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【洋ドラ】『ディスカバリー・オブ・ウィッチズ ~第1章 4話~』

どんなストーリー?
 呪文じゅもんの本を求めてくるピーターからダイアナを守るために、マシューは彼女を連れてフランスの母の住む古城こじょうをたずねる。
 いっぽう、ピーターはコングレガシオンの代表者があつまる会合で、マシューはおきてをやぶったと報告する。
 二人の関係を知ってしまった組織の者がマシューたちのまえにあらわれてしまったため、彼れはダイアナと距離をおくことを決意する。

◆主要人物
ダイアナ・ビショップ……科学史の研究員。魔女
マシュー・クレアモント……生科学の教授。吸血鬼
イザボー・ド・クレアモント……マシューの母
マーカス……若い医師。吸血鬼
ミリアム・シェパード……マシューの同僚。吸血鬼
ピーター・ノックス……魔術師
サトゥ・ヤルヴィネン……北欧の魔女
ジリアン・チェンバレン……ダイアナの友人。魔女
ガーバート・ジェルベール……ジュリエットの父。吸血鬼
ジュリエット……ガーバートの娘。吸血鬼
ドメニコ……吸血鬼
アガサ・ウィルソン……ナサニエルの母。悪魔
ナサニエル・ウィルソン……悪魔
ソフィー・ウィルソン……ナサニエルの妻
サラ・ビショップ……ダイアナの叔母
エミリー……サラのパートナー
シルヴィア……魔女のリーダー
ヴォールドウィン……?

(ルビなしで約22000字)



