるためには、わかりやすい説明が必要だったのだと正当化していました。しかし、いくら緊急時であっても、住民に嘘を言ったり、意図的に誤解を誘発することが正当化されるいわれはありません。私たちは、山下氏がした具体的な発言の問題点を暴露することに重点を置きました。

 山下氏は、福島県内の講演では、ゆっくりと余裕を感じさせる話しぶりでしたが、法廷では、語尾が早口で消え入るように小さな声になり、緊張感が窺えました。尋問によって山下氏に認めさせることができた主な点は、次のとおりです。

(1) 100ミリシーベルト以下では健康リスクが「ない」のではなく、正しくは「証明されていない」であること

(2) 国際的に権威ある団体が100ミリシーベルト以下の被ばくによる健康影響を肯定しているのに、そのことを説明しなかったこと

(3) 「年100ミリシーベルト以下では健康被害はない」との発言は、単年だけの100ミリシーベルトを前提としており、連年100ミリシーベルトずつの被ばくをする場合は想定していなかったが、住民には、連年100ミリシーベルトずつの被ばくも健康被害がないとの誤解を与えたこと

(4) 「1ミリシーベルトの被ばくをすれば、遺伝子が1つ傷つく」と話したのは誤解を招く表現だったこと、すなわち、実効線量1ミリシーベルトの被ばくをすれば、遺伝子が1つの細胞の1か所で傷がつき、人の身体は37兆個の細胞でできているから、全身で遺伝子が37兆個所で傷つくことになるから、自分の発言は、37兆分の1の過小評価を招く表現だったこと

(5) 子どもを外で遊ばせたり、マスクをするなと言ったのは、リスクとベネフィットを考えた上のことだったこと(すなわち、子どもを外で遊ばせたり、マスクをしないことにはリスクがあったこと)

(6) 水道水にはセシウムが全く検出されないと述べたのは誤りだったこと

(7) 福島県民健康調査で福島事故後に生まれた子供に対しても甲状腺検査をすれば、多数見つかっている小児甲状腺がんと被ばくとの因果関係がわかること

(8) 鈴木俊一氏がいうように、福島県民健康調査で見つかり摘出手術をした小児甲状腺がんには、手術の必要がなかったケースは存在しないこと、

 被ばく医療の専門家が住民に対してこれだけ多数の虚偽の説明をした目的は何だったのか、山下氏を利用した国や福島県の意図はどこにあったのか、今後、これらを解明していかなければなりません。弁護団は、これから最終準備書面の準備にかかります。裁判は、次回の7月28日午後1時30分からの弁論期日で結審します。年内か年明けには判決が言い渡される見通しです。最後までご支援をお願いします。
以上
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子ども脱被ばく裁判のブログ: 第26回子ども脱被ばく裁判期日報告と感謝
2020年3月10日火曜日
http://datsuhibaku.blogspot.com/2020/03/26.html?m=1

3月4日午後、福島地裁203号法廷(遠藤東路裁判長)
証人尋問のため出廷した山下俊一氏の発言
【子ども脱被ばく裁判】「言葉足らずの講演だった」。9年後の〝ミスター100mSv〟が法廷で語った今さらながらの「釈明」と「お詫び」。甲状腺ガン「多発」は強く否定 - 民の声新聞
2020/03/05 06:42
http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-424.html
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現在、滋賀県で弁護士をしておられる井戸謙一氏は、以前は裁判官をしておられました。
「被告は志賀原発二号機を運転してはならない」との主文を読み上げた、驚きの判決。

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「「ひとつ誤解しないでいただきたいのは、志賀原発訴訟の判決は、原発政策そのものを否定したものではなかったということです。原発を動かすのなら、ちゃんと安全性を高めてほしいという趣旨でした。わたし自身、当時は電力供給の観点から原発は必要だろうと考えていましたから」
 しかし、今は違う。弁護士として、一市民として「原発という危険なものは、即時停止すべきです」と発信している。」
(磯村健太郎「第一部 第二章「真冬なのに体中から汗が噴き出した」北陸電力・志賀原発二号機訴訟 一審裁判長(金沢地裁/二〇〇六年/原告勝訴)井戸謙一さんの証言」磯村健太郎・山口栄二『原発に挑んだ裁判官』2019. 朝日新聞出版.  p. 85)
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地裁で住民側が勝訴したこの訴訟は、高裁で住民側が逆転敗訴しました。
そして2010年秋には、最高裁で住民側の敗訴が確定しています…。

私は、「虚偽の説明をされた不信感」というのは、誰にも経験があると思っています。
その気持ちを政府に向けなければならないストレスを感じている人も、多いことでしょう。
しかし、そのことにより直接、「自分や、未来のある子どもの生活が左右された経験がある人」とそうでない人との間には、おそらく埋められない溝があるのだろうとも思っています。
自分だったらどうするだろう…と想像してみますが、答えは出ません。

現実に目を向けると、避難するにしても、しないにしても、どちらかを選ばないといけません。
その際、「避難しない」ことは、「現状維持」ではなく、「リスクを覚悟でとどまる選択を新たにすること」と、同義になるでしょう。

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森松さんは、「避難する権利」と「避難の権利」を明確に分けておられます。
避難することも、とどまることも、「避難の権利」には含まれています。

2020年3月11日現在、避難した人、とどまった人、帰還した人、が受けた被害を回復するための施策の情報を、私はまだ収集できていません。

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「本来、国は、国賠法上の責任があると否とにかかわらず、本件事故の被害者に対し、避難した被害者、滞在を続けた被害者のそれぞれの選択に応じて、憲法に規定された人権保障を全うするための施策を講じなければならない。まして、本件においては、国には、本来、行使すべき規制権限を行使することなく、結果、本件事故を起こした責任が存在するのであって、国が、本件事故の被害者に対して、直接、被害回復のための施策を推進する義務を負っていることは明らかなのである。
 そうであるにもかかわらず、国はそのような施策を講じることなく被害者を放置している。このような国の姿勢は、憲法が規定する人権規定、子どもの権利条約(六条、九条、二四条)及び「国内強制移住に関する指導原則」の趣旨に明らかに反するものである。」
(中島宏治(原発賠償関西弁護団、弁護士)「〈寄稿〉「「究極の選択」を強いたのは誰か−なぜ原発賠償関西訴訟が提起されたのか」『母子避難、心の軌跡−家族で訴訟を決意するまで』2013. かもがわ出版. pp. 161-162)
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6、「風評被害」という言葉

灘高校の先生が主催された、わりと大きな集いの場で、「風評被害と言うが、本当に「風評」なのか」という発言がありました。
声の主は、森松さんでした。

私は今まで、「風評被害」という言葉に何の疑問も持っていませんでした。
むしろ、これから頑張ろうと前を向いて歩き出した人たちになるべく失礼のないように積極的に使うべき、とさえ思っていました。

それは間違いとは言えません。
けれども私は「風評被害」という言葉をきちんと理解して使っていたわけではありません。
これはやばいと思いました。

そこで、そもそも「風評被害」って何だろうかというところから調べてみました。
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「したがって,本稿では風評被害を,「事件・事故・災害等が発生したとき,それによる直接・間接の被害が存在しないにもかかわらず,流言やうわさのみに基づいて生じる被害のこと」と定義したい。」

特集 震災復興と観光
風評による被害を考える−発生メカニズムから低減方策まで−
運輸と経済 第72巻 第1号 '12.1
大橋智樹(宮城学院女子大学心理行動学科教授)
http://www.mgu.ac.jp/~ohashi/docs/2012transportation_and_economy.pdf
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もともとはマスコミ用語だったものが、今は「事実上そのまま学術用語に流用」されているようですね。

被害が存在していないのであれば「風評被害」と言えそうです。
しかし、被害が存在しているのであれば、それは「実害」と言うのが正しいのかもしれません。

気になるのが、「”正しい知識の提供”では風評被害を防げない」と注意されている部分です。
専門家が、”科学の言葉”で客観的事実を伝えてくださるのであれば、私たち非専門家はそれを素直に聞いて、自分の行動の選択に活かせるはずです。
しかし、実際にそうなっているでしょうか。

私たち非専門家は、「恐怖や不安といういわば”感情の言葉”で共感を得ようと」します。
しかし、”科学の言葉”は、”感情の言葉”に勝つことも知っています。
その結果、私たち非専門家は、少々の不安があったとしても「口をつぐむ」ことになってしまいます。

けれども、「恐怖や不安が非常に強い場合」は、「口をつぐむことなく」、”科学の言葉”を使って、反論を開始するようになります。
しかし、科学という同じ土俵で、専門家と非専門家が議論をしたところで、お互いの理解が深まるとは思えません。

なぜなら、なぜ素直に聞かないのか、というそもそもの理由は、「信頼関係が構築されていない」からです。

もし、段階の1つめで間違った情報を出し、2つめからはずっと正しい情報だったとしても、最初の疑念が晴れることは難しいと言えます。

語弊があるかもしれませんが、国が少々頼りない状態であったとしても、正確な情報を出してもらっていれさえすれば、自分で考えて決めることができます。
しかし肝心の情報が間違っていたり、そもそも情報が出されていない場合には、こちらとしては何を頼りに決めたらいいのかわかりません。

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「したがって,このような事態でわれわれに必要だったのは,想定シナリオがうまくいかなかった場合の代替案ともいえる”プランB”を多くの専門家が協力して作るための仕組みであった。そのためには,全国の科学者が組織する学術会議と政府との間に定期的な会合を設置して,科学者が可能な協力・支援に関する意見交換を行うべきだったと思う。今回の場合は科学者の側でも並行して,大気汚染モデルなどを急遽,転用して緊急の計算を開始していたので,それらを政府に迅速に伝えることや,SPEEDIの運用を補足するような計算について一緒にできることを考えることなどができたのではないかと思う。そのような情報発信プロトコルを今後,確率する必要がある。」
(中島映至「原発事故−危機における連携と科学者の役割」御内隆之・調麻佐志編『科学者に委ねてはいけないこと−科学から「生」をとりもどす』2013. 岩波書店. p. 35)
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「厚労相としては、放射性物質対応の初動時から「データをすべて公表すること」「科学的に得られた知見と合理的な判断に基づき対応すること」を徹底した。その結果、厚労省の対応には一定の理解が得られたと信じたい。厚労相としては、合理的なリスクコミュニケーションを行ったと思う。もちろん。反省および改善すべき点はあるので、十分に検証して今後の対応に活かさなくてはならない。」
(大塚耕平「3章 科学の信頼と日本の未来」『3.11大震災と厚労省−放射性物質の影響と暫定規制』. 平成24年. 丸善出版. p. 155)
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今回の場合は、5番で見てきたように、1つめの対応が正しかったとは言えないと思います。
2つめから先が正しかったのかどうかは、今の私にはわかりません。
きっと、正しいこともあれば、そうでないこともあるのでしょう。

ただ一つ私がわかっていることは、「科学者同士でも議論がわかれている汚染が「当時も今も」存在する」ということです。

専門家は、「ここまではわかっている、しかしここから先はわかっていない」というラインを引くことができます。
じゃあ、ラインを引けない場合はどうするんだと。

マスコミはしばしば、「確実なこと」と「そうでないこと」を混在して報道します。
そのことがすぐに悪に結びつくわけでもなく、むしろその逆もあるわけですが、しかし弊害が大きくなる場合は、私たち一般の視聴者は、かなり気をつけて情報を見ていく必要があるのだろうと思います。

