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デスクレスSaaSの未来、カミナシの賭け

昨日、カミナシはシリーズBで30億円(エクイティ25億円・デット5億円)の調達を発表しました。事業をピボットしてから約3年、この期間で40億円を超える資金調達をすることが出来ました。

この調達に至るまでの、シリーズA後を振り返ると、長期的なプロダクト戦略について考え続けた時間だった気がします。今回、この先、カミナシはどこへ向かうのかについて書きます。

前半はAll-in-One Productの話。後半はHRTechの話を。一番伝えたいことは最後に書いています。興味ある部分だけでも読んでもらえると幸いです。

オフィスワーカーの進化の歴史

自分たちはどこへ向かうのか?

その答えを探すために、何から考えようかと思っていたところ、とても良い先行事例があることに気づいた

オフィスワーカーの働き方の変遷だ。

人の働き方の本質的な進化というのは、現場もオフィスも一緒であり、同じような道を辿るのではないかと考えたためだ。

Word・Excelが生まれたのが1980年代。そこから40年かけて現在のNotionまで、以下のようなステップで進化してきた。

(1)アナログtoデジタル(1980-2000年代)
Windows、Office(Word、Excel)
などが浸透し、紙や算盤、電卓などが淘汰されていった。デジタルデータがさまざまな場所に生まれ始める。当時、数多くいたプレイヤーも淘汰され、現在はMicrosoft、Googleなど一握りのTech Giantが独占的に提供している。

こうしたデジタルデータを生成するツールは、それ単体では既に強力なポジションにはなり得ない。すでに、アナログからデジタルに変わったコンテンツを使って何をするのか?という方向に価値が移っている。

(2)デジタルコンテンツ乱立&クラウドストレージの台頭(2000年代)
クラウド技術の発達により、ORACLEやSAPなどの巨大なシステムが分割され、営業や会計などの領域に特化したクラウドサービスが生まれ始めた。
デジタル化が進んだ結果、デスクトップ、ローカルフォルダの中など、さまざまな場所にデジタルデータ・コンテンツが散在する状態になった。その結果、情報を一元管理するためのツールとしてBox、Dropboxが台頭した。

(3)ワークフロー・コラボレーションの時代(2010年代)
「一箇所で見れれば良い」という状態から、それらデータをつなぎ合わせて仕事を完結させるという、より高次のニーズが発生ServiceNow、Figmaなどが勃興し、より高い成長率や時価総額をつけるようになる。現在のソリューションの主役は彼らであり、オフィスワーカー業務の「hub」として機能している。

(4)SaaSの数多すぎ問題からバンドルへの回帰(2020年代)
アメリカのエンタプライズ企業では、SaaSを280個以上利用している。そうなれば、いくらAPI連携が出来ても、運用コストが高くなることは明白だし、280個分のUI/UXにも習熟するコストが発生する。Rippling、NoitonといったプレイヤーがAll-in-Oneの思想で、こうした問題に真正面から挑戦し始め、成功を収めつつある。

いずれのサービスも、「これ1つあれば業務が完結する」ということを目指している。Notion CEOのIvan Zhaoはインタビューの中で、「単にほかのツールとインテグレート(統合)するだけではなく、全ての情報がNotionで見られるようにし、1日が『Notionで始まり、Notionで終わる』状況にしなければならないのです」と言っている。

クラウド技術の発展によって、アンバンドルされたアプリが世の中に広がった。しかし、その数が増えすぎたことでコンパウンドスタートアップやALL-inを標榜するサービスが徐々に増えてきている。この流れはSaaSにおける一つの帰結として、今後加速していくと考えている。

ちなみに、最初に40年かかったと書いたが、デスクレスの世界で、この進化は10年以内に完結するのではないかと考えている。既に技術はあるし、スマートデバイスの普及によりITは年々、人々にとって身近になっているからだ。


デスクレスSaaSの未来

今、ノンデスクワーカーの世界ではオフィスワーカーから40年遅れで、ようやく「(1)アナログtoデジタル」が本格化している。これまでのカミナシもこの領域で事業を伸ばしてきたプレイヤーだ。

ここで1つ重要な問いが生まれる。

「10年以内に今のオフィスワーカーの世界と同じような状況になった場合、自分たちはどのポジションを獲得しているべきなのか?」

前置きが長くなったが、カミナシはノンデスクワーカーのためのALL-in-One SaaSをつくる未来に賭けたいと考えている。今から、何か1つの単一機能を極めたアンバンドルなサービスを作るという戦略は、10年後に「増えすぎたSaaS」の1つになる可能性が高い。

元々、今のサービスをローンチした2020年から、マルチプロダクトの構想は持っていた。当時出したnoteを見ても、やる気満々だったw。

時は流れ、現在は当時以上に戦略の解像度や、なぜALL-in-Oneをやるべきなのか?という納得度は増している。

オフィスワーカー同様の進化が10年で完了するならば、カミナシはデスクレス領域におけるNotion、Ripplingのようなポジショニングを目指す。10年後に、現場における業務の「hub」を確実に取るために、今からマルチプロダクトに全力でベットする。