◆母親との対面

  1

 フランス〈セット・トゥール〉——。
 木杭きぐい剣山けんざんのようにたくさんたれてある広大こうだいなブドウ畑をとおりすぎ、ダイアナを乗せた黒のセダンが門扉もんぴをとおっていく。事前にマシューが母親にれんらくを入れていたため、車一台がとおれる門のとびらはいていた。森林におおわれた高地こうちにそびえたつそのお家は、何世紀もまえにてられた古城こじょうである。〈シャトー・ド・ボナギル〉のようないかめしいふんいきのある要塞ようさいのお城で、おおきなとうが七本もある城壁じょうへきにかこまれており、その内がわに領主りょうしゅんでいる屋敷やしきがあった。
 息子がたずねてくるところを、階段をあがった屋敷の入り口のちかくで母親は見おろしていた。年齢は六十代といったところで、ブロンドの髪みはフォーマルなシニョンにまとめられており、ウエストをしぼれるブラウジング・ワンピースをている。フランスの国らしく、ボルドーの赤ワインのような色で、光沢のある生地きじ
 だが、どうだろう……『ハリーポッター』の映画に出てくるマクゴナガル先生のように、マシューの母親の顔は無表情だった。ひさぶりの息子との再会をよろこんでいるようには見えない。
 石塀いしべいにかこまれた敷石しきいしの道をすすみ、屋敷のまえで車はまった。車内からボストン・バッグと四角いトランク、ダレス・バッグをとりだし、ラフな格好かっこうをしたマシューが両手に持って、ダイアナと階段をあがっていく。
「ダイアナ、しょうかいするよ」上で見おろしている母をかくにんしたあと、マシューが言った。「母のイザボー・ド・クレアモント」
 マシューのジャケットをはおっているダイアナは愛想あいそよく笑顔をつくりこみ、無表情のイザボーに目をやりながらマシューといっしょに上がっていった。
 ややかな視線をあびせている母親にマシューは言う。「中に入らないのか?」
 母親のイザボーはあいさつもせず、ダイアナたちを屋敷のなかに案内していく。どうやら彼女はダイアナにたいして、ポジティブな感情をいだいてはいないようだ。彼女は魔女なのだから——「すこしは配慮はいりょしたらどうなの?」
「ふるいルールにしばられないのかと」ダイアナと母のうしろを歩きながらマシューが言った。
「わたしは変革へんかくをのぞんでない」内壁ないへきがコンクリートの仄暗ほのぐら廊下ろうかをすすみながら、りかえりもせずにイザボーは言った。
 マシューのよこについて歩いているダイアナは、イザボーの口調くちょう所作しぐさなどから、じぶんは歓迎かんげいされていないとさとっていた。だが、かんたんにめげるような彼女ではない。「めてくださり感謝します」リビングのほうに案内され、ダイアナは言った。
 長方形型のながい木製のダイニング・テーブルや、高級感のあるクラシカル・ソファにカーペット、きれいな観賞かんしょう用植物、かべにかざられている額縁がくぶちの絵、はばが一五〇センチいじょうもある大きな暖炉だんろ、また、アーチじょうのきだし窓が等しいかんかくでならび、もうけられている。中のようすは以外とミニマリストにちかいくらい寂寂じゃくじゃくとしており、はなやかさにけていた。
 彼女の言葉に、ダイニング・テーブルのよこで、イザボーはフランス語でかえした。
 が、理解ができなかったのか、いぶかしそうにダイアナはまゆをひそめている。
「“よろしく”と言ったんだ」ダイアナのうしろからマシューが言った。
「英語と現代フランス語しかできないなんて、いまどきの血が温かいものは無学なのね」冷淡れいたんな口調で言い、イザボーはソファのほうへとうつっていった。
 慇懃いんぎん無礼ぶれいともおもえる所作しょさに、人を見下したような侮辱ぶじょく発言……
 何世紀もずっと生きていられる吸血鬼ヴァンパイアとはちがうのだから、たくわえられる知識の量にも限界がある。そんなことも理解できないほうが無学なのでは?——そう言いかえしたいのをグッとこらえ、さげすまされてもダイアナはだまっていた。そのよこで、マシューも母親の態度が気になっていたが、ダイアナのまえでは口をはさまなかった。
 すると、別室からふくよかな女中じょちゅうが笑顔でやってきた。「マシュー」
「やあ、マルト」マシューは彼女とフランス語であいさつし、ハグを交わした。「友人のダイアナだ」
 イザボーにつかえているマルト——見た目が六十代くらいの女性——は、ダイアナのほうをみやった。「あら、ようこそ」
「彼女は数世紀もが家に仕えてるんだ」マシューが言った。
「ありがとうござまいす」歓迎してくれたマルコにダイアナは言った。
 マシューの家族とあいさつを終えたダイアナは、まだ陽がでている明るい午前中ではあったが、彼れのあんないで城壁の塔にある寝室のほうへとついていった。
「疲れただろ、少し休んだほうがいい」荷物を部屋におき、マシューが言った。
「あなたは?」
「われわれは血の温かいものとねむりかたがちがうんだ」
 出しぬけにダイアナはいう。「わたしは歓迎されてないわね」
「家族いがいの者がここをおとずれるのは久しぶりだ——義父ぎふのフィリップが死んだ後はね」
「なにがあったの?」
「……ころされた——第二次大戦で。わたしは階下かいかにいるから——なにかあればんでくれ」そう言って、マシューは寝室を後にした。
 ————————。