ここまで、国≒専門家、としてきました。
しかし、「専門家」の定義は難しいですね…。

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「もちろん、理解を示す記者も多い。しかし、事実を報道するというよりは初めに結論ありきで、一定のストーリーを前提として質問する記者もいる。今回の場合は、リスクサイドに立つことを前提にしたストーリーである。そうした姿勢での報道はかえって国民の不安を助長する結果となりかねない。
 筆者としては、繰り返し同じことをいうしかない。偽らざる心境だ。問題は、あえてそういわなければならない背景である。つまり、自治体や生産者の間では、検査に取り組む姿勢にバラツキがあるほか、消費者の過剰反応もある。
 さらに問題なのは、消費者の不安や過剰反応を煽るような発言を繰り返す有識者がいることだ。そうした言動が、結果的に自治体や生産者を心理的に追い詰める。「検査しないですむなら検査したくない」という微妙な潜在意識につながる。
 放射性物質に対する正しい理解、検査努力、情報公開、ルールに基づいた規制。これらの徹底が、これからの日本にとって最も重要なことである。
〔中略〕
 「公表されたら風評被害で産地は壊滅だ」「出荷制限はしばらく待てないのか」。そういう雰囲気であり、その気持ちは理解できる。
 しかし、初動で対応を間違えると、農畜産物に対する消費者の信頼は失われ、結果的に生産者は風評被害にさらされる。その懸念を自治体や生産者に愚直に訴えるしかない。」
(大塚耕平「2章 暫定規制と出荷制限」『3.11大震災と厚労省−放射性物質の影響と暫定規制』. 平成24年. 丸善出版. p. 73-76)
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本当は「ある」のに、「なかった」ことにしていいのだろうか?
「ない」から安心してくださいね〜ということではなくて、「ある」けどどうぞ〜、という方が誠実なんだろうなぁと思ってみたり…

放射性物質はもうないよ、ってことだったら、「ない」と言って良いと思います。
けれども、まだ残っているのに、「ないよ」、ということは、どうなんだろうか…。

もしそれを隠してしまった場合、つまり、「ある」のに「ない」ことにしてしまった場合、検査も検証もなされないことになりますが、果たしてその状態は健全と言えるのか…。

危険があるかもしれないとわかっているのに、目をつむっていることは、その地に住んでいる人たちだけの問題と言えるのか…。

ここで難しいのは、やっぱりその地に残っておられる方の気持ちをどう考えたらいいんだろうか、ということです。

私はざっくりなので、「これくらいのネガティブなことあるけど許容範囲なので、リスク覚悟で住んでます」と言えるけど、そうじゃない人も多いでしょうし、「ないことにしてほしい」と思われる気持ちも、わからなくもありません。

大事なことは、そのことを、専門家だけが考えるのでも、私たち非専門家だけが考えるのでもなくて、「一緒に」考えていくことなのではないかなと思っています。
だって、人数の割合を考えたら、圧倒的に非専門家の方が多いのです。

感染症を拡大させないためのプレーヤーが専門家だけに限らないことと同じで、私たち非専門家一人ひとりの行動こそが、幸せな社会に近づいていくのだと言えば、大げさでしょうか。
でもいいんです、だって私はいつも理想主義者なんです。

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「最初に述べたように,専門家だけではなく,市民も意思決定に参加することがリスク・コミュニケーションでは求められているのであり,またそのためにこそ,この用語が生まれてきたのである。多くの人が非公式なつながりの中で知恵を結集していく手法は,リスク・コミュニーションにおける市民参加の新しい形を予感させる。」
(吉川肇子「リスク・コミュニケーションのあり方」御内隆之・調麻佐志編『科学者に委ねてはいけないこと−科学から「生」をとりもどす』2013. 岩波書店. p. 111)
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とはいえ、現実に戻って考えますと、結局、どうすれば良いのかわからないままです。
そもそもこの投稿は、実はこのことを整理したくて書き始めました。
勉強会で議論されている内容を少しでも理解するための自分の備忘録というか。
だから本当は、この6番だけを書くつもりだったのです。

ところが、知らないことが多すぎて、調べているうちにどんどんどんどん長くなってしまいました…。

みんな当たり前に知っていることなんだろうか。
私だけが知らなかったんだろうか。
もしそうだとしても、自分でまとめることは私にとって有意義です。
それにもしかしたら、10人くらいは知らない人もいるかもしれないし。

そして、いつも考えていることが、今回も登場してきました。
「科学者と非科学者とをつなぐ【橋渡しする役目】」が必要なんだろうなぁと。

それは、翻訳する人であったり、一緒に使えるシステムであったり、なんでもいいと思います。
今やテクノロジーはかなり発達しているわけですから、そんなに遠くない未来には、いい関係ができるんじゃないかなぁ、と、やっぱり私は理想的なことを考えています…。

「カミトクは何を呑気なことを言ってるんだ!」と思われる方も多いかもしれません。
しかしそもそも、ここまで読んでくださっている時点でその方は、どんな意見も尊重する、全体主義的な傾向を回避する、というスタンスでいらっしゃると思いますので、私は安心しています。

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「この点に関連して重要なのは、「風評被害」という言葉のもたらす作用である。被害地域の生産物にまったく汚染の影響がないのであれば、文字どおり風評被害だが、汚染がゼロでないのであれば、そこに「風評被害」の語を充てることは基準値内の汚染は無害であるという言説にほぼ等しい。上記のように、被曝によるリスクの重みづけは個人の属性により異なるから、基準値内であっても健康への影響を心配する人はいるのだが、評価の異なる他者(しばしば家族である場合もある)との対立や「風評被害」を恐れて、被曝について話題にすることを避ける傾向が生まれる。藤川賢が懸念を表明しているように、これによって被害を語ることへの自制と抑制が生み出され、被害地域に閉塞感をもたらすのではないか。(6)。全国的にみれば、むしろ事故被害の忘却・風化が進む可能性すらあろう。そもそも、風評被害の本来の意味からすれば、今回の事故のように「科学者同士でも議論が分かれるような汚染が存在する以上は、もう、それは風評被害の範囲を超えている」というべきである。(7)。」

(6)藤川賢「被害の社会的拡大とコミュニティ再建をめぐる課題−地域分断への不安と発言の抑制」除本理史/渡辺淑彦編著『原発災害はなぜ不均等な復興をもたらすのか−福島事故から「人間の復興」地域再生へ−』ミネルヴァ書房、2015年、50-56頁
(7)関谷直也『風評被害−そのメカニズムを考える』光文社新書、2011年、197頁
(除本理史「終章 不均等な復興を超えて」『公害から福島を考える−地域の再生をめざして』2016. 岩波書店. pp. 174-175. p. 195)
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7、「原発被曝労働者」の雇用問題

私は先月、大阪弁護士会館にて、いわゆる山形判決(山形地判令元12・17)の勉強会に参加しました。
(キーワード:切迫性(危険性とのバランス)、予見可能性の有無に予見可能性の程度を取り込んでいる?、「中間指針」の基準の合理性の判断は?、居住・移転の自由の侵害はないと判断された、年間20ミリシーベルト以下の被ばくは国際的な基準に照らしても許容されるものであるとの判断がなされているが→低線量被ばくの危険性の過小評価(エリア指定…国会でも追求)「積算」、「長期評価」に対する評価が低い、etc)

この訴訟は、「一般公衆」が提起する訴訟で、現在全国で提起されている多くが、このタイプです。

『原発労働者』(寺尾紗穂著. 2015. 講談社現代新書)は、この勉強会の会場で紹介された本です。
勉強会で私は半分も理解できていなかったため、今後の助けになればと思い、購入しました。

文字通り、「原発で労働する者」を取材されています。
「被ばくを覚悟して」労働し、対価を得る人のことが描かれています。

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「「原発労働者に話を聞きたい」
 私にそう強い思いを抱かせたのは、樋口健二『闇に消される原発被爆者』というルポだった。この本は1980年くらいまでの原発労働者たちを追い、思い口を開いてもらって書かれた貴重な証言集になっている。
 それならば私は、できれば2000年代の原発労働経験者を中心に、近年の原発労働の実態を知りたい。幸い、樋口さんが一人ひとり証言者を探し当てたころに比べれば、いまはメールやブログ、SNSが発達している。証言者を探すのは以前ほど難しくないだろう、といくらか楽観的に考えていた。
 しかし、実際はそれほど簡単な話でもなかった。」
(寺尾紗穂「まえがき」『原発労働者』2015. 講談社新書. p. 3)
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私は「原発労働者」の実態について、なんとなくは知っていました。
しかし想像をはるかに超える内容にびっくりして、この本で紹介されていた他の本も注文しました。

原発に関する訴訟は、なんとなく一括りにされてしまいがちです。
しかし、大きく3つに分けることができるのかなと。
(間違ってるかもですが)

1. 「ふつうの暮らし」を守るため
2.  原発の作業によって労働災害を受けたため
3.  原発の稼働をやめてほしいため

原発事故被害救済訴訟の現状と課題
川岸卓哉さん(弁護士・「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故被害弁護団)
2018年1月15日
http://www.jicl.jp/old/hitokoto/backnumber/20180115.html

私は普段の仕事で、いわゆるバックヤード、と呼ばれる部門について考えています。
経理や会計や財務のことは会計士さんや税理士さんに相談しますし、法律の問題は弁護士さんに相談します。
しかし、雇用問題に接することも多いので、その時は、社会保険労務士さんに相談しています。

つまり、私にとって労働災害は、いわば身近な問題とも言えます。

正直なところ、原発の仕組み、といった技術的な問題は、私には難しすぎて、なんのこっちゃ、という感じです。
だから私が読む本にはものすごく偏りがあります。

しかし私は、自分が少々わかる分野で、「えっ、それってどうなん?」という疑問を自分なりに解きほぐしてから、次に進もうと思っています。

けれども、反対を唱えないということは、言い方を変えますと、現在の国策にYESと言っているのと同じことです。
もちろん選挙の時には原発のことばかりが論点ではないのですが、非常に悩む部分ではあります。

★ちなみに私の机の上に積まれた本の一番上で、『NPOと労働法』(渋谷典子著. 2019. 晃洋書房)が順番を待っています…

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「被ばくを覚悟して」と書きました。
しかし、当然ですが、【労働者の権利】は守られねばなりません。

まずわかりやすいところで言えば、法令違反がないかどうか、です。
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「福島労働局が行う廃炉作業を行う事業者に対する監督指導結果では、11年に監督実施を行った事業者のうち74.5%の事業者に労働基準関係法令違反があり、17年上半期の監督実施でも39.7%の事業者に法令違反があった。とくに、労働条件の明示、定期・割増賃金の支払い、法定労働時間、就業規則の作成・届出、賃金台帳の作成、元請の下請に対する指導、といった項目での法令違反が多い。除染作業を行う事業者の違反率はさらに高く、13年上半期で68.0%、17年上半期で54.9%の法令違反が報告されている。」
(被ばく労働を考えるネットワーク「第4章 原発労働者の健康と安全の確保に向けて」『原発被ばく労災 拡がる健康被害と労災補償』. 2018. 6月.  三一書房. p. 203)(以下、『原発被ばく労災』、という)
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違反率はかなり高い割合のようですが、しかし徐々に下がってきています。

次にどんなことが問題になるのか、具体的に大きなものをまとめてみました。

〈気になる点〉
(1)放射線による健康問題
(2)雇用の形態(重層下請け構造)
(3)労災の認定
(4)労災認定後の損害賠償

以下、順に見ていきます。

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(1)放射線による健康問題

・「健康管理手帳」が発行されていない
→すべての者に発行すべき
労働者安全衛生法第67条は、ある職種(粉塵作業、コークス、石綿、発がん性の薬品を取り扱う仕事)についた退職者には、「健康管理手帳」を発行し、年1回ないし2回の健康診断を無料で受けることができる制度を規定しています。
しかしこの対象に、放射線業務従事者は含まれていません。
(理由)放射線被ばくによる発がん等の健康影響にはしきい値がなく、統計的に有意差が現れない低線量であってもそれに応じた影響があると考えるのが、定説になっている。

・健康診断の対象となる人の割合が少ない
→すべての者に無料で受診させるべき
事故後5年間の全労働者数は約4万7千人ですが、国による検診が受けられるのは、わずか904人です。

・特例緊急被ばく限度250シーベルトの撤廃
→廃止すべき
国際基準に違反しているおそれがあることと、そもそも「特例緊急作業従事者」の制度は、労働安全衛生法25条と矛盾しています。

