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【クリミナル・マインド 9】獣たちの祝宴 – あらすじ

「真実と正義においては、問題の大小はない。
 人の扱いについては、すべて重要だ
 アルバート・アインシュタイン

 10,000文字ほど。

【感情のトリガー↓】
第一章:【
第二章:【ー】
第三章:【
第四章:【
最終章:【

第一章:ブタマスク

⑴ 仕事か恋人

 寝起きのモーガンが、リビングのほうへとやってくる。まだ、明け方の未明みめいで、カーテンのいていない その部屋には、ブラケット・ライトと スタンド・ライトのあたたかいあかりがついていた。なので、その壁にかざられている陶板画とうばんがたちや、観賞用の植物、そして、救命病棟きゅうめいびょうとうのドクターとして働いている彼女の姿までとらえることができるのだ。まるで、ビヨンセのような風体ふうていをしており、完璧といってもいなめない美女——サヴァンナは今、仕事にでかける準備をしている。そこにこっそりと、黒いワイシャツがはだけているモーガンが——にこにこと微笑ほほえみながら——近づいているとも知らずに——。

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「——ぁは!」
 美しい花のような甘いかおりのする彼女に、モーガンが抱きついた。その瞬間、サヴァンナのセンサーが良好にちかいような声がもれたようだ。うしろから優しく抱きしめられている彼れの手を さらに抱きしめ、きめこまやかな肌をしたほおを 彼れの顔に密着させた。
「おはよう」甘い声でモーガンが言った。
「はぁーい♪」それに応えるサヴァンナ。「ゆうべのディナー、最高だった♪」
デザート、、、、はもっと……」彼女の耳元でささやいた。
「ん……眠れたぁ?」キスの合間にたずねた。
「ん……ぐっすりと」今度は彼女の頭にキスをした。
「だと思った……おおいびきだったから」
「おーい、ちょいちょい」手を離したモーガンが言った。「オレ、いびきかかねぇぞ」
 きょとんとした顔でモーガンを見つめたあと、サヴァンナは両腕をつかって彼れを抱きしめた。「だったら、ベッドの下に大きなクマがいたのねぇ♪」やさしいキスで、彼れの機嫌をなおしてあげた。

《ピロリン……♫》

「ん——たく、なんだよぉ」仕事の連絡を知らせる着信音に、いらつくモーガン。いやいやながら、トコトコと携帯をチェックしに歩いていった。
「事件——発生!?」
「……」モーガンは、無言でうなずいた。
 その瞬間、あの美しいヴィーナスの笑顔がなくなった。
「どこ?」
「……メンフィス(テネシー州の)」申し訳なさそうな面持おももちで、モーガンは言った。
 サヴァンナは、なにも言わなかった。仕事の支度したくにとりかかるその顔には、みえない涙がこぼれていた。
「……サヴァンナ?」感情を抑えている様子は、モーガンにも理解ができた。
「あぁー、いいのよぉ」強がるサヴァンナ。
「話しあったよなぁ?」両手をかるく広げた。
「そうね」黙々と準備を進めることで、感情を抑えようとつとめている。
 すると、モーガンが近づいた。「待てよ」彼女を手をつかむ。「ちょっと、こっちきて」ソファへとひっぱった。「座ろう」いっしょにすわり、そっぽ向いてる彼女の顔を こちらに向かせた。「……どうしてほしい?」
「もう、三度目よ」サヴァンナは、えた声で言った。
「だよなぁ……四度目、五度目もあるかもしれねぇ」モーガンは続けた。「事件が起きる日は決められないから……」
「……」サヴァンナは視線をおとし、すこしうなずいた。
「ご両親に会いたくないわけじゃない……これが仕事なんだ」
「わかってるわよ……ただ、わたしも親も楽しみにしてたから!……少しくらい、ふてくされてもいいんじゃない?」言下げんかにサヴァンナは言った。
 こんなことが、この先もおとずれる……そして、お互いに嫌気いやけがさして……別れてしまうんだ……。「オレじゃだめか……」ボソッと、遠くをみてたモーガンがつぶやいた。
「はぁ?」悲しそうだった彼女の目が、ボッと燃えた。
「飛びまわってばかりで、そばにいられないなんて……彼氏、失格だろう」悲しげにモーガン。
「待ってよ——もしかして、わたしに——あなたをらせようとしてる?」強めの口調でたずねるサヴァンナ。
「……おまえがそう望むなら……」まっすぐな目で言った。
「のぞんでないから!……別れたいと思ってたら、わたし、自分から切りだすし!」サヴァンナはつづける。「あなたがダメだと思うなら、はっきり言って!——わたしに言わせるのは、卑怯ひきょうだわ!」
「そんな——」
「人間関係って、自然には出来あがらない……きずきあげるの! その努力をしたくないなら、私しじゃなくて、あなたの問題!」
「サヴァンナ——」
「はやく行ったら!」
「……」
「ほら、さっさと着替えて」サヴァンナは、ソファから立ち上がった。「事件なんでしょ?」
「……」
「行きなさい」冷たくあしらうように、サヴァンナは言った。