 イギリス〈オックスフォード〉——。
 ボドリアン図書館の閲覧えつらん室にもなっている——円柱えんちゅう型でてっぺんがドームじょうになっている——ラドクリフ・カメラのまえを、マーカスがとおっていく。医師でもある二十代の彼れは、すこしチャラ男ふうのイケメン顔だ。
 そこは鉄製のフェンスで区画くかくされており、まるで、そこが駐輪場ちゅうりんじょうであるかのように隙間すきまなく自転車がさくにつながれている。マーカスがとおっている床はすべて敷石で、ほかの通行人たちも行きっていた。
 ラドクリフ・カメラから歩いて二分もしないうちに〈ブレーズノーズ・カレッジ〉へたどりついたマーカスは、マシューの助手としてクリーチャーをけんきゅうしているミリアムと携帯で話しながら、カレッジのなかに入っていった。
「無事にいたみたいだ」カレッジ内の階段をあがりながら、ステン・カラーのジャケットをはおっているマーカスが言った。
『しばらくは安全ね』〈オール・ソウルズ・カレッジ〉の研究室から、髪みをトップでおだんごヘアーにしているミリアムがこたえた。マーカスより少し年上のかんじがするお姉さんといったところで、とがったような態度のなかに優しさもうかがえたりする美しい女性だ。
「でも、イザボーがダイアナをおそうかも——」
 と、そこでマーカスは止まった。マシューの部屋のなかに、気配けはいをかんじとったのだ。
『……マーカス?』
 警戒しながらマーカスは、おそるおそる部屋のなかに入っていく。とびらのかぎが強引にけられていた。
『どうしたの?——』
 マーカスは携帯をろしていた。
 ミリアムの声はとどいていない——
「ハロー、マーカス」
 書斎しょさいのような部屋のなかに——資料やはがきなどがかれた木製のデスクのイスにすわっている——ジュリエットがいた。マネキンのように整った顔立ちで、髪みは爆発したようなボンバー・ヘアー、長いロング・ブーツにヘリンボーン模様もようのチェスター・コートをはおっている。
 ——なぜ、ここにヤツが……。
「ジュリエット、なにしてる?」
 マーカスの問いを無視し、ほおづえをつきながらジュリエットはく。「マシューはどこ? 魔女といっしょなの?」
 ——どうして……なんで彼女が知ってるんだ?
「魔女ってなんのことだ?」
おしえないとジェルベール(ジュリエットの父)にとがめられる」ジュリエットはイスから立ちあがり、警戒しているマーカスのほうへとをすすめだした。
「お前がどうなろうと知るかよ」
 ジュリエットは、マーカスのことをこれっぽっちも脅威きょういとはおもわず、彼れに近づきながら訊いた。「彼れは、まだ私しを愛してる?」
「とっくに忘れたさ」マーカスも彼女のほうへ近づく。「もう、あんたに未練みれんはない——」
 すると、ジュリエットは飛び退くすきもあたえず、おそろしい顔でマーカスに飛びかかった! 
 彼女の掌底しょうていちをもらったマーカスはうしろにすっ飛び、部屋の調度品ちょうどひんがたおれてれた。
 そのチャンスをのがすまいと、ジュリエットは次の攻撃にてんじようとする。彼女はふつうの女ではない——マーカスとおなじ、吸血鬼ヴァンパイア。男だろうと、その気になれば力でねじふせることができるのだ。
 と、そこに、研究室からかっ飛んできたミリアムがジュリエットの攻撃を止めた! マシューの助手として大学で働いている彼女も吸血鬼ヴァンパイア——ジュリエットに抵抗できる力もある。ミリアムは彼女をしたおした。そして、あばれる彼女を組みせようとした。が、ジュリエットも負けてはいない。すぐに立ちあがると、けもののように飛びかかった。ミリアムの首をつかみ、なぐりかかろうとする。ミリアムはすぐにつかまれていた手からのがれ、ガードしている彼女のうでにりをいれた。いっしゅん、ジュリエットをひるませたすきにミリアムは後退し、立ちあがったマーカスと横にならんだ。
 これで二対一。
 がわるいと判断したジュリエットは攻撃の手をやめた。みだれたチェスター・コートをととのえだし、ちいさな吐息といきをついた。「ひとりじゃ何もできないの?」マーカスのほうをみやって、ジュリエットが言った。「いつも他人まかせ」ミリアムにいちべつをした。「マシューによろしく」そう言って、ジュリエットは部屋から立ちさろうとした。
「ふりむきもしない男をいつまで追うの?」横をとおりすぎようとする彼女に、ミリアムが言った。
 ジュリエットは立ちどまり、憎憎にくにくしげな視線をミリアムにきさした。ほんとうの愛をしらないこの女に理解はできまい——そう思い、なにも返さず、ジュリエットは部屋を後にした。
 ————————。