・被ばく管理が一元化されていない
→制度改正をすべき
所管の違う2つの法律で、義務を負わせる対象が異なっており、責任が曖昧になっています。
原子力規制委員会:「炉規法」(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律):発電用原子炉設置者(電力会社)
厚生労働省:「安衛法」(労働安全衛生法):事業者(雇用業者)

・被ばく線量の上限の問題
→日本の制度では現在、短期間の大量被ばくを防ぐ形になっていませんが、フランスのように根拠のある数字にすべきです。
また、内部被ばくの測定は現在、ガンマ線のみとなっていますが、内部被ばくで深刻であるアルファ線、ベータ線の測定もすべきです。
さらに、線量計の装着の時間帯は現在、業務時間のみとなっていますが、その他の被ばくしている時間帯も考慮されるべきです。

(以上、『原発被ばく労災』. pp. 184-195)

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(2)雇用の形態(重層下請け構造)

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「このような労働者は本来、労働組合が守らなければならないのに、労働組合の取り組みが見えてきません。そうした意味では、労働組合の社会的な役割もいま鋭く問われていると思います。
 また、原発労働については、下請け・孫請け・ひ孫請けと人夫出し(単純労働の斡旋をして利益を得る者)の実態がこれまでにも報告されてきました。例えば、電力会社から元請けに払われる日当は七万円ですが、何重にも重なる中間搾取のために、実際に働いている労働者に渡るのはわずか一万円にすぎないといった実態が報告されています。これほどひどい労働実態なのに、なぜ日本のマスコミはもっと報道しようとしないのでしょうか。最も過酷な労働現場で働いていて、身をもって事故のさらなる拡大を防いでいる人たちの労働の問題は、本来もっと光が当てられなければならないと感じています。」
(宇都宮健児「人間の復興を目指して」日本弁護士連合会『検証 原発労働』2012. 岩波ブックレット827. pp. 3-4)
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「原発労働者は使い捨てが当たり前とみなされ、容易に交換可能な労働力として扱われており、労働者の権利がないがしろにされている。下請け労働者は建設業と同様の重層下請構造の末端に組み込まれ、多いときには六次、七次下請けという場合もある(電力会社は二次下請けまで、多くても三次までしか認めていない)。労働者を使うには都合のよいシステムだろうが、このような重層下請構造が違法・不正の温床となっている。」
(『原発被ばく労災』 pp. 203-204)
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これらの文章を読むとびっくりします。
ただ、最近ではもしかしたら、状況が変わってきているのかもしれません。

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「なお、「原発ジプシー」ということばに関連して、ひとつだけ付け加えておくと、最近では、私の知るかぎり、各原発では釜ケ崎などの日雇い労働者をほとんど雇わなくなってきている。身元の不確かな者たちが原発で大勢働いている、という話がひろまっていたことへの電力会社の対策の一環ともいわれ、最近では原発周辺地域住民のなかから労働者を募集することが増えている。このことからすると、各地の原発を渡り歩く日雇い労働者のその存在はもとより、「原発ジプシー」ということば自体、やがて近い将来消え去ってしまうのかもしれない。」
(堀江邦夫「跋−もしくは「最終章」として」『原発ジプシー[増補改訂版]−被曝下請け労働者の記録』2011. 現代書館. pp. 346-347)
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とはいうものの、そのことをもって重層下請け構造が解消されているかというと、そうとは言い切れません。

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「放射線被ばくの危険を抱えながら福島原発 事故の収束作業に実際に従事しているのは、原 発事業者(発注者)である東京電力の労働者で はない。ある報告によれば、東京電力の下に は、修理作業の場合には東電 3 社といわれる元 請(元方事業者)および原子炉等のメーカーで ある元請に始まり、常駐下請会社、地元専門業 者、そして労働者派遣会社といった順に請負が 繰り返され、大量被ばくを伴う現場作業に従事 するのは多くは末端の労働者派遣会社(人夫出 し会社)の派遣労働者である。福島原発事故で の収束作業は事業場内下請であるが(直接の使 用者しか労務指揮はできない)、ここでは労働者派遣と極めて類似した指揮命令系統(直接の 使用者ではない元請等が労務指揮をする)が作 用している (3)。しかし、こうした関係の下では 労働法上の関係は錯綜し、責任の不明確化が生 じやすい。 
3) 渡辺博之「現場からの報告」前掲『検証 原発労働』52頁 以下。 

特集2 ◆福島の原発事故に対する法的対応と課題
多重下請け関係にある原発事故作業現場の法的問題
学術の動向 2014.2
和田 肇 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/19/2/19_2_72/_pdf
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ということで、重層下請け構造は現在もある、ということを前提にして、考えていきます。

いわゆる、「非正規な働き方」は、希望するかどうかは別として、既に私たちの社会では一般的とすら言えます。
雇用者の38%は非正規であるとの報告があります。

労働力調査(詳細集計)2019 年(令和元年)平均(速報)
令和2年2月14日
総務省統計局統計調査部労働力人口統計室 審査発表第一係・就業動向指標第一係 
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/index1.pdf

フルタイムの正社員以外の雇用形態の種類は、主に7つです。

1.派遣労働者
2.契約社員(有期労働契約)
3.パートタイム労働者
4.短時間正社員
5.業務委託(請負)契約を結んで働く人
6.家内労働者
7.自営型テレワーカー

さまざまな雇用形態(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/koyoukeitai.html


このうち、1〜4までが労働者、5〜7までが事業主、と呼ばれています。

労働者、使用者、賃金の定義は以下です。
【労働基準法】
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

「働きます」という側の労働者は、「雇います」という側の雇用者と、【労働契約】を結びます。
しかし、多くの場合は力関係が対等ではないため、労働者は【労働法】で保護しましょうね、ということになっています。
【労働法】とは、一つの法律の名前ではなく、労働問題に関するたくさんの法律をひとまとめにしたものを言います(労働基準法、労働組合法、男女雇用機会均等法、最低賃金法など)。

知って役立つ労働法(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000044295.pdf


これに対して、事業主は、文字通り、事業の主で、自由度が高いです。
ですので、特に何かで保護されるわけではありません。
(しかし個別の契約や大きい概念の法、政治判断等での保障はあります)

どちらかというと、何かを守れとか、お金を払えとか、そういうことを言われます。

No.6109 事業者とは(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6109.htm

事業主の方へ(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/index.html


5.業務委託(請負)契約を結んで働く人
事業主と呼ばれていても、指揮命令系統の存在が認められる場合には、労働者として判断されます。
また、発注者と請負会社が請負契約を結び、その請負会社と雇用契約を結んだ方は「請負労働者」となります。
おそらく「下請労働者」という言葉は、そういった意味を含んでいるのだろうと思われます。
ちなみにこの場合ですと、請負労働者に指揮命令するのは、発注者ではなく、請負会社です。
「下請労働者」はもちろん、【労働法】で守られます。

6.家内労働者
【家内労働法】
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000060
家内労働について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/hourei/index.html

7.自営型テレワーカー
テレワーク総合ポータルサイト(厚生労働省)
https://telework.mhlw.go.jp
(↑雇用型、自営型、両方入ってます)

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さて、原発労働の現場では、下請の多くの重なりが問題となっていました。
そういった場合、雇用契約を結ばずに仕事に入ることも多くなります。
ですので、ご自分の賃金がどこから出ているのかわからないこともあるそうです。
その場合はもちろん、使用者責任をどこに追求すればよいのか特定するのは難しくなるでしょう。

派遣と下請の違いについては、こちらを参照ください。
どこから指揮命令されているかが、ポイントです。

派遣と請負の違いは | 茨城労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/ibaraki-roudoukyoku/yokuaru_goshitsumon/jigyounushi/jigyounushi_e/qa_jhaken_ukeoi_chigai.html

重層下請け構造の弊害を見る前に、派遣について見ていきます。

「多重派遣」は違法です。
その理由は主に2点あります。

1、中間搾取の排除(中間企業が入ると労働搾取されるおそれがあるため)

【労働基準法】
第六条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
→罰則
第百十八条 第六条、第五十六条、第六十三条又は第六十四条の二の規定に違反した者は、これを一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
→両罰規定
第百二十一条 この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。ただし、事業主(事業主が法人である場合においてはその代表者、事業主が営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者又は成年被後見人である場合においてはその法定代理人(法定代理人が法人であるときは、その代表者)を事業主とする。次項において同じ。)が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない。
○2 事業主が違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかつた場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた場合又は違反を教唆した場合においては、事業主も行為者として罰する。

2、労働者供給事業の禁止(労働者に対する責任の所在が不明瞭になるため)

【職業安定法】
第四十四条 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
→罰則
第六十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、これを一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
〔中略〕
九 第四十四条の規定に違反した者


なお、造船業や建設業では、派遣業務そのものが禁止されています。

【労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)】
第四条 何人も、次の各号のいずれかに該当する業務について、労働者派遣事業を行つてはならない。
一 港湾運送業務(港湾労働法(昭和六十三年法律第四十号)第二条第二号に規定する港湾運送の業務及び同条第一号に規定する港湾以外の港湾において行われる当該業務に相当する業務として政令で定める業務をいう。)
二 建設業務(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務をいう。)


しかし、下請けは禁止されていません。
ただ、原発労働の現場と同じように、重層下請け構造による弊害が指摘されています。
主に2点です。
1、雇用関係や労働条件が不明確であり雇用が不安定になる。
2、労働災害や賃金不払いが多く発生する。

これを是正するために、国では対策を講じています。

建設・港湾労働対策(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kensetsu-kouwan/index.html
【(建労法)建設労働者の雇用の改善等に関する法律(昭和五十一年法律第三十三号)】
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/koyoukanrikensyu.html

じゃあ、原発労働の現場でもなんとかならないのだろうか、と思いますよね。
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「建設業や造船業の元請けは労働安全衛生法第30条の特定元方事業者とされ、下請けの事業者との協議組織の設置や作業場所巡視など、連絡調整の義務が課される。また、同様の連絡調整の義務は、構内請負構造がもはや普通になっている製造業でも課されるようになった(同法第30条の2)。現行では発注者にすぎない電力会社に、せめて建設業や製造業のように連絡調整の義務ぐらいは課すべきだ。また、建設・造船同様に派遣事業を禁止するとともに、下請業者の労働法違反には上位業者や元請業者に対しても摘発・指導を行い、電力業者にも解決の責任を負わせるべきである。このような取り組みを進めることで、原発における重層下請構造の根本的転換が求められる。」
(『原発被ばく労災』. p. 204)
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(以上、『原発被ばく労災』. pp. 184-205)

ところで、下請労働者も労働法で守られる、と書きました。
つまり、下請労働者は、労働組合を作ることもできます。

【労働組合法】
(目的)
第一条 この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。
2 刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。

「全日本運輸一般労働組合(現・建交労)原子力分会」は、1981年に結成されました。
敦賀原発の下請労働者を中心に組織された組合です。
(現・建交労)と書いてありますが、それっぽいサイトを確認しても、原子力分会というのが見当たらないので、こちらを残しておきます…
あらかぶさんを支える会(2018/04/23 18:30 に更新)
https://sites.google.com/site/arakabushien/news/20180526

