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【クリミナル・マインド シーズン9】アイコンタクト【驚】

 デレク・モーガン がボルティモアの病院に搬送はんそうされた、ある患者をたずねてやってきた。今朝、発見されたその青年は意識もなく、I D も所持していなかったため、身元の特定はできていない。連続殺人事件ではないが、彼れの状態は特殊であったため、F B I はこの事件を扱うことにしたのだ。
 手首には縛られていたような索状痕さくじょうこんがあり、目がしらには刺し傷が見つかっている。磁気共鳴画像法MRIで撮られた画像を調べると、その傷は脳にまで及んでおり、右目のところには異物片も確認されていたのだった。

 その青年は二十代くらいの若い白人男性で、いまは警備がついている集中治療室の大部屋のなかで看護士とふたりきり。彼れはベッドの上で仰向あおむけ状態に寝かされており、頭はしっかりとヘッド・イモビライザーで固定されている。その不自由な左手の指先には、動脈血酸素飽和度どうみゃくけつさんそほうわど脈拍みゃくはくを測るパルス・オキシメーターが挟まれていた。
 あのまぶしかった無影灯むえいとうの明かりはもう光を失った。

 医師から彼れの状態をうかがっていた モーガン がその部屋に入ってくると、「F B I のデレク・モーガンです」と言った。
 まだ、目のまわりが大きく腫れており、ゴーグルで強く押し当てられたような赤いアザが残る、そのまぶたを青年は開けた。
「名前えは言える?」モーガンがたずねた。
「(サム・カーターです。お願いです、助けてください)」
「……これ、何度も聞かれたんだろうなぁ」
「(一〇回くらい)」
 モーガンはサムの顔のほうに近づいた。
「言葉を使わずに意思をつたえる方法を試してみないか?」
「(やるよ!)」
「たとえば、まばたきで返事をできないかなぁ」無表情のサムを前にモーガンは言った。「 YES なら瞬きを一回」
 すると、サムが瞬きをした。不自由な身体のなかで、目だけはかろうじて自由に動かせたのだ。
「よし、完璧だ」モーガンは言った「犯人は知り合いか?」
「(いや)」
「男か?」
「(そう)」
「わかった」モーガンは続ける。「犯人は一人?」
「(そうだ)」
「場所はわかるか?」
「(ハート・フォード通りの近く)」サムは瞬きするのを忘れた。「(ああ、違う、瞬きか)」サムは左手をピクピクと動かした。「(そうだ、紙とペンをくれたら書くから)」
「……何が言いたい?」いぶかしげにモーガンは言った。「何かを……書きたいのか?」
「(そのほうが早いだろ)」サムは瞬きをした。
 モーガンはとなりにあるキャスター付きのサイド・テーブルから紙とペンを取り上げ、「ほら」と、ペンをサムに握らせた。
「(ハート・フォード通り。倉庫がいっぱいあるんだ)」サムは紙に書き出した。
 その紙を見たモーガンは残念そうに首を振り、「ごめんなぁ」と言ってサムにも見せた。
「(僕、そんなこと書いてないよ!)」
 それは、とても字と呼べるものではなかった。ヘビのような波状で書かれたサムの字は——。