 モーガンは、なにも言いかえせなかった。理解をしてくれない彼女に問題があるのか……それとも、サヴァンナの言うとおり、関係を築こうとする努力の足りない、自分のほうに問題があるのか……。これ以上、なにを言っても火に油をそそぐだけだ。
 黙って彼女の家を後にしたモーガン……。
 見えない涙をこぼしていたのは——
 彼れもいっしょだった……。

 ————————。

⑵ 免れた学生

 時刻は〇時を過ぎてしまっている深夜、まるで男の子みたいに冒険ぼうけんを好みそうな——アクティブな二人の女性たちが、駐車場にもどってくる。すぐそこの、二四時間営業をしているスーパーを後にしてきた二人は、ともに二十代前半くらいで、親友同士。
 ブルネットのほうが、『ダーク・エンジェル』のヒロインを演じていた “ジェシカ・アルバ” にすこし似ている——クリスティン 。そして、アフロのように髪みの広がっているほうが、『ロック・アップ/スペイン……』に登場するキャラ “エステファニラ” にすこし似ている——デビー 。

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「“ダニエル” って、ほんと めんどくさい」黒いタンクトップに、ピンクのパーカーを着た——ジェシカ風の——クリスティが、電話を切ったあとに言った。
「じゃあ——別れたらー?」色ちがいのむらさきのパーカーを着た——エステファニラ風の——デビーが、外に置いてあるカート列にもどしたあと、その買い物袋をとりだして言った。
「だけど……」とクリスティ。「カッコいいんだもぉーん」さらに、惚気のろけづいて言った。「それに、すごいし—— 舌技したわざ が♪」
「やめてよー」荷物を助手席のほうまで運び、まゆをひそめるデビー。「そんな情報、いらない」
 ふたりは笑いながら、車に乗った。——《ブルル……ブォーン》と、クリスティは エンジンをかけた。そして、バックして駐車場を出ようとした——
 その時——
 まるでピタリを張りつくように、彼女たちの後ろを ほかの車が止まったではないか。二人の車は、前向きで駐車しているために、バックでしか出られないのだが、その車は動こうともしない——しかも、ヘッドライトの強さを ハイ・ビーム にしている。いったい、どんなヤツが乗っているかなんて 見えやしない。

「……そんなとこ寄せる!?」ルーム・ミラーをにらみながら、クリスティが言った。
「しんじらんない……」後ろをのぞいた デビー。「こっちは、明日の朝七時に、テストだっていうのに……」

《プ——————ッ!!!!》

 柳眉りゅうびさかだてながら、クリスティはクラクションを鳴らした。が、うしろの車は じっとしている。すると、よりアフロ感が増したようなデビーが、降りようとする。
「なにすんのー?」不安げにクリスティがたずねた。
「どういうつもりなのか、見てくる」クリスティは、降りていった——。

「ちょっとー! なんなんですかー!」
《——ガサッ——》

 いていた窓から、デビーの声が聞こえなくなった。
「デビー!?」心配になったクリスティも車から降りた。「デビー?!」光りをさえぎろうと腕を上げながら、大きな声で言った。が、返事がない。しかたなく、うしろの車のほへと歩いて……
「——は!?」クリスティはけよった!「ウソでしょ?」
 デビーは、たおれて 意識を失っていた……。
「誰れか来てえぇ——!!」デビーをさすりながら、クリスティは叫んだ。すると——「!?」自分の背後に、気配を感じた……
 そう——なにか……全身が黒いなにか……
 クリスティの首になにかが当たった!
 それは、小さくも——強力な——