斉藤征二さん(1940年)は、20項目要求で組合を立ち上げられたそうです。
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「これからみなさんと考えていきたいことは、こういう環境のなかで働く労働者をどう守っていくかということです。私は労働組合をつくりましたが、労働者の要求を聞いて、それに応えていくことが労働組合の役割だと思っています。一つの要求が通れば「あなた方が言ったようにウチの親方は健康保険を掛けてくれた」「賃金もちょっと上がったよ」という声が届きます。これが労働者の喜びだと思いますし、組合をつくってよかったと思えるときでした。原発労働者を食い物にしているのは大資本・権力者たちですが、私は「殺せるものなら殺してみろ!」という決意でたたかってまいりました。労働者のいのちを食い物にしているような企業は原発に限らず許されません。権力者は、弱物を食い物にし、要らなくなればポイ捨てです。こういう働かせ方を許しておいていいわけがありません。私はもう七二歳になりましたが、このことを、声を大にして言いたいと思います。」
(斉藤征二「過酷な作業を素人が担う原発」樋口健二/渡辺博之/斉藤征二著『「最先端技術の粋をつくした原発」を支える労働』2013. 学習の友ブックレット. pp. 94-95)
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「一労働者が、クビになったからと労働組合を作るのは、他の企業ならいざ知らず原発内では異例のことに違いなかった。
「戦争ってなんだろうなと、自分の心に銘記して信念として心から去ることはない。自分が原発入ってクビ切られたときね、そこに重なってきた。許してはならん」
 戦争と原発。同義で使うことはもちろんできない。しかし、一個人の前に、圧倒的な強制力をもって立ち現れた原発を前に、斎藤さんは、「戦争」に通じる絶対的な支配構造を感じとった。目に見えぬ力に翻弄されることを拒絶し、与えられた生を生きていくこと。それは、父親の不在を背負い続けた斉藤さんの、唯一の、帰らなかった父親への愛情表現だったのではないだろうか。」
(寺尾紗穂「終章 人を踏んづけて生きている」『原発労働者』2015. 講談社新書. p. 187)
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(3)労災の認定

では続いて、放射線被ばくによる労災認定の状況を見ていきます。
数字だけを見ると厳しいような気もしますが、業種別の割合から見るとどうなのでしょうか。
そこまでは調べることができませんでした…

平成30年の労働災害発生状況報道資料(厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04685.html


・福島原発事故までの45年間で、原発で働いた人:50万人以上
 →うち、「被ばくによる」労災認定を受けた人:13名
(『原発被ばく労災』「はじめに」. p. 3)

・2018年3月までに福島第一原発の収束・廃炉作業に従事した人:約6万5000人
 →うち、「被ばくによる」労災認定を受けた人:4名
(『原発被ばく労災』. p. 2)

・放射線被ばくによる業務上疾病全認定事例:69件
→うち、原子力施設の事例:20件
(現在の(!)認定基準による1976(昭和51)年以降、放射線被ばくによる業務上疾病認定件数)
(『原発被ばく労災』 資料8 p. 巻末資料16)

・職業上の放射線被ばくを余儀なくされる労働者:およそ70万人
(原子力施設、工業分野、医療従事者も含める)
→認定事例:69件という数字は、決して多くはないそうです。
(『原発被ばく労災』「第3章 被ばく労災補償をめぐる闘いの記録」. p. 91)

・原子力施設に限った事例:20件
(1999(平成11)年に起きたJCO臨界事故による急性放射線症の3名を除くと17件)
→これも割合としてはずいぶんと少ないそうです。
(『原発被ばく労災』「第2章 労災補償、原子力損害賠償とは」. p. 66)

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「現在、国内十七ヶ所の原発及び高速増殖炉「もんじゅ」などの原子力施設で働いている人々、それに各地の原発を渡り歩いている定検労働者を加えると、その総数は七万人から八万人、過去に原発とかかわった労働者は、百五十万人もの厖大な数にのぼると聞いている。
 それなのに放射線障害を認められ、救済されたのはやっと両手の指ほどの数なのだから、誰が考えたって原発労働者は不当な扱いを受けているとわかるはずである。こんなバカげた話はない。」
川上武志「第二章 ガン発症」『放射能を喰らって生きる−浜岡原発で働くことになって』2018年. 緑風出版. p 77)
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労災の認定が厳しいよ、という場合に、主に2点のポイントを考えます。
・申請したが認定されにくい
・申請すること自体が難しい

原発労働の現場では、そもそも申請自体が少ないのだそうです。

この理由は、主に3点、考えられます。

1.放射線が原因となる確率的影響は特異性がない
→日本人の死因の3割はがんで、発病は5割といわれます。
放射線被ばくによるリスクが高まったとしても、当のご本人が思い当たるほど際立っているとはいえません。
よって、家族も医師も、気に留めることがない、ということになります。

2.放射線は、痛くない
→ベータ線量の局所被ばくのように、時期や場所がはっきりした高線量の被ばくでさえ、その時に痛いと感じるわけではないのだとか。
ましてや、低線量の被ばくは…気づかないまま時が経ってしまうのでしょうね。
例えば、職場で新型コロナウイルスに罹患したとしても、気づかないまま治ってしまった場合を考えるとわかりやすいかもしれません。
ウイルスが外に出てしまって重篤な肺炎にならずそのまま終わる場合と違い、放射線の影響というのは徐々に体を蝕んでいく性質があることを考えますと、厄介な問題とも言えます。

3.放射線被ばくの記録が当人のもとにあるか
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「法令は、事業者に従事者の被ばく線量の記録と放射線業務従事者に義務づけられた特殊健康診断の記録を30年間保村する義務を課している。原子力施設の場合には、原子力事業者以外にも保存義務を課している。またこれらの記録は、放射線影響協会の「放射線従事者中央登録センター」に引き渡し、永久保存されることとなる。そして退職時には、従事者自身にもデータの記載された手帳を渡すこととなっている。ただ、最終的に従事者本人にルールどおり渡っていない場合も多いのが実際のところだ。原子力施設の場合、中央登録センターへの引き渡しは原子力事業者の義務となっており、退職後であっても本人が個人情報の開示請求をすれば、被ばく線量等のデータは入手することができる。
 ところが原子力施設以外の放射線業務従事者の場合は、中央登録センターという確実な保存が望めないという問題がある。電離放射線障害防止規則は、事業者に30年の保存義務を課し、5年を過ぎて中央登録センターへ記録を引き渡したときはこの限りでないとしているだけで、引き渡しを義務とはしていない。たとえば医療機関の放射線業務従事者であれば、その医療機関を経営する事業主体が30年間保存することだけが義務となっているのだ。もし、この事業主体が廃業することになるとどうなるか。その場合は中央登録センターに「引き渡すものとする」と規定するだけで義務とまではしていない。実際、中央登録センターの事業年報を見ても、医療機関の事業廃止に伴う引き渡し件数は見当たらない。したがって、被ばくデータの保存は、法令上の措置はあるものの、確実性に欠けるものといってよい。もし放射線の影響が懸念される病気になったとしても、自身の被ばく情報が不明というようなケースは、普通にあることなのだ。」
(『原発被ばく労災』. p. 67-70)
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なお、原発事故に関する労災認定はこの後、増えています。

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原発事故収束に従事、作業員を労災認定 6件目 :日本経済新聞
2018/12/12 17:16
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38843530S8A211C1CR8000/
 厚生労働省は12日、東京電力福島第1原子力発電所事故の収束作業に従事し、甲状腺がんを発症した50代の男性を労災認定したと発表した。同事故後、作業を巡る労災認定は6件目で、甲状腺がんによる認定は2件目。
 厚労省によると、男性は東電の協力会社に勤務し、2011年までの計約11年間、複数の原発で電気設備の保全業務を担当。事故直後の11年3月は福島第1原発で緊急作業に従事した。累積の被曝(ひばく)線量は約108ミリシーベルトで、そのうち事故後が大半の約100ミリシーベルトだった。
 男性は17年6月に甲状腺がんと診断を受け、同年8月に労災申請。厚労省の有識者検討会は「被曝線量が100ミリシーベルト以上」などの甲状腺がんの労災認定基準に基づき労災に当たると判断。18年12月10日、日立労働基準監督署が労災認定した。男性には治療費が支給される。
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ところで、下記は少し古い情報ですが、参考のために残しておきます。
なぜ古いかというと、『原発被ばく労災』「第2章、第3章」の執筆者である西野方庸氏が原子力資料情報室を2015年3月に退職した後、厚生労働省から「情報は出さない」と言われたからだそうです。
その理由は、個人情報の保護によるものだということです。
(『原発被ばく労災』p. 151)

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1975年3月19日から2012年12月申請までのデータ
原発被曝労働者の労災認定状況(2015年3月27日現在) | 原子力資料情報室(CNIC)
https://cnic.jp/6336
(余談…認定NPO法人…貸借対照表の公告有り)
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労災の認定基準に関して少し調べてみましたが、古い資料しか探すことができず、最新のものがどれなのかわかりませんでした。
おそらくちゃんとしたものがあると思うのですが、ひとまず目についたものを残しておきます。

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日本原子力産業協会
【原子力ワンポイント88】 福島原発「事故後作業で甲状腺がん」、初の労災認定
https://www.jaif.or.jp/cms_admin/wp-content/uploads/understanding/eco-radiation/radiation_column088.pdf 

【原子力ワンポイント89】 放射線被ばくによる白血病の労災認定
https://www.jaif.or.jp/cms_admin/wp-content/uploads/understanding/eco-radiation/radiation_column089.pdf 
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もちろん、「被ばくによって発生するおそれのある疾病」は、甲状腺がんや白血病だけではなく、皮膚障害や白内障、その他の部位のがんなどもあります。

放射線被ばくによる疾病についての労災保険制度のお知らせ(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000081118.html 

なお、(『原発被ばく労災』)の巻末には、以下の資料が掲載されています。
これが認定基準ぽいのですが、昭和51年とか…
これが本当に今も生きているのでしょうか…すみません、そこまでは追求できず…
落ち着いた頃にお尋ねしてみますので、サイトだけ残しておきます。

被ばく労働を考えるネットワーク
http://www.hibakurodo.net
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資料1
労働基準法施行規則第35条 別表1の2(放射線被ばくによる疾病にかかる部分を抜粋)
資料2
電離放射線障害の類型について「電離放射線に係る疾病の業務外の認定基準について」(昭和51年11月8日、基発第810号)
資料3
電離放射線に係る疾病の認定について「電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準について」(昭和51年11月8日、基発第810号)
資料4
病名ごとの検討結果等(電離放射線障害の業務上外に関する検討会)
資料5
「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」による報告書の概要
資料6
原子力損害の賠償に関する法律(一部抜粋)
資料7
労働者災害補償保険法(一部抜粋)
資料8
放射線被ばくによる業務上疾病全認定事例
(『原発被ばく労災』 p. 巻末資料1-16)
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労災の申請自体が少ない、と書きました。

しかし、初めて実名で労災申請をし、認定された例は、1994年7月26日、今からわずか26年前のことです。
嶋橋伸之さんは、認定の知らせを聞くことなく、1991年、慢性骨髄性白血病による闘病生活を終えました。
まだ20代だったということです。
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「嶋橋さんが労災認定をした当時、国は、「原発で死んだ人はいない」という安全神話を守るため、労災は認めてこなかった。労災申請をするにしろ労災の認定基準さえ明らかにしないばかりか、各労働基準監督署に上がった案件については必ずりん伺(上級機関に判断を求めること)させ、個別の判断を許さなかった。」
(『原発被ばく労災』 p. 115)
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ここまで、「労災」について見てきました。
今さらですが、「労災」は「労働災害」の略です。

・労働者が、労働災害により負傷した場合に、
・休業補償給付などの労災保険給付を、
・「労働基準監督署長」あてに請求します。
(なお、休業4日未満の労働災害については、労災保険ではなく、使用者が労働者に対して休業補償をする)

労働災害が発生したとき(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/rousai/index.html

つまり、労働基準監督署が調査し、その結果で、認定されるかどうかが決まるということです。
認定された場合は良いのですが、認定されない場合に、じゃあその先どうしましょうか、という問題がでてきます。

また、認められたけど、後遺症の等級の認定が低すぎる、とか、まだ治療が必要なのに治癒したとみなされた、とか、そういう場合もあるかもしれません。

ここで、そのまま「仕方ないね」と諦めるのがひとつ。
しかし、「納得できない!」という場合には、もうひとつ先に進む方法があります。

それが、「審査請求」という制度です。

【行政不服審査法】
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=426AC0000000068

[1] 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(許認可の取消し等)に関し不服がある場合
→処分についての審査請求をすることができます。(2条)
(※ なお、個別法に特別の定めがある場合には、審査請求の前に処分庁に対する再調査の請求をすることや、審査請求についての裁決に不服がある場合に再審査請求をすることができる場合がある)(5条、6条)

