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世田谷殿の13人 ~会派と合議編~

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が盛り上がりに便乗して「世田谷殿(=世田谷区政)の13人」と題し、世田谷区議会の自民党所属の13人の日常の一端を紹介するシリーズです。

このシリーズは、普段中々、知られていない議会の中を一議員の視点からお伝えするものです。
議会の仕組みや、議員の思考などを理解していただきながら、自治体議会の雰囲気を感じていただこうと思っています。

今回は2回目。13人が様々な方針を決定する合議の場、いわゆる「自民党区議団総会」についてをお伝えします。

会派
まず「自民党区議団」とは、区議会の中で自由民主党に所属する議員が集まって組織した会派です。
ほとんどの自治体議会では会派制が採られ、会派と称して行動を一つにする謂わばチームを作っています。
世田谷の場合、政党の枠組みを基にした形がメイン(もっと自由な組み方をしている自治体もあります)で、「自由民主党(13)」「公明党(8)」「世田谷立憲民主党(7)」「日本共産党(3)」「生活者ネットワーク(3)」などがあり、その他に政党色の薄いまたは無い「無所属・行革110番(4)」「新風・せたがやの風(2)」、さらに8つの一人会派(世田谷の場合、1人でも会派を認めています)が存在します。※括弧内の数字は所属議員数

なぜ会派があるのか? ――  例えば世田谷区議会の現員数は48ですが、行動(考え)を一つにする会派が組まれてなかったら、会議を開く度にその進め方について48人が集まることになったり、沢山の議案に48人それぞれが意見を表明することになったり、お互いの考えを48人皆が理解してからでないと前に進めなくなるなど、実際の運営が難しくなるといった運営上の問題が一つあります。

加えて、会派は交渉会派とも称されますが、首長(区長)と役所に対し、議員としての発言に影響力を持たせるには、一人ひとりがバラバラで言うより、内容を整理しまとめて要請していく方がよいとの考えによるものです。
もちろん議会全体が一つにまとまるのが最も大きい力になりますが、そうするためにも、考え方が大凡同じ者同士がまとまっていた方が、議会全体で調整する際にも結果を出しやすくなります。

13人の自民党区議団
『鎌倉殿の13人』はそれぞれ違ったキャラクターを持った13人の御家人が影響し合いながら幕府の方向性を構築しました。それが「13人の合議制」といわれる集団指導体制でした。
やはりその中では協力もあれば対立や権力闘争などもあったことでしょう。

我々13人も「区議団総会」という最高意思決定機関を通じて、様々意思統一を図っています。それぞれ地域からの期待を背負い、また様々な思惑を持ちながら、切磋琢磨しています。時代が違えど「13人の合議制」は、やはり同じ政治という環境、似た状況なのではないかと勝手に想像しています。

13人の合議制である区議団総会の様子

合議制の善し悪し
自民党の総会では、基本的に多数決で決するということを前提にしていません。熟議し皆が了承する形をもって結論を出します。
(自民党内の意思決定の流れは、国会、都議会、区議会を通じ、基本的にこのような方式となっていると思います。他の会派の場合、多数決、トップ裁定、ないしは党本部の決定など、その方式は様々です。)

この合議による決定は、日本の文化に根ざしていると思われます。
かつて各地で共助の仕組みとして頼母子講(無尽講)というものが行われてきましたが、そこではその地域や集落の今後についても話し合われました。そしてその決定については、反対者が一人でもいれば決めない。また逆に提案者が取り下げたり、問題が解決しなければ、皆が納得するまで会議を何度でも開き、話し続けるということが行われていたといいます。
そのルーツとして、聖徳太子の17条憲法まで遡るかも知れませんが。

「皆が納得するまで話し合う」一見、理想的に思える方式ですが、ゆっくりと時間が流れ変化に乏しい時代ならよくても、国際競争が激しく、ケツカッチンだらけの現代では中々うまく機能しません。

当然ながら、我々が議論することのほとんどに期限があります。

議案であれば、賛否を明らかにする委員会開催時まで。
また、役所が政治セクター(議会側)に意見を求めてくる場合にも、同じく委員会開催を目途にした節目があります。

さらには、議会での質問も、質問通告前までに議論が行われ了承得ていなければなりません。
本会議で行われる代表質問(会派を代表しての質問:自民党の場合40分)はもちろん、一般質問(各議員が行う質問:一人10分)、また決算や予算の特別委員会における質問の内容は、事前に総会で確認します。
担当する議員が質問項目とその趣旨を説明し、会派全体でその内容を吟味します。その際、様々な観点から質問の仕方や、その内容にまで細かく質問や意見が出され、結果として了承されなかった項目は質問できなくなることも少なくありません。