 眠っていたサムが再びまぶたを開けると、モーガンが誰れかと携帯で話していた。
「ドイツ?」いぶかしげにモーガンは言った。「男の被害者……」
 なんと、過去に起きた犯罪データと照らし合わせた結果、単発事件として男子生徒が同じようなロボトミー手術を受けて亡くなっていたのだ。この事件はインターポールに転職した、あの懐かしの エミリー・プレンティス の協力によって発覚したのだった。
 モーガンはサムのほう振り返る。サムは目を開けており、左手をピクピクと動かしていた。まるで、かしているように。
「……ホッチ、かけ直す」モーガンはサムのほうに近づいた。「ドイツって何か意味あるのか?」
「( ダナ が住んでた。そうだ、意味があるんだよ!)」サムは瞬きをした。
「よし、何かわかりそうだな」モーガンは部屋に現れた担当医の先生にいた。「先生、彼れは間違いなく状況を把握してます。文字盤を使って話しを聞いてみたいんですが」
「ああ、じゃあ、取ってこよう」五十代くらいの日本人の医師が言った。「その前に、目を見せて」医師はペンライトをサムの目に当てた。「腫れは引いたね。脳神経と瞳孔反応も怪我のわりには正常のようだ」医師はサムの右目に焦点を当てた。「だけど……変だぞ……」
「(変って?)」サムは険しい表情をする担当医を見て、不安になった。「(何が?!)」
 となりのモーガンに一瞥いちべつの視線を向けたあと、ふたたびサムの右目を医師は確かめた。
「(なにを見てる?)」
「目を開けて」医師は言った。「できるだけ大きく」

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 大きく開いたサムの右目をズームアップしてみよう。鼻の近くにある目がしらのところにはアイスピックのような小さな刺し傷があるのだが、注目するところは別にある。その黒い瞳孔どうこうの二回りも大きいブルーの瞳のなかに、わずかな黒い点がある。
 もっと、拡大だ。もっと——もっと、もっと、もっと……

 どんどん、その実態が大きくなる。

 画面いっぱいにまで広がった、それは……

 これは……カメラのレンズ!?

 仄暗ほのぐらいとある地下倉庫。
 コンクリート壁で作られたその倉庫は冷気がただよい、湿気によるカビ臭い異臭を放っている。ネズミも何匹か顔を出していた。
 光の走らない闇の空間に、大きなタブレットを両手に、ネイビーなVネック・Tシャツに黒のジャケットを着た白人の男が立っている。その男はタブレットを見おろしながら「どうも」と、紳士的な口調で言っていた。
 そのタブレットの画面には映っているのである。
 疑惑的な視線をこちらに向けている 医 師 と モ ー ガ ン の 姿 が ……。

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「私が愛した人は闇の箱を残したが、時が経つとそれも贈り物となった」
 詩人 メアリー・オリヴァー

【感情のトリガー↓】
】話せない生還者
】アイコンタクト
】ロボトミー手術
】犯人との心理戦
】妙な二人の関係

【悲】話せない生還者
 仄暗ほのぐらいい地下倉庫からおぼつかない足どりで路上に現れた青年がいた。なにかを追いかけようとするその様子はまるでゾンビのようであった。
 その道を通るパッカー車(ゴミ収集車)の運転手に発見された青年は、必死に助けをうったえていた。しかし、その不審な動きかたで近寄られた運転手の男性は、その青年を突き飛ばしてしまうのだった。
 意識がもうろうとするなか、気がつくとその青年は担架たんかで病院に運ばれていた。いちじるしい光度を放つ無影灯むえいとうをバックに担当医が自分を見おろし、目覚めたことに医者も気づきくのだが、青年との言葉のキャッチボールは皆無かいむであった。
 青年は必死に話しているつもりでも、口が動いていなかったのである

【驚】アイコンタクト
 病院に運ばれた青年は個人を証明するものを身につけていたなかったため、正体は不明であった。彼れから犯人の手がかりを探ろうと モーガン がたずねてくるのだが、いまだ、言葉は話せないまま。ロボトミー手術を強制されたせいで、脳が損傷を受けていたのだ。
 そこで、質問にYESなら瞬きを一回する、という方法で意思疎通を試みる。
 すると、犯人は男一人で他にも女性が一人捕まっているということが判明した。青年はまだ何かを伝えたい様子だった。状況を把握してると思ったモーガンは、担当医に文字盤を使って試みたいと提案する。承諾した担当医はその前に青年の目の状態をうかがおうとした。腫れの引いたまぶたからのぞかせる瞳をペンライトで確認すると、なにやら担当医の顔が険しくなりだした。
 いぶかしげな表情でこちらを見ているモーガンと担当医。
 それはバッチリとリアルタイムで映っていた。
 犯人の持つ、 タ ブ レ ッ ト の 中 に ……