[2] 法令に基づく申請から相当の期間を経過しても、行政庁の不作為(法令に基づく申請に対し何らの処分をもしないこと)がある場合
→不作為についての審査請求をすることができます。(3条)

行政不服審査法Q&A(総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/gyoukan/kanri/q_and_a02.html
行政不服審査法の概要(総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/gyoukan/kanri/fufuku/gaiyou02.html
審査請求できない場合などはこちら(神戸市)
https://www.city.kobe.lg.jp/a76598/shise/jore/shinsaseikyu/shinsaseikyu.html

なお、労災保険給付に関する決定に不服がある場合には、労働者災害補償保険審査官(都道府県労働局)に対して審査請求をすることになります。

余談ですが、雇用保険関係の場合は、公共職業安定所長が行った保険給付に関する処分に不服がある、ということになりますので、雇用保険審査官(都道府県労働局)に対して審査請求書を提出することになります。

労災保険審査請求制度(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000127192.html
【労働保険審査官及び労働保険審査会法】
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=331AC0000000126_20160401_426AC0000000069&openerCode=1


もし、法律で、「審査請求を先にしなさいよ」と決められている時は、それに従います(審査請求前置主義)。
(↓の、8条)
【行政事件訴訟法】
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=337AC0000000139

審査請求の結果に満足できたら、そこで終わりです。
お疲れ様でした。
しかし、それでも不服がある場合には、「裁決の取消しの訴え」という「取消訴訟」を提起する、という順番を踏んでいくことになります。(3条3項)

特に何も決められていない場合には、いきなり裁判に訴えることができます。
その場合、審査請求するか、いきなり裁判するかは、原則として自由です。

労災保険法の不服申立に関しては、平成28年4月1日、行政不服審査法の改正法が施行されたことに伴い、原則通りとなりました。
つまり、最初からどちらか選べることになります。

いきなり裁判に訴える場合は、行政庁の処分に納得がいかないので取り消してほしい!という理由ですので、「処分の取消しの訴え」という「取消訴訟」になります。(3条2項)

しかし、労働基準監督署で労災が認められなかったからといって、別の機関で認められるのか、という疑問は残りますよね。
判断基準がそんなに大きく変わるわけではないこともあり、結果が覆ることはあまりないようです。

けれど、不当な決定の場合はもちろん別です。

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喜友名(きゆな)正さんの妻、末子さんは、2005年10月、大阪の淀川労働基準監督署に労災を申請しましたが、2006年に不支給決定が出されました。
理由は、「傷病の発生原因が不明と判断されるため、死亡と業務の因果関係が認められない」「悪性リンパ腫は電離放射線に係る業務上外の認定基準の対象疾病にない」というものです。
末子さんは、審査請求を行いました。

57団体と185人の賛同を得て政府交渉が行われ、「非ホジキンリンパ腫と放射線被ばくとの線量反応関係を明らかにした調査は存在しない」とした疫学調査論文のまとめに誤りがあることなどを指摘しました。
国内外からの反響は大きかったようです。
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「厚労省は電離放射線障害の業務上外に対する検討会(非公開)を5回(07年11月22日、08年4月24日、6月12日、8月1日、10月3日)開催し、10月3日、ようやく認定の方針を出した。それを受け、淀川労基署は06年9月の不支給決定を「自庁取り消し」し、10月27日、末子さんに支給決定を通知した。」
(『原発被ばく労災』 p. 148)
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梅田隆亮さんは、1979年当時の島根原発、敦賀原発における放射線業務との関連性を否定できないと、長崎大病院永井隆記念国際ヒバクシャ医療センターの医師から説明を受け、30年越しの労災申請を決意しました。
国は検討会を立ち上げ、審査に2年を費やしましたが、因果関係を否定し、申請を却下しました。

梅田さんは支援者の支えを受けて、審査請求、再審査請求を闘いました。
しかし結果は覆らず、2012年2月17日、放射線被ばくによる急性心筋梗塞について労災認定を求める日本で初めての裁判を起こしました。
2016年4月15日、福岡地裁は、梅田さんの請求をすべて退ける判決を言い渡しました。
また、2017年12月4日、福岡高裁における控訴審でも、棄却となりました。
因果関係を否定した一審判決を踏襲したようです。
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梅田さんは、即日、最高裁判所に上告を行ったが、私たち弁護団は、これから始まる最高裁の審理において、生身の人間を非人道的な人海戦術に用いる原発労働が、個人の尊厳に最高の価値をおく憲法秩序の下では本来的に許されない労働であること、そのような原発労働によって健康を損なった労働者の個人の尊厳を回復する労災補償制度を機能不全にするような判断枠組みは憲法上許されないことを正面から問うていきたい。」
(『原発被ばく労災』 p. 174)
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次に、裁判の場合を見ていくのですが、実は今まで見てきた取消訴訟のケースではなく、民事訴訟のケースです。
ここからだんだん難しくなるのと、行政法の範囲を超えてしまうので、あまり詳しい説明はできません…。

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(4)労災認定後の損害賠償

労働災害を受けた場合、次にどう進むのか、改めて考えてみます。
1.労災を申請する(不支給の場合は審査請求か取消訴訟)
2.会社が、労災と同水準の補償をする(労災請求はしない)
3.労災申請をせず、いきなり損害賠償請求の裁判を起こす
4.労災認定を受けた後、さらに損害賠償請求の裁判を起こす

上記の1.については、先ほど見てきました。2.については、仲介者が入る場合とそうでない場合があります。双方の納得のうえですとさほど問題はないかと思われます。

さて、3.については、最初の被ばく裁判が、1974年4月に提起されています。
一審は1981年3月30日、控訴審は1987年11月、敗訴の判決となっています。
岩佐嘉寿幸さんは、放射性皮膚炎でした。
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「「岩佐訴訟」が三月三〇日、全面棄却という判決で幕がおり、憤りと強いショックにおそわれていた。」
〔中略〕
「放射線被曝の因果関係が立証されるまでにどれ程の時間を要するだろうか、恐らく長く暗いトンネルを抜け出るまでには想像も出来ない悲劇が待ち受けているように私には思えてならない。」
(樋口健二「「三一書房」版・あとがき」『闇に消される原発被曝者[増補新版]』2011. 9月第3刷. 八月書館. pp. 250-252)
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そして最後の4.について、見ていきます。

労災の認定は受けた。
それは良いのだが、それだけでは埋めることのできない損害がある。
その場合に、その賠償を求める、というものです。
数少ないですが、提起されています。
長尾光明さんと、あらかぶさんです。
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「これまで被ばく労災による損害賠償請求裁判には、1974年提訴の岩佐訴訟(被告:日本原電)と2004年提訴の長尾訴訟(被告:東電)があり、いずれも原告敗訴となった。因果関係の判断に「高度の蓋然性」を要求することは、確率的影響による被ばく労災では、事実上被害者への損害賠償を否定することである。」
(『原発被ばく労災』「第4章 原発労働者の健康と安全の確保に向けて」. pp. 198-199)

訴訟係属中
(同、「第3章 被ばく労災補償をめぐる闘いの記録」あらかぶさん裁判が問いかけるもの pp. 177-182)
誰も責任を取らない原発労災-あらかぶさんの白血病 | 神奈川労災職業病センター
2019年11月8日
https://koshc.org/archives/917
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詳しく見ていく前に、「原子力損害賠償制度」について、確認します。
一般の損害賠償制度とは大きく異なっているようです。

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「政府の委員会で、福島第一原子力発電所の事故後の処理に費やす資金は、総額21.5兆円に達する見積もりが出されているという(2017年12月9日第6回東京電力改革・1F問題委員会)。そのうち損害賠償は、7.0兆円となっている。
 この損害賠償は、原子力損害賠償制度という特別な制度に基づいて行われている。制度について定めた最も基本的な法律は「原子力損害の賠償に関する法律」(以下、「原賠法」という)であり、一般の損害賠償とは大きく異なる原則を規定している。それは、原子力損害においては原子力事業者に「無過失責任」を負わせ、原子力事業者への「責任の集中」および「無限責任」という原則を定めていることだ。
 被害者が損害賠償請求をする際に、一般の損害であれば、加害者の過失や故意があったことを証明しなければならないが、原子力損害ではその必要がなく、原子力事業者だけが全責任を負うこととなる。「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたもの」(第3条第1項後段)という極めて限定された例以外はこの原則が適用されることとなっている。
 もし原子炉の部品の製造元であるメーカーに重大な過失があり、それが原因であることが明らかであった場合でも、原子力事業者に責任を集中するので、やはり賠償責任は原子力事業者が負う。法律の条文でもわざわざ「損害を賠償する責めに任じない」(第4条第1項)と、他の法律による誤解のないように念押しの規定が置かれている。
 損害額が巨額となり、原子力事業者の資力をもってしても対応できない場合でも、賠償責任の限度はなく無限責任を負う。そうはいっても原資がなければ賠償できないので、それを担保するために特別な賠償責任保険である原子力保険の契約を義務づけ(第7条)、保険で対応不可能なような損害が生じたときのために、政府との原子力損害賠償補償契約も結び(第10条第1項)、さらにそれを上回る場合の政府の支援についても規定している。
 原子力発電の事業化が進められていた1950年代、万が一のときの原子力事故がもたらす損害は、一般の災害に比べてけた違いの規模になるという問題を解決する必要があった。そもそも、事故が起きたらすぐに会社の存亡が問われるようなリスクがある事業など発展のしようがない。それでも参入しようという事業者がいた場合、万が一のときに賠償の原資が底をつくとわかっているなら周辺住民は必ず反対することになる。したがってこの制度は、原子力発電の事業化を進めるために不可欠なものだった。
 こうした原子力損害賠償制度は、米国で1957年に創設されて以降、原子力発電所を設置する各国で整備され、日本でも1961年に原賠法が制定されることになる。」
(被ばく労働を考えるネットワーク「第2章 労災補償、原子力損害賠償とは」『原発被ばく労災 拡がる健康被害と労災補償』. 2018. 6月.  三一書房. p. 70-72)
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「無過失責任」という言葉が、まずポイントです。

民法は、「過失責任の原則」を採用しています。
【民法】
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089
つまり、「自分(原告)が損害を受けたのは、あの人(被告)のせいです!」と証明するのは、自分(原告)の方です。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


しかし、めっちゃ危険、とか、予想できない損害が発生しそう!とか、個人で原因を追求するのが難しい!とかだと、被害者(原告)が大変すぎるので、そういう場合は、立証責任を負わなくていいですよ、って言ってるみたいです。
公害に関する法律とか、国家賠償法の2条とかです。

え、じゃあ、原発が原因だってだいたいわかりそうなもんだし、もっと認容されてもいいんじゃないかという気がしてきます。

結論から言うと、「因果関係にどう反映させるか、裁判所の合理的な判断が示されていない」から、厳しい結果になるんだそうです。

原賠法は、以下のように規定しています。

【原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)】
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=336AC0000000147

(目的)
第一条 この法律は、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め、もつて被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「原子炉の運転等」とは、次の各号に掲げるもの及びこれらに付随してする核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を含む。第五号において同じ。)の運搬、貯蔵又は廃棄であつて、政令で定めるものをいう。
一 原子炉の運転
二 加工
三 再処理
四 核燃料物質の使用
四の二 使用済燃料の貯蔵
五 核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物(以下「核燃料物質等」という。)の廃棄
2 この法律において「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう。ただし、次条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者の受けた損害を除く。


これによりますと、
・労災の認定がされた
→原子力損害を、確かに受けていると言える
→損害賠償をすることができる
…といえそうです。

そして本来、原子力損害についての争点は、
・原子力損害が存在するかどうか
・その損害額はどれだけか
だけになるはずです。

たとえば、普通の労災民事賠償請求であれば、労働安全衛生法上の義務をどのくらい講じていたかなど、事業者の「過失の割合の存否」が問題となり、場合によっては賠償額が減額されることがあります。

でもでも、原賠法は、《無過失責任》を定めているんです。
当然、過失の割合は問題になりません。

平成30年原子力損害賠償法改正の概要と背景
令和元年7月8日 北郷太郎
https://www.canon-igs.org/event/report/20190708_hokugou.pdf

普通に考えると、労災が認められている、イコール、原子力損害がある。
つまり、《過失の有無は問わず》賠償責任は当然ある。
あとは、その額のみが問題になる、ということにならないでしょうか??

