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インターバル走の前にスタミナを鍛えよう

シーズン初めや怪我からの復帰直後などはスタミナをまず強化するのがセオリー。だがなぜインターバルを行わないのだろうか。ひとつは筋や腱の強度が低い状態で高強度トレーニングを行うと怪我のリスクが高いためである。しかし生理学的にも理由があるはず。

生理学的に見るスタミナの重要性

ランニング中にエネルギーを供給するシステムは有酸素系と無酸素系の二種類に分けられる。有酸素系は酸素を使って主に脂肪をエネルギー源としてエネルギーを作り出す。一方、無酸素系は酸素を必要としないシステムで、糖やクレアチンリン酸を分解して瞬時に大量のエネルギーを生み出す。運動強度が低い場合は有酸素系がメインで働き、強度が上がるにつれて無酸素系の割合が大きくなっていく。
この2つは全くの独立したシステムかと思われがちだが違う。無酸素系でエネルギーを作り出す過程で発生した代謝産物を再利用してくれるのが有酸素系のシステムなのである。解糖系(無酸素系の一種)によって発生したピルビン酸は使い道がない場合には乳酸として血中に蓄積していくが、有酸素代謝が活発に働けばミトコンドリ内で再利用される。例えると無酸素系が出すゴミを回収してリサイクルしてくれるのが有酸素系なのである。

スタミナがないとインターバルの効果が半減

では、有酸素系が未発達なままインターバルトレーニングなど無酸素系の高強度トレーニングを行うとどうなるか?ピルビン酸を再利用する能力が乏しいためピルビン酸はすぐさま乳酸となり血中に溜まり続ける。よって本来はレストの間に低下していくはずの血中乳酸値が下がりきらず3本目くらいには早々に限界に達してしまう。目的の強度を保てないまま残りの本数を行なってもただ感覚的にキツイだけで心肺機能への負荷は十分でなく本来の目的であった最大酸素摂取量の強化という点ではトレーニング効果は半減である。
アスリートが1kmを10本もできるのはレスト間にピルビン酸(乳酸)を再利用する能力が発達しているからである。

スタミナ作りの目安

では自分のスタミナレベルはどの程度なのか?
それを知るには乳酸作業性閾値(LT)がポイントとなる。これは運動強度を上げていった時に急激に血中の乳酸濃度が高まるポイントのこと。その値が2mmolになるポイントをLT1、4mmolに達するポイントをLT2と呼ぶ。
そして「Training for uphill athlete」によると、このLT1とLT2の乖離具合によってスタミナのキャパを知ることができると言う。狭いほどキャパが大きく差が開いていればスタミナ作りは不十分だと言う。

有酸素能力が乏しい場合、少し強度を上げただけで解糖系に頼らざるを得ず乳酸が生まれる。またそれを処理する能力ももちろん低いので溜まっていく一方。
一方で有酸素能力が高い選手では比較的強度が高くなっていっても解糖系に頼らず運動を継続することができる。また解糖系が働き始めても代謝産物であるピルビン酸を再利用する能力が高いので血中に乳酸が蓄積しない。


具体的な指標としては、LT1時の心拍数とLT2時の心拍数を比較して何%の開きがあるかを測定する。10%以内に収まっていれば土台作りは十分だと言え高強度インターバルを行うフェーズに進むことができる。例えばLT1時の心拍数が140bpmでLT2時の心拍数が160bpmであった場合、165÷140=1.17 → 17%の開きがあるのでまだまだスタミナ強化が必要。

だがLT1やLT2など血中乳酸値を測ることは一般ランナーにはハードルが高い。そこでセルフでLT1とLT2の心拍数を測る方法も上記の本で紹介されている。

LT1のセルフ測定方法

まずはLT1の測定方法。この強度でランニングをすると緩やかに心拍数が上昇する。具体的には1時間継続すると3~5%上昇する。
まずはアップで心拍数が安定するペースを探す。一定のペースで心拍数の変動がなければそのペースで1時間のランニング。その後、StravaやTraining peaksなどにアップロードしてスタートから30分間の平均心拍数(①)と後半30分間の平均心拍数(②)を比較する。②が①よりも3~5%高くなっていればテスト成功。①がLT1の心拍数となる。

LT2のセルフ測定方法

LT2の強度はシンプルであり30分〜1時間、継続できる最大強度である。陸上で言えば10,000m、トレランならVKなど1時間以内に終了するレース時の平均心拍数となる。

ジョグやLSDをおろそかにせずしっかり土台を作ることでその後のパフォーマンス伸び代が変わってくる。急がば回れ。

*猛暑の中では心拍数が通常以上に上るため参考にできない可能性があります。涼しくなったら試してみてください。

参考文献
Steve House, Scott Johnston, Kilian Jornet, Training for the Uphill Athlete: A Manual for Mountain Runners and Ski Mountaineers(2019)

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