 —— ス タ ン ガ ン ——

 クリスティも今——気絶きぜつした……。

 ————————。

 ————————。

 視界がぼんやりと明けてくる……だんだん……うっすらと……黒いフードをかぶった人物が……あれ!?……クリスティ?……クリスティがトランクの中に入れられた……ダメ……からだが動かない……

 地面に倒れているデビーの意識が、起きた。しかし、動かすことができるのは、麻痺まひけていた頭だけ——彼女は おぼろげな声で「クリスティ」と名前えを呼んだ。すると、トランクを閉めた——黒いフードをかぶった——謎の人物が近づいてきた!——その正体があらわになってくる……ん!?……その顔は……人ではない……そう……あれだ——

 ブ タ の マ ス ク だ ……。

「誰れかあ——!」デビーは叫んんだ!
 すると、ブタのお面をかぶった謎の人物は、「シー」というように 人差しゆびを豚鼻ぶたばなに当てた。そして、恐怖ですくまっているデビーを そのまま残して、謎の人物は去って行った——

 ク リ ス テ ィ を乗せて……。

 ————————。

第三章:犯人の怒り

 テネシー州——メンフィスという街ちで、拉致らち事件が発生!
 この四十八時間で、

❶男(五九)マイケル。平凡な顔。
❷男(二三)トレヴァー。若いマースデン風。
❸女(二一)クリスティ。ジェシカ・アルバ風。

 以上の三名が、深夜の駐車場から拉致されていた。——そう、昨夜ゆうべ、連れさられてしまったクリスティは、三人目の被害者。そして、モーガンとサヴァンナの関係に、亀裂きれつを入れてしまった事件でもあったのだ。
 しかし、犯人に襲われていた被害者のうち、さいわいにも拉致をまぬがれていた人物がいた。ふわふわのアフロがとてもキュートで、さらわれたクリスティの親友でもある——デビーという女の子。なんと、二人を拉致する余裕があったのにもかかわらず、彼女には興味がないといった感じで、走りさってしまったというのだ。
 その彼女の証言によると、犯人はブタのマスクをかぶり、スタンガンを凶器に使っていたとのことだった——。

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 平凡な顔をしたじいさん、マースデンのように濃い顔をした男の子、りの軽そうなジェシカ風のクリスティ。彼れらの両手には、手錠てじょうがかけられており、それをグイッと持ち上げて、天井にるされたくさりにつながれている。彼れらの口元は、グレーのガム・テープでふさがれていて、ほぼ、均等な間隔でよこに並べられていた。そこは、暗〜く、コンクリートの壁でおおわれた地下室……。

《ギ…ギ…ギ…ギ……》

 なにか、鉄製のぼうを引きずりながら、彼れらのもとに近づいてきた。

《カーン……カーン!》

 それをわざと床にたたきつけ、恐怖をあおっている。

 ああ、だんだんと見えてくる……

 その前身を覆っている黒いコートと 黒いフード……

 そして……

 ……………………。

 ブ タ の マ ス ク ……。

 覆面ふくめんをした人物は、若い男のほうに近づき、持っていたぼうの——分厚ぶあついほうを彼れの腹に向けていてきた! そいつは、目を大きくしてもだえているトレヴァーのズボンを下ろし、えた親指、、露出ろしゅつさせた。今度は、持っていた棒を逆向きにしたと思ったら、その先の細くとがった棒を、彼れの——その臭いくさい汚物がでてくるところを目指して刺したのだ! 彼れの両どなりに吊るされているじいさんもクリスティも、目なんて開けてはいられなかった。

 だが、トレヴァーは、まだ生きていた。
 ブタのマスクをしてる人物は、テープをはがして 彼れの口を開放させた。

「……すべて話しました……本当にごめんなさい……お願いです、どうか許してください……」苦しそうにトレヴァーは言った。
 すると、マスクをした人物は、水の入ったポリタンクを持ってきた。
「水……もう、喉がカラカラだ……飲ましてくれ……」
 トレヴァーは真上を向かされると、自分から大きな口をあけた。そして、それよりも高い位置から水が与えられた……