ちなみに、自分自身、このバンドル化されたプロダクトを提供するという思想で気に入っているのが、『使うツールは1つにまとまっていた方がシンプルにいいよね』と言い切っている点だ。

これは、特に現場で働くノンデスクワーカーにこそ当てはまる。

実際問題、現場でオフィスワーカーと同数のアプリケーションを利用することは困難だ。理由は主に3つある。機能習得・作業環境・予算といった問題が立ちはだかる。

現場では、『なるべく多くのことを、1つのUI/UXで、リーズナブルに提供するサービス』こそが求められる。

オフィスワーカーの世界では、100〜200のSaaSを使うようになってからオールインワンへの回帰が始まった。しかし、デスクレスの世界では、より早く限界が来る。

昨年一年間で「諸岡さん、これ1つにならないのか?」という相談を10回以上もらったのだが、彼らが使っているアプリの数はせいぜい4,5個だった。

現場におけるALL-in-One Productとは?

実際のプロダクト像を考える上で、自分たちの意思決定のベースになったのが、昨年策定した『KAMINASHI Vision2030』だ。「ノンデスクワーカーが挑戦し、報われる世界を創る」というビジョンを具体化した小説が基盤になっている。

この世界を実現するために、必要な要素が3つある。

  • Operation

    • 自分たちが持つアイデアをデジタルの力で具現化し、やりがいある仕事に挑戦する世界を実現するためのプロダクト

  • Employee

    • ノンデスクワーカーの一人ひとりにIDを配り、彼らの努力や成果を可視化・蓄積、評価し、報われる世界をつくるためのプロダクト

  • Communication

    • 会社と現場従業員との間に発生する情報のやり取りを円滑にし、成果を最大化し、加速するためのプロダクト(OperationとEmployee領域にもまたがるプロダクトになる予定)

この3つの要素は、現場の働き方を変える上で重要であり、個人的にも強く「変えたい!」と願っているものでもある。これらを1つのKAMINASHIというサービスの中で提供することを目指していく。

カミナシがHRTechに挑む理由

新しいプロダクト構想の中でも、現在2023年中のリリースを目指して準備を進めているのが、現場で働く従業員を対象とした「KAMINASHI Employee」というサービスだ。

上記のBussiness Insiderの記事にも取り上げていただいたとおり、カミナシはHRTechに参入することを決めた。ただ、現場で働く時給労働者をメインの対象としたサービスになる予定だ。具体的な機能などはまだ書けないが、どんな課題感を持っているのか?何故やるのか?という点について書きたいと思う。

ビジョン実現のためプロダクト

元々、「従業員一人ひとりにIDを配りたい」という思いがある。

現在、現場では、AさんもBさんもCさんも区別されずに、時給●●●円の労働力として見られることが多い。

実際に自分が現場で働いているときに、「今日はAさんが、あのポジションをやっているから業務が早いんだね」という会話をしたことが何度もあるのだが、時給は皆と同じだったりする。

これをきちんと区別したいと考えている。

一人ひとりが固有のIDを持ち、その中に努力や評価、貢献度やスキル・技能などを蓄積していき、それが雇用契約条件に反映される仕組みを作りたい。

もっと言えば、このIDの中に溜まった情報が、労働市場で使えるようになるといいなと思っている。現場で働いて得たスキルや技能というのは、よほどプロフェッショナルなものでない限り、履歴書には書けない。

検品作業のエキスパートだと言われていた人も、製造の段取り替えの指示出しが出来るパートリーダーも、パート先やアルバイト先を変えるときには履歴書に書けないことがほとんどだ。正社員やオフィスワーカーのように、スキルや経験に共通の名前がついていないからだ。

CTOの原トリとも、この話をして盛り上がっている。このプロダクトでつくるIDを個人に属するものとして、会社を辞めた後も活用できないかと将来的なプロダクトビジョンを議論している。

最初のディスカッションで書いたポンチ絵


「一人ひとりの努力や成果がデジタル上で可視化され、評価される」

「転職市場で現在の仕事で得たスキルや経験が評価される」

どれも、僕らの世界では当たり前に行われていることだ。でも、現場ではそうではない。最終的にこのギャップを埋めるために、自分たちは「KAMINASI Employee」というサービスを開発する。


ビジネスとしてのプロダクト

さて、上記の理想を実現するために、企業がプロダクトを導入してくれるかと言えば、それはNoだ。自分が経営者でもお金を払おうとは思わない。

ロマンを語る以前に、まずはビジネスとして成立させなければ何も変えることは出来ない。この現場従業員向けのプロダクトは売れるのか?という話になるのだが、現時点ではかなり手応えを感じている。

ここでは、現場で抱える「人」に関する課題について説明したい。

まず、これからの日本は人手不足の時代に突入する。2030年までに644万人の労働力が不足するというデータがパーソル総合研究所から出ている。その中のほとんどは現場で働く人材だ。