このように総会の決定は合議を大切にしていますが、実際、時間切れなどで多数決を採用せざる得なかった事も過去何回かあります。私の記憶するところでは、この10年間で無数の決定を行った内、数回程度です。

玉虫色
皆が了承する事を前提とすると、議論の盛んなテーマほど玉虫色の結論に帰結していく事になります。これは日本社会の抱える問題(日本文化の良さと言う捉え方もありますが)でもありますが、有権者が政治に抱くフラストレーションの原因にもなっています。
また、玉虫色にすることには、判断を明確にしないことで無責任にやり過ごそうとする思惑が働いていることが多くあります。

平和で社会が安定的に発展している状況では良くても、世界が縮まり、社会の変化が加速化している今日において、はっきりしない結論が大きなロスを生じさせている可能性もあり、我々の抱える課題の一つです。

合議の実態
さて、自民党世田谷区議団における合議制が実際どう行われているのか?
 ――  自民党は他の政党と比べかなり多様性に富んでいます。
それぞれが、歴史もまちづくりも地域性も違う場所の代表として、さらにバックボーンの違いによってテーマも専門性も様々です。
そういった背景から、国家観や政治理念を一にする自民党同士とはいえ、個別テーマによっては全く違う主張が飛び交います。

そういった多様性はうまく組み合わさることができれば相乗的な力になります。しかし、違いがズレのままであれば、全体の力は半減どころか限りなくゼロに近づいてしまいます。
広がりきった意見を一つにまとめるには、時間も労力もかかります。
議論のまとめ方は様々ですが、最大公約数となる部分を抽出し、段々と細かなディテールについて決めていくという方法で進めて行きますが、話が元に戻ってしまうことも少なくありません。

正直、とことん議論したいと思っている議員はそういるものではありません。そのため、合議の現場では、他者の主張を矮小化したり、議論の流れを操作するなど、正に言葉の格闘が繰り広げられ、本番の議会よりもしんどい場面です。
そういった厳しい環境だからこそ、うまくいけば真の同志、一歩間違えば犬猿の仲となってしまいます。

正直、結論として詰めが甘い、生半可な議論だと思うことや、もう少し時間に余裕を持ち、じっくり議論したいと思うことが少なくありませんが、これ以上議論しても進展は望めない煮詰まった状況も多々あります。
その時は心底悔しく思ったりしますが、落ち着いてから、政治そのものがある程度「アソビ」があっていいのだと納得するようにしています。

これからの合議制
合議制の下で会派運営や議会運営など様々議論し決定しますが、その中心は何と言っても政策議論です。
政策を決めるに当たっては大きな妥協は許されません。
とはいえ、議論が平行線になることも少なくはなく、最終的には、これ以上歩み寄ることはできないところまで来た場合、どちらかが引き下がらなくてはなりません。
それがより良い形でできるか否かは、日頃からの互いのコミュニケーションがものを言います。
あらゆる意味で、日常のコミュニケーションが非常に重要であることは間違いありませんが、やはり、議論の行き詰まりをできるだけ最小にしていく環境作りをしなければと思っています。

そもそも、なぜ議論が平行線になるのか? ――  それは基本認識の違いによるものだと思います。
もちろん、利害の対立や、バックボーンの違いからのものもありますが、それらはむしろ話合いで解決しやすく、最も相容れない場面というのは、各々の正義感や使命感に帰結した時に起こるものです。
議論が対立したままになる時、理念や思考が全く違うのではなく、つまるところ議論の土台となる基本認識の違いによって生じていると思います。
ほとんどの場合において、事実認識、時間的認識、財政把握、俯瞰的視点など、それぞれの知識や捉え方はかなりのギャップがあります。
例えば、他会派との議論においても、結局のところ、歴史認識や事実認識の違いでしかない場合が多いのと同じものです。もちろんこの辺の違いこそ相容れないものなのでしょうが。

大事なことは、それらを政策議論の前にできる限り共有する機会を設けることではないかと考えます。
これは議会に限らず、これからの合議制をより効果的に運用していく上で着眼すべき事柄です。

しかし、そのためにはそれらを用意できる公平な立場の人材を用意しなければなりませんので、将来の課題です。


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