「!?——ゔぉ……ゔぉ……ゔぉ……」

 なぜか、彼れの口からジリジリとけむりがでているではないか!
 みるみるうちに、その皮膚は焼けただれていく——
 飲み込んでしまった喉の粘膜ねんまくを、いちじるしく破壊していく——
 その液体は……
 ……………………
 塩酸えんさんだった……。

 ————————。

 拉致されていた被害者が一名発見された!
 それは、トレヴァー(二三歳)。森に捨てられていたところを、明朝みょうちょう、ふたりの狩猟者がみつけたらしい。
 なんと、彼れは生きていた。そのみにくなってしまった顔は、二度ともどることはないのだが、殺されてはいなかったのだ。

 ガルシアの情報によって、一年前のあるパーティーが関わっているのではないかと、 F B I は推測すいそくした。
 それは、トレヴァーが主催しゅさいしていたフラタニティ——アメリカの大学では一般的なグループの集まり——で、マスクをかぶったブタ・パーティーが開かれていたのだ。五九歳のじいさんは、そのパーティーを後援こうえんしていたというのと、同じく一年前、クリスティもそのパーティーに参加していたことが判明した。

 ここで、やっと事件のカギが見えてくる。

 ある一人の少女——ローリンという一九歳の大学生。彼女は、クリスティといっしょに、そのパーティーへ参加していたことが目撃されている。そして、その彼女はついさっき、命を終えていたのだ。
 原因は——低体温と、高濃度のアルコール……。そのきっかけも、去年のブタ・パーティーであった。ずっと、昏睡こんすい状態を保ちながら、延命装置えんめいそうちにつながれていたのだが、とうとう、その医療費が払えなくなり、やむなく中止にサインをした姉——シーラ。歳のはなれた彼女は、亡くなった親の代わりとして、妹のローリンを娘のように育てていたのだ。

 これはおそらく、妹のための復讐ふくしゅう……。

 F B I は、至急しきゅう、姉のシーラの家に向かった——。

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第四章:地下室の戯

 地下室にこもり、ブタのマスクを外した人物が デスクにすわって動画を見ている。その容姿は、まるで『S・A・T・C』シャーロット役——クリスティンを彷彿ほうふつさせるような赤毛の女性。
 名前えは “シーラ” ——妹のローリン(二〇)がとうとうってしまい、ゆいつの家族を失ってしまった悲劇の女性……。

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『ほんとに来ちゃったー!』携帯にうつるローリン——すこし子どもっぽくした “ダレノガレ・明美あけみ” ふうの少女が、はしゃぎながら言った。『夢がかなったねー!』
 場所は有名な観光地——『 H O L L Y W O O D 』 ハリウッド のサインがみえるハリウッド・パーク。姉と妹は、自撮り棒をつかって撮影している。
『ホー! 来たぜー、ハリウッドー!』姉のシーラも、ローリンといっしょに並びながら言った。愛しい妹のほおに いつくしみのキスをしながら。
『わたしたちってキレーイ?』カメラ・レンズに近づいて言ったローリン。
『さー、お次は——』妹をみやったシーラ。『ビーチよ!』
『バッチリ焼かなきゃー!』
 天使のような美々びびしい笑顔をくずなさい二人。
 そして、人生で一番、輝いていた瞬間でもあった……。

 シーラは次に、去年の留守電を再生した。
 その声の主は、かなり泥酔でいすいしきった様子で、かんぜんに呂律ろれつがまわっていなかった——

『……ご……めん……なさい……ごめん……なさい……』

 ……………………

 それが、妹の残した、最後の声だった……。

 ————————。

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 立派な垣根かきねがかこんでいる——そのなかに入っていくと、ガーデンニングが植えられており、まるで庭園のようなおもむきさが感じられる。敷地内にある中央のストーン・タイルをたどっていくと、邸宅ていたくともいえるその玄関があり、ふたりの女の子が、心をおどらせながら訪ねていった。

《コンコンコンコン!》

 すでにそこの邸宅から喧騒けんそうだっているのが感じてとれたが、扉がひらくと、そのやかましさは灼熱しゃくねつの域に達していた。みんな、お酒を飲みながらワイワイしているのだ。

