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【Totentanz】解説《増補版》

Totentanz(トーテンタンツ)、ドイツ語で『死の舞踏』を意味する、宗教画などでよく使われる言葉だ。
『ダンスマカブル』というフランス語の方がピンとくる人も多いかもしれない。今回、私は自分を語る上で切っても切れない存在……恐怖・怖れの原点をストレートに表現してみた。

人は死ぬとどうなるのか?

私は昔から、死への恐怖が強い。というよりも、『死』というものの境界線がうまく理解できないのだ。
それは幼少の頃に体験した野辺送りのせいかもしれないし、ある日夢で見た愛しい人の突然死のせいかもしれない。ギロチンで飛ばされた首が8回瞬きして生存を知らせたという逸話のせいもあるかもしれないし、昔からなんとなく思っていた「脳は司令塔なだけで、思考は細胞がする」という仮説が、夢野久作氏の『ドグラ・マグラ』で一層ハッキリと形になったせいもあるかもしれない。あるいは筒井康隆氏の『七瀬ふたたび』のラストが、身近すぎるブラックボックスの中の猫のようで忘れられないのかもしれない。
とにかく私は、何を以って死と決定づけられるのかという定義に、自分なりの答えが見つけられないのだ。

誰もが知らないから

臨死体験の話を観たり読んだり聞いたりすることはあるが、誰も実感を伴っての死を知らない。
死人に口なし
本来の意味とは違うが、まさにこれである。
死んだらどうなりましたなんて、誰も教えてくれない。
例えば臓器移植にしても、脳死状態ではあれど、魂は生きていて、麻酔なしに切り取られる痛みを体験しているかもしれない。
心臓が止まってもすぐに脳の死が訪れるわけではない。
歳を重ねれば達観できるかと思っていたが、人生の半分を過ぎて、どんどんその恐怖は色濃くなっていった。
私は私を救えない。恐怖の原点である。

肉体・精神・魂

キリスト教的価値観では人間は肉体と精神と魂の3つで構成されているとなっている。
脳死では精神が死ぬだろう。
物理的死では、肉体が死ぬだろう。
では...魂の死は?
そんな折、自分の睡夢で、死してなお魂が離れなかった恐怖体験をした。
それが本作品(超短編小説)の内容である。

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【Totentanz(死の舞踏)】
手刷活版印刷(ローラー式・一版多色)
画材:黒気泡紙C 活版用樹脂インク
シートサイズ:B5(257mm×182mm)エディション15枚
額装サイズ:B4(364mm×257mm)

ゴシックな怖ろしさを表現するために

この作品は、私にしては珍しく、ハードレター(凹凸の大きな印刷)ではない。
紙との相性もあるが、この恐怖をどこか俯瞰的に、内容と乖離させたかったからである。
黒気泡紙Cという紙は、どこか艶めいた黒さを持っている。マットな黒よりも存在感をあらわせる黒だ。それはまだ生から離れられない執着を意味し、また、同時に、抗えないものとしての襲い来る恐怖の生々しさを意味する。
死んでいる『死』ではない、いままさに飲み込まんとする『死』なのだ。
炎の朱色は、乾くとわかりにくいが、赤・黄・白で若干のムラを出している。それが文の中で明るいところと暗いところを作り、かすかに揺らぐ。
以前紹介したテフート式の手刷活版では、一版多色・インクのムラを印刷するのが難しいので、ローラー式の手刷印刷方法をとった。
ローラー式の器械については後日また記事にするので、今回は割愛する。


この作品は、現在、大阪市北老松にあるigu_m_artギャラリーにて開催されている【『個』anniversary vol.4】展で展示されている。
6/24(木)~7/4(日)まで。12:00-19:00(7/4は17:00迄) 水曜休

是非、実物を見ていただきたく思う。