![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/90823076/rectangle_large_type_2_a44e3ae22f03243dcbf53dc693fca64b.png?width=800)
【洋ドラ】『ディスカバリー・オブ・ウィッチズ ~第1章 4話~』
◆どんなストーリー?
呪文の本を求めてくるピーターからダイアナを守るために、マシューは彼女を連れてフランスの母の住む古城をたずねる。
いっぽう、ピーターはコングレガシオンの代表者があつまる会合で、マシューは掟をやぶったと報告する。
二人の関係を知ってしまった組織の者がマシューたちのまえにあらわれてしまったため、彼れはダイアナと距離をおくことを決意する。
◆主要人物
ダイアナ・ビショップ……科学史の研究員。魔女
マシュー・クレアモント……生科学の教授。吸血鬼
イザボー・ド・クレアモント……マシューの母
マーカス……若い医師。吸血鬼
ミリアム・シェパード……マシューの同僚。吸血鬼
ピーター・ノックス……魔術師
サトゥ・ヤルヴィネン……北欧の魔女
ジリアン・チェンバレン……ダイアナの友人。魔女
ガーバート・ジェルベール……ジュリエットの父。吸血鬼
ジュリエット……ガーバートの娘。吸血鬼
ドメニコ……吸血鬼
アガサ・ウィルソン……ナサニエルの母。悪魔
ナサニエル・ウィルソン……悪魔
ソフィー・ウィルソン……ナサニエルの妻
サラ・ビショップ……ダイアナの叔母
エミリー……サラのパートナー
シルヴィア……魔女のリーダー
ヴォールドウィン……?
(ルビなしで約22000字)
◆母親との対面
1
フランス〈セット・トゥール〉——。
木杭が剣山のようにたくさん打たれてある広大なブドウ畑をとおりすぎ、ダイアナを乗せた黒のセダンが門扉をとおっていく。事前にマシューが母親にれんらくを入れていたため、車一台がとおれる門のとびらは開いていた。森林に覆われた高地にそびえたつそのお家は、何世紀もまえに建てられた古城である。〈シャトー・ド・ボナギル〉のような厳しいふんいきのある要塞のお城で、おおきな塔が七本もある城壁にかこまれており、その内がわに領主が住んでいる屋敷があった。
息子がたずねてくるところを、階段をあがった屋敷の入り口のちかくで母親は見おろしていた。年齢は六十代といったところで、ブロンドの髪みはフォーマルなシニョンにまとめられており、ウエストをしぼれるブラウジング・ワンピースを着ている。フランスの国らしく、ボルドーの赤ワインのような色で、光沢のある生地。
だが、どうだろう……『ハリーポッター』の映画に出てくるマクゴナガル先生のように、マシューの母親の顔は無表情だった。ひさぶりの息子との再会を喜んでいるようには見えない。
石塀にかこまれた敷石の道をすすみ、屋敷のまえで車は駐まった。車内からボストン・バッグと四角いトランク、ダレス・バッグをとりだし、ラフな格好をしたマシューが両手に持って、ダイアナと階段をあがっていく。
「ダイアナ、しょうかいするよ」上で見おろしている母をかくにんしたあと、マシューが言った。「母のイザボー・ド・クレアモント」
マシューのジャケットをはおっているダイアナは愛想よく笑顔をつくりこみ、無表情のイザボーに目をやりながらマシューといっしょに上がっていった。
冷ややかな視線をあびせている母親にマシューは言う。「中に入らないのか?」
母親のイザボーはあいさつもせず、ダイアナたちを屋敷のなかに案内していく。どうやら彼女はダイアナにたいして、ポジティブな感情をいだいてはいないようだ。彼女は魔女なのだから——「すこしは配慮したらどうなの?」
「ふるいルールに縛られないのかと」ダイアナと母のうしろを歩きながらマシューが言った。
「わたしは変革をのぞんでない」内壁がコンクリートの仄暗い廊下をすすみながら、振りかえりもせずにイザボーは言った。
マシューのよこについて歩いているダイアナは、イザボーの口調や所作などから、じぶんは歓迎されていないと悟っていた。だが、かんたんにめげるような彼女ではない。「泊めてくださり感謝します」リビングのほうに案内され、ダイアナは言った。
長方形型のながい木製のダイニング・テーブルや、高級感のあるクラシカル・ソファにカーペット、きれいな観賞用植物、かべに飾られている額縁の絵、幅が一五〇センチいじょうもある大きな暖炉、また、アーチじょうの掃きだし窓が等しいかんかくでならび、設けられている。中のようすは以外とミニマリストにちかいくらい寂寂としており、華やかさに欠けていた。
彼女の言葉に、ダイニング・テーブルのよこで、イザボーはフランス語でかえした。
