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ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』6~ハッピーレール大作戦~

ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』6~ハッピーレール大作戦~ を観劇した。
以下、ネタバレありの感想である。

作品概要

ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』(略称:鉄ミュ)は青春(あおはる)による鉄道路線を擬人化したコメディ漫画の『青春鉄道(あおはるてつどう)』が原作の2.5次元ミュージカルである。
脚本・演出・作詞を川尻恵太 (SUGARBOY)が担当している。
同シリーズはコンサートやスピンオフを含めて今作で10作目となる。

観劇のきっかけ

私は原作や鉄ミュのメインターゲットではないように思われるが、鉄道へのゆるい興味をきっかけに原作漫画のWEB連載を楽しんでいるライトなファンである。

初めて現地で観劇した鉄ミュは西武鉄道の路線を擬人化したキャラクターをメインに据えたスピンオフだ。
その後、コンサートにも現地参戦し、他の作品は配信やBlu-rayで鑑賞した。 

西武スピンオフから現地での観劇を始めた理由は非常にシンプルだ。
私の地元が西武線沿線にあるためだ。

会場が品川プリンスホテル内の劇場だったこたもあり、極めて一般的な(?)西武線沿線の住民として、西武鉄道がメインで取り上げられる回を見に行かないわけにはいかなかった。

小学校の社会科の授業で地域の歴史を学んだ際に西武鉄道は必ず出てきたし、中学生の頃の職場体験では西武線の最寄駅を選択した。

リブロで本を買い、セゾンカードで最初のクレジットカードを作り、大切な贈り物や人生の節目のショッピングはすべて西武池袋本店に委ねてきた。
もちろん、数え切れないくらいに「ケーキも買って」いる。

初めての野球観戦は西武ドームだったし(たしかインボイスの名前がついていた頃だ)、としまえんや西武園ゆうえんちで遊んだ経験もある。
友人との小旅行ではプリンスホテル系列に宿泊した。

何より、高校時代から社会人に至るまで通勤通学や仕事で西武線には毎日のように乗っていたので、資本関係が解消されていたとしても西武グループやセゾングループ的なるものには大変愛着がある。
なお、所沢以南に縁があるため、作中のキャラクターが主張するように「日本の首都は所沢」だと感じたことはない。

そんな具合に西武線への愛があるわけだが、今はJR西日本の沿線に住んでいる。
この度は幸いなことに新神戸駅直結の劇場で公演があるということで、チケットを取ることにした。

作品全体の感想

本シリーズはタイトルに「ミュージカル」と付いているが、一般的に想像されるミュージカルとは違う構成であるように感じる。
連続したショートコントの中に歌唱シーンがあるという位置付けが実態に近い。
原作はテンポ感のいいコメディ漫画なので、その在り方を崩すことなく上手くアダプテーションしている。
個人的には2.5次元ミュージカルでは歌唱がキャラクターに奉仕する役割を負っていると考えているが、本作もその潮流に則っていると言える。

また、本ミュージカルでは原作漫画の他、原作者による同人誌からもエピソードを採っていることがある。
これまでの作品でも同人誌のエピソードがストーリーに組み込まれていたため、作品理解を深めるために原作者による同人誌を一通り揃えたことがある。
私は同人誌即売会に全く馴染みがないため、この通販は中々にチャレンジングな体験だった。
過去の同人誌を一通り読んだことで、Twitter(現X)のおすすめ欄に流れてくるファンによる観劇レポートの解像度がかなり上がった部分もある(具体的に言うと、作品終盤に置かれることの多い比較的シリアスなシーンの背景が分かるようになった)。

今回は副題に「ハッピーレール大作戦」と付されているが、その作戦がどういうものなのか、完了条件は何だったのか、私にはついぞ理解できないままだった。
俯瞰的に見れば、「ハッピーレール大作戦」とは、演者と観客の共創で「ハッピー」になろうという趣旨のことだろうと思う。
本作は演者がかなり積極的に第四の壁を破壊するし、客席に対して積極的な参加を求めることすら演出の一部となっている。
そして、その求めに熱狂的に応じる観客が非常に多い。
カンパニーから観客への信頼が非常に篤いために、劇中では客席を巻き込んだハイコンテクストなやり取りが繰り返される。

私は近年の鉄ミュは専ら配信での鑑賞が多く、元より2.5次元ではないストレートプレイやミュージカルの方が見慣れている。
久しぶりに現地で観劇したことでその熱量に圧倒され、適応するまで随分時間がかかった。

本編の多くを占めるコメディ部分はアドリブ的要素が強く、出演者も裁量を持って演じているように思われる(収拾がつかなくなっている場面も散見される)。
私は綿密に練られた笑いの方が好みなので、この舞台の笑いのバランスはジェットコースターに乗っているような心持ちになる。
役者としては色々と試したり、スベったりできるチャンスの多い作品なのだろうか?
とにかく演じている側は非常に楽しそうだし、瞬発的な対応力がかなり上がりそうな舞台であるように思われる。
佐藤祐吾さんはそのような環境にあってもきちんと場を納めて本筋に戻すことのできる(本作では)希少な役者だった。
佐藤さんが舞台にいると安心して見ていられた。

歌唱に関しては個性を活かす方向性かと思われるので詳しく言及しないが、今作では吉澤翼さんの歌がとりわけ素晴らしかった。
吉澤さんの独唱シーンを見るに、かなり歌い込んで臨んだ様子だった。
音程はもちろんのこと、表現力も高く、澄んだハイトーンにミュージカル俳優としての力量の高さを感じた。
いや、本当に。吉澤さんはグランドミュージカルもいけるんじゃないかと思うんです。
東宝でもホリプロでもいいので早めにその才能の活躍の場を広げてほしい。
チケットを握りしめて、いつでも東京に遠征します(欲を言えば梅芸かMBSシアターに来てほしい)。

おわりに

私が日本の演劇文化に触れたきっかけはOffice CUEやTEAM NACSだったが、鉄ミュシリーズは小劇場演劇への入り口になってくれたという意味で重要な位置付けにある。

元々ミュージカルやストレートプレイが好きで観劇経験は少なくない方だが、もっぱら来日公演や海外公演ばかり見ていた。

そういった中で、日本の俳優や劇団に興味を持つきっかけを作ってくれたのが鉄ミュのキャストやスタッフだ。
鉄ミュと出会わなければ、最終的に豊岡演劇祭へ行くほどに日本の演劇への興味を持つことはなかったと思う。

役者であれスタッフであれ、「この人の作品をもっと見たい」と思わせてもらえることは観劇趣味を持つ者として幸せなことだ。
これからも鉄ミュを通した素晴らしい出会いを期待したい。

作品名: ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』6~ハッピーレール大作戦~
場所: AiiA 2.5 Theater Kobe

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