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俺の記事 7月号

私は専業の登山ライターじゃないのですが、記事の依頼を受けた場合には、専業の方々には絶対に出来ないような「俺にしか書けない表現」を目指そうとして9割は失敗しています

当たり前ですね。そういう道ひとすじ、命をかけている方々にはかないません。なので、私の場合は、平均点を目指すというより、アイデア勝負、論点勝負で、読んで頂いた(時間をとってくださった)読者に「読んで得した!」と思ってもらえるような内容を一つは盛り込むように心がけています。

そんな中、今月はこれは失敗ではないのでは?と自らが思う「俺が書いた記事」7月号です。

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まずは、山と渓谷7月号「新型コロナウイルスと登山」
コロナ後の登山に関して(ガイド)(医師)(山小屋)の立場からお話しています。ここでは山岳ガイドの松原尚之さんとともに、登山自粛の是非やコロナ後の登山についてガイドとしての立場から書かせていただきました。

松原さんのタイトルは「コロナを契機にポジティブな変化を」というものです。

(登山)行動を自粛するかどうかは、不要不急であるかないかではなく、感染の確率が高いかどうか、ただその一点で判断されなければならない

前後の文脈を紹介せず、ここだけ紹介すると誤解を招きかねない表現ではありますが、リスクというのは、ここまで断定しないと捉えられないのも事実です。私も同様の概念を理解したつもりになっていつつも、ここまで明確に言葉には出来ずにおりました。言葉に出来ない、言語化できないということは、それはつまり、認知できていない、問題の本質を捉えていない、というのと同じなのでしょう。

その他、こういう意見もありました。感染の拡大防止と事故へのより一層に注意した上で、という前置きがありつつ、

山に行くことが社会を取り戻すことにつながる

という意見です。これには私は、全く賛同します。私の記事にも書きましたが、もはやウイルスとの戦いは長期戦になっていますので、長期戦、持久戦になっているのに、経済を止め、生産活動、消費活動を控えるというのは、80年前の旧帝國陸軍が、敵を水際で阻止できず、補給の絶たれた状態で引き上げもせず、全員が餓死するまで戦い続けたガダルカナル島の絶望的な戦いと同じ構造であり、弾も食料も補給もない状態で、3000m級のアラカン山脈を越えようとしたインパール作戦とたいして変わらないからです。

考えてみれば、うちらは登山者で、山に行くことが人生の基軸になっている訳です。これを中心に人生を設計していくのは、当たり前のこと。さきほどの2点に留意し、山に登るためにあらゆる努力をし、山に登れる環境作りに奔走するのが、私たち山岳ガイドの新しい仕事ともいえないでしょうか?

災い転じて福となす のように同じ現象が起こっても、それを災いと感じてしょんぼり停滞るのか、その背後に福を感じて、回転トルネードを巻き起こそうとするのかでは、エライ違いです。松原さんは、本稿を通じて後者の「ポジティブな変化」を促そうと主張されていました。私も基本的には同じです。そして、次に進みながらも、どこで何を間違ったのか?同時にチェックすることも忘れずに。

さて、この記事は雑誌の記事ですので、WEBのように速報性はありませんが、このような多様な立場の意見をすくいあげてくれた、ことには山と渓谷編集部に感謝いたします。50年後に、状況が少し冷静に見えるようになった際、私たちの子孫たちが「え?一斉自粛?誰も疑問に思わなかったの?」と思ったとき、一部ではあるが、多様な意見があった、という事実は残りますから。

というわけで、私の記事にも、ご興味のある方は、山と渓谷7月号、お買い求めいただければと思います。



もう一点は、PEAKS7月号のBOOK PICK UPでマウンテンランナーの上田瑠偉選手の秘密を解き明かす山本晃市著『CHANGE 山岳ランニング王者 上田瑠偉』の書評を書かせていただきました。

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上田瑠偉選手がどれだけ凄いかというと、私たちの世代でわかりやすい指標とするとREDBULLがスポンサーとして上田選手の活動をサポートしていることです(ごめんなさい、走ることが嫌いな自分には、この偉業がどれだけ凄いことかわからないのです)

多分、この依頼がなければ絶対に手にとらなかった本ですが(さらに、ごめんなさい!)これは、読んで良かった、この依頼が来たことに嘘じゃなくて「本の神様」に感謝しました。なぜなら良書との出会いは、人の出会いと同じくらい難しく、偶然に左右されると知っているからです。

詳しくはPEAKSの該当記事を読んでいただきたいのですが、この本は、単なるアスリートの自己陶酔的自伝ではなく、現役の選手が、その強さの秘密を一般ユーザーにむけて、「俺はこういうやり方でやってるんです」と丁寧にでも強要はせずに、手のうちを明かしてくれている本なのです。

今は本が売れない時代ですからね。いかに上田瑠偉選手だとしても、自伝だけではそれほどの売上が見込めないから、ネガティブな意味で、「売れる本」を目指したのかと始めは思いましたが、そうではない。というのが本を読んで伝わってきました。非常にポジティブな意味で。

やっぱり読んでもらえる文章、読んでもらえる本というのは、読んだ人に、何らかのギフトをもたらすものだと思うのです。著者はそれを意識しているかどうかは別として、無意識化のプレゼントになっているのが、良書、良い文章といえるものではないでしょうか。

そういう意味で、この本は、上田選手からも、著者の山本さんからも、同じ分量のギフトが詰まっていると思うのです。

例えるなら、先を走る上田選手が、峠の上で、ゼーハー言いながら必死に坂道を登る僕らに向かって、ニコニコ笑いながら

「〇〇さん、ツライけど、少し上をむくと、呼吸が楽になりますよ」

みたいにアドバイスしてくれる、そんな感じの本です。

ご興味があれば、是非、ご一読をば。





時間とお金、どちらも有限な存在。ゆきずりの文章に対し、袖触れ合うも何とやらを感じてくださり、限りある存在を費やして頂けること、とても有り難く思います。