が、理解ができなかったのか、訝しそうにダイアナは眉をひそめている。
「“よろしく”と言ったんだ」ダイアナのうしろからマシューが言った。
「英語と現代フランス語しかできないなんて、いまどきの血が温かいものは無学なのね」冷淡な口調で言い、イザボーはソファのほうへと移っていった。
慇懃無礼ともおもえる所作に、人を見下したような侮辱発言……
何世紀もずっと生きていられる吸血鬼とはちがうのだから、たくわえられる知識の量にも限界がある。そんなことも理解できないほうが無学なのでは?——そう言いかえしたいのをグッとこらえ、蔑まされてもダイアナはだまっていた。そのよこで、マシューも母親の態度が気になっていたが、ダイアナのまえでは口をはさまなかった。
すると、別室からふくよかな女中が笑顔でやってきた。「マシュー」
「やあ、マルト」マシューは彼女とフランス語であいさつし、ハグを交わした。「友人のダイアナだ」
イザボーに仕えているマルト——見た目が六十代くらいの女性——は、ダイアナのほうをみやった。「あら、ようこそ」
「彼女は数世紀も我が家に仕えてるんだ」マシューが言った。
「ありがとうござまいす」歓迎してくれたマルコにダイアナは言った。
マシューの家族とあいさつを終えたダイアナは、まだ陽がでている明るい午前中ではあったが、彼れのあんないで城壁の塔にある寝室のほうへとついていった。
「疲れただろ、少し休んだほうがいい」荷物を部屋におき、マシューが言った。
「あなたは?」
「われわれは血の温かいものと眠りかたがちがうんだ」
出しぬけにダイアナはいう。「わたしは歓迎されてないわね」
「家族いがいの者がここをおとずれるのは久しぶりだ——義父のフィリップが死んだ後はね」
「なにがあったの?」
「……ころされた——第二次大戦で。わたしは階下にいるから——なにかあれば呼んでくれ」そう言って、マシューは寝室を後にした。
————————。
イギリス〈オックスフォード〉——。
ボドリアン図書館の閲覧室にもなっている——円柱型でてっぺんがドームじょうになっている——ラドクリフ・カメラのまえを、マーカスがとおっていく。医師でもある二十代の彼れは、すこしチャラ男ふうのイケメン顔だ。
そこは鉄製のフェンスで区画されており、まるで、そこが駐輪場であるかのように隙間なく自転車が柵につながれている。マーカスがとおっている床はすべて敷石で、ほかの通行人たちも行き交っていた。
ラドクリフ・カメラから歩いて二分もしないうちに〈ブレーズノーズ・カレッジ〉へたどりついたマーカスは、マシューの助手としてクリーチャーをけんきゅうしているミリアムと携帯で話しながら、カレッジのなかに入っていった。
「無事に着いたみたいだ」カレッジ内の階段をあがりながら、ステン・カラーのジャケットをはおっているマーカスが言った。
『しばらくは安全ね』〈オール・ソウルズ・カレッジ〉の研究室から、髪みをトップでおだんごヘアーにしているミリアムが応えた。マーカスより少し年上のかんじがするお姉さんといったところで、とがったような態度のなかに優しさもうかがえたりする美しい女性だ。
「でも、イザボーがダイアナを襲うかも——」
と、そこでマーカスは止まった。マシューの部屋のなかに、気配をかんじとったのだ。
『……マーカス?』
警戒しながらマーカスは、おそるおそる部屋のなかに入っていく。とびらの鍵が強引に開けられていた。
『どうしたの?——』
マーカスは携帯を下ろしていた。
ミリアムの声は届いていない——
「ハロー、マーカス」
書斎のような部屋のなかに——資料やはがきなどが置かれた木製のデスクのイスにすわっている——ジュリエットがいた。マネキンのように整った顔立ちで、髪みは爆発したようなボンバー・ヘアー、長いロング・ブーツにヘリンボーン模様のチェスター・コートをはおっている。
——なぜ、ここにヤツが……。
「ジュリエット、なにしてる?」
マーカスの問いを無視し、頬づえをつきながらジュリエットは訊く。「マシューはどこ? 魔女といっしょなの?」
——どうして……なんで彼女が知ってるんだ?
「魔女ってなんのことだ?」
「教えないとジェルベール(ジュリエットの父)に咎められる」ジュリエットはイスから立ちあがり、警戒しているマーカスのほうへと歩をすすめだした。
「お前がどうなろうと知るかよ」
ジュリエットは、マーカスのことをこれっぽっちも脅威とはおもわず、彼れに近づきながら訊いた。「彼れは、まだ私しを愛してる?」
「とっくに忘れたさ」マーカスも彼女のほうへ近づく。「もう、あんたに未練はない——」
すると、ジュリエットは飛び退くすきもあたえず、恐ろしい顔でマーカスに飛びかかった!