【哀】ロボトミー手術
 なんと、被害者の眼球にある硝子体しょうしたいの中には、目視でも確認しづらいほどの小型カメラが埋め込まれていた。
 おそらく、犯人も見ているはず、そう思った F B I はえて逆手にとる作戦に出る。文字盤を使った会話から、その青年はジョンス・ホプキンス大学に通う サム・カーター だと判明したあと、『お前えの正体はわかってるぞ』というボードを サム に見せて犯人に揺さぶりをかけたのだ。
 すると、犯人は全国のネットにライブ映像をばらまいた。
 サムが見ている光景を。
 動画の流出を止めるにはガルシアでも時間を要すため、今は サム に目を閉じてもらうほかはなかった。が、そこでまた新たな映像が流れ出す。
 それは、もう一人捕まっている女性の視線から見たものであった。そこに突と犯人が顔をさらけだし、先のとがった長いアイスピックを女性の目の前に……

【晴】犯人との心理戦
 監禁してる女性を連れ出した犯人は、なぜか居場所がわかるように目印を映させた。この犯人は捕まることを恐れていないのである。
 F B I は拘束衣を着せられている女性を白いバンの中で発見する。が、犯人の姿はなかった。
 すると、タブレット画面にまた違う映像が流れだす。そこは、女性を監禁していた地下倉庫の中。駆けつけてきたホッチナーたちによって犯人は制圧される。犯人は椅子に座っており、まるで来るのを待っていたかのようだった。
 ホッチナーは撮影されている動画はすでに遮断したことを犯人に伝えた。犯人自身の目に埋め込まれたカメラの映像を。犯人は観念して大人しく捕まった。
 実は——まだ遮断できていなかったのだが、彼れの行動分析に余念よねんのなかったホッチナーは見抜いていたのだ。そばにあったタブレットを確認しないことを。

 サムが入院している病院にもう一人の被害者である女性—— ダナ が担架で運ばれてくる。回復傾向にある車椅子に乗った サム は モーガン に押してもらい、同じ大学で仲の良い ダナ と悲願の再会を果たすのだった

【疑】妙な二人の関係
 事件前の早朝、ジェイジェイ は壮観そうかんな建物が立っている公園で日課のランニングをしていたのだが、もう一人、一緒に走っていた人物がいた。夫の ウィル ではない、別の男性だ。
 その男に、毎日、走らないかと誘われたり、こんなふうに会うのはよくないと言う ジェイジェイ
 その後、二人はまた出会うことになる。なんと、その男こそが今は亡き ストラウス 部長の代わりとしてやってきた新部長——マテオ・クルーズ であったのだ。
 事件解決後、今回の件にメンバーとして加わっていた クルーズ は、一人で帰宅しようとしていた ジェイジェイ の前に現れる。そして、明日も一緒に走らないかと、夫と子を持つ彼女を誘おうとする。が、ジェイジェイ と クルーズ が待っているエレベーターのところに ロッシ が現れた。
 突然、クルーズ はよそよそしく態度を変え、まだ仕事があるようなことを言ってデスクに戻っていくのだった。
 ロッシ は押されていなかった、、、、、、、、降りるボタンを押した。そして、ジェイジェイ と同乗する。
 ロッシ は野暮やぼったく問い詰めたりはしなかった。
 彼れはそういう男なのだ。

【感想】
 今回の犯罪に使われいた技術——ナノインプラントによる小型カメラ——は、闇市場のなかで常識であり、諜報員ちょうほういんも使用していると ジェイジェイ は言っていましたね。これがもっと発展すれば、僕たちの目が監視カメラの役目をはたし、犯罪証拠を収める機能として使えそうですよね。いっぽう、私たちのプライベートも無くなっていくわけですが……。
 いよいよ、スマホも自分たちの体内に入っていくんでしょうかねぇ(汗


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