「ようこそ、ひめたち!」頬にドロをぬりつけてるトレヴァーが、出むかえて言った。「お名前えは?」
「あたしは、クリスティー」ファー・カーディガンをこれみよがしに見せつけ、連れそいを紹介した。「この子は、ローリン」
どこ、、に欲しい?」トレヴァーのとなりにいる、受付けの黒人の男子が言った。すると、トレヴァーが笑いながら、彼れの胸をどついた。
「……ほっぺた」少しはにかみながら、小さめのジーンズ・ジャケットを着たローリンが言った。
 からだの見える場所にドロをぬる。これが、ここのパーティーに参加するルールだった——。

 好奇心がかなり旺盛なクリスティは、すでに D J の男の子といい感じになっていた——いっぽう、彼女よりも一つ学年下のローリンは、まだ、男れしていないようだ。ずっと、もじもじしているだけで、トレヴァーにつけいるすきを与えてしまっている。すると、彼れはローリンから少しはなれて、ブタのマスクをかぶっている二人に、合図をおくった。また、トレヴァーは、ローリンのいるとこへ戻ると、ふたりは手をつないで歩き出す。

「オレ、ここの会長だから、特別に案内してあげるよ」トレヴァーは地下室のほうを歩きながら言った。「そこなら落ち着いてるし、ビリヤードだってできるから」
 トレヴァーは、ハンサムでエリートな家庭の生まれ。そんな、彼れの甘いマスクに、ローリンはついていってしまったのだ。
 大学に入って初めてのパーティー……
 そして、これが最後のパーティー……。

「イヤアァァァァ——ッ!!」必死に暴れるローリン。「ヤメテェェ! 離してえ! ヤダぁー!」
「トレヴァー、こいつの腕を」ブタのマスクをかぶった男が言った。「暴れんなよ!」
 ビリヤード台の上に置かれたローリンは、泣き叫んでいた。その口元にテープをはられ、誰れにも届かない声をあげながら……。

 終わったあと、ブタのマスクをかぶっていた男は、それを脱いでいた。彼れは、アダムという上級生の生徒で、アメフトのクォーターでもある。そのため、このくらいの不祥事ふしょうじは、スポンサーであるマイケル(五九)という爺さんが、上手く処理してくれる。いつも、そうしてくれたように。

「これを全部、飲んだら帰してやる」ショートヘアのザック・エフロン風のアダムが、ウォッカのびんをつきだした。
 すると、トレヴァーが廃人はいじんと化したローリンの顔をうえに、そのゆるんだ口へと、ロート越しからそそぎだしたのだ。

「ゔぉ……ゔぉ……ゔぉ……」

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「それからどうしたの?」鬼の形相ぎょうそうでシーラはいた。
「……よいつぶれるのを待って……家に送った」トレヴァーのるされていた位置に吊るされている、アダムが言った。
「親切そうに言ってんじゃねぇよ、このクソヤロー!」とシーラ。「妹は、うちの前から電話してきた——」歩きまわりながら続ける。「ろれつがまわってなくて、よく聞き取れなかったけど……ひたすら謝る言葉と……あんたらの名前え——」ヤリのような棒をアダムに向けた。「だから、アンタが殺したってわかったの——」次は、マイケルの方に近づいた。「それを隠したことも……あんたたちを苦しめたかったんだけど、それだけじゃ、もう意味がない」シーラはマイケルの首をつかみ、その尖ったヤリを——

「ん…ん……ん……!?」

 ……………………

《グサっ!!》

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最終章:歯がゆい病

 ローリンの姉のシーラはゆるせなかった。
 フラタニティ・パーティーへいっしょに参加しておきながら、妹を放っておいて、見舞みまいにも電話一本もよこさなかったクリスティが……。シーラにとっては、彼女も同罪だったのだ。
 次は、クリスティも殺そうとしていた シーラだが、そこに F B I が駆かけつけてきた。彼女は、観念かんねんして 逮捕されたのだった——。

 ローリンを死にいたらしめたアダム、トレヴァー、そして、マイケルの頼みで 診断書を偽造ぎぞうしていた医師も逮捕された。
 これで事件は解決。
 だが、モーガンのしこりはまだ残っていた——。

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 シートに深くすわって 難しい本によみふけっているドクター・リード。事件のレポートに、目をとおしているアーロン・ホッチナー。熟睡中のデヴィッド・ロッシと アレックス・ブレイク。そして、何度もメールのチェックをしているデレク・モーガンに、その対面席にすわったジェニファー・ジャロウ。
 行動分析課BAUのメンバーは、ヴァージニアへと戻っていた。