彼女の掌底打ちをもらったマーカスはうしろにすっ飛び、部屋の調度品がたおれて割れた。
そのチャンスを逃すまいと、ジュリエットは次の攻撃に転じようとする。彼女はふつうの女ではない——マーカスとおなじ、吸血鬼。男だろうと、その気になれば力でねじふせることができるのだ。
と、そこに、研究室からかっ飛んできたミリアムがジュリエットの攻撃を止めた! マシューの助手として大学で働いている彼女も吸血鬼——ジュリエットに抵抗できる力もある。ミリアムは彼女を押したおした。そして、あばれる彼女を組み伏せようとした。が、ジュリエットも負けてはいない。すぐに立ちあがると、獣のように飛びかかった。ミリアムの首をつかみ、殴りかかろうとする。ミリアムはすぐに掴まれていた手からのがれ、ガードしている彼女のうでに蹴りをいれた。いっしゅん、ジュリエットをひるませた隙にミリアムは後退し、立ちあがったマーカスと横にならんだ。
これで二対一。
分がわるいと判断したジュリエットは攻撃の手をやめた。みだれたチェスター・コートをととのえだし、ちいさな吐息をついた。「独りじゃ何もできないの?」マーカスのほうをみやって、ジュリエットが言った。「いつも他人まかせ」ミリアムにいちべつをした。「マシューによろしく」そう言って、ジュリエットは部屋から立ちさろうとした。
「ふりむきもしない男をいつまで追うの?」横をとおりすぎようとする彼女に、ミリアムが言った。
ジュリエットは立ちどまり、憎憎しげな視線をミリアムに突きさした。ほんとうの愛をしらないこの女に理解はできまい——そう思い、なにも返さず、ジュリエットは部屋を後にした。
————————。
2
フランス—〈セット・トゥール〉——。
ダイアナが寝室で睡眠をとっているあいだ、マシューは屋敷にもどり、ダレス・バッグをもって義父の部屋にむかっていた。まるで迷路のようなせまい廊下で、昼間でも燭台ふうのウォール・ライトが点いている。鎧窓から光りの筋が当てられている扉のまでマシューは立ちどまり、部屋を開けようとした——が、鍵がかけられていた。
「その部屋は開けないで」うしろから静かな声でイザボーが言った。
マシューはふりむいて母に近づく。「やることがある。フィリップの書斎でね」
七〇ちかくの見た目のイザボーは、どこか悲しげな眼差しでマシューをみやっている。
「母さん、カギをくれ」マシューは言った。「ケンカはやめよう」
「ケンカじゃない」
「ダイアナが夫を殺したわけじゃない」
「…………」イザボーは持っていたカギを無言で手渡した。
「ありがとう」
イザボーは恨めしそうに言った。「彼女とおなじ魔女のものが殺したのよ。ほかのだれでもない」
わかってる——そう無言でうなずき、マシューはフィリップの書斎に入っていった。そのとき、イザボーはじぶんたちを危険にさらしている、と窘めていたが、ダイアナに心酔している彼れの胸にはとどかなかった。
大学の寮とさほど変わりはしない面積の部屋、掃きだし窓から差しこんだ陽の光りが、白いカーテンのすきまから入っている。部屋のつきあたりに書斎ようのつくえが置かれており、レトロ感のある懐かしいダイヤル式の電話機や、タイプライターなどがまだ残されていた。
義父の名残りをじわじわと肌で感じながら、マシューは持っていたダレス・バッグをイスのうえに置き、埃りがかったデスクに触れた。
屋敷をかこむようにしつらえられた城壁の塔、その暗いらせん階段をのぼると、各階に部屋がいくつもそんざいする。部屋のなかは屋敷とちがって質素だが、石づくりの建てものからは想像もつかないウッド・デザインの内装となっていた。
そんな客間の寝室でねむりについていたダイアナがおぼろげに目を開けた。イギリス海峡をこえた隣りのフランスまで睡眠をとらずにやってきたため、マシューから休息をとるように言われていたのだ。
すると、居間のほうにある腰高窓の遮光カーテンから、差しこむ外のひかりのほうを眺めている女性がいた。ダイアナとおなじブロンドの髪みで、足くびのところが細くなっているスラウチ・パンツに、ゆるめの白いセーターを着た——四十代くらいの女性。
「……おかあさん?」ベッドで横になりながらダイアナはつぶやいた。
部屋にいたのはダイアナの母——レベッカだった。
しかし、どうして部屋のなかにレベッカがいるのか? 彼女はすでに亡くなっているはずなのに……
「お母さん?」と、ダイアナがもういちど呼ぶと、レベッカが振りむいた。まるで陽炎のゆらめきのように空間がゆらいだ。
「ダイアナ」レベッカが呼びかえした。
何かを伝えたがっているようだ。
「お母さん?」
「ダイアナ——」
レベッカの姿がぼやけて、だんだん見えなくなる。視界がどんどんまぶしい光りにさえぎられ——
と、つぎのしゅんかん、ダイアナは両手をまっすぐにひろげた状態で、白いクモの巣にがっちりと絡められていた。あまりにも突然すぎて、悲鳴をあげる暇もなかった。
唖然と起きあがり、ダイアナは現実のせかいで目覚めた。
あのとき——『アシュモール〈七八二〉』の本に触れて以来、なんども見てしまうクモの巣とクモの夢……現実でも幻覚の父親とせっしょくしたことがあるし、今回は夢のなかで母親があらわれた——
これらの兆候はいったい——
なにを意味しているというのか?
危険をしらせるサイン?——わからない。
不可解な現象にわずらわされながらも、マシューとおそろいのセーターを着ているダイアナには、まだ、知る由もなかった——。
ここから先は
¥ 100
あなたのサポートが何よりの励みになります!もっともっと満足していただける記事を書いていきたいんでサポートのほど、よろしくお願い致します