しかしやはり私は素人なので、考えが甘いようです。
実際にはそうなっていません。

2004年に労災認定を受けた長尾光明さんの裁判の第1回口頭弁論で、東電は、因果関係について争うと明言しています。
労災認定は疫学的な証明に基づいて認定しているが、不法行為に基づく損害賠償請求の場合は、疫学的証明だけでは足りず、病理的機序に沿って原告が証明するべきだとしています。

そうか、不法行為に基づく…。
今まで、公害関係の訴訟は、所有者の物権的請求権に基づく訴え、というイメージがありました。
物権という、わりと強い権利に基づいて、
・妨害されてるのでどいてー!(妨害排除請求権)とか、
・妨害されそうだから予防的に「コラー!」と言う(妨害予防請求権)とか、
・自分のものが奪われたから返してー!(返還請求権)とか。
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以下 wikipedia の「物権的請求権」より
 「日本の民法では所有権などに基づく物権的請求権については、民法第709条(不法行為)の規定と登記の対抗力、及び物権の性質である排他性によるものであると説明されるほか、第202条に「本権の訴え」として存在が示されている。なお、物権的請求権と占有回収の訴え(占有訴権)との関係が問題となり、占有の訴えは事実状態たる占有の保護を目的とするもので本権に基づく物権的請求権とは性質を異にするものであるとする説もあるが、いずれも物権の直接的支配を保護する権利であることなどから占有の訴えも広い意味において物権的請求権の一種であるとみる説が多数説とされる[1][2](後者の見解に立てば日本の民法は占有権についてのみ物権的請求権を規定しているという説明になる[3])。」
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【民法】
 (占有保持の訴え)
第百九十八条 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
(占有保全の訴え)
第百九十九条 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
(占有回収の訴え)
第二百条 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。


でも、自分自身のことなので、それは使えないんですね…

民法の原則通り、ということになると、立証責任は原告にあります。

・労働基準裁判所では、長尾さんは原子力損害を受けた、と認定している。
→疫学的な証明で足りる。

・しかし、裁判所では、本当に原子力損害を受けたのか、ということを争っている。
→確かに受けた、という証明は、長尾さんがしなければならない。

いくら《無過失責任》だと言っても、原告に損害がなければ、被告に賠償責任は生じません。

実は、一審では、長尾さんの病名は「多発性骨髄腫」ではない、と言う争点が持ち出されています。

実際に、長尾さんが「多発性骨髄腫」であると診断された1998年当時、それは放射性被ばくが原因であると、医師も考えておらず、国=厚生労働省も認めていませんでした。
つまり、「多発性骨髄腫」は、労災の認定基準に例示されていませんでした。

ちなみに「多発性骨髄腫」というのは、白血病と類似の血液性のがんです。
そして白血病は、ずっと前から労災の認定基準に例示されています。

ところが、2004年1月、福島労働局富岡労働基準監督署は、長尾さんの「多発性骨髄腫」は福島での被ばく労働が原因である、として労災認定しました。

長尾さん被ばく労災裁判闘争連帯
http://www.jca.apc.org/mihama/rosai/rosai_room.htm

実は、これは、厚生労働省本省での検討を踏まえての結果です。

電離放射線障害の業務上外に関する検討会(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou_128882.html
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III .結論
 現在までに報告されている疫学調査の結果から、多発性骨髄腫と放射線被ばくとの間には以下の関係があると考えることが妥当である。
(1)  原子力施設の作業者を対象にした疫学調査では、internal analysisにおいて、有意な線量反応関係が認められており、50mSv以上の被ばく群での死亡がこの関係に特に寄与している。
(2)  40-45歳以上の年齢における放射線被ばくが多発性骨髄腫の発生により大きく寄与している。
(3)  多発性骨髄腫の発症年齢は被ばく時年齢が高齢になるにしたがって高くなる。

(2004年2月6日の資料より)
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/02/s0206-3.html
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ざっくり言うと、厚生労働省が慎重に審議した結果を、東電は否定している、といえないですかね??

えー、そんなことってあるんだ…という気がしないでもないです。
しかし、じゃあ国が下した結論はいつも正しいのか、必ずそれに従わなければならないのかというと、それもちょっとどうなん…という気がすることも確かです。
(ちなみにこの時、文部科学省は東電の応援をしています…原賠法と原子力損害補償契約に関する法律には、原子力損害の発生原因から10年以上経過後に請求されて賠償した場合、その損失については政府が補償する、という規定があります、なので、もしも東電が賠償することになったら、国が東電に損失補償しなければならなくなるから…)

ともかく裁判は続き、控訴審では、長尾さんはやっぱり「多発性骨髄腫」だよ!ってことが肯定されました。

しかしここから問題になるのが、因果関係です。
じゃあ本当に、放射線が原因で、「多発性骨髄腫」になったのか。

ここで疑問に思うのが、労災で認定されているのに?ということですよね。

労災の認定は、審査請求のところで書きましたように、「行政処分」です。
裁判所は、その結果に拘束されません。
そのため、自由に判断することができますので、結果が異なるということは、あり得ます。

また、判断する論点や材料が違う場合に、違う結果になることも、あり得ます。
(ただし、条件等が全く同じ場合は、既判力という強い力が働いて、裁判の蒸し返しを防ぐ)

つまり、労災認定で認められた因果関係が、そのまま裁判でも通用するのか、というと、それは違いますよ、ということのようです。

素人としてはこう考えたのですが、専門家の先生からすると苦笑されるかもしれません。

論点は他にもたくさんあるのですが、ひとまずここまで。

しかし、晩発性で確率的影響の因果関係をどのように判断するか、線量反応関係をどう因果関係に反映させていくか、ということは、これからの課題と言えます。

→ただし、因果関係についての議論、それ自体は、1976年から相当進んできているとのことです。

それに、長尾光明さんの裁判では成果もありました。
「多発性骨髄腫」が、労働基準法施行規則で、職業病として例示されたこと、つまり、労災認定されるようになったということです!!

ほんの少しずつでも、前へ(^^)


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ところで、労災認定後の損害補償について、原子力事業者への「責任の集中」と「無限責任」という論点があるのですが、政府の求償権を改めて確認している動きがあったみたいですので、今回はスルーします。

「原子力損害の賠償に関する法律の一部改正に伴う原子力損害が生じた場合の労災保険の取扱いの見直しについて」(平成27年3月25日基発0325第10号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0901&dataType=1&pageNo=1

でもちょっと気になる記事を見つけたので、残しておきます…

古賀茂明「大問題の原子力損害賠償法改正案を国会でこのまま通してはいけない」 (1/6) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)
2018.11.12 07:00
https://dot.asahi.com/dot/2018111100009.html?page=1

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以上のように、なかなか厳しい現実を理解することになりました…。
ただ、希望も見えてきましたね(^^)

(以上、『原発被ばく労災』第2章、第3章を参考)

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事故当時、福島原発で働いていた高橋南方司さんは、原発内の安全を維持する重要な役割を担っておられました。
今は都内に住んでおられ、スキンケアアドバイザーの肩書きも持っておられるそうです。
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「私は今あるものは稼働していいんじゃないかという推進派。どっちにしろゴミは出るんです。使うだけ使ってその間に代替のものを作ればいいと思う。火力は CO2があるから、再生可能エネルギーを。でも今日明日でできないから、原子力でやっておいて。新設は反対ですが。稼働によって雇用が生まれるんです。反対してる方には申し訳ないが、雇用の面倒をどうみてくれるのかなという。今は地元の人も反対してますが、私だって元々は地元に帰って、板前だけではやっていけなくて、そういうときに紹介で原発でいい仕事もらえて、生活できた。うるおってたんです。そういうこと考えると一概に反対は……。当時から反対してる人は数パーセントに満たなかった。原子力があるおかげで出稼ぎいかなくて生活できたのだから。百パーセントみんなが反対するわけではない。原発があれば仕事がある。」
〔中略〕
地球は未来からの借り物ですもんね。子孫にきれいなまま地球は返したいですよね。私ら先に亡くなるからいいけど、汚れたとこに子孫おいていきたくない。だからこれからの原子力は反対。」
(寺尾紗穂「第2章「安全さん」が見た合理化の波−高橋南方司さんの場合」『原発労働者』.2015. 講談社現代新書. pp. 92-93)
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※なおこれまで、「被曝」は引用時に使用。それ以外は「被ばく」を使用。

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8、反原発というわけではない

ここまで書くと、「カミトクは当然、反原発なのだろう」と思われるかもしれませんが、そこは難しいところです。

結論としては、「今の原発には賛成、将来の原発には反対」です。
あくまで現段階でのことで、いずれ考えが変わるかもしれません。
理由は、今は書けません。

また、原子力の技術は継続して必要だと思っています。
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「本書を通じて、これまでの原子力政策を批判的に分析していますが、原子力技術の必要性が失われた訳では決してありません。むしろその逆です。事故処理、廃炉、除染、放射能廃棄物処理・処分は、かつてないほど重大な課題として現れており、原子力技術者・研究者の総力を結集する必要があります。また、再生可能エネルギーを大量に導入していくには、電力関連技術の発展が必要です。批判的精神を持ち、新しい課題に立ち向かう若い技術者・研究者が多数でてくることを願っています。」
(大島堅一「あとがき」『原発のコスト−エネルギー転換への視点』2011年12月. 岩波新書(新赤版)1342. p. 219)
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ひとつ言えることは。
私はこれまで、原発について無関心だったわけでは決してありませんでした。
しかし、低線量被ばくのことや、「原発被曝労働者」の過酷な実態のことなど、あまりにも知らないことが多過ぎました。

賛成か反対か、知識もないままでは考えることもできません。
理由を書けないのは、そういうことです。
今、少しずつ、亀の歩みですが知識を蓄えています。
自分で考えるための判断軸が作られるまでにはまだまだかかりそうです…。

はっきり言って、仕事に直接役立つわけではなく、知識がすぐにお金に変わるわけでもありません。
自分の老後の資産形成も考えねばなりません。(わりと真剣に)
またカミトクは遠回りをして…と、呆れながら読んでくださっている方もいらっしゃるのでしょう。

けれど、今勉強しておかないと、私はきっと後悔します。
だって私はおそらく、電気をこれからずっと死ぬまで使うと思うんです。
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「これは、私がいろいろなところでお話するときに、必ずといってよいほど出される問いです。人生がそれぞれであるように、その答えは1つではないでしょう。
 私は、こう思っています。つまり、「私たちは何をどのようにしていけばよいでしょうか」と問うのは、私たちの子や孫たちから、「あのとき、あなたは何をしたのか」と問われていることと同じだと。
 そこで、これからは皆さん一人ひとりに考えていただきたいのです。そして、それぞれの考え方や生き方で、未来に向けて「責任ある関与」をしていただきたいと思います。そこにこそ、最悪の原発事故を経験した今の私たちに残された唯一の希望があると私は信じます。深刻な原発事故が起こった事実を変えることはできませんが、将来は、私たちの手に委ねられているのです。」
(大島堅一「第6章 日本のエネルギーのこれから」『原発はやっぱり割に合わない』2013. 東洋経済新聞社. pp. 215-216)
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「東京地方裁判所では、大津波を予見できたのに対策を怠り事故や避難で死傷者を出したとして業務上過失致死傷罪に問われた東電旧経営陣の刑事裁判が続いている。事故を防ぐことができなかった東電という企業の罪は重い。原発を積極的に活用し、電力業界とともに安全神話を創り出した政府も同罪である。さらに言えば、原発の危うさに何となく気付きながら、漫然とその存在を許容してきたわれわれにもまた責任はあるはずだ。そのことを努努(ゆめゆめ)、忘れてはならない。
 安全とは何か。命の尊さとは何か。原発はどうあるべきか。そしてわれわれは何をすればよいのか。」
(共同通信社原発事故取材班 高橋秀樹編著「はじめに」『全電源喪失の記憶−証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』平成30年3月2刷. 新潮文庫. pp. 6-7)
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詳報 東電 刑事裁判「原発事故の真相は」|NHK NEWS WEB
2019年9月19日
https://www3.nhk.or.jp/news/special/toudensaiban/
東京電力の旧経営陣3人が福島第一原発の事故を防げなかったとして検察審査会の議決によって強制的に起訴された裁判。東京地裁は3人に無罪の判決を言い渡しました。