  2

 フランス—〈セット・トゥール〉——。
 ダイアナが寝室で睡眠をとっているあいだ、マシューは屋敷にもどり、ダレス・バッグをもって義父の部屋にむかっていた。まるで迷路めいろのようなせまい廊下で、昼間でも燭台しょくだいふうのウォール・ライトがいている。鎧窓よろいまどから光りのすじが当てられているとびらのまでマシューは立ちどまり、部屋をけようとした——が、鍵がかけられていた。
「その部屋は開けないで」うしろからしずかな声でイザボーが言った。
 マシューはふりむいて母に近づく。「やることがある。フィリップの書斎でね」
 七〇ちかくの見た目のイザボーは、どこか悲しげな眼差まなざしでマシューをみやっている。
「母さん、カギをくれ」マシューは言った。「ケンカはやめよう」
「ケンカじゃない」
「ダイアナが夫を殺したわけじゃない」
「…………」イザボーは持っていたカギを無言で手渡した。
「ありがとう」
 イザボーはうらめしそうに言った。「彼女とおなじ魔女のものが殺したのよ。ほかのだれでもない」
 わかってる——そう無言でうなずき、マシューはフィリップの書斎に入っていった。そのとき、イザボーはじぶんたちを危険にさらしている、とたしなめていたが、ダイアナに心酔しんすいしている彼れの胸にはとどかなかった。
 大学のりょうとさほど変わりはしない面積の部屋、掃きだし窓から差しこんだ陽の光りが、白いカーテンのすきまから入っている。部屋のつきあたりに書斎ようのつくえが置かれており、レトロ感のあるなつかしいダイヤル式の電話機や、タイプライターなどがまだのこされていた。
 義父の名残なごりをじわじわとはだで感じながら、マシューは持っていたダレス・バッグをイスのうえに置き、ほこりがかったデスクにれた。

 屋敷をかこむようにしつらえられた城壁のとう、そのくらいらせん階段をのぼると、各階に部屋がいくつもそんざいする。部屋のなかは屋敷とちがって質素しっそだが、石づくりのてものからは想像もつかないウッド・デザインの内装ないそうとなっていた。
 そんな客間きゃくまの寝室でねむりについていたダイアナがおぼろげに目をけた。イギリス海峡かいきょうをこえたとなりのフランスまで睡眠をとらずにやってきたため、マシューから休息をとるように言われていたのだ。
 すると、居間いまのほうにある腰高窓こしだかまど遮光しゃこうカーテンから、しこむ外のひかりのほうをながめている女性がいた。ダイアナとおなじブロンドの髪みで、足くびのところが細くなっているスラウチ・パンツに、ゆるめの白いセーターを着た——四十代くらいの女性。
「……おかあさん?」ベッドで横になりながらダイアナはつぶやいた。
 部屋にいたのはダイアナの母——レベッカだった。
 しかし、どうして部屋のなかにレベッカがいるのか? 彼女はすでにくなっているはずなのに……
「お母さん?」と、ダイアナがもういちど呼ぶと、レベッカが振りむいた。まるで陽炎かげろうのゆらめきのように空間がゆらいだ。
「ダイアナ」レベッカが呼びかえした。
 何かを伝えたがっているようだ。
「お母さん?」
「ダイアナ——」
 レベッカの姿がぼやけて、だんだん見えなくなる。視界がどんどんまぶしい光りにさえぎられ——
 と、つぎのしゅんかん、ダイアナは両手をまっすぐにひろげた状態で、白いクモのにがっちりとからめられていた。あまりにも突然とつぜんすぎて、悲鳴をあげるひまもなかった。
 唖然あぜんと起きあがり、ダイアナは現実のせかいで目覚めざめた。
 あのとき——『アシュモール〈七八二〉』の本に触れて以来いらい、なんども見てしまうクモの巣とクモの夢……現実でも幻覚げんかくの父親とせっしょくしたことがあるし、今回は夢のなかで母親があらわれた——
 これらの兆候ちょうこうはいったい——
 なにを意味しているというのか?
 危険をしらせるサイン?——わからない。
 不可解ふかかいな現象にわずらわされながらも、マシューとおそろいのセーターを着ているダイアナには、まだ、知るよしもなかった——。



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