パーソル研究所『労働市場の未来推計』より

コロナからの急激な揺り戻しで、いくつかの業界で人手不足が顕著となっている。そして、近年、特に非正規雇用労働者の流動性が増している。

ここ1,2年で現場に行くと新しい光景を見るようになった。『タイミーの方はこちら』という貼り紙や案内を見ることが増えたのだ。「スキマバイト」などの新しい働き方が増え始め、流動性が高まっている。数社から超短期での人材紹介を受け入れている現場もある。

働き手にとっては選択肢が増え、とても喜ばしいことではあるが、一方で企業や現場にとっては結構キツい状態になっている。

人手不足で人数は足りない上に、入れ替わりが激しく、今まで以上に大きなコストを支払う必要が出てきている。

ちなみに、僕が知っている会社では、昨年1年間でパート・アルバイトを含めて1,000人が入社し、800名が退職した。人材の受け入れフローを1,000回も回していた。しかも、そのフローは、ほとんど人力・紙で行われていて効率化されていなかった。

何度も何度も同じ説明をして、現場で標準作業が出来るように育てる。こうした入れ替わりが激しい現場では、「人材の受け入れから戦力化までを一気通貫・最短で実現する」ことが求められる。

人の入れ替わり時だけが大変なのか?といえばそうではない。

人材を現場で受け入れた後も大変だ。稼働している間も、さまざまな問題が発生している。会社から何かを伝えたい時、逆に従業員から何らかの情報を回収したいとき、その際に多くのコミュニケーションコストが発生する。

それも当然で、現場で働く従業員のほとんどは、会社固有のメールアドレスを持たない。もちろんSlackもないし、Notionも使っていない。あるのは個人が所有する「電話番号」だけだ。

  • 同じ現場で働いていても、シフトが異なり夜勤のスタッフと直接会えるのは10日後

  • 外国人従業員とは通訳を介して話さないとコミュニケーションが取れない

  • 本社やバックオフィスから情報を伝達する場合は、店長や現場責任者を介するため伝言ゲームになる

  • これらを解決するためにITツールを使いたいが、メールアドレスを持たないため招待が出来ない

このようなことが日常的に発生している。

上記の図のように、会社と従業員間の情報伝達のためのパスは、ほとんど断絶していると言って良い。現在は、ほとんどがアナログな形で実行され、フロー情報もストック情報のやり取りも機能不全になっている場面が多い。

デジタル世界に住んでいる私たちには考えられないかもしれないが、「今日の駅までの送迎バスの時間が変わる」ということを伝えるだけでも、かなり苦労している人たちがいるのだ。場合によっては安否確認メールをアナウンスの代替手段に使っていたりする。


カミナシのプロダクトづくりについて

「KAMINASHI Employee」というプロダクトは、上記に書いたような課題をまるごと解決するようなものを考えている。現場、IT部門、HR3者がにとって価値あるプロダクトになる予定だ。

ここまで書いておいて、具体像を示さないのは消化不良感が強いかもしれない。でも、プロダクトづくりの面白さは「Why」の部分にある。

上記の課題感を読んで、もし面白そうと思ってくれた方がいれば、ぜひ一度話を聞いて欲しい。正社員向けのHR Techとは違う、現場起点で再定義された新しいプロダクトをぜひ一緒に形にして欲しい。

この例に限らず、カミナシという会社のプロダクト作りのテーマは一貫している。オフィスワーカーが主導で進めたテクノロジーの進化を、現場起点で「再定義」すること。カミナシにしか作れないプロダクトを生み出し、デスクレス領域でのスタンダードを創っていく。

特にプロダクトづくりに携わる人に伝えたい。

皆さんの持っている力を貸して欲しい。
日本における就業人口3,900万人の働き方を本質的に変えていく。その夢の実現に、皆さんの持っている才能を貸して下さい。

とても大きなビジョンで、もしかすると途中で夢破れるかもしれませんが、中途半端な成功は目指さないことだけは約束します。このビジョンが実現したときには、きっと「社会を変えた」と言えるチャレンジを続けます。

そして、その結果、カミナシで一緒に働いた時間が皆さんの仕事人生の代表作になること。プロダクトで実現した成果が、人生において成し遂げたことの1つに数えられること。そんな事業を一緒につくってください。

もし、いっちょひと肌脱いで手を貸してやるか!と思っていただいた方は、下記も覗いてみて下さい。よろしくお願いします!


会社紹介資料
今回、フルリニューアルしました。より詳しい内容も載っていますので、ぜひご覧ください。

コーポレートムービー
現場の働き方を変えるカミナシの挑戦を動画にしました。普段、中々触れることのない生の現場の姿や声をぜひ見てみて下さい!

採用情報
全職種積極的に採用中です!ご興味を持っていただいた方は、下記リンクよりご連絡いただければ幸いです。


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