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「この本は終わりを迎える。けれど、この本で明らかにできたことは、原発労働の全体からいえば、ほんの一部である。樋口健二さんの著書を読んで、受けた衝撃。人を踏んづけて生きていた、という感覚は消えるどころか、世間があの震災から興味を失うにつれ、強まっていく。
 今この瞬間も、私は人を踏んづけて生きている。」
(寺尾紗穂「終章 人を踏んづけて生きている」『原発労働者』2015. 講談社新書. p. 196)
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〈参考〉
・樋口健二『これが原発だ カメラがとらえた被爆者』1993年第4刷. 岩波ジュニア新書
・高木仁三郎『原発事故はなぜくりかえすのか』2011年第11刷. 岩波新書(新赤版)703
・樋口健二『原発崩壊 樋口健二写真集』2011. 合同出版
・樋口健二『樋口健二報道写真集成 日本列島 1966-2012』2012増補新版第1刷. こぶし書房

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9、エネルギー

まず、風力発電のことについて。

私の地元の鳥取県東伯郡北栄町には、風車がたくさん建っています。
子供の頃に見た光景とは随分と様変わりしました。
正直、あまり景観が良いとは思えません。

風車マニアの大谷芳弘先生には言いにくいのですが…
(株)マジックマイスター・コーポレーション(宣伝)
http://magic-meister.com/top/

しかし私はもちろん、松本昭夫町長の方針に反対している訳ではありません。

国税庁は、風力発電システムの耐用年数を9年としています。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/05/12.htm
17年ではないよ、とわざわざ書いてあります。
もっともこれは、減価償却資産としての耐用年数です。
実際の設計寿命年数はもう少し長く、20年くらいのようです。

しかし、それを過ぎたらどうするのでしょうか。
町議会の議事録まではチェックできていませんが、今後の計画を見る限り、予算には計上されていないような気がします。
私が見落としているだけかも知れませんので聞いてみたらいいのですが、不要不急ではないので落ち着いてからにします。
(来年の私へ。今、新型コロナウイルス(COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2)の騒ぎで世界中が大変なことになっています…)

北栄町公共施設等総合管理計画及び公共施設白書/北栄町
http://www.e-hokuei.net/3970.htm

先日、「風車」ではなく、棒状の風力発電機があるよと、教えていただきました。
「Vortex」というそうです。
スペイン政府の経済的援助を受けているようです。
なんだか良さげな気もしますが、実際はどうなのでしょうか。

次は、メタン・ハイドレートについて。

放送大学には、通常の授業以外に、特別講義というものがあります。
単位には関係せず、学生なら誰でも視聴することができます。

先日、「海底に探るエネルギー資源〜日本海・メタンハイドレート〜」を視聴しました。
主任講師は、松本良先生(明治大学特任教授・東京大学名誉教授)です。
とても魅力的な資源のようです。
しかし、環境や生物への影響のない効率的な回収を可能にする技術が課題のようで、実用化はもう少し先になりそうです。

その後も、何本かの論文を読んだり、詳しい人に聞いてみたりしました。
やはりもう少し時間がかかりそうですので、引き続き気にしておこうと思います。
https://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/oil_and_gas/

宣伝です。
放送大学では、日時は限定されますけど、学生以外にも授業を公開していますので、もしよろしければいかがでしょうか。
https://www.ouj.ac.jp/hp/bangumi/howto.html

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10、鳥取県のウラン残土

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「榎本さんも、原子力燃料公社東郷鉱山の方面(かたも)試掘坑の坑夫として、一九五九年に地元から応募し、健康を害するまでの約三年間ウラン試掘に従事しました。奥さんも坑外で、ウラン残土の片付けなどに従事しました。農業や梨園経営のかたわら、評判の原子力の燃料の採掘に携わり、作業に熟練すれば、高い日当が得られることが魅力でした。しかし、作業前にも就業中にも、ウラン採掘に伴う危険については、「ウランは天然放射能だから安全」ということ以外、誰からも何も教えられませんでした。また、作業内容も原始的な坑道掘りで、換気など作業環境も劣悪でした。」
(久米三四郎「序文 ”原子力棄民”の貴重な証言」榎本益美著/小出裕章解説『人形峠ウラン公害ドキュメント』1995年.  北斗出版. p. 11)
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榎本さんは、健康に影響が出てきたことから、裁判されています。
そして実はこの裁判に先立って、「自治会訴訟」という裁判が提起されています。

(土井淑平/小出裕章『人形峠ウラン鉱害裁判−核のゴミのあと始末を求めて』2001年第1刷2011年第2刷. 批評社)


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鳥取東郷町方面地区のウラン残土撤去運動
―第79回原子力安全問題ゼミ(2000年9月27日)での報告より―   
土井淑平
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No79/doi0009.htm
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榎本さんの裁判、第1審判決(鳥取地裁平成 16 年 9月7日判決)の解説は、『判例時報』1888 号(126 ページ以下) に掲載。
それと、こちら。

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「原告が所有する第1土地への放射能汚染による土地利用妨害は認めたが、それに伴う精神的損害(慰謝料)については、判決は認めなかった 」
ウラン残土放射能汚染による土地利用妨害排除の裁判−「榎本訴訟」第1審について−
片岡直樹
https://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/6431/1/genhou26-05.pdf
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高裁判決への意見

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「他人の土地にウランを含んだ残土を放置し、撤去すると約束しながら 撤去先がないとの理由で10年以上に亘って放置を続けてきたのは一審被告である。挙句の果て に、7億円もの費用をかけて、それをアメリカ先住民の土地に捨てに行ったのも一審被告である。 なぜなら、それが毒物で、日本国内には他に押し付け先がなかったからである。仮に、LNT 仮説 が低線量被曝の影響を大きめに評価していたとしても、被曝すれば危険があるということ自体は、 いかなる科学的根拠をもっても疑うことのできない真実なのである。 」

榎本さん訴訟、高裁判決を受けて
京都大学・原子炉実験所 小出裕章
2006年8月1日
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Ningyo-toge/realness.pdf
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鳥取県の東郷町(現:湯梨浜町)は、私の実家から車で30分もかからない所にあります。
私も、ウランは天然放射能だから安全、と聞いて育ちました。

ウランは、ラドンに変わります。
鳥取県には、三朝温泉という有名なラジウム温泉があります。
いくつかサイトを見てみましたが、「体に良い」と書いてありました。
肺がんとの関係の記述は見当たりません。

しかし、天然に存在する放射線被ばくの中では、ラドンは、被ばくの割合が一番大きいようです。

ラドン及びトロンの吸入による内部被ばく(環境省)
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h28kisoshiryo/h28kiso-02-05-08.html

しかしもしかすると、温泉では濃度が薄まってそんなに影響がないのかもしれません。
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日温気物医誌第 77 巻 2 号 2014 年 2 月
放射能泉の温泉医学的効果
矢野一行 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/onki/77/2/77_108/_pdf/-char/ja
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結局、どっちなのかわかりません…。

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私の母は、42歳で再生不良性貧血と診断されました。

余命は8年と言われていましたが、私の娘の顔を見届け、54歳になってから旅立ちました。
娘は先月、18歳になったところです。

当時、私が鳥取大学医学部付属病院で受けた説明によると、「血液が作られなくなる病気で、白血病の一歩手前」ということだったかと思います。
原因は不明でした。

再生不良性貧血(指定難病60) – 難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/106


樋口健二さんが再生不良性貧血と診断されたことを知り、はっとしました。

母は生前、東郷町や三朝町にもよく行っていたのでしょうが、放射線を多量に浴びたことがあるとか、そういう話は聞いていません。
それに高校を卒業した後は銀座の千疋屋で働き、結婚のために鳥取に帰ってきた後は、自営の飲食店を切り盛りするためとても忙しくしていました。
父に聞けば何かわかるかもしれませんが、昨日の電話は新型コロナウイルスの話と娘の自動車学校の話で終わりました。

因果関係はおそらくないと思われ、この話もしばらくすると忘れてしまうのでしょうが、でも小骨のように引っかかるので、書き残しておきます。

ちなみに鳥取県には、原発建設計画に反対している市民団体があり、今も原発は建設されていません。
有り難いことです。

青谷反原発共有地 畑作り!-えねみら・とっとり
[2014年04月30日(Wed)
https://blog.canpan.info/enemirabird/archive/80

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「われわれの武器は自然から与えられたものではない。われわれがみずからの手で創りだしたのだ。武器を創りだすことと、責任感、つまり人類をわれわれの創造物で滅亡させぬための抑制を創りだすことと、どちらがより容易なことだろうか?」
(コンラート・ローレンツ、日高敏隆訳「モラルと武器」『ソロモンの指輪−動物行動学入門−』1963. 新装版2018 第4刷. 早川書房. pp. 258-259)
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11、雀の問題(5ー1=4にならない場合を考える)

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「抽象というのは、ものの一面だけを取りだして、他の面をすべて無視し、切り捨ててしまうことなのです。他の機会にも用いた例なのですが、木の枝に五羽の雀がとまっているとして、一羽を鉄砲で打ち落としたら、あとに何羽のこるかという問題は、もしこれを算術の問題として処理するなら、答は四羽のこるということになります。しかし実際には、一羽ものこらないでしょう。しかし数学の立場では、ほかの雀が驚いて、みな飛び立つだろうというような事情は、まったく無視されているのでして、そのような切り捨てをおこなわなければ、数学は成り立ちません。しかしこのような抽象性は、数学だけのことではなくて、ひどく具体的なことがらを取り扱っているようにも考えられる、経済学や政治学のような学問にも、その根本において認められるものなのです。」
(田中美知太郎「哲学とその根本問題」『哲学入門』昭和62年. 講談社学術文庫. pp. 100-101)
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すべてに気をくばる≒「具体的」≠個別的な取り扱い


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○来年の私へ

下記、3/1「政治論の問題点」に寄せたコメント(3/4)です。
再掲します。
(…の前に…繰り返すけど来年の私へ。今、新型コロナウイルス(COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2)の騒ぎで世界中が大変なことになっているんだってば。混乱と書いたのはそういうことで、環境を整備できる人はいいんだけど、そうでない人はほんまにやばい状況。この感染症でおそらく私は死なないけど、そうじゃない原因で生活がどうなって行くのかはめっちゃ不安。感染症なんてずーっと昔から、古代ギリシアの時代からあってめっちゃやばいことはわかってるのに、日本には専門の機関がない状態。だから厚労省の官僚の皆さんはほんまに大変そう。人員も予算も削られてるなかで頑張ってもらってるので文句は言いにくいんだけど…。けど来年の今頃は、「そういえばそんなことあったんだ」と、Facebookが教えてくれるまで忘れてるんだろうなぁ…おそらくワクチンが開発されて、2009年の新型インフルエンザみたいな扱いになっているんだろうなぁ…。きっと問題点が整理されて、良い方向に向かっているに違いない!だってね、やんちゃな人はたまにいるけどそれはしょうがない。けど、たいがいの人はちゃんと手洗いして協力して助け合ってるんだよ。それに、公開の場でいろんな意見が飛び交っていて、少なくとも硬直している状態ではないし、政府を批判したからといって行方が知れなくなるわけでもない。だからきっと、大丈夫!!)