「大丈夫?」ジェイジェイは、出勤した時から気になっていた。モーガンの顔に——元気がないことに。
「……ああ」モーガンはめずらしく、ヘッドホンを外していた。
「心配ごとでも、あるみたいだけど」見透みすかしたようなひとみで、ジェイジェイは言った。「人? 場所?」
 モーガンは少し、を置いて言った。「フ……ひと」
「お〜——もう、“わかってくれない病” ?」たしなめようとするジェイジェイ。
「なんだって?」怪訝けげんなモーガン。「何——病?」
「“わかってくれない病” 」ジェイジェイは、モーガンっぽく真似まねて言った。「“彼女がわかってくんねぇ”——“オレらの仕事、すんげぇ忙しいのによぉ”——”ベイビー、どんだけキツいか、わかってくんねぇんだぜぃ”」
「そんな言い方しねぇよ」かるいあきれ顔で言ったモーガン。
「まあ——とにかく、いつもなら半年くらいでこの症状がでて、別ればなしを切りだすか——向こうに振らせる」ジェイジェイは確信を突いた。「 “ 悪 者わるもの ” になりたくないから」
容赦ようしゃなく、ぶったぎってくれんねー」
「単純なはなしよ」コーヒーを一口すすり、続けるジェイジェイ。「パートナーが欲しいか、いらないか」
「……」
「もし、いらないなら、一生ひとりで良いって覚悟——決めなきゃ」ジェイジェイは、またコーヒーをすすった。
「……ウィル(ジェイジェイの夫)とは、どうやってる?」
「たいへんよ……努力はいる。でも、努力しないことには、始まらない」
「……でー、努力する価値はあるって?」真っすぐな目をして、モーガンはたずねた。
「きつい仕事をしてるのは、私たちだけじゃない。……よく考えて」またしても、確信を突いてくるジェイジェイ。「ほんとは、なにが怖いの?」
「……」モーガンは、ジェイジェイから目をそらした。「プロファイラーになる前のほうが好きだった」そして、視線を戻した。
「ウッソダァ」ジェイジェイはニコッとした。
 つられて、モーガンもフン…と鼻で笑った。その目をみるかぎり、どうやら心のシコリはなくなったようだ——。

 ————————。

 サヴァンナの自宅に着いたころには、もう、暗い夕方になっていた。モーガンは、ゆっくりドアに近づき、ノックを——

 と思ったら、ドアが開いた!

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「は!?」これから出かけようとしていたサヴァンナが、おどろいた。
「よう」声を小さく、モーガンは言った。
「はぁーい」
「あのさ……」開いたドアに片手を当てたモーガン。「このあいだは、その……」
「デレク、あたし……」自分の態度をうらんでいたサヴァンナ。「無理をいうつもりはないの」
「サヴァンナ」言下げんかにモーガン。「オレはぁ……どんなことをしても、おまえと……一緒にいたい」
「……」サヴァンナは、安堵あんどの顔をにじませた。
「本気でれてんだぁ」
 サヴァンナは、だまって抱きついた。そして、「愛している」という言葉をキスであらわした。
「わたしもよ」
 ホッとしたモーガン。「よかったぁ」小さくつぶやいた。「……それで……ご両親は?」
「うふ」
「まだ、来てないの?」
「実は……これから、空港へ迎えにいくところ」
「運転するよ」
「ん……それは、無理」ドアを閉めたサヴァンナ。
「なんでだよぉ?」
「だって、安心できないもん」鍵をしめて、サヴァンナは言った。「あなたの運転じゃ」
「そういうこと言うんだ」ふてくされるモーガン。
「そうよ」うしろを振りかえって、サヴァンナは言った。「れてね♪」
 ふたりは、肩を抱きよせあいながら、歩いていった。

 ふたりでしか見つけられない——

 人生の意味を探しに——。

 ————————。

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 ————————。

【感想】
 いやぁ、なんとか危機をまぬがれましけど……
 これも、なかなか答えがわからない課題ですよぇ。
 仕事に集中すれば、パートナーのほうがおろそかになってしまいますし、だからと言って、パートナーばかりに気を取られていては、仕事のほうで みんなに迷惑をかけてしまうという……。
 付き合って半年くらいで、この壁べにぶつかるみたいなので、みなさまもご注意を(汗

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