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記憶は記憶のままではいけないのか。
どうしても「経験」にしないといけないのか。
そんなの他人から強制されるようなことなのか。
…というようなことを、先月、考えていました。
その気持ちは今も変わっていません。

他方、「経験」にしたい、という人もいます。
辛い気持ちを乗り越えながら、発信し続けている人がいます。
私は「闘う」という言葉が好きではありませんが、それ以外の方法がない場合だってあります。

どちらがどう、ではない。
「同じことを繰り返してはならない」という気持ちは同じなんだと思います。

混乱は続いています。
そして、人知れず困っている人がだんだん見えなくなっていきます。
同じ社会に、確かに生きているのに。

なんでそんな選択をしたのだと責める前に、その選択には理由があったんですねという言葉を、きっと誰もが望んでいるのではないでしょうか。

下記の文章は放射能汚染地域から自主避難した人について書いてありますが、構造的なものは同じような気がしています。

情報の信頼性が低下するなか、悩みに悩んで、やっと決断しても、そこで終わりではありません。
生活は、そのあともずっと続いていきます。

「仮」の住まいかもしれませんが、「仮」の人生ではないのです。

ネットワークとテクノロジーの発達で、ザルの目が細かくなりますようにと願うばかりです。

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 福島復興政策は「風評被害」対策を1つの構成要素としている。風評被害という語は「無害」とされるものについて、人びとが回避する状況への非難性を含む。つまり、原発事故を引き起こした加害者の責任を、他の主体へと転嫁する作用がある(尾内・調編2013: 131-132)(※1)。

 低線量被ばくによる健康影響がまったくないのであれば、それを回避する行動によって引き起こされる被害は、文字どおり風評被害である。しかし本件では、科学的に明確な知見が確立されていないグレーゾーンにまで、「風評被害」の語が充てられているのである。

 このように原発事故の被災地では、人びとの分断や反目、被害者の自制・閉塞がもたらされている。この状況をどう変えていくのか。第7章では、避難指示区域内あるいは周辺で取り組まれてきた集団申し立ての取り組みを紹介した。しかし、放射能汚染から逃れるための広域避難によって、被災地以外にも多くの避難者がいる。こうした孤立しやすい広域避難者を含め被害者同士で、あるいはより広範な人びとともに、「経験としてのリスク」を共有することが必要である。

 平川秀幸は、リスク認知の多元性について次のように述べている。「人間にとってリスクは、被害の発生確率といった科学的な意味をもつだけでなく、不正義や不道徳の経験でもあり、この経験ゆえに抱く不信や失望、憎しみや怒りという感情、赦しや購い、償いという行為の対象なのである」(平川2017: 74)(※2)。この「経験としてのリスク」はあくまで個人的なものである。しかし、そこには人権や正義といった普遍的な観念が含まれている。その点にこそ、「経験としてのリスク」を他者と共有しうる可能性があるだろう。

 司法には、当事者のリスク認知における社会的・規範的側面を正当に評価し、一方通行でない、双方向的なリスクコミュニケーションと合意形成を促進する役割が期待される(尾内2017:182-183)(※3)。そうした司法判断を導く前提として、それぞれの原告が避難を選択した背景にある価値観や規範意識を、言語化し可視化していくことが求められる。
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(※1)尾内隆之,調麻佐志編,2013,『科学者に委ねてはいけないこと−科学から「生」をとりもどす』岩波書店)
(※2)平川秀幸,2017,「避難と不安の正当性−科学技術社会論からの考察」『法律時報』第89巻第8号,pp. 71-76)
(※3)尾内隆之,2017,「科学の不安定性と市民参加」本堂毅・平田光司・尾内隆之・中島貴子編『科学の不安定性と社会−現代の科学リテラシー』信山社,pp. 169-184)
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(除本理史,2018「終章 市民が抱く不安の合理性−原発「自主避難」に関する司法判断をめぐって−」藤川賢・除本理史編著『放射能汚染はなぜくりかえされるのか−地域の経験をつなぐ−』東進堂,pp. 190-191)
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【追記1】3/11 14:30ご指摘の内容3点について修正


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1.
>2004年に労災認定を受けた長尾光明さんの裁判の第1回口頭弁論で、東電は、因果関係について争うと名言しています。
名言→明言
→訂正しました。

2.
物権的請求権の説明のあと民法の占有訴権の条文を紹介した部分。
物権的請求権そのものを明確に規定した条文はなく、所有権の性質から当然存在すると考えられているので、
占有訴権の条文をなんの説明もなく紹介するのはちょっと誤解をまねくのでは。

以下 wikipedia の「物権的請求権」より
日本の民法では所有権などに基づく物権的請求権については、民法第709条(不法行為)の規定と登記の対抗力、及び物権の性質である排他性によるものであると説明されるほか、第202条に「本権の訴え」として存在が示されている。なお、物権的請求権と占有回収の訴え(占有訴権)との関係が問題となり、占有の訴えは事実状態たる占有の保護を目的とするもので本権に基づく物権的請求権とは性質を異にするものであるとする説もあるが、いずれも物権の直接的支配を保護する権利であることなどから占有の訴えも広い意味において物権的請求権の一種であるとみる説が多数説とされる[1][2](後者の見解に立てば日本の民法は占有権についてのみ物権的請求権を規定しているという説明になる[3])。

→7の4の部分ですね。この内容を追加しました。

3.
「避難の権利」の主張がどのような趣旨なのかよくわからないけれど、
少なくとも憲法上の人権のひとつとしてそのようなものがあるとする学説はないはずで、
公共の福祉によってのみ制約されうる憲法上の人権であるかのような記述は誤解を招くおそれがあるのでは。

→5の終わりに追加しました。大きく言うと13条に含まれるのではないかと思うので、書き直しまでは考えていません…更にご指摘いただいた場合にまた考えます。
--------【追記1終了】ご指摘ありがとうございました!!--------

【追記2】3/11 19:30ご指摘の内容2点について修正


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というか、自分でもよく理解できていなくて今後の宿題の部分。
5、「避難の権利」について。

1、基本的人権にかかわりなく、法律で保護されること(政策論)
→憲法上保障されているかどうかにかかわりなく、たとえば社会の安定に資するから被災者を保護する法律を作るべきだという主張

2、その権利が憲法で保障されている人権
→憲法上保障されている人権だからそれを具体化する法律を作るべきだという主張

…というのを、ごっちゃにしていたなぁと。

つまり、手段が違うということを、もう少し整理して考えないと、、、

ちなみに、私が勉強会で資料をいただいた「いわゆる山形判決」(山形地判令元12.17)の訴訟は、民法上の不法行為、原賠法、国賠法による損害賠償を求めたものであり、上記の1番や2番の考え方とは直接関係がないことになります。

もしかして、他の訴訟でも、似たような構造になっているのではないかと思いますので、当初の、「公共の福祉」について書いていた文章は、削除しました。

ひとまず、ここまで。
また引き続き考えます!!
--------【追記2終了】ご指摘ありがとうございました!!--------

【追記3】3/11 19:30子ども脱被ばく裁判の記事、井戸弁護士の報告のソースを追加


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本文の中にも出てきた、子ども脱被ばく裁判の記事、
井戸弁護士の報告のソースはこちらです。

子ども脱被ばく裁判のブログ: 第26回子ども脱被ばく裁判期日報告と感謝
2020年3月10日火曜日
http://datsuhibaku.blogspot.com/2020/03/26.html?m=1
この記事の中では、小児甲状腺がんのことにも触れられています。
私は、山下証人はひどいな、と思いました。
しかし、小児甲状腺がんについての見解は、そんなにおかしいものではないような気がしました。
検査したら、そりゃ見つかりますよね、ってことかなぁと。
ただし私も、娘が小さかったら検査してほしい
と思います。
そりゃそうです、親としては不安に思いますから。
だから、検査したからたくさん見つかった、ただそれだけのこと、という趣旨の発言は、嫌だなぁと思います。
つまり、私は、国民の健康は、経済的な政策とトレードオフできるものではない、と考えていますが、山下氏はもしかしたら、国策である原子力政策のほうを優位に考えている、ということが言えるのかもしれません。
(もしそれが正しいとして、現在もそうなのかは、わかりません)

それと、井戸弁護士の報告の8番でも指摘されているとおり、

(8) 鈴木眞一氏がいうように、福島県民健康調査で見つかり摘出手術をした小児甲状腺がんには、手術の必要がなかったケースは存在しないこと、

やっぱりやばいやん!
ということには違いなくて。

ところで、甲状腺がんと手術の関係については、私は以下のサイトを信用しています。
神戸市の隈病院のサイト。

甲状腺微小がんは経過観察を推奨
https://www.kuma-h.or.jp/new-medical/recommendation/
要は、低リスクながんは、手術せずに経過観察したほうが良い。
しかし、高リスクながんは違うよと。手術せなあかんよと。

隈病院では、1993年から「非手術経過観察」の提案を始めておられます。
世界で最も権威がある「アメリカ甲状腺学会」甲状腺腫瘍取扱ガイドラインにも、微小がんの経過観察診療が採用されています。
つまり今回、手術を担当された鈴木氏がこの方法を採用しておられる、と考えますと、福島県民健康調査で見つかり摘出手術をした小児甲状腺がんの患者さんは、全員が高リスクだった、ということも言えるわけです。

そして、報告の7番の指摘によりますと、

(7) 福島県民健康調査で福島事故後に生まれた子供に対しても甲状腺検査をすれば、多数見つかっている小児甲状腺がんと被ばくとの因果関係がわかること

事故後の被ばくとの因果関係は認められていますので、素人考えですが、これは安全とは言えないのでは…と、思ってしまいます…

ただし、こちらの新しい調査で高リスクの患者さんが多いのかということまでは、私は調べきれていません。
重なる部分もあるのかな…
また、放射性物質を含むものが減り、放射線量が下がっているのであれば、患者さんの割合も減ってきているのかもしれません。
それはちょっとわかりませんが。
次の勉強会で聞いてみよう…

さて、隈病院での次回の診察、本当は3月なんですが、まだ予約を入れていません。
せめて4月には行きたいのですが…
兵庫県/新型コロナウイルス感染症の県内検査状況について
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf16/singatakoronakensa.html
(余談ですが、新型コロナウイルスに関しては、無闇な検査は反対。リスクの高い人に治療を集中できる状況を確保するべき。家で寝てたら治る人が大半ですから、罹患の全数把握にはあまり意味を見出せないです)

最後に、興味深い論点。

2011年5月5日、喜多方市で行われた山下氏講演会で聞いた結びの言葉「今は国家の緊急時。国民は国家に従わなくてはならないのです」

田中美知太郎先生は1946年に『最も必要なものだけの国家』の9節で、「天災や内乱や戦争によって、社会秩序が混乱に陥るような場合」について触れておられます。
もっとも私の解釈としては、この論文は、個人の自由(小文字)を考える際の前段階として、国家と国民との関係性(大文字)を考えるという方法を取られたのではないかと思いますので(間違っているかもしれませんが)、国民は国家に従うべきか従わざるべきか、とかいう論点について考えることは難しいです。
しかし、まず国家が先にあるのか、それとも個人が先にあるのか、ということを考える上では助けになるものかと思います。

山下氏の言葉、国民が国家に従う…緊急時に、私たちはどんな行動を取れば良いのでしょうか。

国家の出す情報や政策に基づき、それを尊重すること、までは共通して必要なのでしょう。
おそらく、そこから先が違うのでしょう。

私は、緊急時であっても、
自由権>参政権>社会権、
の順番は、崩れてはいけないと思っていますが、はたして…
--------【追記3終了】ご連絡ありがとうございました!!--------


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